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設立編
—第8章:お屋敷に住む!?1
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風呂を上がると、先ほどの使用人の女が待ち構えていた。絹のような美しい布で、濡れた体を優しく拭き取っていく。
その後、奥にかけてあったドレスを持ってきた。それは豪華な刺繍が入った真っ白なドレスだ。
「あたしの服は?」
さっきまで着ていた服はどうしたのかという意味で聞く。
「廃棄しましたが?」
当然のように返答してくる。なぜ?
あれはあたしの戦闘用の服だ。捨てられたら困る、そのドレスで戦えとでもいうのだろうか?
「いや、あれが無いと戦えないんだけど!」
すると使用人の女は神妙な顔になり、
「ですが、とても洗って再度使用できるお召し物ではありませんよ。擦り切れている箇所もありましたし、なによりあの匂いは、たぶんもう取れないと思います」
さすがにそこまで言われるとショックを受ける。面と向かって「あなたの着ている服はみすぼらしいし臭い」と言われると少し凹む。
ぐぬぬ、と何も言い返せずにいると、
「そのようなお召し物をご要望でしたら、旦那様に頼んでみればいかがでしょうか?ヴェルヴェット様はアナスタシア様、エミリア様のお命の恩人だとお伺いしております。差し出がましい進言かもしれませんが、その程度の内容であれば二つ返事で受け入れてくださると思います」
なるほど。
確かに命を助けたんだ、その程度は頼んでも罰は当たらないだろう。
別に今までの服に愛着があるわけではない。動きやすく、かつなるべく安価な内容を考慮した上で購入した服だし、年季も入っている。
このあと食事と言っていたので、そのタイミングで頼んでみよう。
そう考えているうちにドレスの着付けが済み、繊細なチェーンに淡いピンク色の宝石が優雅に輝く、豪華な黒い宝石付きのネックレスを首にかけられた。目の前には繊細なストラップが優雅に巻きついた靴が控えているので、それを履く。
「これで準備も終わりよね。お腹も減ったし、さっさと行きましょ」
そう言うと、使用人二人はまた眉をひそめた。最初の時のように明らかにわかるものではないが、やはりこの屋敷にこういう言動は合わないのだろう。
しかし、そんなものを勉強する気もないし、気負う気もしない。別に自分はアナスタシアに是非にと呼ばれた客人だからだ。軽快な足取りでスタスタと歩いていく。
一方ここは食事をするためのダイニングルーム。
食事をするための部屋なのだが、柔らかなキャンドルの光に包まれ、壁にかけられた金色のフレームの絵画が、その光を受けて一層華やかに輝いている。天井には繊細なモールディングが施され、優雅なシャンデリアが高く吊るされていた。クリスタルの装飾が微かな光を反射し、まるで星空のように煌めいている。
中央には、長い木製のテーブルが堂々と構えており、上質な白いテーブルクロスがその表面を優しく覆っていた。テーブルの上には華やかな食器の上においしそうな食事が整然と並んでいる。色とりどりの果物や花が盛られた皿が、まるで美しい絵画の一部のように目を楽しませている。
窓際には重厚なカーテンが引かれ、外の景色を遮っていたが、その間からはほのかに柔らかな光が漏れ、部屋全体を穏やかな雰囲気で満たしている。
そこに複数人の人影がある。テクノバーグ家の夫、妻、息子の三人だ。
その傍には親衛騎士長のレオンがいた。本来は三人でもてなす予定だったのだが、ヴェルヴェットの凄まじい剣技を目の当たりにしたので、是非お話を聞きたいと申し出たためだ。
もちろん、これは嘘だ。
剣技自体は確かにすごいのだが、あの女は何か隠し事をしている。それを見極めなければ三人だけにするわけにはいかない。食事の席にいつもの剣を帯刀するわけにはいかないので、足に小刀を隠し持っていた。
