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設立編
—第31章:マリアの激情1
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今日も今日とて依頼をこなしている。
午前中には街の掃除、午後からは山賊の警戒と悪魔の討伐だ。
「なんで傭兵なのにこんなことしているのよ……」
街の掃除はレオンが勝手に受けてきた依頼だ。
たしかに、どんな依頼でも受けることができるという売り込みでパーティに入れたが、なぜこのような依頼を受けてくるのか問い詰めた。しかし、掃除をするのは立派な仕事だと言われた。
結託のない笑顔で言われたので、言い返しづらくなり、次からはもっとマシな依頼を持ってきてほしいということで、仕方なく掃除をした。
めんどうなのであたしは参加せずにごろごろしようかと思ったが、男たちが適当な掃除をしているのを見てだんだんとイライラしてくる。
「まったく、自分で受けてきて適当な仕事しないでよね」
結局、一緒に掃除をしてしまった。
午後になる。次の依頼はまだマシだった。山賊は見つからなかったが、悪魔には遭遇した。前衛にアモンとレオンを配置しているので、みるみるうちに悪魔たちを薙ぎ倒していった。
「あんた、本当に強かったのね」
正直、かなり半信半疑だったが、その実力は本物だった。
これまでは自分の爪などで戦っていたとは思うが、今は機械仕掛けの巨大な両手斧をまるで自分の体の一部のように振り回して悪魔たちを一刀両断に斬り殺していく。
もともと部下の悪魔たちに恨みがあったといっていたが、その姿はひどく楽しそうで、笑いながら倒していた。ある意味、笑いながら蹂躙する姿は悪魔そのものだといえる。同族を殺しているわけだが。
レオンは騎士の時に引き続き両手剣で悪魔たちを切り倒している。
まさにその様は、童話などで出てくる高潔な騎士のようだ。実際、童話に出てくるような整った顔もしている。
で、あたしはというと、近くにある石に座って、さらに横にある大きめな石に片肘をついて頬杖をつき、眺めているだけだ。
まさに理想の構図である。欠伸をしながらその光景を眺めている。
「チッ、ヴェルヴェット一匹逃げたぞ!」
アモンが大きな声で叫ぶ。
「はいはいっ、っと」
リオからもらった短筒の銃「アルケイン・リボルバー」を頬杖にしている別の手で握り、トリガーを弾いた。その瞬間、バシュン!と大きな音を立てて込めていた魔法が発射される。
放たれた魔法は「ヘヴンズ・シャワー」、かつて森の入り口で多数の敵を葬った魔法だ。
しかし、水晶にこめて発射した威力は非常に弱く、一本の光の矢が光速で直線に発射されるだけだった。
しかし、これで十分だ。もともと範囲が広かったりして使いづらい魔法だったので、それが直線で一人にしか当たらないというのは、むしろ非常に使い勝手がいい。これで街中でも照準を正確に合わせさえすれば使うことができる。
回復魔法も試してみたが、こちらはそれなりの回復力のある弾になった。リオの説明では、攻魔法はどうしても魔法発射速度が速く、水晶がそれに耐えられない構造なので、容量の他に新たに出てきた問題点ということらしい。
しかし、回復魔法は発射速度が非常にゆっくりで、こちらは容量の問題だけだった。なので、ある程度の回復力を維持できたのだ。
逃げている悪魔は、あたしの放った銃の魔法に被弾してその場で倒れて消滅していった。
悪魔の殲滅といっても、永続の悪魔討伐依頼と限定的な詮索の依頼で違いがある。
今回は常時受けていた永続の悪魔討伐ではなく、限定的な詮索依頼なので、別に灰にしてしまっても構わない。
そもそも一匹だけなので、殲滅の数の報酬だとしても高が知れている。
「これで終わりね」
そう言うと、銃の先に息をふっと吹きかけて煙を飛ばす。
「ヴェルヴェット、あまり剣士の戦い方には見えないぞ」
