理想とは違うけど魔法の収納庫は稼げるから良しとします

水野(仮)

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アベル・ミアン・ドゥーンハルト

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貴族になるかならないかを領都に来ていたカチュアさんたちに相談したら、身を守る手段は多い方が良いに決まってるでしょと言われてしまう。
貴族になった時の面倒事ばかり気にしていたが、より安全になる方を選ぶのが普通か。

考えてみると領主様の弟である竜騎士さんが俺の側に居ることが多いのって、俺に手を出したら領主様が出てくると周りに思わせるのも有るんだろうな。
竜騎士さんが領主様の弟だと知ってる相手は貴族や富裕層だろうから、平民の子供でしかない俺は彼らよりも弱い。
貴族になることで富裕層や領主様よりも下位の貴族が手を出せなくならなったほうが良いか。

「でもめんどくさいんだよなぁ…、特に王都の高等学校へ通う義務が…」
「諦めなさいよ」
「そうそう」



「お前の名前は今日からアベル・ミアン・ドゥーンハルトになった」 
「領主様やこの街と同じ名前?」
「俺ともな」
「それはどう言う?」
「お前は俺の弟になった」 

急展開過ぎて着いていけない…。
貴族になると領主様へ伝えて欲しいと使用人に頼んだのが3日前。返事が来るのにしばらくかかるだろうなと思っていたら貴族になっていた。

「流石に早くないですか? 色々と根回しやら必要書類集めたりとかに時間掛かると思っていたのですが?」
「結構前に兄貴がお前を王城へ連れて行っただろ?」
「はい」
「その時にはお前が貴族になると言えば何時でもなれるようになっていた」
「え?」
「更に言えば貴族になれと強制することも出来たな」
「ええ?」

返事待ちだっただけでなく領主様がその気になれば何時でも貴族にされていたのか。
平民のままで気楽に暮らす未来は最初からなかった?

「それとミアンてのが重要だ」
「そこは領主様と違うのですね」
「軽く言うと、俺たちのように領地を持ってる一族がディルで領地の無い貴族がクリンだ。そしてミアンてのは王がこの国に必要だと認めた者に贈られる」
「一度挨拶をしただけなんですが?」
「それだけ重要人物ってことだ。お前1人いるだけで1年も掛からず森が街になるんだぞ」

俺1人だけではないと思うけど…。
でも、俺が居なかったら馬車で荷運びとかしてるから時間掛かるか。

「普通に街を作ったらどれくらいなんですか?」
「最初の街なら早くても12年だな」
「そんなに?」
「街を作るには時間だけでなく人も予算も必要だからな。古い家を移築するにしても解体した後に何往復もして運んだ後に組み立て作業が必要になるが、お前の場合はその日の朝に家を収納して夜には終わっている。家の大きさによっては1ヶ月以上掛かるところを1日で出来るし、荷運びに掛かる経費も浮く」

領主様たちは俺が居なかったらどれくらい掛かるか考えたりしてたのかな。だから深く考えず言われたことだけやっていた俺よりも収納庫スキルを高く評価しているのか。
それこそ王様が認めるくらいに。

「王様は俺に何かさせたいのでしょうか?」
「兄貴の話では国中に水路を作るつもりなのでは無いかと言っていたな」
「水路?」
「街と街を大型船で移動出来れば多くの荷物を一度に運べるだろ?」
「馬車で数台分の荷物を船なら1度に運べますね」
「学生時代に兄貴とそう言ったことを話してたそうだ」

友達だったのか?
だから城で会ったとき親しげに話してたのか。

「それと来週から家庭教師がくるからな」
「家庭教師ですか?」
「高等学校で惨めな思いはしたくないだろ?」
「まぁ」
「3年だ、3年我慢すれば良いだけだ」
「我慢するようなところだったと」
「遠回しに嫌味を言い合うのを見てるだけでも憂鬱なのに何時の間にか勝手な噂が流され、それが事実になっている。俺は何人もの娘と関係し10人以上の子供がいて全て認知していないことになっているぞ」
「そんな噂を流されるんですか」
「お前はそれ以上かも知れん。だからこそ武装する為にも家庭教師が必要だ」

今からでも貴族になるの断れないですか?



俺の家庭教師としてやってきたのは竜騎士さんの友人で子爵令嬢のミリユさんである。
彼女の家は俺が最初に拠点とした街の代官をしていて俺のことは早い時期から知っていたそうだ。
彼女から竜騎士さんの学生時代を聞いた感じ、あのような噂が流れるのも仕方がないのでは? と思ってしまう。

「中央に居る低位貴族には共通する間違った価値観が有ります」
「それは?」
「王都に近いほど優れていると言うものです」
「この前習った話では、貴族位が絶対で有り同じ貴族位でも土地の管理を任されている方が上だったはずでは?」
「その通りです。それは王や高位貴族が持つ常識なのですが、代々役職を引き継ぐだけの中央の低位貴族にはその常識が有りません」

領地を持てるのは公侯伯の高位貴族だけでそれより下の貴族は王族や高位貴族に仕える役人だと言う話だったはず。

「それは城で仕事をする低位貴族の方が領地を持つ高位貴族より上だと考えていると言うことで良いのでしょうか?」
「そうですね」
「何故そんな勘違いを?」
「王に近い位置に居るからと」
「住んでる場所は近いですが身分的には近くないような…」
「その通りですが、それを分かろうとしません。そしてそのような者が親となり子に誤ちを引き継ぐのです」
「彼らとどのように付き合えば良いのでしょうか」
「相手にしなければ良いだけですね。あんなものはまともに相手しようとするから気分が悪くなるのです」
「な、なるほど」

話しながら色々と思い出しているのか綺麗な顔が歪んで見える…。
何時も優しい隣のお姉さんみたいな人なのにこんな顔をさせるなんて何をしたんだ中央の貴族子女…。

「それから貴方は貴族家の当主であり王から認められた者なので扱いは高位貴族、それも侯と同位になります」
「は?」

そんなことは聞いてないけど?!
竜騎士さんは何時も説明しなさ過ぎ!
弟になるとしか言わなかったよあの人!

*****
代官なども土地持ち扱い。
雇われ店長でも店長は店長なので。
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