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設立編
—第8章:お屋敷に住む!?2
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沈黙を破るようにエミールが話しかける。
「ヴェルヴェット、すっごい綺麗!お腹も空いたでしょ、いっぱいご飯用意してるからね」
それを聞いてレオンは正気に戻り、完全に我を忘れていたことに気づく。
なんということだ。あれだけ準備していたのに、彼女が現れた瞬間に完全に呆けていたのだ。
あの瞬間に襲われていたら、完全に反応できなかっただろう。しかし。
再度ヴェルヴェットを見る。なんと美しい女性なのだ。
こんな女性がこの世にいるのか。このような人が暗殺などという汚らしいことをするだろうか?
そんなことをせずとも、いくらでも男が寄ってきて、不自由ない暮らしができるのではないか。
そんなことを考えているところに、正気を取り戻したフリードリッヒもしどろもどろになりながらも、ヴェルヴェットに感謝の意を示す。
「あ…さ…先ほどはしっかりと感謝もできず、申し訳ない。
改めて、私はテクノビレッジを治めている貴族のフリードリッヒ・テクノバーグと申します。
この度は、我が妻、我が息子を救ってくださり、誠に感謝しております。
道中のお話も一通り聞いておりますので、さぞお疲れで空腹でございましょう。
さあ、どうぞおかけになってください」
先ほどヴェルヴェットの風呂のお世話をした使用人とは別の、先ほどとは少し服装の変わった女が席の案内をする。
それに従ってヴェルヴェットは長方形の机の横に座る。その横にエミールとレオンが挟むように座り、目の前にはテクノバーグ夫婦が座った。
レオンとしては、本来エミール様にはヴェルヴェットの隣に座ってほしくなかったのだが、エミールはやたらヴェルヴェットを気に入ったらしく、頑なだった。
真意を伝えることもできず、そして主君に差し出がましい意見をすることもできず、このような配置になった。
目の前にはスープや肉料理、パンなどが大量に盛られた食事が並ぶ。
本来ならばオードブルなど順番に少量ずつ運ばれ、ナイフやフォークなどがいくつも綺麗に並べられるのだが、ヴェルヴェットと少し食事を共にして得た情報から、アナスタシアはそのようなマナーを持ち合わせていないことを悟り、フリードリッヒに伝えた。
フリードリッヒは、それならばヴェルヴェットだけ別にしようと提案したが、アナスタシアはそれを却下した。
一人だけ別の形式で食事を提供するのは失礼だとして、結果的に全員分のナイフとフォークが一式ずつ提供され、食べ物も一気に並べられることとなった。
「わぁ!おいしそう、いただきます!」
並べられた料理に目を輝かせながら、フォークを掴みそのまま肉料理に突き刺し、それを豪快に食べていく。
「わぁ、すごい!一口で食べられるの!?」
楽しそうにエミールは言う。
結果的に食事提供の指示を出したフリードリッヒが条件反射でぎょっとしたが、とても嬉しそうなエミールを見て、やはりこれでよかったと自らの選択を肯定した。
おいしそうに食事を楽しむヴェルヴェットとエミールを見て、ワインを一口飲む。
食事をしながら、彼女は聖王国から移住してきたと聞いた。旅の道中は危険がつきものだ。
強いとはいえ、女性の一人旅というのは何かと心配だ。
メカストリアは比較的治安がいい。しかしだからといって絶対に安心とは言い切れない。
特に彼女のような美しい女性は危険が多いだろう。恩人がここメカストリアで、特に私が治めるテクノビレッジで事件に巻き込まれでもしたらと思うと、胃が痛くなる。
「ヴェルヴェット殿は、これから具体的にどうされるおつもりですか」
探りを入れてみる。
「”殿”とか”さん”とか、やっぱり性に合わない。エミールのように呼び捨てで呼んでいいから。
それで、どうするかという話だけど、あたしは傭兵だから、こっちの国でも傭兵の仕事でもやってみようと思うわ」
「そうですか…いや、そうか。
それならばヴェルヴェット、しばらく我が屋敷に住まないか?
