Freaks! “つゆ払い役”の天才魔導士が役目を終えて退場、なんて許さない!

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第一章 出会い

ep.4 彼の事情

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 「ヴィー! レイ! 飯行こうぜ!」

声がしたと思ったら、背後から寮の仲間のアトラが飛びついてきた。
彼も同じ高等部の一年生で、ずうずうしいくらいに人懐っこい。そのおかげで三人はすぐ打ち解けたのだが――レイはさりげなくアトラの腕を外す。

「こういうの、やめてって言ったじゃん」
「悪いって! でも聞けよ、今晩はステーキが出るらしいぜ!」
「……え、ほんと?」

レイが反応すると、アトラはにやっと笑った。  
レイはその顔に気づいて頬を赤くする。

村では見たこともなかったような豪華な食事も、寮での共同生活も、次から次に来る授業や演習も、まだ慣れないことばかりだった。

 「そういえば、もうすぐあれがあるだろ」

食堂の喧騒の中、肉を頬張りながらアトラが言う。

「あれ?」
「月例演習だよ!」

高等部では月に一度、寮ごとに集まって実戦に近い訓練を行うことが決まっていた。
アトラは初めての月例演習を前に、目を輝かせていた。

「俺、高等部でこれが楽しみだったんだ」

その横で、ヴィーが表情を曇らせていた。

「ヴィー、大丈夫?」

レイがそっと声をかけると、ヴィーは笑ってうなずいた。けれど、その笑みはほんの少し引きつっていた。
先日のことを気にしているのかもしれない。

「心配いらないよ。ただ……ちょっと、緊張してるだけ」
「おいおい、任せとけって!」  

アトラが胸を叩く。

「何かあったら俺が守るからさ!」

その言葉に、ヴィーは小さく微笑んだ。  
安心したのか、それとも──レイには判別がつかなかった。

◇◆◇

 「全員、来ているな」

寮の談話室には七人の生徒が揃っていた。場を仕切るのは、三年生のノルデンだ。
本来、寮は各学年二人ずつ、六人が基本だ。けれど、この寮には七人の生徒が暮らしている。

「お前がいるなんて珍しいじゃん」

茶化すように言ったのは、二年生のジャックだった。
というのも、ギルバートは授業外の“任務”で留守にすることが多く、寮の集まりに顔を出す方が珍しいからだ。

ジャックの言葉に、ギルバートは苦笑する。
その目を伏せたかすかな笑みでさえ、レイには絵になって見えた。

「なんだよ。スカしてていけ好かねえな」
「ちょっと」

レイはアトラを肘で小突く。

「だってあいつ、不良だって」
「不良?」

レイは思わず聞き返す。
成績優秀で、教師にも頼られるギルバートが、不良なわけがない。

「そこ。何してるの? ノルデンの説明、ちゃんと聞いてた?」

三年生のシャーロットの視線が、レイとアトラに突き刺さった。
怒られている二人を見て、ジャックが楽しそうに笑う。

「ジャック、笑わないで。こういうのは二年生が――」
「俺から説明します」

シャーロットが言い終わる前に口を開いたのはギルバートだった。視線が集まっても、彼はいつもの調子で静かに話し始めた。

彼の説明によると、今回の演習内容は、学園の管理区域での模擬魔獣討伐任務ということだった。魔獣は殺さずに制圧すること、という条件付きだ。

「ていうか今回の演習、お前がいるなら楽勝じゃん」

ジャックがギルバートに囁く声が聞こえた。

◇◆◇

 演習は、ジャックの言っていた通り楽勝――とはならなかった。

「こんなの、一年生もいる演習に出してきていい魔獣じゃない!」

シャーロットが叫ぶ。
視界の先で、巨体の魔獣が低く唸った。岩のように硬い外殻に覆われた四足獣だ。
魔獣が足を踏み鳴らすたび、地面が鈍く震える。

「怒ってるんじゃない。怖いんだ。……このままにしておけないよ」
「ヴィー!」

レイは思わず彼の腕を掴んだ。
――また、あの時みたいになる。不安が胸をよぎった。

「お願い。僕にやらせて」

小さな声だったが、その目に迷いはなかった。
レイは一瞬戸惑った。

今は、先輩たちがいる。何より――ギルバートがいる。

そう自分に言い聞かせ、レイはゆっくりとうなずいた。

 ヴィーが魔獣の前に進み出る。
前衛に立っていたノルデンとアトラは、思わず声を上げた。
だがヴィーは気に留めず、ただ魔獣に意識を向ける。

「大丈夫。落ち着いて。傷付けないから」

彼がそっと手をかざす。すると、魔獣の動きがわずかに鈍った。

「……効いてるのか?」

ノルデンが目を見開く。
しかし、次の瞬間、別方向から魔獣の尾が大きく振り下ろされた。

「ヴィー!」
「下がれ」

低い声が飛ぶと同時に、地面が沈んだ。
尾が振り抜かれる寸前、魔獣の足元が異様な重さに縛られる。動きが止まった。

ギルバートだった。

「続けて」

ヴィーは一瞬だけ驚いた表情を浮かべたが、すぐにうなずく。

「この子は……怒ってるんじゃない。ただ、逃げ場がないだけだ」

言葉に応えるように、魔獣が低く唸る。

「後退経路、確保!」

ノルデンの声に、シャーロットが即座に結界を展開する。他の仲間たちも詠唱を重ねた。
ギルバートが重力の拘束を緩めた。逃げ道だけを残す、正確な調整だった。

魔獣は一瞬こちらを睨みつけ――次の瞬間、地面を蹴って後退する。
結界の外へと消えていく巨体を、誰も追いかけなかった。

 「……これ、制圧、だよな?」

ジャックが呆然と呟く。
ヴィーが大きく息を吐き、膝をつきかけた、そのときだった。
黒い影が、彼の背後を横切った。

「危ない!」

瞬間、轟音とともに森の空気が震えた。レイには一瞬、何が起きたのかわからなかった。
ただ、ヴィーの背後に巨体が崩れ落ちる。
それを見て、ようやく理解する。ヴィーを襲おうとした魔獣を、ギルバートが撃ち抜いたのだ。

森が静まり返った。

彼が放ったのは、魔力を魔力のまま、高密度の“塊”として放つ魔法――いや、それを魔法と呼んでいいのかすらわからない。
本来、魔法とは言葉を媒介に、自然の形を借りて魔力を具現化するもののはずだからだ。

「怪我はないか」

ギルバートは表情一つ変えず、ヴィーに視線を移した。

彼の“特別な事情”――それは、規格外の魔力量を持つことだった。
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