聖女は傭兵と融合して最強唯一の魔法剣士になって好き勝手に生きる

ブレイブ31

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設立編

—第36章:マリアの交渉

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家の中へ忍び足で入っていく。レオンが伝えてくれたように窓から足のようなものが見えたが、そこから攻撃を加えると、当たり前だがガラスが割れる大きな音がする。もしかしたら避けられるかもしれない。また、見えているところは足だけなので、大きなダメージを与えることができないかもしれないという点から、部屋まで侵入して直接攻撃することにした。

「たぶんその部屋だ」

レオンが小さい声で奥の部屋を指差す、扉は半開きで空いている。ゆっくりと近づいていくと、とうとうベルフェゴールの後ろ姿が見えた、扉の隅に屈んで身を隠す。

ベルフェゴールは、薄暗い室内の隅に設けられた豪華なベッドに、ゆったりと身を横たえていた。巨大な体はふかふかのマットレスに沈み込み、その存在感はまるで暗闇をも引き寄せるようだった。

その悪魔は背を向けたまま、静かに息をしていた。長い手足が無造作に投げ出され、気怠い様子を浮かべる。

やるか、と思い身を乗り出し魔法詠唱に入る。アモンとレオンもすぐに攻撃を仕掛けられるように武器に手をかける。すると、

「なんだ?私に何か用か?」

その問いかけに全身がびくりと硬直する。ばれていた、いつからだ。

魔法を撃とうとしていた手に汗が滲む。構わず打ってしまった方がいい。しかし…ベルフェゴールは問いかけてきた。攻撃をせずに。つまり、話し合が出来る可能性がある。

後ろを振り返ると二人はあたしを見ている。あたしの動向に合わせるといった様子だった。しゃがんでいた体を起こしてその場に立つ。

「あんたがベルフェゴール?」

話し合いを選んだ。ここに至ったら仕方がない。どうせばれているんだ。ならば、交渉が決裂してから倒せばいい。

「ああ、私がそうだ。ふぁぁ…」

けだるそうに返事をしながら寝返りをうってこちらを見てくる。だがやはり返事はちゃんとしてくる。ならば、と言葉を選んで慎重に語りかける。

「ねぇ、ちょっとお願いがあるんだけど」

「なんで人間共の願いなど聞いてやらないといけないのだ」

「いや…人間たちをいっぱい襲いたくない?」

レオンが眉をひそめる。レオンには聖王国に悪魔の軍勢をけしかけて大打撃を与えるという話はしていない。余計に慎重に言葉を選んでしゃべらなければならない。これは非常に難しい。「マリア、代わって」と心の中でマリアに語りかけて交代する。

「私たちは機械の国からの使者です。我々は悪魔に対抗する兵器を所有しています
、しかし我々は争いを好みません。攻めるのならば聖王国にしていただけないでしょうか?」

うまい言い方だ。これならメカストリアにいるレオンは自国の被害が少なくなるので納得するはずだ。まさかマリアが世界樹の葉さえ無事なら聖王国がどうなっても構わないなど夢にも思っていないだろう。

「お前ら自分のところが助かればそれでいいのか?まぁ、わたしが言える義理でもないし別にいいが。だが面倒だ。わたしはこうやってぐうたらして何百年も過ごしている。今さら働くなんていやだね」

ここまでやる気のない悪魔だったとは、あまりにも想定外だ。この悪魔を動かす方法は何かないか、足りない頭を一生懸命動かす。

「どうすれば頼みを聞いてくれますか?」

さすがのマリアも解決策は思いつかなかったようだがすかさず質問をする。なるほど、全く思いつかないのであれば本人に聞くのが一番手っ取り早い。しかし本当にすぐに頭の周りが回るマリアにはやはりさすがだと思わされる。

「さっきも言っただろ、面倒くさいと。だがまぁ、そうだな。こうやってだらだらしてるのもいいが、最近は暇にも感じてきている。何か面白い話をしてくれればお前達の話も少しは聞いてやらんでもないぞ」

「面白い話ですか…?」

「ああ、そうだな。お前たちの素性や目的を教えてもらおうか。魔王国のこんな辺境にくるやつらだ。交渉とはいっていたが、実際にここまでくるやつが普通の神経をしているわけがない。

何かそれ相応の理由があるはずだ。それともさっきの願いが本音なのか?」

見抜かれている。これは嘘をつき続けるわけにはいかない。どうする…するとマリアが微笑んで答える。
「なるほど、わかりました。それではお話しましょう」

マリアがベルフェゴールに説明を始める。

自分がマリアとヴェルヴェットが融合した姿であること、メカストリアを守るのと同時に聖王国に援軍を出して貸しを作りたいことを。そして自分達が元の姿に戻るためには聖王国の秘中の財宝の世界樹の葉が必要な事。

ここまで正直にマリアが言う理由を考える。至極簡単な結論に達する。マリアはベルフェゴールが拒否をしたら殺すつもりだと。いやそもそもここまでいったのだ、約束程度では生ぬるい。主従契約を必ず結ぶ事を決意しているのだ。

こいつは本当に聖女なのかと、だんだんと信じられなくなってくるが、今までの経験から間違いなく聖女だという事実がある。

かくいうあたしも暴力にものを言わせて従わた経緯はあるので、あまり変わらないかという気もしてくる。

「ははっ、なるほど。お前らいい性格してるな。人間にしておくにはもったいない!祖先はもしかして悪魔だったのかもな。」

そんなわけがない。祖先が悪魔で子供が人間など、どんな世界だ。馬鹿馬鹿しいと思いつつ、ベルフェゴールが上機嫌になっているのは交渉的には悪くはないと思う。

「だがダメだな。面白かったがやはり話だけではな。そうだな、おい、そいつは悪魔だろ」

ベルフェゴールがアモンを指で刺す。

「どんな悪魔かはわからないが、そいつを一生俺のコマ使いにさせろ。そうすればその聖王国に悪魔を差し向ける話を進言してやってもいいぞ」

ニヤリとして人を値踏みする様に見てくる。

「いいで…」

—ダメだ!

心の中で大きな声をあげてマリアを静止する!

アモンはマリアが言いかけた言葉を察して、マリアを一喝しようとしたが、途中で不自然に止まったマリアの姿を見て動きを止める。

—ふざけるなよ、アモンはあたしの大切な傭兵仲間だ。売るなんて許さない。

激しい怒りを言葉に乗せてマリアにぶつける、それを聞いたマリアが少し考える様な間の後、

「いえ、それはできませんね」

アモンはほっとした顔になるが、やはり少し違和感を感じているようだった。

「じゃあダメだな、交渉決裂だ」

それを聞いた瞬間、マリアの全身に殺気の気配が満ちる。次の瞬間に魔法を叩き込むであろうと思った瞬間。

「しかし退屈しのぎに面白い話を聞けたから、一つだけいいことを教えてやろう」

ピクリとマリアが反応する。

マリアの殺気を知ってか知らずか、クククと笑みをこぼしながら少し身を乗り出してベルフェゴールが言う。

「さっき通りかかった悪魔が言っていたが、つい先日その聖王国とやらに大侵攻をかけているらしいぞ」
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