聖女は傭兵と融合して最強唯一の魔法剣士になって好き勝手に生きる

ブレイブ31

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設立編

—第31章:マリアの激情2

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その夜、風呂の時間なのでマリアと意識を交代する。

その後、マリアはいつも通り部屋の端にある風呂道具を取りにいくかと思いきや、横に置いてあったあたしの剣を手に持つ。

—おい、マリア、何をやってるんだ?もう稽古の時間は終わってるわよ。いや、稽古なんてあたしはもともとやらないけどさ。

冗談まじりにマリアを茶化す。しかし、マリアからの返答はない。その代わり、おぞましい何かの感情を感じる。

—これ…は…

なんだこの感情は、本当にマリアのものなのか?いつも穏やかで、たまに過激な発言があるときもあったし、感情としても感じ取ることができた。しかし、その感情も一定のラインまでいくといつもスッと消えていた。それがいまはどうだ。

とても聖女とは思えない、とてつもない殺意の感情。そう、まるでこれは殺すことだけを目的にしている者の感情だ。

昔の傭兵時代にたまにいた。基本的に傭兵は金のために仕事の依頼をこなすものだ。しかし、稀に金よりも殺すことを目的として依頼を受ける頭のいかれた連中、それと同じ気配を感じている。

—いや、まさか。マリアちょっとまて、あたしの気のせいだよね?まずはその剣を元の場所に戻せ。落ち着くんだ!

一向にあたしの声を無視するマリア。そして、剣を握ったままガチャっとドアノブを回して部屋を出る。

こんな露出の多いパジャマの格好で剣を持ってどこにいくというのだ。ゴクリとつばが飲めないのにつばを飲んでしまう感覚になる。不安な感情に満ち溢れる。

しかし、マリアは部屋を出てからすぐ止まる。「なんだ、話を聞いてくれるのか」と少し安心するが、次の瞬間息を呑んだ。目の前がアモンの部屋だったのだ。ガチャリと音を立てて入っていく。

中にはアモンが椅子に座って酒を呑んでいた。

「お、なんだヴェルヴェット。お前も酒飲みにきたのか?だめだぞ、これは俺様の報酬で買った酒だからな」

そういうと酒を注ぎ、再度酒に口をつける。

「ん?」

アモンはヴェルヴェットを見た時に違和感に気づいた。剣を手に持っていたのだ。

いつも宿舎の中では持っていない、なぜ今日は剣を持っているのだろうか。そしてその顔つき。

瞳孔が完全に開いていた。まるで悪魔のように。

なにかの異常に気付き、ガタッと立ち上がる。

「ヴェルヴェット、お前ちょっと待て」

「ホーリーチェイン」

どこからともなく現れた光の鎖が素早い動きでアモンを拘束する。たちまち全身を拘束されて尻餅をつく。口も塞がれて叫び声もあげることすらままならない。

「お前が悪いんだ。お前さえ殺すことができれば、私はヴェルヴェットよりカルマ値が高いと証明される。

私は一人の時は超位神聖魔法が使えなかった。でも融合し、ヴェルヴェットに体の所有権を渡してから、なぜか超位神聖魔法が使えるようになった。なぜかわかりますか?私は最初は二人のカルマ値の足し算で使えるようになったと思っていました。しかし違いました。

そうです、単純にヴェルヴェットのカルマ値が私より高かったのです。

ただの傭兵風情が…私よりカルマ値が高いなどあってはなりません…!私は生まれてからずっと神に支えてきた身で、全ては神のためにとその一心で全てを捧げてきました。そんな私を、私を超えるなどあってはならない。

だから証明するのです。不浄なる存在の悪魔を飼い慣らすヴェルヴェット、そして不浄なる存在を断罪する私。そうすればきっと神は正しい判断をして下さる。

そう、全ては神のため…正義のため」

—それは違う!神や正義がそんなに大事か?仲間を殺すのがそんなに偉いのか?!

神に祈るのも別に否定しない。ただ、本当に守りたい者、やりたいことを決めるのは自分自身だ!

全員に正義として思われなくてもいいんだ。その全てを受け入れて、自分の信念を貫き、行動に責任を持ち、一人でも多くの人が笑顔で生活する。それがあたしにとっての正義だ!

でもあんたは神のため、正義のためと、自分こそが一番の正義でありたいという理由だけでアモンを殺そうとしている。自分の正しさを証明するためだけに誰かを利用して殺すことに、正義なんてものはない!

「違う!違う!黙れ!!…あなたの言うことは聞きません。もともとこの穢らわしい悪魔と契約したことが原因、いいえ、融合してしまったのがそもそもの原因。

これをもって私が体の権利者となり、聖王国に戻り、ロキ司祭や背信者共を断罪し、全てを元の正しい姿に戻しましょう。

最後に世界樹の葉を手に入れて体も元に戻す。ヴェルヴェット、あなたの体も自分だけのものになり、聖王国での傭兵生活に戻るといいでしょう。」

「んー!!んー!」

アモンがジタバタと不自由な体で暴れているが、それもむなしく、たいして動けない。

「悪魔よ、断罪する!」

マリアが立ったまま、両足でアモンの体を挟み込むように固定し、アモンのちょうど頭上で両手で剣を逆手に持つ。そして首に狙いを定めて、力を入れて思い切り下に突き込む。

「グッ!」

鮮血が迸る。

しかし、それはアモンからのものではない。

マリアが驚愕する。その剣の切先は、レオンの肩を貫いていた。

「な…レオンさん!邪魔をするのですか!」

おそらく、マリアの大きな声で以上事態に気付いて飛び込んできたのだろう。肩からはだらだらと赤い血が流れている。

マリアが罪のない人間を傷つけてしまったショックと動揺で声を振るわせる。しかしそれ以上に、悪魔を断罪して全てを元に戻したいという思いが強く、なぜ邪魔をするのかとレオンを問い詰める。

