感情下手な神泉さんは、危機を救ってくれた目立たない彼にベタ惚れの様です〜素直になれません!〜

松原 瑞

文字の大きさ
20 / 26

席替え大作戦③

しおりを挟む
「さて、どうしたものか」

 私は腕組みをしながら、さながら名探偵にでもなった気分で思考を巡らす。
 まず倉敷くんならどこを選ぶだろうか、彼の特性から考えていこう。
 倉敷くんは私といる時はすごく喋ってくれるけど、本来彼は大人しいタイプのハズ。もし目立つタイプだったら、あの痴漢事件の時から倉敷くんのこと知ってたハズだもんね。……そんな倉敷くんが、あんな満員電車で声を出して助けてくれたなんて、思い返しただけで惚れ直しちゃうキャーーー!

 ……はっ! ダメダメ今はそんな事を考えている場合じゃない! なんだっけ……、そうだ。倉敷くんは俗に言う『陽キャ』といった部類ではないと思うの。
 陽キャとはスクールカーストの高い部類の人たちで、クラス内や学年内、果ては学校内に置いて発言権が強い人たちのこと。クラスの中心人物や中心グループに属してると言われる人たちは、大体この陽キャだと思う。
 陽キャの対をなす存在が『陰キャ』と言われる人たち。この人たちはスクールカーストの低い人たちのことで、基本的にクラス内でも物静かで、独自のコミュニティを形成している場合が多い。倉敷くんはどちらかと言うと陰キャの部類だろう。いや悪口ではなくて。
 私自身もあまりに派手な人たちや、底抜けに楽しそうな人たち——所為『陽キャ』と言われる人たちと、特別仲が良いわけではない。普通にお話したり、友達になったりはするけど、グループに属したりはしない。私の目つきはカーストトップも狙えると言われるが、それ別の意味だから嬉しくないし……。
 だから倉敷くんの様に、物腰が落ち着いている人の方が一緒にいて安心する。穏やかで和やかで、優しい時間を味あわせてくれる。だから私は、倉敷くんにドンドン惹かれていくんだろうな。ハァ……好き……。

「おーい、栞里チャーン」
「——……はっ! また時空に飛んでた……」
「早くしないと、席取られちゃうよ?」
「えっ!?」

 周りを見渡すと、先ほどまで頭を悩ませていた一部の女子たちは行動を開始していた。ここでも暗黙の了解として、スクールカーストトップ層の女子グループが先に席を選び始めている。

「あ~。あの子たちは、やっぱり窓際の一番後ろらへんを陣取ったね」
「まぁ、これはある意味予想通りよねぇ」

 クラス内の席に置いて、一番人気が高いのは『教室内の上座』と言われる窓際の最後尾である。言い方を悪くすると、不真面目な生徒は後ろの席に行きたがり、そして陽キャと言われる人たちは不真面目な生徒が多い。もちろん、中には真面目な者もいるが、相対的に見て……だ。
 だからこそ、あのカーストトップ層の女子グループも、中の良い陽キャ男子たちが窓際の後ろ席を陣取っていると思ったのだろう。しかし、

「お前らは固まると授業中に絶対騒ぐから、いくらかバラけろ」
「えーっ」

 これも予想通り。先生があのグループのままを許すハズがない。おそらく男子にもそれを言っているだろう。さっき廊下で待っている時、誰かが先生の声もすると言っていたのはそのためだと思う。
 と言うことは、何人かの陽キャ男子は窓際の最後尾席を確保し、他の陽キャ男子は違う列の最後尾周辺にいると思って良いだろう。あの陽キャ女子たちも同じ様に他の列の最後尾を確保しだした。
 これで倉敷くんの残る可能性は真ん中から一番前の席のどれか。よし、絞れてきた!

 次に動くのはスクールカースト真ん中のグループ……ではない。これはカテゴリ分けが難しいが、あえて言うなら『真面目グループ』だ。この層は授業を如何にちゃんと受けられる環境を整えるかに注力している。先ほど先生が言っていた『不満の声』の正体も彼ら彼女らだろう。
 じゃあなんで真面目グループが陽キャの次に動くのか。それは彼らの意思が交わることはないからだ。先に動く——その一点を陽キャに譲りさえすれば、先生にほど近い前方の席を選ぶ者なんて、真面目グループ以外ありえない。
 ここまでの予想は調子良いぞ私。しかしここで一つ問題がある、……倉敷くんはどっちだろう! いや、倉敷くんは真面目だよ? でもじゃあ倉敷くんが前の席を選ぶかと言われたら、私はちょっと自信ない……。クソゥ、情報不足だぞ私ぃ!

「栞里、さっきからブツブツ言ってて怖いよ……」
「佐奈うるさい」
「アッハイ」

 その線が情報不足なら、別の線で考えれば良いじゃない。倉敷くんとの思い出をよく振り返って!
 初めて会った時は電車内。倉敷くんに助けてもらって、私はそんな彼に恋をしてしまった……好き。
 お菓子を渡したこともあったっけ。佐奈に手伝ってもらった不恰好なお菓子を、倉敷くんはそれでも美味しいって言って食べてくれた……好き!
 色々質問もした。佐奈からアドバイスを受けた質問で、そこでやっと色々お話できる様になった……好きぃ!!
 一緒に帰ったこともあった。突然の雨に傘を忘れて立ち往生している倉敷くんを、私の折り畳み傘へ入れてあげて……大好きぃ!!!
 購買でパンを買ってもらったこともあった。私がお弁当を忘れて購買に行ったら、人混みがすご過ぎて諦めかけたその時、倉敷くんが颯爽と現れて……もうもう大ス——、

