この罰ゲーム、ご褒美です

音央とお

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山田涼子の朝は早い。
弟3人の朝食とお弁当を作り、洗濯を済ませる。
不在がちな両親に変わって家事をこなすのが日課だった。

ニ歌にかはまたティッシュ入れっぱなしにしてたでしょ~? 気付かなかったらアウトだったからね! 三矢みつやは昨日のタオルを部屋に置きっぱなしだったし、四緒しおはケチャップついてた!汚れ物は早く出して~」

まだ寝ぼけ眼の弟たちに注意をする。
図体だけは無駄にデカいのに、手がかかる。

「ほらほら! ちゃんと起きて。コーヒー飲む人いる?」

パンパンッと大きく手を叩く。
三人とも手を挙げたのでお湯を沸かすことにする。

ホットサンドをハムスターのように頬張っていた三矢が「なんかねーちゃん、機嫌がいいね?」と言い出した。
この一週間くらいパワフルなのだそう。

「いいことあった?」と聞かれ、私の頬は緩む。

「まあね~」

「……絶対に厄介なやつだよ。姉ちゃんが喜んでる時はトラブルがやってくる」一番下の四緒が冷静に分析してくる。


これまでのパターンは確かにそう。でも、今回は違うと思う。

「お姉ちゃん、今が一番幸せかも」

満面の笑みを作ると、弟たちは怪訝な顔をした。
聞き出そうとするのをはぐらかす。

初めての彼氏ができたこと、今はまだ弟たちには秘密。



*   *   *



学校に楽しみがあると、世界ってこんなに色づくのかと感動してしまう。
些細な出来事も空気さえも一変する。ちょっと嫌なことにすら、寛大な気持ちになれる。

それを連れてきてくれた、望月宝人たかとくんには感謝しかない。

生まれてきてくれてありがとう、告白してくれてありがとう!

足取りも軽く、表情もずっと緩んだまま、廊下を歩いていると、一際輝く背中を見つけた。
光に透けると茶色く見える髪が好きだ。

「宝人くん! おはよう!」
「……あ、おはよう……」

背後から声をかけたのが私だと気付いた宝人くんは、普段よりも声が小さくなった。
「こ、こいつ照れてるんだよ」と横にいたお友達がフォローする。
視線を逸らされるのとか、照れ隠しだと思ったら可愛すぎる。

「朝から会えるなんてラッキーだ」と素直な気持ちを零してしまう。
宝人くんはますます挙動不審になってるけど。

「……山田さんは今日も元気だね」
「それだけが取り柄なので!」

胸を叩く。
男兄弟たちの中で育った私は逞しかった。
女の子らしさが薄いのに、宝人くんは告白してくれた。

中性的な顔立ちで清潔感のある彼と並ぶのは腰が引けるけど、本人が私を選んだのだからノープロブレム!

高校生の平均身長くらいの背丈がまた良い。背が高めの私の首が痛くならない。
うちには窮屈に感じる弟が三人もいるから、この目線の高さが新鮮だった。

「じゃあ、私は急ぐから、またね!」

大好き!って言葉は、軽々しく口にしないつもり。
でも、宝人くんを見ていたら溢れちゃいそうになる。そこはグッと我慢して教室へと向かう。

ふわふわした気持ちで歩いでいたら、横から伸びてきた手に首根っこを掴まれた。

「ぐぇっ!?」

「今の男、誰?」と不機嫌そうな声。
腕の正体を辿ると、眉間にしわを寄せた二歌の顔があった。

姉に話しかけるにしては乱暴すぎない!?

「……見られちゃった?」
「見た。で、誰?」

190cm近い弟に凄まれる。私にとっては全く怖くないんだけどね。

もじもじしちゃうけど、「彼氏の宝人くんです」と告白する。
それを聞いた二歌は、口を半開きにして固まった。

「……彼氏? 姉さんの?」
「そう、彼氏!」

疑いの目を向けてくるので、親指を立てて見せる。
二歌が「バカな……」と呟いたのを聞き逃さなかった。

「姉さんにあんな美形の彼氏ができると? 」
「びっくりだよねー」
「騙されてるんじゃないか!?」
「えー、宝人くんだよ? ないない!」

照れすら隠せない彼が、私を騙すわけなんてない。
気持ちを疑うなんて失礼だよ。

「じゃあ、紹介してよ。直接見極める」
「そのうちね」

もっと仲良くなったら、家に呼んでみよう。
そんなことを呑気に考えていた私は、二歌の不安が当たるとは全く思っていなかった。






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