宿代はもちろんかからないし、それに…」
「お待ちを!」
レオンが言葉を遮る。本来ならば主君の言葉を遮るなど、許される行為ではない。
その無礼はもちろん言葉を遮られたフリードリッヒも承知していた。
レオンの顔、言葉には何か特別な理由があるのだろうとフリードリッヒは瞬時に悟った。
「それでしたら、横にある騎士団の宿舎で暮らすのはいかがでしょうか?」
レオンはぎりぎりとも言うべき自分の中の妥協案を提示した。
主君が住んでいいと言った相手に、反発して「住むな」とは明言できない。
かといって素性のわからない者を主君と同じ屋敷に住まわせるわけにはいかない。
宿舎なら、夜中に外に出ようと思えばどうしてもドアの音がするし、見張りの騎士もいる。自分ならかすかな物音でも寝ていても気づくはずだ。
「いやレオン、それは…お客人に対して少々…」
騎士の宿舎は綺麗な造りではあるが、あくまでも騎士が寝泊まりする施設で簡素な作りだった。
客人を住まわせるような場所ではないし、なにより男性しかそこに住んでいない。
レオンが何かを憂慮しての提案なのは理解したが、あまりにもあんまりな提案だと否定しようとしたとき。
「そこでいいわ。正直こういう部屋は目がチカチカして、あんまり落ちつかないしね」
ヴェルヴェットの肯定の意見に、うなずくしかなかった。
自分の屋敷はほとんどこの部屋のような細工の煌びやかな部屋ばかりだからだ。
本人に「落ち着かないからここは嫌だ」と言われた手前、ここにしてほしいとは言えない。
それにレオンの進言も気になる。とりあえずは彼女が我が領地に住んでもらうだけでも良しとしよう。
「それでは食事の後、レオンに案内してもらうとよろしいでしょう」
そう言って、穏やかな食事が終わった。
「ヴェルヴェット、すっごい綺麗!お腹も空いたでしょ、いっぱいご飯用意してるからね」
それを聞いてレオンは正気に戻り、完全に我を忘れていたことに気づく。
なんということだ。あれだけ準備していたのに、彼女が現れた瞬間に完全に呆けていたのだ。
あの瞬間に襲われていたら、完全に反応できなかっただろう。しかし。
再度ヴェルヴェットを見る。なんと美しい女性なのだ。
こんな女性がこの世にいるのか。このような人が暗殺などという汚らしいことをするだろうか?
そんなことをせずとも、いくらでも男が寄ってきて、不自由ない暮らしができるのではないか。
そんなことを考えているところに、正気を取り戻したフリードリッヒもしどろもどろになりながらも、ヴェルヴェットに感謝の意を示す。
「あ…さ…先ほどはしっかりと感謝もできず、申し訳ない。
改めて、私はテクノビレッジを治めている貴族のフリードリッヒ・テクノバーグと申します。
この度は、我が妻、我が息子を救ってくださり、誠に感謝しております。
道中のお話も一通り聞いておりますので、さぞお疲れで空腹でございましょう。
さあ、どうぞおかけになってください」
先ほどヴェルヴェットの風呂のお世話をした使用人とは別の、先ほどとは少し服装の変わった女が席の案内をする。
それに従ってヴェルヴェットは長方形の机の横に座る。その横にエミールとレオンが挟むように座り、目の前にはテクノバーグ夫婦が座った。
レオンとしては、本来エミール様にはヴェルヴェットの隣に座ってほしくなかったのだが、エミールはやたらヴェルヴェットを気に入ったらしく、頑なだった。
真意を伝えることもできず、そして主君に差し出がましい意見をすることもできず、このような配置になった。
目の前にはスープや肉料理、パンなどが大量に盛られた食事が並ぶ。
