「サヨナラ、マタネ。」

音央とお

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確信

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頬杖をついた千織が唇を尖らせている。
そして、不満をぶち撒けた。

「休日デートに誘ってくれたかと思ったのに、なんで探偵みたいなことしてるの?!」

「デートなわけないだろうが」

「ひどい! ちおりは20%くらい期待していたんだよ!」

その微妙な数字は何だよ。

千織の不満はさておき、意外と有能であることを見込んで、休日の喫茶店に呼び出した。
報酬は目の前の巨大なパフェだ。
この店の名物であるという重さ3kg超えのモンスターを二人で食べたいそうだ……。

柄の長いスプーンでアイスの山を開拓しながら、話を始める。

「まずは基本情報。白田聖美の経歴をネットで調べた。ちゃんとまとめページまであるんだな」

「西村くんが言ってたけど、知る人は知る、演技派の子役で、引退を惜しむ声も少なくなかったんだって」

「ほとんどが端役だけど、出演本数は多いようだな」

無名とは言い切れない存在。
もし消えたことが世間に公表されたら、白田を見つけ出す人間もいるかもしれない。何よりも噂の格好の餌食になるだろう、男とだなんて。

一緒に消えるにはハイリスクであることは、真雪にだって分かっていたことのはずだ。
舌の上のアイスがひんやりと溶ける。

「さらに調べたら、裏掲示板みたいなところに飛んだ。中学時代の白田の知り合いと思う人物を見つけたんだ」

「え? 何が書かれていたの?」

「内容としては、仕事関係者の親。つまり同じ子役の母親を名乗る人物が、白田の親が金銭を巡って所属していた事務所と揉めて、引退することになったと書かれていた」

「学業優先じゃないってこと?」

千織が眉間に皺を寄せ、怪訝な顔をしている。

「白田本人がこれ以上は続けたくないと言い出したらしい」

好き勝手書かれたその情報によると、白田の父親には多額の借金があり、自分も金を貸してくれと頼まれたことがあるそうだ。他にも何人かの知り合いに声をかけていたと。

白田の父親に対する悪い噂もいろいろと書き込まれていて、芸能界の暴露本を出すとも言っていたそうだ。

……なんだそれ。馬鹿馬鹿しい。

「あくまで噂だが、白田の家庭環境は上手くいっていなかったようだな」

「……それが、真雪くんといなくなった原因だったりするの?」

「さあ? でも、学校で様子から察しても、白田が頼れる人間はいなかったと思う。何か嫌なことがあっても」

「……」千織が黙り込む。学校での浮いた様子を俺に話してきたのはコイツだ。
普段の様子から思い当たることがあるようだ。

「……一度だけ」と俺は呟く。
真雪のことを考えていて思い出したことがある。

「遠目にだけど、雨の日に真雪が誰かと傘に入っているのを見たことがある。あれが白田だったかは分からない。……でも、真雪は優しい顔をしていた」

初めて見る表情だった。
こっちが気恥ずかしくなるような。

「それは好きな子を見てる顔なんじゃないかな」と千織が柔らかい表情で笑った。

「リュウがちおりを見る時と同じ顔だよ!」

「適当なことを言うな」

「適当じゃないもん」と頬を膨らませてむくれている。
俺なんかの何がいいのかね?と笑ってしまう。

「真雪は優しい奴だから、あれが恋をした顔なら、頼られたら相手を放っておけないと思う」

スプーンがコーンフレークに引っかかった。
それまでと違う感触だった。

「全てを投げ出してまで、そうする必要があったとは理解できないけど」

「それは、ちおりたちが二人の事情を知らないからじゃない?」

「ちゃんと知ったところで、理解できるとも限らないけどな」

俺は真雪の母ちゃんたちの様子を見ている。
心配をかけてまで、逃げる必要はあったのか?

これは甘い恋の話なんかじゃない。真雪のこれまでと、その先を賭けた話なんじゃないか?
そう考えると胃が重たくなってきた。

やっぱり推測の域を出ない話には限界がある。
相変わらず真雪のスマホは電源が切られていた。置いてはいかなかったようだが、家庭や友人を全て遮断している。

「真雪ってさ、喧嘩するとスゲー頑固なんだよ。こっちが空気の悪さに折れそうになってもアイツは絶対に折れない」

一度決めたことは、そうそう曲げない人間だ。
覚悟を持ってしまったらどうなる?

「……アイツ、二度と戻ってこない気かもな」

ぽつりと呟くが、確信めいている気がした。

近くの席で子どもたちが笑い声を上げている。
ここの席だけ、切り取られたかのように空気が重くなった。



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