Freaks! “つゆ払い役”の天才魔導士が役目を終えて退場、なんて許さない!

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第二章 亀裂

ep.9 致命的な綻び

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 魔獣が学園の空に現れた、その日の夕暮れ。生徒の姿が消えた校庭を、雨の音だけが満たしていた。

コンスタンシアは、静まり返った廊下を歩く。
最後に見た彼の背中を思い出していた。

あの後、まだ彼には会えていない。もし次に会ったら――どんな顔をして会えばいいのだろう。そもそも、自分はどんな顔ができるのだろう。

考えながら、廊下の角を曲がる。
その空気が、異様に張り詰めていた。

少し先に、壁際にうずくまる人影と、それを離れた場所から見ている数人の生徒。

うずくまっているのは――細い背中と、少し長い黒髪。
ギルバートだ。

コンスタンシアは足を止めかけた。けれど、身体は勝手に彼のもとへと走り出した。

「ギルバート!」

濡れた髪から、水滴が滴り落ちていた。雨水に混じって、かすかに血の臭いがする。

「……怪我してるの?」

彼は俯いたまま答えない。濡れた制服の袖に、血が滲んでいた。
コンスタンシアの呼吸が浅くなる。

「どうしよう、血が……! 先生、先生を呼んでくる!」

彼女は慌てて立ち上がった。
その瞬間、ギルバートは追い縋ろうとして、崩れ落ちた。

「呼ばないでくれ」
「でも……!」
「頼む……」

コンスタンシアは、静かに息を整えた。再び彼のそばに膝をつく。
着ていたカーディガンを脱ぎ、彼の背にそっと掛けた。血と泥に濡れた肩を覆うように、布地が柔らかく落ちる。
周囲の生徒たちが、小さく息を呑む気配があった。

「あっち、行ってください。……見ないで」

声は震えていた。コンスタンシアは、自分の爪先に視線を落としたまま、顔を上げることができなかった。

生徒たちが立ち去る気配がして、やっと彼に目を向けた。
彼は震える指でカーディガンの裾をぎゅっと握り締めたまま、顔を伏せていた。
彼のこんな姿は、きっと見るべきじゃなかった。

「……立てますか?」

コンスタンシアは、優しく声を掛けた。今は、立てないならそばにいようと思った。
彼は顔を隠したまま小さくうなずく。けれど、彼は立ち上がれなかった。

「……ごめん。行っていいよ」

掠れた声が落ちる。

「……行ったほうがいい?」

コンスタンシアは小さな声で聞き返した。
彼の返事はない。雨音だけが、二人の間を満たした。

ギルバートは、もう一度深く息を整えながら、震える膝を立てた。
それを見て、コンスタンシアはすぐに彼の肩に手を添えた。熱かった。普通の熱ではなくて――有り余る魔力が、彼の体を内側から焼くような熱さだった。

雨の中。誰もいない廊下で、二人だけの世界が静かに呼吸していた。

◇◆◇

 その夜。ギルバートは寮の戸を鳴らされ、叩き起こされた。

「ヴィーが戻ってこないの」

扉を開け、少し視線を下げる。不安げな顔をしたレイが立っていた。
ヴぃーがいない――その言葉を聞いたギルバートは、自分でも驚くほど冷静だった。カルダの警戒、温室に向かうヴィーの様子、魔獣の襲撃。それらが、彼の中でひとつの最悪な筋書きとして繋がっていく。
体は重い。だが、行かないわけにはいかなかった。

「詳しく聞かせてくれ」

 談話室には、アトラもいた。彼はヴィーの同室だから、戻らないことに気づいたのも彼、ということなのだろう。
アトラは魔剣を手にそわそわしていたが、レイとギルバートを見るなり、跳ねるように立ち上がった。

「あんた、ヴィーがどこにいるか知らないか」

ギルバートは首を横に振った。

「まさか、魔獣に連れていかれたんじゃないよな? 昼間のやつらに」

アトラの声には、不安が滲んでいた。いつもは元気に吊り上がっている眉も、この夜ばかりは八の字に下がっている。

「まずは何があったか教えてくれ」

ギルバートが問う。
レイとアトラは、互いに補い合うように、断片的な情報を口にした。

「――状況はわかった。あとは俺が引き受ける」

やはり、レイモンド先生が怪しい。
だが、それを二人に告げるわけにもいかず、ギルバートは一人立ち上がった。

「引き受けるって、どうするんだ? 捜しに行くなら、俺も」
「私も!」

 そのとき、談話室の扉が突然開いた。カルダだった。

「ギルバート、来い」

短く、それだけ。ギルバートはすべてを察する。
カルダはレイとアトラにもちらりと視線を向けたが、何も言わなかった。

「はい」

ギルバートは二人に背を向け、カルダに続いて部屋を出ようとした。

「先輩」

レイの声だ。

「私も、行かせてください」

一瞬、背が強張った。けれど、振り返ることはしなかった。
ギルバートは、そのままカルダの後を追って部屋を出た。
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