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設立編
—第7章:マリアの正義2
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希望が見えてきた。マリアとずっと一緒にいなければならないと思っていたことに絶望していたが、元に戻れるかもしれないという希望がある。しかし、現実が押し寄せる。
「いや、待って!元に戻れる可能性があるのはわかったけど、結局、あたしたちは指名手配されている、しかもその秘宝って聖王国のものなのでしょ?仮にあんたが聖女だって証明できても、簡単にもらえるものなの?」
マリアは少し暗い声で答えた。
—たとえ聖女であったとしても、頼んでももらえないでしょう。そのくらい、秘宝の中でも特別なものなのです。そして、指名手配の件についても、ヘイムダル司祭がロキ司祭を説得してくれれば希望はあるでしょうが……。せっかく追放した聖女を再び迎え入れるとは、到底思えません。
その言葉はもっともだ。あたしがロキ司祭の立場でも、せっかく追い出した相手を戻すなんてありえない。捕まえられないなら、そのまま野垂れ死にしてほしいと思うだろう。
その考えに納得しながらも、マリアが淡々と語り始め、やがて声に熱がこもってくる。
—私はただ、皆が幸せに暮らし、笑顔で過ごせることを願って神に仕えてきました。それなのに、教皇様が高齢で表舞台に出なくなったのを良いことに、ロキ司祭は自分の欲のために神に仕える者を追放し、殺そうとさえしたのです。
どす黒い感情が伝わってくる。どんな人間にも裏表があるのは知っているが、マリアにも、思った以上に深い闇があるのかもしれない。ふと、森の入り口での戦闘を思い出す。
あたしは森の入り口で立ちはだかり、騎士たちを半分ほど斬り倒した。だが、途中から彼らはアナスタシアたちを優先し一気に突破しようと、全員で突撃してきた。さすがに全てを止めきれず、多くの者を通してしまった。
「しまった」と思った瞬間、自然に頭に浮かんだのが「ヘヴンズ・シャワー」という魔法の名前だった。
口に出したその瞬間、上空から光の雨、いや光の矢が騎士たちを貫いた。
あのときは魔法の効果に驚き、アナスタシアたちが危機を脱したことで安心していたが、ふとマリアがあの時に言ったことが頭をよぎる。
そう、確か……
<<まだその魔法は教えていません。でも、ヴェルヴェットさん、すごいです!>>
まるであたしが独自に魔法を閃いたかのような言い方だったが、さっきマリアは私の心を読めると言っていた。となると、逆も可能なのではないか?
<<おそらくですが、私の体が融合しているからです。魔法を使う際には神に祈りを捧げる儀式が必要で、それを私がおこなっています。>>
彼女は祈りを捧げていると言っていたが、すべての魔法で同じ祈りなのだろうか?もし魔法ごとに異なる祈りが必要で、その内容が私に伝わっていたとしたら……。
ここでハッとする。もしかして今考えていることもマリアに伝わっているのではないか?
「マリア、あんた……」
先ほどまで熱がこもっていた声が一気に冷たくなる。
—手配書を見るまで私も気づきませんでしたが、別れ際にヘイムダル司祭が伝えられなかったこと。あれはおそらく「私は殺される」という意味だったのです。
胸の奥にぞっとしたものが広がる。傭兵は仲間同士で裏切り合うことは絶対にあり得ない。裏切り者は粛清され、戦うのはあくまで敵だけというのが暗黙のルールだ。それに、聖女や最高位神官は基本的には実際に戦うことはないはずなのに、こんなに強い殺意を抱いているとは……
—ヘイムダル司祭は優しい方でした。幼い私によく親身になって祈りを教えてくれました、私にとっては第二の父のような存在でした。彼を失ったことは許せません…
唐突にすべてが理解できた。森の入り口での魔法攻撃には、マリアの明確な意思が込められていたのだ。単に目眩まし程度の魔法があったはずなのに、それを使わずに攻撃を選んだ。そこには紛れもない殺意が宿っていた。
—私は、ヴェルヴェットと一緒になって理解したこた事があります。
理解したこと?美味しい肉や酒についてのこととかだろうか?聖女なら質素な生活が多かっただろうし。
—殺しの中にも正義があるということです。
「はぁ?」
なんだ、殺しが正義?傭兵として、やむを得ない殺しはあるが、それは悪でも正義でもなく、ただ生きるための必要な手段だ。
「いや、殺しに正義なんてあるわけないでしょ。殺していることには変わりないんだから」
—山賊や騎士たちを殺さなければ、アナスタシアさんたちは確実に命を落としていました。罪なき人が殺されることがあってはなりません。それを阻止する行為こそ正義だということです
「う…ん…?」
確かに、善人を悪人から守ることは正義と言えるかもしれない。しかし、それをすべて正義と捉えたらキリがなくなるだろう。たとえば、国同士で戦争が起きれば、民が殺され、それに対しての報復も正義とされてしまう。双方が正義の名のもとに殺し合いが続けば、それはまさに地獄だ。
あたしの考えを察しているのか無視しているのかわからないが、マリアは話を続ける。
—ですから、これからも私たちは正義を貫きましょう。そしていずれ、聖王国も断罪します。
頭が痛くなってくる。いくらなんでも、個人が国家を断罪するなんて不可能だ。自殺行為もいいところだ。
世界樹の葉は魅力的だが、実現不可能な夢物語だろう。こっそり忍び込んで盗む方が現実的かもしれないと思ったが、それも無茶だ。とにかく、体の主導権は自分にあるのだ。聖王国に行く必要はないし、後でゆっくり考えればいい。