レオンが言ってくるが、そんなのは気にしない。
「勝てばいいのよ、勝てば。街の人々にも被害が出たけど、正々堂々戦いましたので問題ありませんって言えるの?」
言い返すと「それは…」と口籠る。あたしの言っていることは、少なくとも傭兵の中では100%正しい。傭兵や山賊は勝てば官軍、負けた方が馬鹿なのだ。
そもそもあたしたちは傭兵パーティだ。騎士の講釈をされても困る。
そういう意味では、まだレオンは騎士の時のクセのようなものが抜けていないと感じる。
「お、たいして強くない魔法だけど、こいつらを殺るには十分だったようだな」
アモンが上機嫌で言ってくるところに、レオンがいい返す。
「ヴェルヴェットが本来の魔法を使うと範囲が広いので、人間にも被害を出る場合がある。この銃で攻撃するのが妥当だろう」
「別に気にすることねーだろ。前は死んじまったらしいが、それは殺意があったからなんだろ。だったら街のやつらなんか殺意もってるわけねーんだから、敵がもしいたら、ところ構わず撃っちまっても構わないだろ?」
森の出口で敵全員を殺した件についてはレオンに説明した。別に仲間がいたわけじゃないこと、あたしの魔法はカルマ値が極端に低い人間の場合、殺してしまうことがあること、あの時はアナスタシアを殺しに向かったので急激にカルマ値が下がっていたので、全員即死したこと。
だが、マリアと融合していることは言わなかった。誰彼構わず話すことは、結果的に自分たちの身を危険に晒す可能性を感じたからだ。なのであたしは、元々魔法を使えることにしている。
「街の人なら絶対に死なないって保証があるわけじゃないでしょ、だめよ」
おかしい。いつもならあたしが言い返す前にアモンにこんなことを言われたら、マリアなら即座に「不浄なる悪魔め、消し炭にしてやる」とかなんとか言い出すものだが。「マリア、どうかしたのか」と心の中で問いかける。
—いえ
と短く小さな言葉で返される。それだけの返事だったのに、ひどく冷たいものを感じる言葉だった。
それから帰るまでマリアは一言も言葉を発しなかった。
午前中には街の掃除、午後からは山賊の警戒と悪魔の討伐だ。
「なんで傭兵なのにこんなことしているのよ……」
街の掃除はレオンが勝手に受けてきた依頼だ。
たしかに、どんな依頼でも受けることができるという売り込みでパーティに入れたが、なぜこのような依頼を受けてくるのか問い詰めた。しかし、掃除をするのは立派な仕事だと言われた。
結託のない笑顔で言われたので、言い返しづらくなり、次からはもっとマシな依頼を持ってきてほしいということで、仕方なく掃除をした。
めんどうなのであたしは参加せずにごろごろしようかと思ったが、男たちが適当な掃除をしているのを見てだんだんとイライラしてくる。
「まったく、自分で受けてきて適当な仕事しないでよね」
結局、一緒に掃除をしてしまった。
午後になる。次の依頼はまだマシだった。山賊は見つからなかったが、悪魔には遭遇した。前衛にアモンとレオンを配置しているので、みるみるうちに悪魔たちを薙ぎ倒していった。
「あんた、本当に強かったのね」
正直、かなり半信半疑だったが、その実力は本物だった。
これまでは自分の爪などで戦っていたとは思うが、今は機械仕掛けの巨大な両手斧をまるで自分の体の一部のように振り回して悪魔たちを一刀両断に斬り殺していく。
もともと部下の悪魔たちに恨みがあったといっていたが、その姿はひどく楽しそうで、笑いながら倒していた。ある意味、笑いながら蹂躙する姿は悪魔そのものだといえる。同族を殺しているわけだが。
レオンは騎士の時に引き続き両手剣で悪魔たちを切り倒している。
まさにその様は、童話などで出てくる高潔な騎士のようだ。実際、童話に出てくるような整った顔もしている。
で、あたしはというと、近くにある石に座って、さらに横にある大きめな石に片肘をついて頬杖をつき、眺めているだけだ。
まさに理想の構図である。欠伸をしながらその光景を眺めている。