非常に失礼極まりない行為なのだが、覚悟を決めたレオンはその程度の無礼では動じない。
扉の先の通路にも部下を配置している。もちろん襲撃事件があったので屋敷内の警戒も強固にするべきだという進言から許可をもらったのだが、それが幸いした。
何かあればすぐに騎士達が部屋に飛び込んでくる手筈になっている。
騎士達に配置を伝えた際には「いくらなんでも警戒しすぎでは?」という顔をされたが、森の入り口を偵察してきた騎士は同じ考えらしく、自ら手を上げ部屋の外の警護についた。
これで準備は万端だ、さぁ、いつでも来るといい。
そう思った矢先に使用人がコンコンと扉を叩く音がした。
「ヴェルヴェット様の準備が整いましてございます」
それはヴェルヴェットが扉の目の前まで来ていることを意味している。
「おお、そうか。すぐに通してくれ!」
フリードリッヒは大きな声で笑顔で答える。
人も気も知らずに呑気なもんだ。絶対に口に出すことはしないが本心が出てしまう。
しかし次の瞬間、ヴェルヴェットを見たレオンは疑いの気持ちも、主君への苛立ちも全て忘れ去ってしまった。
扉がゆっくりと開き、彼女が姿を現した。
黒髪が肩に優雅に流れ、まるで夜空に輝く星々のように神秘的な光を放っていた。白いドレスは、彼女の滑らかな肌に美しく映え、柔らかな布地が彼女の動きに合わせて揺れ、まるで風に舞う花びらのようだった。
彼女の首元には、黒い宝石のネックレスが華やかに輝き、暗闇に浮かぶ一筋の光のようだった。その装飾は、彼女の存在感をさらに引き立てていた。
腰のラインを美しく見せるドレスの裾からは、艶やかな黒い靴が覗いている。ヒールが彼女の背筋を伸ばし、優雅な姿勢を作り出していた。
レオンは息を呑んだ。
彼女の目が彼に向けられた瞬間、まるで世界が一瞬止まったかのように感じた。
彼女の瞳は深い湖のように透き通り、彼の心の奥まで引き込まれていく。微笑みを浮かべた彼女は、その美しさで部屋を一層明るく照らし出していた。
ヴェルヴェットが自分たちの前まで歩いてきた。
アナスタシアとフリードリッヒもじっと見つめたまま息をするのを忘れてしまったように固まっている。
その後、奥にかけてあったドレスを持ってきた。それは豪華な刺繍が入った真っ白なドレスだ。
「あたしの服は?」
さっきまで着ていた服はどうしたのかという意味で聞く。
「廃棄しましたが?」
当然のように返答してくる。なぜ?
あれはあたしの戦闘用の服だ。捨てられたら困る、そのドレスで戦えとでもいうのだろうか?
「いや、あれが無いと戦えないんだけど!」
すると使用人の女は神妙な顔になり、
「ですが、とても洗って再度使用できるお召し物ではありませんよ。擦り切れている箇所もありましたし、なによりあの匂いは、たぶんもう取れないと思います」
さすがにそこまで言われるとショックを受ける。面と向かって「あなたの着ている服はみすぼらしいし臭い」と言われると少し凹む。
ぐぬぬ、と何も言い返せずにいると、
「そのようなお召し物をご要望でしたら、旦那様に頼んでみればいかがでしょうか?ヴェルヴェット様はアナスタシア様、エミリア様のお命の恩人だとお伺いしております。差し出がましい進言かもしれませんが、その程度の内容であれば二つ返事で受け入れてくださると思います」
なるほど。
確かに命を助けたんだ、その程度は頼んでも罰は当たらないだろう。
別に今までの服に愛着があるわけではない。動きやすく、かつなるべく安価な内容を考慮した上で購入した服だし、年季も入っている。
このあと食事と言っていたので、そのタイミングで頼んでみよう。
そう考えているうちにドレスの着付けが済み、繊細なチェーンに淡いピンク色の宝石が優雅に輝く、豪華な黒い宝石付きのネックレスを首にかけられた。目の前には繊細なストラップが優雅に巻きついた靴が控えているので、それを履く。
「これで準備も終わりよね。お腹も減ったし、さっさと行きましょ」
