9 / 16
8
しおりを挟む「ちょっと近すぎるよ。彼氏の前で、他の男とお喋りは楽しい?」
「……えっ」
いつの間にかカウンター前まで移動していた東雲くんは、私を紫村先輩から引き剥がすように引き離した。
「先輩も気をつけてください。この子は、僕の静なので」
……ええ、またスイッチ入っちゃったの?!
「東雲ってそんなに嫉妬深いのか」
「そうですよ」
紫村先輩は煽るようなことを言うし、さらっと東雲くんは肯定した。
今回はそういうキャラなの?
「特に先輩はモテるんですから、周りから誤解されかねない距離で静と話すのはやめてください」
明らかな敵意が見えて、こんなの東雲くんじゃない。
訂正しておかないと誤解されてしまう。
紫村先輩のことを見ながら、口を開くタイミングを見計らっていた。
「何見てるの」
気づいた時には体が揺れて何かに捕まっていた。
見れば、がっちりとホールドしている腕。
「んん?!」
「僕のこと無視しないで」
「してませんけど?!」
あなたのために行動しようとしてましたけど?!
しかめっ面の東雲くんは、カウンターを挟んで私に抱きついていた。これは何ですか?
「静は、僕のファンだよね?」
「はい」
「よそ見しちゃ駄目って分からないの?」
……ははーん。わかったぞ、これはヤンデレだ!
ちゃんと怖くできてるよ、東雲くん。
遠巻きに伊藤さんがドン引きしているのが見えたもん。
でも、さすがにやりすぎだと思う。
「東雲くん、ごめんね!」
「ん?」
……ドスッ
脇腹を目掛けて、肘を引いた。
見事に決まったそれに東雲くんは沈んだ。
「え? なにしてるの?」と紫村先輩が目を丸くしている。
……すみません、東雲先生の職業病なんです。
「ちょっと東雲くんと話をしてくるので、席を外しますね」
首根っこを掴んで廊下へと引きずっていく。
おとなしく連行される東雲くんは、また我に返って恥ずかしくなっているんじゃないだろうか。
ギャップでダメージ食らうのは本人なのになぁと思いながら、振り返った。
「さっきのは驚いたよ。あんなに役に入り込むなんて毎回すご……」
途中で言葉を失った。
東雲くんが泣きそうな目をして、微笑んでいたから。
「……ごめん、吉田さん」
「どうしたの?」
「……まずいな」
震える手で、胸元を押さえている。
そこが痛くて仕方がないみたいに。
「さっきの、本音が混じっていたかも」
「え?」
「……僕、心から嫉妬したみたいだ」
罪を告白するかのように、東雲くんの声は静かだった。
心臓の辺りがざわざわする。
鏡合わせのように私も胸を押さえていた。
「嫉妬って、まるで恋してるみたいに……。ふり、だよね?」
「……」
返事をしてよ!
……しかし、否定も肯定もしない彼はうつむいた。
それが答えだと言いたげで、私は何も言えなくなった。
「……仕事があるから、とりあえず戻るね」
逃げるように図書室に戻る。
東雲くんは一瞬引き留めようとしたけど、言葉を呑んだようだ。
こうして、私たちは大事な時に言葉を失ってしまったんだ。
0
あなたにおすすめの小説
ホストな彼と別れようとしたお話
下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。
あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。
御都合主義のハッピーエンドのSSです。
小説家になろう様でも投稿しています。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された皇后を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎
倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。
栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。
「責任、取って?」
噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。
手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。
けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。
看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。
それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる