「兎の檻」は誰が壊したか

音央とお

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第五章

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何を与えられても味気なく感じるけど、宙の優しさ・・・を無駄にすることが怖くて、完食を繰り返した。
正直、カップラーメンの生活に戻ったとしてもいいとすら思える。
そのほうが宙を煩わせることすらないのに。

「たまには飯を食いに行くか」
「……なんで」

そんなことを言い出さなくていいのに、どんな気まぐれか外食に行くと言い出した。宙の目が意味深に細められるけど、感情が見えなくて焦る。

「ここがいい」
「今日は好きなもん食わせてやってもいいけど?」
「……いい。ここにいたい」
「あっそ。モカはここが好きなんだなァ」

言い方がいやらしかった。
喉を鳴らした宙は「行くぞ」と冷たく言い放った。

……私の意見なんて無視だ。
まるで見えない首輪を引っ張られているように後ろをついて歩く。

「何食うかなー」

繁華街をゆっくりと宙は見て回った。
ネオン看板が誘惑するように光っている。

「選んでいいんだぞ」と選択肢を渡してくるけれど、首を横に振る。
どうせ何を食べたって一緒……。

近くにあったラーメン屋に宙は入った。店内は和気あいあいとして、豚骨の匂いが立ち込めていた。
見た目からして食欲をそそるものであったけど、やっぱり味はしなかった。
宙は満足げだったから「ありがとう、ごちそうさま」とだけ伝えた。



*   *   *



味覚の異変の次は、胃の不調を感じるようになった。
宙がいる前では無理やりにでも食べるけど、見ていないところで吐いた。
最近は夢の内容を覚えていなくて、たぶん悪い内容だというのは疲労感から伝わってくる。

痛みを感じるからホットミルクでも作ろうと立ち上がった時だった。
くらりと立ちくらみがしてうずくまる。

「……どうした?」

モニターを見ていた宙が異常に気付いて声をかけてくるけど、それが遠く感じた。
ぐらぐらと視界が揺れ、名前を呼ばれている気がするけど返事は出来なかった。




――眩しい。
目を開けると、見慣れない天井があった。
顔を横に動かせば、手には点滴の管が繋がれていた。

「……ここは……」

呟いた声はかすれていた。
状況から見て、病院だとは思うけど。なんで……?

個室と思われる場所で、誰もいない。
困り果ててナースコールを押してみた。

『どうされましたか?』

優しそうな女の人の声。

「……えっと、……あの」

なぜここにいるのかすら理解できていないのに、説明ができない。

『目を覚ましたんですね。すぐに行くので待っていてください』
「……はい」

良かった、来てくれるみたい。
これで何が起きたのか分かるかも。胸をなで下ろし、ベッドの上で周囲を確認した。

スマホや時計といったものはない。
病室の備え付けであるテレビや冷蔵庫、棚とパイプ椅子があるだけ。カーテンも壁も白くて、何だかちょっと冷たい印象かも。

まさかこんな形で、空の部屋から出ることになるとは思わなかった。
自ら出たわけではないけど、迷惑をかけて宙を怒らせてないかな……。

落ち着かなくて耳たぶに触れ、その違和感に気付いた。

「……ない?」

環にもらったピアスが付いていない。
ベッドの周りにも見当たらない。

なんで!?
あれはお守りなのに!

やだ、やだ、怖い!!



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