聖女は傭兵と融合して最強唯一の魔法剣士になって好き勝手に生きる

ブレイブ31

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設立編

—第5章:死にかけの貴族5

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朝、日が昇る頃には出発の準備を終え、すぐに旅路を再開した。天気もよく、陽光が十分に差し込んでいるので、どんどん進んでいける。

道もそろそろ終わりが見えてきた。整備された道以外は木々があまりにも生い茂っているため、正規のルートに戻り、森を抜けることにした。

しばらく歩いていると、突然「ドドドド」という振動が地面から伝わってきた。振り返ると、後方から数十騎もの馬に乗った騎士たちがすごい勢いでこちらへ向かってくる。その集団からは、殺気が音と匂いとともに漂ってきた。

「アナスタシア、エミール!今すぐ逃げろ!」

言うやいなや、自らの剣を抜き、整備された道を塞ぐように立ちはだかる。昨日よみがえった昔の記憶が再び頭をよぎった。大人に暴行を受ける幼い自分の姿が、脳裏にフラッシュバックする。剣を握る手に力がこもった。

「全員殺す」

しかし相手は馬に乗っている。このまま道を塞いでも、無視されて通られる可能性が高い。どうすればいいのか、焦りが募る。

—無抵抗な者を襲おうとする者は、断じて許せません!

そうだ、マリアがいる。

「マリア、もし後ろを抜かれたら魔法で迎撃するぞ」

—もちろんです、神の鉄槌を下します!

妙に気合の入った返事に、少しだけ安心が広がった。危機感は杞憂に終わりそうだ。騎士たちは自らの前で馬を止め、その中の一人が馬に乗ったまま尋ねてきた。

「テクノバーグの一味だな。お前たちには死んでもら…」

「お前が死ね!」

叫ぶと同時に一気に飛び上がり、騎士の首を跳ね飛ばした。その様子を目の当たりにした騎士たちは動揺し、一斉に剣を抜く。

「あたしに剣を向けて、生きて帰れると思うなよ、クズ共」

走る、走る。

息を切らしながらも、アナスタシアは大人としてまだ未熟な子供であるエミールの手を引き、必死に走っている。彼女は人生でここまで必死に走ったことはないだろう。それほど全力で走っているのだ。

エミールの手を引っ張りながら、二人は泣きじゃくりつつも必死に前に進んでいる。

視線の先にある道に、また馬に乗った騎士が現れ、こちらに向かってくるのが見えた。

一瞬、アナスタシアの心が凍りついたが、次の瞬間には叫んでいた。

「レオン!」

叫びながら騎士の方へ駆け寄った。

その騎士は馬から飛び降り、駆け寄ってきてアナスタシアの前で片膝をつく。

「アナスタシア様!エミール様!ご無事で何よりです!」

そう言うと、心から安堵したような表情で二人を見上げた。

「レオン」と呼ばれた騎士は、見事な銀色の甲冑を身につけ、胸にはグリフォンの紋章が刻まれている。その甲冑は重厚で高価そうだ。

他の騎士たちも同じようなライトグレーの甲冑を着込んでいるが、レオンだけは真っ白な甲冑をまとっており、アナスタシアを見つけるやいなや、彼は兜を脱ぎ捨て、急いで駆け寄ってきた。

ブラウンの髪が風に揺れ、陽の光を浴びて輝いている。彼の目は焦燥と心配に満ちており、その表情が彼の真剣な思いを物語っていた。

「助けて!助けてあげて!

私たちを助けてくれた方が、森の出口で大勢の追手を食い止めてくれてるの!」

その言葉に、レオンは青ざめた。

「大勢の追手を……」その言い方から、まさかたった一人で食い止めているのか。そんな多勢に無勢では、すぐに命を落としてしまうだろう。

もし自分であれば、敵が大勢でもいなすことはできるだろうが、そんな使い手がどれだけいるだろう。何より、ここまでアナスタシア様とエミール様を守ってくれたのだ。まさしく命の恩人。

守り通せなかった二人のために戦ってくれている恩人が、そのまま殺されるなど、あってはならない。断じてそんなことは許されない!

強い意志で立ち上がり、半数の騎士を引き連れて、馬に再度跨り一気に森の入り口へと駆けていく。

森の入り口が肉眼で見え始めたころ、向こうからも一人、馬にまたがった者が全速力で駆けてくる。このタイミング、この速さ——間違いなくアナスタシア様の言っていた者に違いない。

ここでレオンは致命的なことに気づく。急いできたため、恩人の姿も名前も知らないのだ。

緊迫している状況から本当に最低限の情報だけをもらいここまできた、状況から複数の敵に囲まれていると思い込んでしまっていたため、別のシチュエーションを想定していなかったのだ。

どうする?敵として斬るか?いや、無関係な人間というわけがない。では、恩人か敵か?

一人だから恩人の可能性が高いが、しかし、だとしたら全ての追手を倒したのか?もし敵なら、見逃してアナスタシア様とエミール様のもとへ行かせるわけにはいかない。

どちらとも判断がつかず、どうすればいいか迷う。

その時、まだ距離のある方から叫び声が響いた。

「お前もか!死ねぇぇ!」

剣を振りかぶってきた相手に対して、こちらも抜刀せざるを得ない。振り下ろされた剣を受け止めると、強烈な衝撃で馬から落ちる。その瞬間、相手に横蹴りを入れて共に地面に転がった。

転がった二人は即座に体勢を立て直し、構え直す。

「ま、待ってくれ!あなたはアナスタシア様たちの恩人の方ですか!?」

ピクリとヴェルヴェットの体が反応し、殺気だった瞳に正気が宿る。

それは、血まみれの鎧をまとったヴェルヴェットだった。

「あ?お前らは……」

ヴェルヴェットは構えを解かないまま、静止して相手を見据えた。鎧や髪の毛からは返り血がポタポタと滴り落ち、まさに狂戦士のような様相を呈している。

先ほどの一撃は驚くほど強力で、受け止めた腕にはまだ痺れが残っている。

「我々はアナスタシア様たち、テクノバーグ家の親衛騎士です。私の名は親衛騎士長、レオン・アルバートと申します」

敵意のないことを示すため、レオンは素性を明かす。

「証拠は?」

その質問にギョッとした。

素性を明かしたにもかかわらず、全く警戒を解かず殺気を漂わせるヴェルヴェット。明らかに騎士のそれとは違う、殺し屋のような気配にレオンは唾を飲み込む。

どうすれば信用してもらえるのか?そもそも本当にこの者が恩人なのか?もしかすると、アナスタシア様を追う敵なのかもしれない。

答えが出せず、自問自答を繰り返す中、ある閃きが降りてきた。

「エミール様はよく笑うお方で、無邪気でとても母親思いの優しい少年です。人懐っこいのですが、距離感がわからず、初対面の目上の人にも呼び捨てにしてしまうこともあります」

すると、ヴェルヴェットの殺気がふっと和らいだ。彼女は返り血に濡れた刀を乱暴に振り払って鞘に収める。

「味方の名前くらい、ちゃんと聞いておきなさいよ」

そう言いながら、鎧や髪に付いた血を拭い取る。

「おっしゃる通りです!申し訳ありませんでした!」

レオンと身構えていた騎士たちは、すぐに剣を鞘に戻し、頭を下げた。

……本当に赤面するほどの失態だ。味方の情報も知らずに戦場に出るなど、恥さらしもいいところである。他の騎士たちも同じ気持ちなのか、バツの悪そうな顔をして頭を上げられずにいる。

意を決して頭を上げ、ヴェルヴェットと正面から向き合う。彼女の緊張は解け、レオンに近づいてきていた。

「な……」

なんという美しい女性だ。先ほどは動転していたため、その美しさに気づけなかった。

彼女は薄く引き締まった顔立ちで、頬骨が高く整った鼻筋が印象的な絶世の美女である。黒髪は艶やかで、豊かに長く流れ落ち、目は深い闇のような黒色で優雅さと神秘さを漂わせ、見る者を引き込む。

戦場には不釣り合いな容姿で、本当に先ほど剣を交えたのかと疑いたくなるほどだ。

だが、間違いなくこの女性が、殺気を放ち凄まじい勢いで斬りかかってきた狂戦士だったのだ。

美しさ、恐ろしさ、そして謎めいた雰囲気……すべてが頭の中を駆け巡る。

レオンはしばし見惚れてしまったが、ヴェルヴェットの怪訝そうな目つきにハッと我に返る。

「アナスタシア様とエミール様は我々で保護しております。我々は、ええと、貴方様を助けに参った者でございます」

すると、ヴェルヴェットが口を開いた。

「ヴェルヴェットよ」

彼女は名を明かす。

「了解した、ヴェルヴェット殿。もう急ぐ必要はございません。

お疲れでしょう、ゆっくりとお二人の元へ向かいましょう」

二人は馬に乗り、ゆっくりとアナスタシアたちのいる方向へ歩き出す。

レオンは他の騎士に目配せをし、森の入り口の安全確認と、追っ手がいないかの散策を命じた。
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