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第90話 攻略! 中級ダンジョン『ボルケーノケイブ』②

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「「う、うおおおおっ!」」

 そう叫び声を上げ自分を鼓舞し、中級ダンジョン『ボルケーノケイブ』のボスモンスター、ボルケーノ・ドラゴンに向かっていく部下達。

 おおっ、いいぞっ! 普段のお前達からは想像もできないほどの気迫。
 なんだ、やればできるじゃないか!

 正直、こいつ等に、そんな気概があっただなんて、驚きだ。
 まあ、俺がそう追い込んだからなんだけど……。

 部下達が散開し、ボルケーノ・ドラゴンを囲むと、部下達は石を拾い始めた。

「なるほど、投石攻撃をする気か……」

 地面に落ちている石を拾っての投石攻撃。
 この世界がゲーム世界だった頃はできなかった攻撃方法だ。

 素手で倒せと言ったのに……まったく困った奴等である。
 まあ、今日の所はよしとしてやるか。
 投石も素手の延長線みたいな所があるからな。

 人はもっとも上手に物を投げられる動物だ。
 原人から新人に至るまで、投石はもっとも基本的な狩猟の攻撃方法。
 それにモンスターを倒すには遠距離から一方的に攻撃する方が安全である事は間違いない。
 チンパンジーやゴリラも糞や木を投げるというし、旧約聖書に登場するペリシテの巨人兵士ゴリアテは小柄なダビデの投石で打倒される等、古代から体格の不利を補う威力を持つと知られていた。
 現代ですら暴徒化した人が大使館や抗議活動で投石したりもする。

「……まずは様子見だな」

 まあ、投石如きで野良ボスモンスターであるボルケーノ・ドラゴンを倒せるとは思わないけど……。

 そう呟くと同時に、部下達が拾い集めた石をボルケーノ・ドラゴンに向かって投石していく。
 部下達がボルケーノ・ドラゴンに向かって行った投石攻撃。
 期待せず、ボーっとした視線でそれを眺めていると、予想外の事象が起こる。

「グギャアアアアッ!?」

 なんと、投石攻撃を受けたボルケーノ・ドラゴンが突然、身体の色を赤く変え、目の色を黒から金色へと変えたのだ。
 ボルケーノ・ドラゴンは両手で地面を連打すると、地響きを起こし、周囲に無数のマグマが噴出する。

「はへっ?」

 ボルケーノ・ドラゴンが身体の色を変えるのは、HPが半分以下となった時の筈……。
 まさか、あいつ等……。
 そこら辺に落ちている石を拾っての攻撃で、ボルケーノ・ドラゴンのHPを半分以上持っていったの?

「「ひ、ひぃぃぃぃ!」」

 唖然とした表情を浮かべ部下達に視線を送るが、部下達に余裕はないらしい。
 地面からマグマが噴き出す演出に、腰を抜かしながら投石している。

 すると、数度の投石攻撃でボルケーノ・ドラゴンのHPを削り切り、そのままボルケーノ・ドラゴンを撃破してしまった。

「「は、はへっ?」」

 ボルケーノ・ドラゴンが地響きを起こしながら地面に倒れていく。
 その姿を眼前に捉えた部下達が間抜けな声を漏らし、同時に茫然とした表情を浮かべた。

 俺としても予想外の結果だ。
 中級ダンジョンの野良ボスモンスターとはいえ、そこら辺に落ちている石を拾っての投石攻撃で、HPを削り切るとは思いもしなかった。

 試しに石を拾い、そこら辺に湧いたモンスターに向かって投石してみると、投げた石は軽々とモンスターの頭を貫きドロップアイテムに変わっていく。

「…………」

 モンスターを一撃で屠る位、速い投球速度。そして攻撃力……。
 これはメジャーが狙えるかもしれない。
 まあ、これを受け止めきれるキャッチャーは存在しないかも知れないけど……。

 いや、話しが逸れたな……。現実逃避は止めておこう。

「……こ、これはイケるんじゃないか?」

 投石攻撃でボルケーノ・ドラゴンを屠った事に手ごたえを感じたのか、部下の一人がそう呟いた。

「う、うん。これなら……」
「投げるだけなら、私にだって……」
「よ、よし! やるぞぉぉぉぉ!」

 部下達は口々にそう言うと、地面に落ちている石を持って立ち上がる。
 そして、次の瞬間、周囲を囲うモンスター達に対して投石攻撃を実行した。

「「グギェ!?」」
「「グギョッ!」」
「「ギギェッ!」」

「あ、あぶなっ!? このやろっ!!」

 部下達の投石攻撃により死屍累々となっていく、モンスター達。
 一部、俺にまで石が飛んできたが、レベル二百オーバーな上、モブフェンリル・スーツを装備する俺に小癪な物理攻撃は効かない。

 とはいえ、小石を軽く投げられた程度の痛みが腹部に走ったので、俺に投石攻撃をしてきた部下の足下に対し、綺麗な投球フォームでレンガ位の大きさのある石を投げつけておいた。

