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それを聞いてしまったのは、交際が三週間目に入った頃。
まだちゃんとデートとかはしたことがないけど、一緒に下校するだけで楽しかった。宝人くんは受け身みたいだから、私のほうから行動することが多い。
ふいに顔が見たくなって、昼休みを使って会いに行くことにした。彼女が会いに行くなんて何もおかしくない。
教室は3つ隣なので、あっという間にたどり着く。
こっそりと覗いてみると、宝人くんの周りに男子が数人いて、これでは声が掛けづらい。
気心知れたメンバーなのか和気あいあいとした雰囲気だった。せめて姿だけでも目に焼き付けていこうかな。
笑顔の宝人くんをにやにやと見つめていると、「もう付き合ってどれくらい経った?」と言い出す人間が現れた。
あれは私と同じクラスの阿部くんではないか!
なんだか最近、阿部くんから視線を感じることがあるんだよね。私がニヤけている時なんか特に。
「……えっと……」
宝人くんは歯切れが悪かった。
表情も明るいものとは言えず、その違和感に私の胸がざわついた。あれは、照れているとかでは絶対にない。
「三週間くらいかな……」
「もうそんなに経つの?」
なぜか周りの男子たちは笑っている。
あれは笑いでも、嘲笑うやつ。
無意識に唾を飲み込んでしまう。
「山田さんも可哀想だね」と、私の名前を誰かが口にした。可哀想……?
「宝人は罰ゲームで告白しただけなのに」
……は?
視界がぐらぐらする。
罰ゲームって言った? なにそれ……。
「あんなに好意を見せられたら、溜まったもんじゃないよなー」
宝人くんは唇を噛んでいる。
その様子を阿部くんが心配そうに眺めているけど、他のメンバーはゲラゲラと笑って楽しそう。
「……もうやめにしたい」と宝人くんは声を絞り出す。
それには、場の空気が張り詰めた。
「は?」
「まだ期限来てないだろう」
「クリスマスに振れって言ったじゃん」
私たちの交際は期限付きだったようだ。
クリスマスといえば、まだ1ヶ月以上もある。
阿部くんが口を挟む。
「俺が今日の日直の人で、なんて山田さんを適当に選んだけど……。俺もこれ以上続けるのはどうかと思う」だって。
あの視線はそういうことだったんだ。
宝人くんが苦しそうに喋る。
「あの日、山田さんが振ってくれたら良かったのに……。こんなのどう罪滅ぼしすればいいか分からない」
罪悪感は感じてるんだ……。
自分の動悸が速くなるのが分かる。
「今日にでも、別れようと思う」
宝人くんは、はっきりと宣言した。
なにそれ。
そんなの許さない。
ドキンドキンという音を聞きながら、私の表情は崩れていく。
……硝子に映り込んだその顔は、目尻を下げていた。
そう、私は今、高揚している。
ブツブツと呟きが漏れてくるのを抑えられない。
誰も廊下にいないのが救いだった。
「ふふふ、絶対に別れないよ。だって……」
グッと拳を握る。
「合法で、こんな辱めにあえるだなんて……!みんなやってることが、ゲスくてたまらん!」
高笑いしたいのに我慢するのが辛い!
そう、私は精神的にドMだったのである。
まだ話は続いているようだけど、ここにはもう用はない。
見つからないように慎重に教室へと戻る。
宝人くんって、本当に私の世界の色を変えてくれる!
控えめに言っても最高すぎる!
にやにやが止まらない私の姿は、周囲にはいつもと変わらない恋に浮かれた山田涼子に見えていたことだろう。
まだちゃんとデートとかはしたことがないけど、一緒に下校するだけで楽しかった。宝人くんは受け身みたいだから、私のほうから行動することが多い。
ふいに顔が見たくなって、昼休みを使って会いに行くことにした。彼女が会いに行くなんて何もおかしくない。
教室は3つ隣なので、あっという間にたどり着く。
こっそりと覗いてみると、宝人くんの周りに男子が数人いて、これでは声が掛けづらい。
気心知れたメンバーなのか和気あいあいとした雰囲気だった。せめて姿だけでも目に焼き付けていこうかな。
笑顔の宝人くんをにやにやと見つめていると、「もう付き合ってどれくらい経った?」と言い出す人間が現れた。
あれは私と同じクラスの阿部くんではないか!
なんだか最近、阿部くんから視線を感じることがあるんだよね。私がニヤけている時なんか特に。
「……えっと……」
宝人くんは歯切れが悪かった。
表情も明るいものとは言えず、その違和感に私の胸がざわついた。あれは、照れているとかでは絶対にない。
「三週間くらいかな……」
「もうそんなに経つの?」
なぜか周りの男子たちは笑っている。
あれは笑いでも、嘲笑うやつ。
無意識に唾を飲み込んでしまう。
「山田さんも可哀想だね」と、私の名前を誰かが口にした。可哀想……?
「宝人は罰ゲームで告白しただけなのに」
……は?
視界がぐらぐらする。
罰ゲームって言った? なにそれ……。
「あんなに好意を見せられたら、溜まったもんじゃないよなー」
宝人くんは唇を噛んでいる。
その様子を阿部くんが心配そうに眺めているけど、他のメンバーはゲラゲラと笑って楽しそう。
「……もうやめにしたい」と宝人くんは声を絞り出す。
それには、場の空気が張り詰めた。
「は?」
「まだ期限来てないだろう」
「クリスマスに振れって言ったじゃん」
私たちの交際は期限付きだったようだ。
クリスマスといえば、まだ1ヶ月以上もある。
阿部くんが口を挟む。
「俺が今日の日直の人で、なんて山田さんを適当に選んだけど……。俺もこれ以上続けるのはどうかと思う」だって。
あの視線はそういうことだったんだ。
宝人くんが苦しそうに喋る。
「あの日、山田さんが振ってくれたら良かったのに……。こんなのどう罪滅ぼしすればいいか分からない」
罪悪感は感じてるんだ……。
自分の動悸が速くなるのが分かる。
「今日にでも、別れようと思う」
宝人くんは、はっきりと宣言した。
なにそれ。
そんなの許さない。
ドキンドキンという音を聞きながら、私の表情は崩れていく。
……硝子に映り込んだその顔は、目尻を下げていた。
そう、私は今、高揚している。
ブツブツと呟きが漏れてくるのを抑えられない。
誰も廊下にいないのが救いだった。
「ふふふ、絶対に別れないよ。だって……」
グッと拳を握る。
「合法で、こんな辱めにあえるだなんて……!みんなやってることが、ゲスくてたまらん!」
高笑いしたいのに我慢するのが辛い!
そう、私は精神的にドMだったのである。
まだ話は続いているようだけど、ここにはもう用はない。
見つからないように慎重に教室へと戻る。
宝人くんって、本当に私の世界の色を変えてくれる!
控えめに言っても最高すぎる!
にやにやが止まらない私の姿は、周囲にはいつもと変わらない恋に浮かれた山田涼子に見えていたことだろう。
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