「これだァァァァァァァアア!!」
「うわビックリした! どうしたの栞里」
「あったの、あったのヒントが!」

 そうだ、何で忘れてたんだろう。倉敷くんはいつも購買へ行っているじゃない! しかもあの人混みの中、いつも目当ての物を買って……。これはつまり、昼休み開始のチャイムがなったらすぐに購買へダッシュしている証拠。そう、つまり倉敷くんが今後も購買でパンを買うことを考えれば、出口に一番近い廊下側の列を選ぶという仮説が立てられる。
 なら今度は廊下側の列で、どこの席になるのか。男子でも一番後ろは陽キャグループで埋まっているだろう。一番前は、おそらく真面目グループの視力の悪い人たちで埋まっていると思う。倉敷くん視力悪いとか聞いたことないし。そして、できるだけ購買へ行きやすくするため、ドア付近を選びたがるだろう。
 つまり前から2番目か、後ろから2番目のどちらか……っ! きた、ここまできたよ倉敷くん!
 でもあとがわかんない、どっち!? うぅ、どうしよう……。さすがにもうネタがないよぉ……。
 私が頭を抱えどうしようと悩んでいると、佐奈が私の肩を掴む。

「栞里、何を考えているか言ってごらん。整理できるかもしれないし」
「佐奈……、うん実はね……——」

 時間がないからものすごい早口での説明になってしまっただろう。それでも理解してくれた佐奈は軽く目を閉じると、もう一度私の肩を掴み。

「ふふふ、私に良い考えがある」

 とびきり渋い声で、不敵な笑みを浮かべた佐奈が私に一つ提案をしてくれた。

◇◇◇

 結局、私は廊下側の前から2番目を選択した。果たして私は倉敷くんの隣を選べただろうか。緊張して心臓が張り裂けそうだよ。
 先生が廊下の男子たちを呼ぶと、ぞろぞろと前方の扉から教室内に入ってくる。陽キャたちは女子が選んだ席の様子に、一喜一憂の雄叫びをあげている。そして、男子たちの最後尾、倉敷くんが教室に入ると、

「あっ……」

 一瞬倉敷くんと目が合う。期待に胸が膨らむ。お願い、私の隣に……。
 けれども倉敷くんは視線を逸らし、そのまま私の隣を過ぎると後ろから2番目の席へと向かってしまう。

「……やっぱり、か」

 私の予想は、最後の最後で外れてしまったらしい。倉敷くん、どう思ってるかな。別に私のことなんか気にしていないかな。そうだったら……ちょっと悲しい。

 こうして、ドキドキの席替えは幕を閉じ、ちょうど下校を知らせるチャイムが鳴ったのだった。

 ◇◇◇

「残念だったね、栞里」
「……うん、でも仕方ないよ。むしろよくここまで的中させたと思わない?」
「ほんとそう思う。ってか普通にキモい」
「え、キモいかな?」
「うん、誇って良いよ。倉敷くんのこと、わかり過ぎ。キモい」
「えへへ、そんなわかってるかなぁ……」
「うわぁ……」

 放課後の教室、私と佐奈は席替えの結果を振り返っていた。親友の佐奈に若干引いた目をされるも、ある意味褒め言葉だったので気にしない。
 そして、佐奈がため息を大きく一つ吐くと、まるで手のかかる子供を見るように微笑み、

「さってと、それじゃあやりますか」
「佐奈、本当に良いの?」
「うん? そんなの当たり前じゃん。あたしは栞里の親友だよ?」
「佐奈……」
「だから今日もステバの新作、奢ってね」
「——……うん。トッピングもつけて良いからね!」

 ニシシと笑う佐奈に腕を組んで、私たちは教室を後にした。

◇◇◇
~翌日の朝~

「くっ倉敷くん、おは……おう……おはみょう……っ!」
「あっ、おはよう神泉さん……って、あれ!?」

 倉敷くんが驚いている。そりゃそうだ。だって私は今、倉敷くんの隣の席に座ったのだから。

「え!? 俺の隣って確か中嶋さんじゃ」
「う、うん。そうなんだけどね」
「ごめんねぇ倉敷くん」

 私が返答に困っていると、廊下側の前から2番目——昨日私が座った席から、佐奈がやって来て。

「よくよく黒板見てみたら、私の視力じゃ見えなかったから栞里と先生に無理言って代わってもらったの」
「そ、そうだったんだ。それなら仕方ないね」
「栞里じゃ目つき悪くて怖いと思うけど、我慢してね」
「えっ!? いやそんなことは……っ」

 あ、意外と信じてくれてる……。やっぱり倉敷くんは良い人だなぁ。心が痛い……。
 私が呆けていると、倉敷くんがこちらをチラッと見やり、

「むしろ……その」

 私と目があった倉敷くんは、気のせいかほんのり頬を赤らめながら、

「代わってくれたのが神泉さんで、本当によかった。これからよろしくね、神泉さん!」
「~~っ!? う、うん」

 ニカっと少年ぽく笑う倉敷くんを直視できず、プイっと反対方向を向いて私は返事をしたのでした。
 ここここちらこそよろしくだよ倉敷くんーーーー!!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……? ~ハッピーエンドへ走りたい~

四季
恋愛
五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……?

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

【完結】ありのままのわたしを愛して

彩華(あやはな)
恋愛
私、ノエルは左目に傷があった。 そのため学園では悪意に晒されている。婚約者であるマルス様は庇ってくれないので、図書館に逃げていた。そんな時、外交官である兄が国外視察から帰ってきたことで、王立大図書館に行けることに。そこで、一人の青年に会うー。  私は好きなことをしてはいけないの?傷があってはいけないの?  自分が自分らしくあるために私は動き出すー。ありのままでいいよね?

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

処理中です...