寂しいからヒモを飼うことにした

音央とお

文字の大きさ
3 / 6

しおりを挟む
やっぱり誰かがいる夕飯っていいな。
動画サイトを見ながら一人で食べる食事は味気なかったので、健太郎くんと鍋を囲んでいるだけで楽しい気持ちになれる。

初めての食事が寄せ鍋で良いのかとは思ったけど、どうせなら誰かとシェア出来るものにしたかった。
具材は奮発したので、健太郎くんも喜んでくれた。

テレビは国民的アニメが流れていて、日曜日の夕方に家族を描いたアニメの2本立ては孤独感を高めてくれるものだったけど、今日からは違うもんね。
穏やかな気持ちで楽しめる。

「健太郎くんって嫌いな食べ物ある?」

「ウニ」

「それは滅多に食べさせてあげられないから、大丈夫そう」

普段食べそうなもので特に嫌いなものはないみたいだから、献立は困らずに済みそう。
ふむふむと頷いていると「たまには作るよ」と言われた。

「春花ちゃんはお仕事あるんだから、それくらいなら俺も協力したい」

なんていい人だろう。
話し合いの結果、明日の夕飯は健太郎くんが作ってくれることになった。
そうと決まれば……。

「はい」

「……何?」

一万円札を3枚手渡すと不思議そうな顔をされた。
首を傾げながら「明日の買い物代」と伝える。

「こんなにいらないけど……」

「健太郎くんのお小遣いも入ってるから。ごめんね、渡せるお金があんまりないから頻繁にはあげられないんだけど」

「……別にいらないけど」

「なんで? パチンコとか行かないの?」

健太郎くんは目を丸くしていた。
ヒモ男なのにギャンブルは興味がないんだろうか?

これは想定と違った。
さすがに偏見だったのかなと考え込んでいると、気が変わったのか「貰っておく」と言ってお金をしまった。

もしかして、最初だから遠慮したのかな? 別にしなくていいのに。

食器まで洗おうとしてくれるけど、最初だからか、はりきりすぎだ。
こっちはちゃんと飼うつもりなのに、どこか不安が見える。
私が飼い主初心者のせいなのかな……。

「あ、そういえば」

伝え忘れていたことを思い出した。

「今夜は一緒のベッドでもいいかな?」

健太郎くんは飲んでいたお茶を噴き出した。
少しむせて顔を歪めながら、こちらを見た。

「注文していた布団がなかなか届かなくて。今週中には届くみたいなんだけど、それまでの間だけ」

「……」

「シングルベッドだから狭いかも。ごめんね」

何かを考える素振りを見せ、健太郎は口を開いた。

「じゃあ、縛って」

「え? 何を?」

「腕。変なことしないって保証」

なるほど。
仮にも男女が一つのベッドに寝るわけだから心配しているのか。

「いいけど、朝が来たら解いてね。会社に行けなくなっちゃう」

「なんでそっち?!」

私の腕を縛る訳ではなかったらしい。
この感じだと、健太郎くんは絶対に手を出してこないと思うし、縛る必要なさそうだけどなぁ……。
何かされれば追い出すだけだし。

「普通に考えて、健太郎くんと私なら、うっかり手を出したくなるのは私の方でしょう」

「……なんで、そんな発想に?」

「ヴィジュアルが違いすぎる」

「そういうことじゃないと思うんだけど……」

どうも意見が噛み合っていない。

「私も出さないから安心してね」と言ったら納得がいってなさそうな顔。
うーん、さすがに初日で信用はされてないか。

「あとで生活のルール決めようよ」

「ルール?」

「されて嫌なことは、最初に決めとこうよ」

「なるほど」

まずは信用を得ることから、かな。
今のままではヒモ男を甘やかしたいのに、目的を達成できない。

とりあえず、一晩置いてルールを決めることにした。
明日の夜までに意見をまとめておくこと。健太郎くんが素直に頷いてくれたので、ちゃんと話し合いができそうなヒモ男で良かった。


「じゃあ、そろそろ寝よっか」

どこか緊張した面持ちの健太郎くんが棒立ちになっていた。
その腕を引っ張ってベッドの中に入る。

「うーん、やっぱり健太郎くんって大きいね」

ベッドが狭いので最適な位置を探した結果、健太郎くんの胸元の辺りに収まってみる。
「近すぎない?」と硬い声が聞こえる。電気を消したから表情はよく見えない。

「しょうがないよ。寝よ。おやすみ」

掃除で疲れていた肉体は、驚くほど寝つきがよく意識を手放した。人の気配があるって安心する……。



*   *   *


Side 健太郎

平山日奈子から連絡を貰った時は、珍しいなと思った。
大学時代の縁で連絡先は知っていたものの、それを使う機会など特になかった。

“先輩、友達のヒモになりません?”

そんな一文に興味をひかれてメールを読み進め、野崎春花という名前にスクロールしていた指が止まった。

……一度だけ、大学で会話を交わしたことがある。

「覚えられていなかったか」

ぽつりと静かな部屋で呟く。
すやすやと安心して眠っている春花を見て、小さく息を吐く。

平山からは「危なっかしい子なんで、先輩みたいな人に守ってほしいんですよね」と言われている。
悪い話ではないと判断し、こうして生活をともにすることにしたわけだが……この子は警戒心というものがないのだろうか。

平山の心配が嫌というほどに分かる。
これは放っておけない。
思わず苦笑いするけれど、嫌だとは思わなかった。

でも、俺だけが眠れない夜を過ごす羽目になるのは、面白くないかな。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

抱きしめて

麻実
恋愛
夫の長期に亘る不倫に 女としての自信を失った妻は、新しい出会いに飛び込んでいく。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

離れて後悔するのは、あなたの方

翠月るるな
恋愛
順風満帆だったはずの凛子の人生。それがいつしか狂い始める──緩やかに、転がるように。 岡本財閥が経営する会社グループのひとつに、 医療に長けた会社があった。その中の遺伝子調査部門でコウノトリプロジェクトが始まる。 財閥の跡取り息子である岡本省吾は、いち早くそのプロジェクトを利用し、もっとも遺伝的に相性の良いとされた日和凛子を妻とした。 だが、その結婚は彼女にとって良い選択ではなかった。 結婚してから粗雑な扱いを受ける凛子。夫の省吾に見え隠れする女の気配……相手が分かっていながら、我慢する日々。 しかしそれは、一つの計画の為だった。 そう。彼女が残した最後の贈り物(プレゼント)、それを知った省吾の後悔とは──とあるプロジェクトに翻弄された人々のストーリー。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...