Freaks! “つゆ払い役”の天才魔導士が役目を終えて退場、なんて許さない!

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第二章 亀裂

ep.8 忍び寄る影

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 「それでね、今日、先生が――」

あの日を境に、コンスタンシアはギルバートと他愛ない会話を交わすようになっていた。
いや、正確には、コンスタンシアが彼に話しかけているだけだ。会話と呼ぶには、一方的。

「――それで、笑っちゃったの。おかしいよね?」
「ああ。そうだな」

けれど、それでも彼は拒まずにベンチに座っていてくれた。
時折、相槌を打ったり、微笑んでくれることもある。それだけで十分だった。

「明日もいる?」

コンスタンシアは控えめに尋ねた。
彼が見つめ返す。翠の瞳は柔らかく、口元にはかすかな笑みが残っていた。

「明日は別の約束があるんだ」

本当のことのように思えた。

「そっか。じゃあまた今度ね」

彼はうなずき、立ち上がった。
まだ空に少し明るさが残っていたので、コンスタンシアはそのまま本を読んでいようと思った。

「……?」

コンスタンシアは顔を上げる。
ギルバートが、数歩先で立ち止まっていた。ただ、去り切れなかった、そんな様子で。
その背を見て、コンスタンシアの胸はほんの小さく高鳴った。

◇◆◇

 「先輩。魔力の使い方って何かコツがあるんですか?」

レイは、教本を手に、もう片方の手に意識を凝らしていた。知識をつけて、魔導構文の組み立て方はわかってきた。けれど、そこに“魔力を練り込む”という感覚が掴めない。

「コツ、か。言葉で説明しづらいけど」

レイとヴィーは、期待に満ちた目で彼を見つめた。
ギルバートは短い沈黙の後、そっと手を差し出した。

「俺の場合は、“呼吸”に近いかもしれない」
「……呼吸?」
「そう。意識しなくても、身体が勝手にやってるんだ」

レイは思わずヴィーの方を見た。
ギルバートの教えが理解できていないのは、自分だけだろうか。
そんなレイの仕草を捉えてか、ギルバートが言い直した。

「“使おう”とか“引き出そう”とするより、“整える”感覚かな」

レイが魔力を扱う感覚に悩んでいると、隣でヴィーが声を上げた。

「僕、そろそろ行かなきゃ」

レイとギルバートの視線がヴィーに集まる。

「先生に呼び出されてたんだ」
「先生……?」
「植物学のレイモンド先生」

彼は、ヴィーとレイが週に何回か温室の管理を手伝っている先生だった。
けれど、今日はいつもの曜日ではないし、レイは呼ばれていなかった。

「私は聞いてないけど」
「今日はそんなに人手はいらないからって」

先生がヴィーだけに声を掛けたのが、どこか気にかかった。
そのとき、ギルバートがぱたんと本を閉じる音がした。

「今日はこのくらいにしておこうか」

ギルバートの口調は穏やかだった。
ヴィーが時間を気にしてそわそわしていることに気を使ったのかもしれない。
けれど、その視線だけは、終始ヴィーに向けられたままだった。

◇◆◇

 その日、学園の平和は――彼女の平穏は、破られた。
コンスタンシアは、次の授業へ向かうため、外廊下を歩いていた。

そのとき、誰かの悲鳴が、休み時間の喧騒を破った。

「魔獣だ! 魔獣が出た!」

中庭から、生徒たちが雪崩のように校舎へ逃げ込んでくる。
人波に押されながら、コンスタンシアはふと空を仰いだ。
そこには、雲と見紛うほどの大群の魔獣が押し寄せていた。

「ギルバートだ……!」

誰かが叫んだように聞こえた。
コンスタンシアは思わず振り返り、中庭に視線を向けた。

その後ろ姿だけで、すぐにわかった。

砂埃が舞う中、一人、人波から外れて空を睨みつける青年。
制服のシャツと黒髪が風になびいていた。

空気が、震えた。
轟音が鳴り響き、気づいたときには、数羽の魔獣が地面に落ちていた。
何が起こったのか、コンスタンシアには一瞬わからなかった。

魔力が重さを持ったように、彼のいる場所で渦巻いている。
彼の指先から、二発目の閃光が放たれた。
それでようやく、さっきの轟音が彼の魔法だったのだと理解した。
コンスタンシアは、固唾を飲んだ。

魔力に敏感でないコンスタンシアですら、知覚できるほどの魔力。
その瞬間、コンスタンシアの中で、彼とあの噂――“化け物”という言葉が結びついた。

魔獣たちが怯え、逃げ惑う。
彼らの方が、先に感じ取っていたのだ。この場に、異質な何かがいることを。

これが、あの人の魔法。
彼は、“私たち”とは違う。私は、あの人のことを何も知らなかったんだ。

けれど、次の瞬間、彼の背中がぐらりと揺れた。
退いていく魔獣を鋭く睨みつけたまま、彼は地面に片膝をついた。腕で体を支え、肩で息をしていた。

「先輩! ギルバート先輩!」

コンスタンシアが叫ぶと、彼の背中が小さく跳ねた。
彼はゆっくりと立ち上がり、校舎に背を向けたまま、歩き出した。
駆け寄ろうとしたコンスタンシアの腕を、誰かが掴んで離さなかった。
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