そう言うと、使用人二人はまた眉をひそめた。最初の時のように明らかにわかるものではないが、やはりこの屋敷にこういう言動は合わないのだろう。
しかし、そんなものを勉強する気もないし、気負う気もしない。別に自分はアナスタシアに是非にと呼ばれた客人だからだ。軽快な足取りでスタスタと歩いていく。
一方ここは食事をするためのダイニングルーム。
食事をするための部屋なのだが、柔らかなキャンドルの光に包まれ、壁にかけられた金色のフレームの絵画が、その光を受けて一層華やかに輝いている。天井には繊細なモールディングが施され、優雅なシャンデリアが高く吊るされていた。クリスタルの装飾が微かな光を反射し、まるで星空のように煌めいている。
中央には、長い木製のテーブルが堂々と構えており、上質な白いテーブルクロスがその表面を優しく覆っていた。テーブルの上には華やかな食器の上においしそうな食事が整然と並んでいる。色とりどりの果物や花が盛られた皿が、まるで美しい絵画の一部のように目を楽しませている。
窓際には重厚なカーテンが引かれ、外の景色を遮っていたが、その間からはほのかに柔らかな光が漏れ、部屋全体を穏やかな雰囲気で満たしている。
そこに複数人の人影がある。テクノバーグ家の夫、妻、息子の三人だ。
その傍には親衛騎士長のレオンがいた。本来は三人でもてなす予定だったのだが、ヴェルヴェットの凄まじい剣技を目の当たりにしたので、是非お話を聞きたいと申し出たためだ。
もちろん、これは嘘だ。
剣技自体は確かにすごいのだが、あの女は何か隠し事をしている。それを見極めなければ三人だけにするわけにはいかない。食事の席にいつもの剣を帯刀するわけにはいかないので、足に小刀を隠し持っていた。
非常に失礼極まりない行為なのだが、覚悟を決めたレオンはその程度の無礼では動じない。
扉の先の通路にも部下を配置している。もちろん襲撃事件があったので屋敷内の警戒も強固にするべきだという進言から許可をもらったのだが、それが幸いした。
何かあればすぐに騎士達が部屋に飛び込んでくる手筈になっている。
騎士達に配置を伝えた際には「いくらなんでも警戒しすぎでは?」という顔をされたが、森の入り口を偵察してきた騎士は同じ考えらしく、自ら手を上げ部屋の外の警護についた。
これで準備は万端だ、さぁ、いつでも来るといい。
そう思った矢先に使用人がコンコンと扉を叩く音がした。
「ヴェルヴェット様の準備が整いましてございます」
それはヴェルヴェットが扉の目の前まで来ていることを意味している。
「おお、そうか。すぐに通してくれ!」
フリードリッヒは大きな声で笑顔で答える。
人も気も知らずに呑気なもんだ。絶対に口に出すことはしないが本心が出てしまう。
しかし次の瞬間、ヴェルヴェットを見たレオンは疑いの気持ちも、主君への苛立ちも全て忘れ去ってしまった。
扉がゆっくりと開き、彼女が姿を現した。
黒髪が肩に優雅に流れ、まるで夜空に輝く星々のように神秘的な光を放っていた。白いドレスは、彼女の滑らかな肌に美しく映え、柔らかな布地が彼女の動きに合わせて揺れ、まるで風に舞う花びらのようだった。
彼女の首元には、黒い宝石のネックレスが華やかに輝き、暗闇に浮かぶ一筋の光のようだった。その装飾は、彼女の存在感をさらに引き立てていた。
腰のラインを美しく見せるドレスの裾からは、艶やかな黒い靴が覗いている。ヒールが彼女の背筋を伸ばし、優雅な姿勢を作り出していた。
レオンは息を呑んだ。
彼女の目が彼に向けられた瞬間、まるで世界が一瞬止まったかのように感じた。
彼女の瞳は深い湖のように透き通り、彼の心の奥まで引き込まれていく。微笑みを浮かべた彼女は、その美しさで部屋を一層明るく照らし出していた。
ヴェルヴェットが自分たちの前まで歩いてきた。
アナスタシアとフリードリッヒもじっと見つめたまま息をするのを忘れてしまったように固まっている。
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