シンデレラになりたい私 × 王子様になりたくないあなた

音央とお

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カラオケを出て、一番近くのコンビニ。
お店の前で、買い物袋を持った凪くんが私に気付いた。

「莉央ちゃん」

小さく手を振るその姿に駆け寄って行く。
近付くほど存在感のキラキラの濃度が高くて、目を細めたくなる。

「ごめん、お待たせ」
「なんで謝るの。呼び出したのは俺だから」


【良かったら、抜け出さない? 一緒に帰りたい】


あの一文を思い出して、微笑む。

「……一緒に帰りたいって送ったけど、寄り道して大丈夫?」
「うん? 大丈夫だよ」
「とっておきの場所があるんだ」

得意げな顔がかわいい。
はい、心臓に一撃食らいました。

ゆっくりとした足取りで向かったのは、高台にある公園だった。穴場スポットなのか先客はいなかった。
まるで凪くんの秘密基地に足を踏み入れたような気分だった。

「わあ! 夕日が綺麗だね」

街を広々と見下ろせるから、夕日が欠けることなく丸く浮かんでいる。

「こんな素敵な場所知らなかったよ。連れてきてくれて、ありがとう!」
「よろこんでもらえて良かった。時々ここに来るんだ。素敵な場所だから莉央ちゃんと来たかった」
「へへ、嬉しいな」

ここが凪くんの特別な場所かぁ。
これはただの夕日じゃないね。とっておきの宝物を見せてくれたみたい。

「あっちにベンチがあるんだ。行こう」

東屋の中に並んで座る。広さは十分に余裕があるのに、肩が触れそうなくらい近くに座ったもんだから意識してしまう。

「お腹空いてない?」
「ちょっと空いたかな」
「はい。とろとろのプリンが好きだって言ってたよね?」

コンビニの買い物袋の中身はこれだったんだ。えっ、うれしい。

「ありがとう。覚えていてくれたなんて」
「忘れないよ、莉央ちゃんが話してくれたことだから」

微笑みが眩しすぎる。
スプーンをプリンに入れ、そっと口に運ぶ。

「う~ん! おいしい~!」
「ふふ。俺も食べてみるね」

「莉央ちゃんが好きなものを一緒に食べてみたかったんだ」なんて言って、思い出を共有してくれる。
私がうれしいことをスマートに差し出してくれる。なんて王子様なんだろう。

のんびり味わっても、量には限りがあるわけで。あんなに美味しかったのに最後の一口も食べ終えてしまった。
まだ食べたくなる罪の味だった。

「莉央ちゃん」
「ん?」
「はい」

目の前にはプリンの乗ったスプーン。

「え?」
「一口しかないけど、良かったら食べて。そんなに悲しそうにしないで」
「……」

食い意地が張ってるみたいで恥ずかしい。
目を泳がせていたら「ほら」と差し出される。
誘惑に負けてパクリとかぶりついた。おいしい~!

「ふふ、間接キスだ」
「!?」

無意識だった! そうだよ、凪くんが食べていたプリンなんだからそうなるよ!
顔から火が出るんじゃないかってくらい熱い。この熱は全身にじわじわと広がりそう。

「嫌だった?」
「いや……じゃない」

にこにこされると、私だけが翻弄されている気分を
だって、間接キスだよ? ……少女漫画じゃん。
唇に指を当てていると、凪くんの視線を感じた。

「どうしたの?」
「なんでもないよ」

なぜか色気を感じてドキドキする。
私の心臓は大丈夫かな……。

「ゴミちょうだい」
「……っ!」

凪くんが身じろぎしたら、トンッと肩が振れて、飛び上がるかと思った。近い、近すぎるよ~!

「そんなに怯えなくて大丈夫だよ。はい、ちょっと離れるね」

余裕そうに動いて位置をズラしてくれる。
出来たスペースに、思わず「あ……」と声を漏らしてしまう。名残惜しい気持ちがバレバレのやつだ。

「どうしたの?」

首を傾げて微笑まれるけど、絶対にバレてる。
目を逸らし、「なんでもないです」と消え入りそうな声しか出せなかった。

「やっぱり、こうしてゆっくり過ごせるのが好きだな」

凪くんの目線の先、夕日はもうほとんど姿を消している。
空は夜の気配が強くなっている。
タイムリミットが近付いたシンデレラはこんな気持ちだったのかな。

「まだ帰りたくないな」
「同感。でも、今日は帰ろうか」

あっさりと終わりを受け入れている凪くんに寂しくなる。私だけなのかな。ベンチから立ち上がることが出来ない。
動けずにいる私の目線の高さに凪くんが屈んだ。

「莉央ちゃん、帰ろう? また来ようね」
「……うん」

やさしい、いつもの凪くん。帰るのが遅くなるのを心配してくれる。
でも、今日の私は欲張りになってるみたい。


こんなの、家に帰っても凪くんのことが頭から離れないよ。
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