この罰ゲーム、ご褒美です

音央とお

文字の大きさ
2 / 10

しおりを挟む
山田涼子の朝は早い。
弟3人の朝食とお弁当を作り、洗濯を済ませる。
不在がちな両親に変わって家事をこなすのが日課だった。

ニ歌にかはまたティッシュ入れっぱなしにしてたでしょ~? 気付かなかったらアウトだったからね! 三矢みつやは昨日のタオルを部屋に置きっぱなしだったし、四緒しおはケチャップついてた!汚れ物は早く出して~」

まだ寝ぼけ眼の弟たちに注意をする。
図体だけは無駄にデカいのに、手がかかる。

「ほらほら! ちゃんと起きて。コーヒー飲む人いる?」

パンパンッと大きく手を叩く。
三人とも手を挙げたのでお湯を沸かすことにする。

ホットサンドをハムスターのように頬張っていた三矢が「なんかねーちゃん、機嫌がいいね?」と言い出した。
この一週間くらいパワフルなのだそう。

「いいことあった?」と聞かれ、私の頬は緩む。

「まあね~」

「……絶対に厄介なやつだよ。姉ちゃんが喜んでる時はトラブルがやってくる」一番下の四緒が冷静に分析してくる。


これまでのパターンは確かにそう。でも、今回は違うと思う。

「お姉ちゃん、今が一番幸せかも」

満面の笑みを作ると、弟たちは怪訝な顔をした。
聞き出そうとするのをはぐらかす。

初めての彼氏ができたこと、今はまだ弟たちには秘密。



*   *   *



学校に楽しみがあると、世界ってこんなに色づくのかと感動してしまう。
些細な出来事も空気さえも一変する。ちょっと嫌なことにすら、寛大な気持ちになれる。

それを連れてきてくれた、望月宝人たかとくんには感謝しかない。

生まれてきてくれてありがとう、告白してくれてありがとう!

足取りも軽く、表情もずっと緩んだまま、廊下を歩いていると、一際輝く背中を見つけた。
光に透けると茶色く見える髪が好きだ。

「宝人くん! おはよう!」
「……あ、おはよう……」

背後から声をかけたのが私だと気付いた宝人くんは、普段よりも声が小さくなった。
「こ、こいつ照れてるんだよ」と横にいたお友達がフォローする。
視線を逸らされるのとか、照れ隠しだと思ったら可愛すぎる。

「朝から会えるなんてラッキーだ」と素直な気持ちを零してしまう。
宝人くんはますます挙動不審になってるけど。

「……山田さんは今日も元気だね」
「それだけが取り柄なので!」

胸を叩く。
男兄弟たちの中で育った私は逞しかった。
女の子らしさが薄いのに、宝人くんは告白してくれた。

中性的な顔立ちで清潔感のある彼と並ぶのは腰が引けるけど、本人が私を選んだのだからノープロブレム!

高校生の平均身長くらいの背丈がまた良い。背が高めの私の首が痛くならない。
うちには窮屈に感じる弟が三人もいるから、この目線の高さが新鮮だった。

「じゃあ、私は急ぐから、またね!」

大好き!って言葉は、軽々しく口にしないつもり。
でも、宝人くんを見ていたら溢れちゃいそうになる。そこはグッと我慢して教室へと向かう。

ふわふわした気持ちで歩いでいたら、横から伸びてきた手に首根っこを掴まれた。

「ぐぇっ!?」

「今の男、誰?」と不機嫌そうな声。
腕の正体を辿ると、眉間にしわを寄せた二歌の顔があった。

姉に話しかけるにしては乱暴すぎない!?

「……見られちゃった?」
「見た。で、誰?」

190cm近い弟に凄まれる。私にとっては全く怖くないんだけどね。

もじもじしちゃうけど、「彼氏の宝人くんです」と告白する。
それを聞いた二歌は、口を半開きにして固まった。

「……彼氏? 姉さんの?」
「そう、彼氏!」

疑いの目を向けてくるので、親指を立てて見せる。
二歌が「バカな……」と呟いたのを聞き逃さなかった。

「姉さんにあんな美形の彼氏ができると? 」
「びっくりだよねー」
「騙されてるんじゃないか!?」
「えー、宝人くんだよ? ないない!」

照れすら隠せない彼が、私を騙すわけなんてない。
気持ちを疑うなんて失礼だよ。

「じゃあ、紹介してよ。直接見極める」
「そのうちね」

もっと仲良くなったら、家に呼んでみよう。
そんなことを呑気に考えていた私は、二歌の不安が当たるとは全く思っていなかった。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

蛇の噛み痕

ラティ
恋愛
ホストへ行かないかと、誘われた佳代は、しぶしぶながらもついていくことに。そこであった黒金ショウは、美形な男性だった。 会ううちに、どんどん仲良くなっていく。けれど、なんだか、黒金ショウの様子がおかしい……? ホスト×女子大学生の、お話。 他サイトにも掲載中。

本命は君♡

ラティ
恋愛
主人公の琴葉。幼なじみの駿太がサークルに入っていることを知り、自分も入ることにする。そこで出会ったチャラい先輩の雅空先輩と関わるうちに、なんだか執着されて……

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

処理中です...