Freaks! “つゆ払い役”の天才魔導士が役目を終えて退場、なんて許さない!

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第三章 光と闇

ep.13 約束

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 ギルバートは、ヴィーの指導役から外された。
カルダが彼の保護と指導を担うことになった。もともと、彼はカルダの推薦で編入した経緯があるからだ。

レイは、ヴィーとの関係は変わりない。
ギルバートとは――あの後、一度言葉を交わしたきり、顔を合わせなくなってしまった。

彼が寮を空けているせいもある。
けれど、それ以上に――彼のことが怖くなってしまった。
あの夜、炎の向こうに見えた彼の顔が、あまりに冷たかったから――。

◆◇◆

 ギルバートは机に突っ伏したまま、ゆっくりと目を開けた。左胸を抑え、体を起こす。

ふいに魔力が脈を打つ。それに反応して、胸に鋭い痛みが走った。

昨夜も、眠れなかった。
魔力が昂ると、呪印が痛みを走らせる。痛みに叩き起こされるくらいなら、最初から眠らない方がましだった。

次の任務に呼び出されるまで――少しでも体を休ませたかった。

ここは、息が詰まる。
閉ざされた部屋。上の階には、仲間たちがいるはずだ。
見られたくなかった。

彼は音もなく立ち上がった。

 日差しの眩しい季節はとうに過ぎ去っていた。

色褪せた木々の下、彼はその姿を見つけ、足を止めた。

どうして、と思うのに、声は出なかった。

「先輩?」

彼女は手元の本から顔を上げる。立ち上がりかけて、彼が動かないのを見て、座り直した。

ギルバートは表情を整え、彼女の隣りのベンチに腰を下ろした。

 彼女は話しかけてはこなかった。頁をめくる音だけがある。

ギルバートは半ば無意識に目を閉じた。胸が苦しい。

「――い、先輩」

突然、隣から声が落ちた。
目を開けると、一つとなりのベンチから、彼女が不安げな顔でこちらを見ていた。

彼は、眠ったわけではなかった。そのつもりだった。

「苦しそうだったから……」

気付くと、眉間と指先に力がこもっていた。
それよりも、彼の足元の草がわずかに震えていた。

「なんでもないよ」

ギルバートは顔を背ける。
早く、この場から立ち去らなければ。魔力が溢れて、彼女を傷つけてしまう前に。

ギルバートは立ち上がり、足を踏み出した。

「待って!」

その声を、聞かなかったことにする。
ギルバートはあてどもなく歩き出した。

彼女の手が、彼の袖を掴んだ。
その瞬間、風が渦を巻き、魔力が一気に噴き出した。

「触るな!」

彼女の手が離れる。
結局、彼女を傷つけた――。

そう思ったとき、魔力は制御を失った。
木の葉が騒がしく音を立てる。

ギルバートは固く目を閉じた。
巻き込むくらいなら、いっそ、自分の内側に。

「――っ」

濁流となった魔力が、彼の気道を、肺を、心臓を、締め付けるようだった。

息が……できない。

ギルバートは地面に膝をついた。背を丸め、両手で喉を掻きむしる。

「ギルバート!」

霞んでいく視界に、駆け寄ってくる彼女の姿が見えた。
小さな手が、背中に触れた。

「大丈夫? どうしたの?」

だめだ、近づいたら――。

彼女の手が、優しかった。
裏腹に、彼の魔力はますます強く彼の胸を圧し潰す。
呪印が痛みを刻み込む。喉が塞がって、悲鳴も声にならなかった。

「ギルバート……」

耳鳴りの中、かすれるような少女の声が届く。

「……力を抜いて。ぎゅってしないで」

言葉も、触れる手も、彼女自身の不安を隠せてはいなかった。

「……息を吸って。ゆっくりで、いいから」

それでも、彼の内側で暴れていた魔力が、ふと緩んだ。
ほんの一瞬、呼吸が通じる。

「そう……それでいい」

ギルバートの背が、わずかに上下する。呼吸が戻るたび、強張っていた彼の身体から力が抜けていった。
やがて、彼は重力に身を任せ、倒れ込んだ。

◆◇◆

 コンスタンシアは我に返った。彼はようやく呼吸を取り戻したようだった。

「先輩?」

おずおずと彼の肩に手を添える。
彼の腕が、隠すようにその顔を覆っていた。

返事を求めたわけではなかった。ただ、無事であってほしいと願っただけだった。

「……ごめん」

消え入りそうな声が返ってきた。
コンスタンシアは泣きそうになった。
彼女の手には、まだ痺れるような感覚が残っていた。

怖かった。
初めて、彼の魔力が彼女に向かった瞬間だった。

彼がこうなってしまったのは、自分が触れたせいかもしれない。
近づいたら、彼の魔力が二人を焼いてしまうかも、と。

コンスタンシアが言葉を探していると、彼が先に口を開いた。

「……俺は、化け物だ」

コンスタンシアは咄嗟に、そんなこと、と言いかけた。
けれど続きは出なかった。

「……そんなの、わからないよ」

その言葉が、今の彼女の精一杯だった。
それなのに、まるで時が止まったようだった。
彼の肩は震えていた。

どうして? ずっと待っていたのに。やっと会えたと思ったのに。
傷つけたかったわけじゃないのに――。

「ち、違うの――」
「……すまない」

彼はコンスタンシアに背を向けたまま立ち上がった。

止めなきゃ。
このまま見送ったら、もう二度と会えない気がした。

でも、今の彼は——。

「明日も、明後日も、その次の日も……わたしは、ここにいるよ」

コンスタンシアは、手を伸ばす代わりに、言葉を残した。

ギルバートは振り向かなかった。けれど、一瞬、その足が止まる。
そしてまた、彼は歩き出した。
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