「ぐ、待つんだ、アモンにどんな恨みがあるかは俺は知らない。

この状況もはっきり言ってまったくわからない。だが、君は仲間を殺すような人間じゃない。」

そう言い、自分の肩に刺さった剣を抜く。

「俺たちは仲間のはずだ!そして君はいつも優しく天使のように微笑んで、女神のような女性だ。

こんなことはしちゃいけない…」

「ですが!それでは…私は、私は、正義を示すこともできない、こんな弱い私では誰からも…敬われることも、愛されることもできないのです」

レオンがマリアを抱きしめる。

「そんなことはない。いまでも君はいつだって強く、そして美しい。この俺が保証する。

俺は君に救われた、だから今度は俺が君を支えよう。

どんなに挫けそうにあっても、どんな醜態を晒そうと俺は見捨てない、全てを肯定しよう。

だから、だからもうそんなに涙を流さないでくれ」

「う…あ…ああ…レオン…」

ガランと剣を落とすマリア。レオンと同様に、マリアも強く強くレオンを抱きしめる。

泣くのが収まり、ひとしきり感情も落ち着いてきた頃、お互いが少し離れて顔を見合わせる。

「レオンさん、その…ありがとうございます。まだ納得できてないところは正直あるのですが。でもあなたが言ってくれたように、これからも支えて…くださいね」

「ああ、もちろんだ。どんなことがあっても俺は君を支えよう。」

お互い、腰に手を回して見つめ合う二人。そしてその距離は物理的に徐々に近くなっていく。

—ん?あ、ちょっと待って。いや、待ってって!だめ、だめだから!いや、レオンは嫌いじゃないんだけど、こういうのはその…って待ってー!!

完全にあたしの声が無視されている。まるで全く聞こえないようだ。さっきまでの激しい激情で、本当に聞こえなくなったんじゃないかというくらいの無視っぷりだ。

「おい、俺様の上でいちゃついてんじゃねーぞ!」

唐突に下から声がする。アモンだった。アモンをマリアとレオンが跨いでいたのだ。

「うわぁ!」

「きゃぁ、なんでいるんですか!」

二人とも驚いていた。しかし、マリアの「なんでいるんですか」はさすがにその言い分はないだろうと突っ込まずにはいられない。

「なんでいるんですかじゃねーよ。勝手に拘束されるし、殺されそうになるわ、上でいちゃつかれるしで、さすがに俺様も本気で怒るぞ?」

本気で怒っていいと思う。アモンの言っていることはいちいちもってごもっともだと言わざるを得ない。いつの間にかアモンを拘束していた鎖が消えていた。やれやれといったふうに起き上がる。

「あ、お前。肩を剣で貫かれたのか?」

「あ、ああ。しかしこの程度なんでもない。むしろ名誉の傷だ。」

痛いだろうに、しかしレオンは誇らしげに胸を張って答える。

「ぎゃはは、これで俺様とお前はヴェルヴェットに剣で穴を開けられた兄弟ってわけだ。」

笑いながらぽんぽんとレオンの肩を叩く。

「なっ、ヴェルヴェット。アモンに前にもこんなことをしたのか?」

—いや、やったけどさ…あれは不可抗力というか。あいつが悪いだろ…

「あれはアモン…さんが悪いのですよ」

レオンに微笑んで答える。レオンが「な、なるほど。それならそうなのだろう」という感じで納得する。なんでこんな簡単に納得するのか、さっきの光景をもう忘れたのかと突っ込みたくなる。

スッとレオンの肩の傷口に手をやり、治癒魔法をかける。

レオンの肩から痛みが引き、みるみるうちに傷口が塞がっていく。

「おい、治せるのかよ!ずるいぞ、だったら俺の傷も直してくれよ!」

アモンが自分の剣で貫かれた足を見せて、一緒に癒すように促す。

「えと、アモンさんに治癒魔法をかけるとあまりよくないことが起こると思いますが?」

「あ、そうだった」と思い出したような顔でアモンが項垂れる。

たぶんだが、悪魔には治癒魔法が効かないのだろう。いや、マリアの言い分からして効かないと言うより毒を体に流し込まれるようなものなのだろう。

「それにしても、もう隠すことはできない。そう思いませんか、ヴェルヴェット?」

—確かに、これはもう隠せないな。

仮に今後も隠していたとしたら、さっき抱きしめあっていたというのがあたしということになる。

そうなると次はどんな顔でレオンと会えばいいのか…そして会ったとして、また似たような雰囲気になったらどうするのか。なる気はないが、万が一なったとしたら今度こそ正真正銘のマリアの“断罪”が来る気がする。

—説明してあげて、あたしは過去のことを整理してしっかりと伝えられる気がしないからこのままでいいから。ただし、あとでちゃんと体は返してよ。

「わかりました」とマリアが答えると、レオンに説明を始める。
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