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やっぱり誰かがいる夕飯っていいな。
動画サイトを見ながら一人で食べる食事は味気なかったので、健太郎くんと鍋を囲んでいるだけで楽しい気持ちになれる。
初めての食事が寄せ鍋で良いのかとは思ったけど、どうせなら誰かとシェア出来るものにしたかった。
具材は奮発したので、健太郎くんも喜んでくれた。
テレビは国民的アニメが流れていて、日曜日の夕方に家族を描いたアニメの2本立ては孤独感を高めてくれるものだったけど、今日からは違うもんね。
穏やかな気持ちで楽しめる。
「健太郎くんって嫌いな食べ物ある?」
「ウニ」
「それは滅多に食べさせてあげられないから、大丈夫そう」
普段食べそうなもので特に嫌いなものはないみたいだから、献立は困らずに済みそう。
ふむふむと頷いていると「たまには作るよ」と言われた。
「春花ちゃんはお仕事あるんだから、それくらいなら俺も協力したい」
なんていい人だろう。
話し合いの結果、明日の夕飯は健太郎くんが作ってくれることになった。
そうと決まれば……。
「はい」
「……何?」
一万円札を3枚手渡すと不思議そうな顔をされた。
首を傾げながら「明日の買い物代」と伝える。
「こんなにいらないけど……」
「健太郎くんのお小遣いも入ってるから。ごめんね、渡せるお金があんまりないから頻繁にはあげられないんだけど」
「……別にいらないけど」
「なんで? パチンコとか行かないの?」
健太郎くんは目を丸くしていた。
ヒモ男なのにギャンブルは興味がないんだろうか?
これは想定と違った。
さすがに偏見だったのかなと考え込んでいると、気が変わったのか「貰っておく」と言ってお金をしまった。
もしかして、最初だから遠慮したのかな? 別にしなくていいのに。
食器まで洗おうとしてくれるけど、最初だからか、はりきりすぎだ。
こっちはちゃんと飼うつもりなのに、どこか不安が見える。
私が飼い主初心者のせいなのかな……。
「あ、そういえば」
伝え忘れていたことを思い出した。
「今夜は一緒のベッドでもいいかな?」
健太郎くんは飲んでいたお茶を噴き出した。
少しむせて顔を歪めながら、こちらを見た。
「注文していた布団がなかなか届かなくて。今週中には届くみたいなんだけど、それまでの間だけ」
「……」
「シングルベッドだから狭いかも。ごめんね」
何かを考える素振りを見せ、健太郎は口を開いた。
「じゃあ、縛って」
「え? 何を?」
「腕。変なことしないって保証」
なるほど。
仮にも男女が一つのベッドに寝るわけだから心配しているのか。
「いいけど、朝が来たら解いてね。会社に行けなくなっちゃう」
「なんでそっち?!」
私の腕を縛る訳ではなかったらしい。
この感じだと、健太郎くんは絶対に手を出してこないと思うし、縛る必要なさそうだけどなぁ……。
何かされれば追い出すだけだし。
「普通に考えて、健太郎くんと私なら、うっかり手を出したくなるのは私の方でしょう」
「……なんで、そんな発想に?」
「ヴィジュアルが違いすぎる」
「そういうことじゃないと思うんだけど……」
どうも意見が噛み合っていない。
「私も出さないから安心してね」と言ったら納得がいってなさそうな顔。
うーん、さすがに初日で信用はされてないか。
「あとで生活のルール決めようよ」
「ルール?」
「されて嫌なことは、最初に決めとこうよ」
「なるほど」
まずは信用を得ることから、かな。
今のままではヒモ男を甘やかしたいのに、目的を達成できない。
とりあえず、一晩置いてルールを決めることにした。
明日の夜までに意見をまとめておくこと。健太郎くんが素直に頷いてくれたので、ちゃんと話し合いができそうなヒモ男で良かった。
「じゃあ、そろそろ寝よっか」
どこか緊張した面持ちの健太郎くんが棒立ちになっていた。
その腕を引っ張ってベッドの中に入る。
「うーん、やっぱり健太郎くんって大きいね」
ベッドが狭いので最適な位置を探した結果、健太郎くんの胸元の辺りに収まってみる。
「近すぎない?」と硬い声が聞こえる。電気を消したから表情はよく見えない。
「しょうがないよ。寝よ。おやすみ」
掃除で疲れていた肉体は、驚くほど寝つきがよく意識を手放した。人の気配があるって安心する……。
* * *
Side 健太郎
平山日奈子から連絡を貰った時は、珍しいなと思った。
大学時代の縁で連絡先は知っていたものの、それを使う機会など特になかった。
“先輩、友達のヒモになりません?”