『ズガンッ!』という音と共に、部下が尻餅をついて脂汗を流しているが知らん。
 アイテムストレージから取り出した看板に『次はないと思えよ(怒)』とだけ書いて見せつけてやる。
 今は混戦状態。言葉じゃ真意が伝わらないかもしれないからね。

 間違えて投げたにせよ。狙って投げたにせよ。一度だけは許してやる。
 フレンドリーファイアでやられるなんてごめんだ。
 もし、もう一度、俺に対して投石攻撃をしてきたら、間違えて投げたにせよ。狙って投げたにせよ。俺もそこら辺の石を拾ってトリガーハッピー極めてやるから覚えていろよ。

「しかし、中々、やるな……」

 ポップしては投石攻撃により倒れ積み上がっていくモンスターの数々……。
 まさか、ただの投石攻撃がモンスターに対して有効だとは思いもしなかった。
 これは新しい発見だ。

 レベルが一回り大きければただの投石が投石攻撃と言えるほどの力を持つ。
 なるほど、考えてみれば当たり前。

 同じ武器を持っていたとしても、レベル十五のプレイヤーの攻撃と、レベル百五十のプレイヤーの攻撃とでは、与えるダメージに相当の開きがある。
 普通の人ですら投石攻撃で相手にダメージを与える事ができるんだ。

 パワーレベリングにより百五十レベルとなった部下達といえど、百五十レベルは百五十レベル。
 それ相応の攻撃力を持つと、そういう事か……。なるほど、勉強になった。

 モンスターを倒し終えた部下達は、アイテムストレージにモンスターの死骸を納めてると、ポケットに石を詰め込み次の階層に向かって歩き始める。

 これなら、当初の予定よりも簡単に中級ダンジョンを攻略する事ができそうだ。
 それに、投石攻撃で野良ボスモンスターであるボルケーノ・ドラゴンを倒した事は部下達の気持ちにプラスの効果を与えた筈。
 少なくとも投石攻撃でボスモンスターを倒せるんだと認識した筈だ。

「いやー、凄かったね」

 馴れ馴れしく話しかけてくるのは誰だと思い、横を向くと、そこには、瓦礫に埋まっていた筈の『ああああ』の姿があった。

「ああ、そうだな……」

 こいつ頑丈だな……。
 つーか、部下達の投石攻撃を見ていたのか……。
 まあ、どうでもいいか。

「……いいから、お前は部下達のお守りにいけよ」
「えっ? もう必要ないんじゃない?」
「…………」

 ……確かに、その通りかも知れない。

 中級ダンジョン『ボルケーノケイブ』のボスモンスターは、ボルケーノ・ドラゴン。
 野良ボルケーノ・ドラゴンを投石攻撃で倒せるなら、問題なく倒せるだろう。

 とはいえ……。

「いや、お前、引率役に雇ったんだから働けよ。引率者が引率できないとか学級崩壊したクラスか何かか、これ?」

 引率から外れ、自由行動を許容して部下に舐められたらお終いだぞ?
 あいつ等、事故を装って俺に攻撃を仕掛けてくる位、狡猾だからな?

 それに、ここは現実となったゲーム世界。
 何が起こるかわからない。

「……まあいいから、あいつ等を追い掛けろよ。投石攻撃でモンスターを倒せるとはいえ、危険性がない訳じゃないんだ」

 それこそ、投石攻撃のフレンドリーファイアで自滅しかねない。
 とりあえず、部下共を追い掛けろと目でそう訴えかけると、『ああああ』が渋々、部下達を追い掛けていく。

 引率がいれば、まあ、大丈夫だろう。
 そんな事を思いながら、部下達を追い掛け、次の階層に向かう。

「さて、あいつ等は順調に……」

 モンスターを倒しているかな、と呟こうとすると、そこには、部下達と言い争う奇抜な顔をしたプレイヤーの姿があった。

「……あなた達ね。私の狩場に土足で踏み込むなんて、何を考えているのですか? おや……そういえば、あなた達の顔、どこかで見た事がありますねぇ……。うーん……」

 白粉を顔全体に付けたかのように真っ白な顔。
 紫色の頭に、毒々しいほど赤い唇。

「……ああ、そうだ。思い出しました。あなた達、転移組の連中ですね? ……私は冷蔵庫組の若頭、リフリ・ジレイター。あなた達、転移組の出資者です。わかったら、さっさと、このダンジョンから出て行きなさい。もし、私に逆らえばどうなるか、わかるでしょう?」

 なるほど、思い出した。
 あいつ、冷蔵庫組の若頭、リフリ・ジレイターだ。
 まあ、名前を自分で言ってたけど、久しぶりだな。

 最近、姿を見なかったから、俺にちょっかいを出すのを諦めたのかと思っていたけど、こんな所でレベリングしていたのか。

 面倒臭い奴に出会ってしまったと、顔を顰めていると、リフリ・ジレイターがこちらに顔を向ける。

「おや、あなたは……」

 その瞬間、俺は脱兎として駆け出した。
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