「チッ、ヴェルヴェット一匹逃げたぞ!」
アモンが大きな声で叫ぶ。
「はいはいっ、っと」
リオからもらった短筒の銃「アルケイン・リボルバー」を頬杖にしている別の手で握り、トリガーを弾いた。その瞬間、バシュン!と大きな音を立てて込めていた魔法が発射される。
放たれた魔法は「ヘヴンズ・シャワー」、かつて森の入り口で多数の敵を葬った魔法だ。
しかし、水晶にこめて発射した威力は非常に弱く、一本の光の矢が光速で直線に発射されるだけだった。
しかし、これで十分だ。もともと範囲が広かったりして使いづらい魔法だったので、それが直線で一人にしか当たらないというのは、むしろ非常に使い勝手がいい。これで街中でも照準を正確に合わせさえすれば使うことができる。
回復魔法も試してみたが、こちらはそれなりの回復力のある弾になった。リオの説明では、攻魔法はどうしても魔法発射速度が速く、水晶がそれに耐えられない構造なので、容量の他に新たに出てきた問題点ということらしい。
しかし、回復魔法は発射速度が非常にゆっくりで、こちらは容量の問題だけだった。なので、ある程度の回復力を維持できたのだ。
逃げている悪魔は、あたしの放った銃の魔法に被弾してその場で倒れて消滅していった。
悪魔の殲滅といっても、永続の悪魔討伐依頼と限定的な詮索の依頼で違いがある。
今回は常時受けていた永続の悪魔討伐ではなく、限定的な詮索依頼なので、別に灰にしてしまっても構わない。
そもそも一匹だけなので、殲滅の数の報酬だとしても高が知れている。
「これで終わりね」
そう言うと、銃の先に息をふっと吹きかけて煙を飛ばす。
「ヴェルヴェット、あまり剣士の戦い方には見えないぞ」
レオンが言ってくるが、そんなのは気にしない。
「勝てばいいのよ、勝てば。街の人々にも被害が出たけど、正々堂々戦いましたので問題ありませんって言えるの?」
言い返すと「それは…」と口籠る。あたしの言っていることは、少なくとも傭兵の中では100%正しい。傭兵や山賊は勝てば官軍、負けた方が馬鹿なのだ。
そもそもあたしたちは傭兵パーティだ。騎士の講釈をされても困る。
そういう意味では、まだレオンは騎士の時のクセのようなものが抜けていないと感じる。
「お、たいして強くない魔法だけど、こいつらを殺るには十分だったようだな」
アモンが上機嫌で言ってくるところに、レオンがいい返す。
「ヴェルヴェットが本来の魔法を使うと範囲が広いので、人間にも被害を出る場合がある。この銃で攻撃するのが妥当だろう」
「別に気にすることねーだろ。前は死んじまったらしいが、それは殺意があったからなんだろ。だったら街のやつらなんか殺意もってるわけねーんだから、敵がもしいたら、ところ構わず撃っちまっても構わないだろ?」
森の出口で敵全員を殺した件についてはレオンに説明した。別に仲間がいたわけじゃないこと、あたしの魔法はカルマ値が極端に低い人間の場合、殺してしまうことがあること、あの時はアナスタシアを殺しに向かったので急激にカルマ値が下がっていたので、全員即死したこと。
だが、マリアと融合していることは言わなかった。誰彼構わず話すことは、結果的に自分たちの身を危険に晒す可能性を感じたからだ。なのであたしは、元々魔法を使えることにしている。
「街の人なら絶対に死なないって保証があるわけじゃないでしょ、だめよ」
おかしい。いつもならあたしが言い返す前にアモンにこんなことを言われたら、マリアなら即座に「不浄なる悪魔め、消し炭にしてやる」とかなんとか言い出すものだが。「マリア、どうかしたのか」と心の中で問いかける。
—いえ
と短く小さな言葉で返される。それだけの返事だったのに、ひどく冷たいものを感じる言葉だった。
それから帰るまでマリアは一言も言葉を発しなかった。
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