「サヨナラ、マタネ。」

音央とお

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サヨナラ、

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喫茶店を出ると、目的地がある訳でもないのに歩き続けた。腕を絡めている千織も口を開かない。
闇雲に歩いているのが、今の真雪に関する情報と同じみたいに思えた。

「じゃあ、ここでバイバイ」

暫くして、駅の方に向かったことで、そろそろ帰るという千織と別れる。
背を向けたはずの彼女が振り返る。

「ねえ、リュウ」
「ん?」

爪の小さな手が、俺の指先に触れた。

「家まで送ってくれていいんだよ?」

甘えた顔。まだ一緒にいたいと言いたいのが。

「俺は忙しいんだよ。帰れ」

「ひどい! でも、好き!」

千織は笑いながら手を振り、駆けて行った。
その背中が視界から消えるまで見送った。

「……」

一人になると気が重くなった。
……嫌なもんだね。相談役なんかじゃなくて、千織をなぜ呼んだのか突きつけられたような気分だ。

「はあ、帰って寝るか」

頭を使い過ぎている。
パフェの余韻で口の中が甘ったるい。今日の飯はなんだろうなと平和なことを考え始めた時だった。

マナーモードにしてあったスマホが、ポケットの中で揺れた。

「誰だ?」

振動し続ける黒い板には、公衆電話と表示されている。
普段ならば無視を決め込むが、このタイミングとなれば予感がした。

そっと通話ボタンを押す。

「……はい」

思っていたより低い声が出てしまう。
慎重になろうとしていることが表れている。

『……』

無言か?

『……二人で考えた、呪文を覚えているか?』

随分と突拍子もないことを聞いてくる。

「サヨナラマタネ」

小学生の頃にやったゲームの、セーブのための言葉だった。意外とすんなり出てくるもんだな。

「どこにいるんだよ、お前」

『……』

……雨の音?
ざざぶりの雨の音を電話が拾っている。
しかし、俺の目の前に広がる空は雲一つない。

「元気か?」

『うん』

「ならいい」

母ちゃんたち心配してるぞ、学校で噂になってるぞ、そんなことは言わなくてもよく分かっているだろう。
言いたいことを飲み込むために、一旦息を軽く吐いた。

「で、どうした?」

『龍平の声が聞きたくなった』

「恋人でもないのに?」

『……気持ち悪いこと言うなよ』

本気で嫌がっているのが伝わってきて、喉を鳴らした。

「白田聖美と一緒なのか」

『ああ。そこまで知っているんだな』

「まあな。水臭いな、彼女がいるなんて聞いていない」

『興味もないくせに、よく言う』

それはそう。
今回のことがなければ、聞かされても「へえ」で終わった話だ。

これだけは聞いておきたい。

「なんで消えた?」

本人だけが知る答え。それを教えろと訴える。

『……僕しかいなかった』

静かな声だった。とても落ち着いた、熱など感じない声。

『聖美は、僕じゃなくたって良かったと思う。でも、今すぐに連れ出せるのは、僕しかいなかった。それだけだ』

頑固者め。

「お前の考えてることが分かんねーわ」と素直に口にした。

『それでいい。それでも、龍平は否定しないから』

「……」

『そろそろ小銭が切れる』

本当に声が聞きたかっただけかよ。
ちょっと疲労が見えた気がした。

「待て」

『……なに?』

「復活の呪文は?」

真雪は一瞬の沈黙のあと、『サヨナラマタネ』と呟いた。
ブツッと切断が音になり、そこで雨の音も途切れた。

喉の奥に苦いものを感じて、駅のほうを振り返る。

「……アイツ、もう電車に乗ったよな」

千織の顔が浮かんだ。アイツがいれば、もっと軽い気持ちになれたかもしれないのに。
そんな都合のいい話はないので、黙って家路に着く。

また母さんがタッパーを渡してくるかもしれない。
それを真雪の家に届ける。そこで俺は何も言わないだろう。

……真雪に何かを託されたわけでもないのだから。




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