「まあ、そうね。機会があれば、ね」
そう言って、風呂場を後にする。
「いや、待って!元に戻れる可能性があるのはわかったけど、結局、あたしたちは指名手配されている、しかもその秘宝って聖王国のものなのでしょ?仮にあんたが聖女だって証明できても、簡単にもらえるものなの?」
マリアは少し暗い声で答えた。
—たとえ聖女であったとしても、頼んでももらえないでしょう。そのくらい、秘宝の中でも特別なものなのです。そして、指名手配の件についても、ヘイムダル司祭がロキ司祭を説得してくれれば希望はあるでしょうが……。せっかく追放した聖女を再び迎え入れるとは、到底思えません。
その言葉はもっともだ。あたしがロキ司祭の立場でも、せっかく追い出した相手を戻すなんてありえない。捕まえられないなら、そのまま野垂れ死にしてほしいと思うだろう。
その考えに納得しながらも、マリアが淡々と語り始め、やがて声に熱がこもってくる。
—私はただ、皆が幸せに暮らし、笑顔で過ごせることを願って神に仕えてきました。それなのに、教皇様が高齢で表舞台に出なくなったのを良いことに、ロキ司祭は自分の欲のために神に仕える者を追放し、殺そうとさえしたのです。
どす黒い感情が伝わってくる。どんな人間にも裏表があるのは知っているが、マリアにも、思った以上に深い闇があるのかもしれない。ふと、森の入り口での戦闘を思い出す。
あたしは森の入り口で立ちはだかり、騎士たちを半分ほど斬り倒した。だが、途中から彼らはアナスタシアたちを優先し一気に突破しようと、全員で突撃してきた。さすがに全てを止めきれず、多くの者を通してしまった。
「しまった」と思った瞬間、自然に頭に浮かんだのが「ヘヴンズ・シャワー」という魔法の名前だった。
口に出したその瞬間、上空から光の雨、いや光の矢が騎士たちを貫いた。
あのときは魔法の効果に驚き、アナスタシアたちが危機を脱したことで安心していたが、ふとマリアがあの時に言ったことが頭をよぎる。
そう、確か……
<<まだその魔法は教えていません。でも、ヴェルヴェットさん、すごいです!>>
まるであたしが独自に魔法を閃いたかのような言い方だったが、さっきマリアは私の心を読めると言っていた。となると、逆も可能なのではないか?
<<おそらくですが、私の体が融合しているからです。魔法を使う際には神に祈りを捧げる儀式が必要で、それを私がおこなっています。>>
彼女は祈りを捧げていると言っていたが、すべての魔法で同じ祈りなのだろうか?もし魔法ごとに異なる祈りが必要で、その内容が私に伝わっていたとしたら……。
ここでハッとする。もしかして今考えていることもマリアに伝わっているのではないか?
「マリア、あんた……」
先ほどまで熱がこもっていた声が一気に冷たくなる。
—手配書を見るまで私も気づきませんでしたが、別れ際にヘイムダル司祭が伝えられなかったこと。あれはおそらく「私は殺される」という意味だったのです。
胸の奥にぞっとしたものが広がる。傭兵は仲間同士で裏切り合うことは絶対にあり得ない。裏切り者は粛清され、戦うのはあくまで敵だけというのが暗黙のルールだ。それに、聖女や最高位神官は基本的には実際に戦うことはないはずなのに、こんなに強い殺意を抱いているとは……
—ヘイムダル司祭は優しい方でした。幼い私によく親身になって祈りを教えてくれました、私にとっては第二の父のような存在でした。彼を失ったことは許せません…
唐突にすべてが理解できた。森の入り口での魔法攻撃には、マリアの明確な意思が込められていたのだ。単に目眩まし程度の魔法があったはずなのに、それを使わずに攻撃を選んだ。そこには紛れもない殺意が宿っていた。
—私は、ヴェルヴェットと一緒になって理解したこた事があります。
理解したこと?美味しい肉や酒についてのこととかだろうか?聖女なら質素な生活が多かっただろうし。
—殺しの中にも正義があるということです。
「はぁ?」
なんだ、殺しが正義?傭兵として、やむを得ない殺しはあるが、それは悪でも正義でもなく、ただ生きるための必要な手段だ。
「いや、殺しに正義なんてあるわけないでしょ。殺していることには変わりないんだから」
—山賊や騎士たちを殺さなければ、アナスタシアさんたちは確実に命を落としていました。罪なき人が殺されることがあってはなりません。それを阻止する行為こそ正義だということです
「う…ん…?」
確かに、善人を悪人から守ることは正義と言えるかもしれない。しかし、それをすべて正義と捉えたらキリがなくなるだろう。たとえば、国同士で戦争が起きれば、民が殺され、それに対しての報復も正義とされてしまう。双方が正義の名のもとに殺し合いが続けば、それはまさに地獄だ。
あたしの考えを察しているのか無視しているのかわからないが、マリアは話を続ける。
—ですから、これからも私たちは正義を貫きましょう。そしていずれ、聖王国も断罪します。
頭が痛くなってくる。いくらなんでも、個人が国家を断罪するなんて不可能だ。自殺行為もいいところだ。
世界樹の葉は魅力的だが、実現不可能な夢物語だろう。こっそり忍び込んで盗む方が現実的かもしれないと思ったが、それも無茶だ。とにかく、体の主導権は自分にあるのだ。聖王国に行く必要はないし、後でゆっくり考えればいい。
「まあ、そうね。機会があれば、ね」
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