そんな一文に興味をひかれてメールを読み進め、野崎春花という名前にスクロールしていた指が止まった。
……一度だけ、大学で会話を交わしたことがある。
「覚えられていなかったか」
ぽつりと静かな部屋で呟く。
すやすやと安心して眠っている春花を見て、小さく息を吐く。
平山からは「危なっかしい子なんで、先輩みたいな人に守ってほしいんですよね」と言われている。
悪い話ではないと判断し、こうして生活をともにすることにしたわけだが……この子は警戒心というものがないのだろうか。
平山の心配が嫌というほどに分かる。
これは放っておけない。
思わず苦笑いするけれど、嫌だとは思わなかった。
でも、俺だけが眠れない夜を過ごす羽目になるのは、面白くないかな。
動画サイトを見ながら一人で食べる食事は味気なかったので、健太郎くんと鍋を囲んでいるだけで楽しい気持ちになれる。
初めての食事が寄せ鍋で良いのかとは思ったけど、どうせなら誰かとシェア出来るものにしたかった。
具材は奮発したので、健太郎くんも喜んでくれた。
テレビは国民的アニメが流れていて、日曜日の夕方に家族を描いたアニメの2本立ては孤独感を高めてくれるものだったけど、今日からは違うもんね。
穏やかな気持ちで楽しめる。
「健太郎くんって嫌いな食べ物ある?」
「ウニ」
「それは滅多に食べさせてあげられないから、大丈夫そう」
普段食べそうなもので特に嫌いなものはないみたいだから、献立は困らずに済みそう。
ふむふむと頷いていると「たまには作るよ」と言われた。
「春花ちゃんはお仕事あるんだから、それくらいなら俺も協力したい」
なんていい人だろう。
話し合いの結果、明日の夕飯は健太郎くんが作ってくれることになった。
そうと決まれば……。
「はい」
「……何?」
一万円札を3枚手渡すと不思議そうな顔をされた。
首を傾げながら「明日の買い物代」と伝える。
「こんなにいらないけど……」
「健太郎くんのお小遣いも入ってるから。ごめんね、渡せるお金があんまりないから頻繁にはあげられないんだけど」
「……別にいらないけど」
「なんで? パチンコとか行かないの?」
健太郎くんは目を丸くしていた。
ヒモ男なのにギャンブルは興味がないんだろうか?
これは想定と違った。
さすがに偏見だったのかなと考え込んでいると、気が変わったのか「貰っておく」と言ってお金をしまった。
もしかして、最初だから遠慮したのかな? 別にしなくていいのに。
食器まで洗おうとしてくれるけど、最初だからか、はりきりすぎだ。
こっちはちゃんと飼うつもりなのに、どこか不安が見える。
私が飼い主初心者のせいなのかな……。
「あ、そういえば」
伝え忘れていたことを思い出した。
「今夜は一緒のベッドでもいいかな?」
健太郎くんは飲んでいたお茶を噴き出した。
少しむせて顔を歪めながら、こちらを見た。
「注文していた布団がなかなか届かなくて。今週中には届くみたいなんだけど、それまでの間だけ」
「……」
「シングルベッドだから狭いかも。ごめんね」
何かを考える素振りを見せ、健太郎は口を開いた。
「じゃあ、縛って」
「え? 何を?」
「腕。変なことしないって保証」
なるほど。
仮にも男女が一つのベッドに寝るわけだから心配しているのか。
「いいけど、朝が来たら解いてね。会社に行けなくなっちゃう」
「なんでそっち?!」
私の腕を縛る訳ではなかったらしい。
この感じだと、健太郎くんは絶対に手を出してこないと思うし、縛る必要なさそうだけどなぁ……。
何かされれば追い出すだけだし。
「普通に考えて、健太郎くんと私なら、うっかり手を出したくなるのは私の方でしょう」
「……なんで、そんな発想に?」
「ヴィジュアルが違いすぎる」
「そういうことじゃないと思うんだけど……」
どうも意見が噛み合っていない。
「私も出さないから安心してね」と言ったら納得がいってなさそうな顔。
うーん、さすがに初日で信用はされてないか。
「あとで生活のルール決めようよ」
「ルール?」
「されて嫌なことは、最初に決めとこうよ」
「なるほど」
まずは信用を得ることから、かな。
今のままではヒモ男を甘やかしたいのに、目的を達成できない。
とりあえず、一晩置いてルールを決めることにした。
明日の夜までに意見をまとめておくこと。健太郎くんが素直に頷いてくれたので、ちゃんと話し合いができそうなヒモ男で良かった。
「じゃあ、そろそろ寝よっか」
どこか緊張した面持ちの健太郎くんが棒立ちになっていた。
その腕を引っ張ってベッドの中に入る。
「うーん、やっぱり健太郎くんって大きいね」
ベッドが狭いので最適な位置を探した結果、健太郎くんの胸元の辺りに収まってみる。
「近すぎない?」と硬い声が聞こえる。電気を消したから表情はよく見えない。
「しょうがないよ。寝よ。おやすみ」
掃除で疲れていた肉体は、驚くほど寝つきがよく意識を手放した。人の気配があるって安心する……。
* * *
Side 健太郎
平山日奈子から連絡を貰った時は、珍しいなと思った。
大学時代の縁で連絡先は知っていたものの、それを使う機会など特になかった。
“先輩、友達のヒモになりません?”
そんな一文に興味をひかれてメールを読み進め、野崎春花という名前にスクロールしていた指が止まった。
……一度だけ、大学で会話を交わしたことがある。
「覚えられていなかったか」
ぽつりと静かな部屋で呟く。
すやすやと安心して眠っている春花を見て、小さく息を吐く。
平山からは「危なっかしい子なんで、先輩みたいな人に守ってほしいんですよね」と言われている。
悪い話ではないと判断し、こうして生活をともにすることにしたわけだが……この子は警戒心というものがないのだろうか。
平山の心配が嫌というほどに分かる。
これは放っておけない。
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