本来ならばオードブルなど順番に少量ずつ運ばれ、ナイフやフォークなどがいくつも綺麗に並べられるのだが、ヴェルヴェットと少し食事を共にして得た情報から、アナスタシアはそのようなマナーを持ち合わせていないことを悟り、フリードリッヒに伝えた。
フリードリッヒは、それならばヴェルヴェットだけ別にしようと提案したが、アナスタシアはそれを却下した。
一人だけ別の形式で食事を提供するのは失礼だとして、結果的に全員分のナイフとフォークが一式ずつ提供され、食べ物も一気に並べられることとなった。
「わぁ!おいしそう、いただきます!」
並べられた料理に目を輝かせながら、フォークを掴みそのまま肉料理に突き刺し、それを豪快に食べていく。
「わぁ、すごい!一口で食べられるの!?」
楽しそうにエミールは言う。
結果的に食事提供の指示を出したフリードリッヒが条件反射でぎょっとしたが、とても嬉しそうなエミールを見て、やはりこれでよかったと自らの選択を肯定した。
おいしそうに食事を楽しむヴェルヴェットとエミールを見て、ワインを一口飲む。
食事をしながら、彼女は聖王国から移住してきたと聞いた。旅の道中は危険がつきものだ。
強いとはいえ、女性の一人旅というのは何かと心配だ。
メカストリアは比較的治安がいい。しかしだからといって絶対に安心とは言い切れない。
特に彼女のような美しい女性は危険が多いだろう。恩人がここメカストリアで、特に私が治めるテクノビレッジで事件に巻き込まれでもしたらと思うと、胃が痛くなる。
「ヴェルヴェット殿は、これから具体的にどうされるおつもりですか」
探りを入れてみる。
「”殿”とか”さん”とか、やっぱり性に合わない。エミールのように呼び捨てで呼んでいいから。
それで、どうするかという話だけど、あたしは傭兵だから、こっちの国でも傭兵の仕事でもやってみようと思うわ」
「そうですか…いや、そうか。
それならばヴェルヴェット、しばらく我が屋敷に住まないか?
宿代はもちろんかからないし、それに…」
「お待ちを!」
レオンが言葉を遮る。本来ならば主君の言葉を遮るなど、許される行為ではない。
その無礼はもちろん言葉を遮られたフリードリッヒも承知していた。
レオンの顔、言葉には何か特別な理由があるのだろうとフリードリッヒは瞬時に悟った。
「それでしたら、横にある騎士団の宿舎で暮らすのはいかがでしょうか?」
レオンはぎりぎりとも言うべき自分の中の妥協案を提示した。
主君が住んでいいと言った相手に、反発して「住むな」とは明言できない。
かといって素性のわからない者を主君と同じ屋敷に住まわせるわけにはいかない。
宿舎なら、夜中に外に出ようと思えばどうしてもドアの音がするし、見張りの騎士もいる。自分ならかすかな物音でも寝ていても気づくはずだ。
「いやレオン、それは…お客人に対して少々…」
騎士の宿舎は綺麗な造りではあるが、あくまでも騎士が寝泊まりする施設で簡素な作りだった。
客人を住まわせるような場所ではないし、なにより男性しかそこに住んでいない。
レオンが何かを憂慮しての提案なのは理解したが、あまりにもあんまりな提案だと否定しようとしたとき。
「そこでいいわ。正直こういう部屋は目がチカチカして、あんまり落ちつかないしね」
ヴェルヴェットの肯定の意見に、うなずくしかなかった。
自分の屋敷はほとんどこの部屋のような細工の煌びやかな部屋ばかりだからだ。
本人に「落ち着かないからここは嫌だ」と言われた手前、ここにしてほしいとは言えない。
それにレオンの進言も気になる。とりあえずは彼女が我が領地に住んでもらうだけでも良しとしよう。
「それでは食事の後、レオンに案内してもらうとよろしいでしょう」
そう言って、穏やかな食事が終わった。
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