Freaks! “つゆ払い役”の天才魔導士が役目を終えて退場、なんて許さない!

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第三章 光と闇

ep.12 奈落の底で

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 ギルバート先輩、大丈夫かな?

コンスタンシアは森のベンチで空を仰ぐ。

あの雨の日以来、彼の姿を見かけていない。

あの時の傷は、ちゃんと治っただろうか。
魔力の暴走は、止まっただろうか。

会って確かめたい。
寮を訪ねてみようか? それとも、高等部の校舎に行けば会える?

でも、もしも——。
彼がここに来なくなったのが、あの日の私のせいだったら?
私が余計なことをしたせいで、彼に避けられているのだとしたら。

それとも、もっと悪いことが……。

答えは出なかった。
彼女の視線は、いつの間にか足元の雑草に落ちていた。

◇◆◇

 「検査はこれで終わりだ」

淡々とした声が告げた。
ギルバートは呼吸を乱し、椅子の背にぐったりと体を預ける。その手首は肘掛けに縛り付けられていた。

「測定値は前回比で安定。精神干渉もなし」
「“異常なし”と記録しておけ」

石造りの地下室に、椅子が一脚。天井に灯る冷たい光源。
検査とは名ばかりの“制裁”だった。

「回復班を」

一人がそう呟くと、壁際に控えていた教師が無言でうなずいた。
近づいてくる足音に、ギルバートはわずかに顔を背ける。

「これはお前のためでもある。大人しくしてろ」

彼に与えられたのは治療ではなかった。
魔力の暴走を抑えるための術式。冷たい光が、彼の胸元に突き刺さった。

「っ……」

肩が震え、息が詰まる。
この痛みは、もう何度目だろうか。

「必要があれば強度を上げる。いいな」

拘束が解かれる。
ギルバートは息を整えながらうなずいた。

◇◆◇

 廃倉庫で朝を迎えたあの日。
カルダへの報告を終えたギルバートは、学園の医務室へ向かった。
心は迷っていた。二人にも、寮の仲間たちにも、合わせる顔がなかった。

 医務室には、煌々と明かりが灯っていた。
ギルバートは、開け放たれた扉の前で立ち止まる。

「おい。いるんだろ」

アトラの声だった。
ギルバートは、表情を変えることなく、足を踏み出した。

白いベッドに反射する光が眩しい。ギルバートは無意識に目を細めた。

医務室には、アトラとジャック、そして、ベッドで眠る二人がいた。

「……何があった」

アトラの声は、押し殺したように低かった。

「説明してくれよ、ギルバート。なんで、レイが怪我してんだ」

ギルバートは、アトラから目を逸らさなかった。
ゆっくりと口を開く。

「彼女は――俺を庇って転位魔法を使い、そのせいで敵に居場所を捕捉された」

アトラが拳を握りこむ音がした。

「それだけかよ! レイが怪我したんだぞ! お前が守れなかったんだろ! なんのためにお前が行ったんだ!」

アトラの怒声が響いた。

「よせ。二人が寝てる」

ジャックが静かに言った。

「……その通りだ」

ギルバートは、声の調子を変えない。

「彼女を連れて行った俺の判断が、誤りだった」

アトラはジャックの手を振り払い、ギルバートに詰め寄った。

「そうじゃないだろ。お前のせいだ。お前が、俺たちのことを信じてないからだ」
「どういう――」

ギルバートの問いをアトラが遮った。

「俺のことも、レイのことも、誰も。だから、一人で勝手に決めて、レイがお前を庇って、傷ついた」
「違う。お前たちが敵う相手じゃなかった。俺が一人で――」

一人で、行くべきだった。

「俺が行ってれば! 俺が行ってれば、こんなことには――!」

信じたから、彼女は傷ついた。

「お前が行っても、同じだ」

アトラが顔を上げる。その目には涙が滲んでいた。

「感情的に突っ込んで、返り討ちに遭う」
「感情的? 当たり前だろ! 友達が危ないんだ! 友達が怪我したんだ! お前は何も感じないのかよ?」

アトラは俯き、あとずさった。

「わからないか。化け物だもんな」

医務室の空気が、凍り付いた。
一拍遅れて、ジャックがアトラの腕を掴んだ。

「アトラ、それは言いすぎだ」

ギルバートは唇の端で小さく笑った。

「……そうだな」

ギルバートは、皮膚の下で熱く蠢くものを感じた。

自分は、彼らとは違う。

視界が焼き切れそうだった。一瞬、電灯がぐにゃりと歪む。

「……この話は、ここまでだ」

今になって、塞がり切らなかった古傷が痛み出した。
再生に回す魔力が枯れたせいか、一時的に魔力を断ち切っていたせいか。

倒れる前に、ギルバートは踵を返した。

「おい、ギルバート! 待て!」

足早に廊下に出る。
そのとき、医務室に向かうノルデンとシャーロットとすれ違った。

「ギルバート! 何があったの?」
「待て、どこへ行く気だ」

彼は俯いたまま、逃げるようにその場を去った。
ジャックの声は、それ以上追ってこなかった。
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