ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ

文字の大きさ
146 / 411

第146話 リージョン帝国への出立②

しおりを挟む
 転移組は、ゲーム世界に取り残されたプレイヤー達により構成される組織で、転移組のリーダーであるフィアが立ち上げ、副リーダーであるルートがそれを支えている。
 王との謁見を終え、馬車に乗り込んでから二時間。
 未だ出発する気配のない馬車に、転移組のリーダーであるフィアは苛立っていた。

「――おい。まだ出発しないのか……?」

 フィアの言葉に顔を引き攣らせる御者。
 転移組のリーダーであるフィアはルートと違い直情的な性格だ。苛立ちがそのまま表情に出る。

「は、はい。何分、王城前の道に馬車が密集しておりますので……先導役を務める冒険者協会の馬車が通れずにいま――」
「――早くしろと言っておけ!」
「は、はいっ!」

 フィアの叱責に馬車を飛び降りる御者。
 今、王城の目の前の道路は、転移組と冷蔵庫組が停めた馬車により通路が阻害され渋滞となっていた。
 馬車は冒険者協会を先頭に、王太子殿下、騎士団、転移組、冷蔵庫組の順に並んでリージョン帝国に向かう事になっている。

 しかし、現状、後発で出発する予定の転移組と冷蔵庫組の馬車が邪魔をして、冒険者協会の馬車が出発できずにいた。
 そんな事になっていると知らないフィアは苛立ちながらルートに話を振る。

「……なあ、ルート。何で、態々、馬車なんて時間のかかる交通手段を使ってリージョン帝国に向かわなきゃならないんだ? 俺達には、ムーブ・ユグドラシルがあるだろ?」

 ムーブ・ユグドラシル。それは、移動制限のかかっている転移門『ユグドラシル』を制限なしで使う事のできる国家間移動アイテム。緊急時等にダンジョン内から脱出する効果もあるアイテムだ。
 転移組の中で、フィアとルートの二人だけがそのムーブ・ユグドラシルを国から貸与されていた。
 フィアの言葉にルートは眉間に皴を寄せる。

「そのムーブ・ユグドラシルは回数制限のあるドロップ品だ。無限に使う事のできる課金アイテムじゃない……」
「だが、これがあれば今すぐにリージョン帝国に行けるじゃない――」
「――王太子殿下が馬車でリージョン帝国に向うのに俺達だけムーブ・ユグドラシルを使い楽してリージョン帝国に向かう気か?」

 お前、正気か?とでも言いたげな視線を向けると、フィアは「うっ……」と呟き押し黙る。
 国から貸与されたムーブ・ユグドラシルの使用制限は二回だけ、しかも、使用する毎に幾ら請求されるかわかったものではない。
 それでも、ムーブ・ユグドラシルを貸与され装備しているのは、緊急時、ダンジョンから逃れる為だ。

 上級ダンジョン『ドラゴンクレイ』の攻略については、呪いの装備を装着した借金奴隷が行ってくれるので問題ない。
 問題はその後に現れると予想されている特別ダンジョン『ユミル』だ。
 これについては、実装前にゲーム世界が現実となってしまった為、どの様なダンジョンなのか想像が付かない。

 だからこそ、万が一に備えてムーブ・ユグドラシルを貸与して頂いているのだ。
 当然、王太子殿下や冒険者協会の協会長もこれを身に付けている。
 たった数日、馬車に揺られていれば到着する様な場所に移動する為、使うようなものではない。

 その事を理解したのか、不貞腐れた表情を見せるフィア。
 直情的な男である。まあ、何を考えているのか分かりやすいとも言えるが……。

「……どの道、後一時間もすれば交通整理も終わる。今、渋滞してるのも王城前に馬車を着けてしまった俺達に問題があるからな」
「何っ? それじゃあ、こんなにも待たされているのは俺達のせいだって言うのか?」
「そう言っているだろ……」

 自分達の馬車が原因で渋滞しているのだ。
 窓の外から顔を出せばわかる事にも係わらず、どうやらフィアはその事を理解していなかったらしい。冷蔵庫組に言われるがまま王城前に馬車を着けたルートのミスでもある。

「とりあえず、今は待つしかないさ……」
「マジかよ……」
「ああ、マジだよ。何なら馬車が進むまでの間、馬車の外に出ているか? 時間はあるし、ちょっと位なら別に構わないぞ」

 ルートの言葉を聞き、フィアは目を輝かせる。

「いいのかっ!?」
「ああ、別に構わないさ」

 正直、相手をしているだけで疲れる。
 もちろん、口にはしない。心の中で思うだけだ。

「それじゃあ、ちょっと、外で羽を伸ばしてくるぜ!」
「ああ、但し、問題事だけは絶対に起こすなよ?」

 ここは王城の前。近くには王太子殿下の乗る馬車もある。
 無礼を働いたら物理的に首が飛びかねない。
 何故なら、この世界はゲーム世界ではなく現実世界になってしまったのだから。

 正直、王族と交渉するのだって大変だった。
 これまでの人生で王族や(親族や先生を除く)目上の人間と関わった事は一度もない。本来あり得ない事が、ゲーム世界が現実世界になった事で起きている。

「わかってるって! それじゃあなっ!」

 軽めの返事をするフィアに頭を悩ませるルート。
 本当にわかっているのかと問い質したくなってくる。

「まったく……」

 軽くため息を吐くと、ルートは馬車の中から外を眺める。
 視線の先には、意気揚々と駆け回るフィアの姿があった。

 本当に問題を起こさないか酷く心配ではあるが、ここでストレスを発散させておかないと、道中、何を仕出かすか想像も付かない。
 何しろ、数日もの間、馬車で生活を送らねばならないのだ。

 道中、休息を挟むとしてシャワーを浴びる事の出来ない馬車での生活が数日か……。考えるだけで嫌になる。しかも、衛生的な水洗トイレは無しだ。

 そういえば、王太子殿下はどの様な馬車でリージョン帝国に向かうつもりなのだろうか?

 ちょっとした興味本位で王太子殿下の乗る馬車に視線を向ける。
 すると、そこにはこの世界にある筈のない乗り物が置いてあった。

 その乗り物は全長十メートルのバスタイプの大型キャンピングカー。
 キャンピングカーとは、ベッドやキッチンなどがついた寝泊まりができる車の事を表す。

 な、なんでそんなキャンピングカーがこんな所に……。
 どう考えても元の世界の物だろっ!?
 それとも何か?
 いつの間にか、ゲーム世界にもキャンピングカーという概念が実装されたのか?
 周りは馬車ばかりなのにっ??

 そんな事を考えていると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

『おいっ! 誰かは知らないが、その乗り物に俺も乗せろっ! お前等だけずるいぞっ!』

 その声を聞いた瞬間、俺は頭を抱えた。
 フィアの奴が早速、問題事を起こした様だ。

 ◇◆◇

「あ、あれは……まさかっ……」

 馬車を降りてすぐ、転移組のリーダーであるフィアは驚きの表情を浮かべた。何故ならば、馬車を降りてすぐの所に大型のキャンピングカーが置かれていた為だ。

 自分の目が間違っていなければ、あれは間違いなくキャンピングカー。
 何でこんな所にキャンピングカーが、と疑問に思うが、頭より先に体が勝手に動いた。

「おいっ! これは誰の物だ? 誰が乗っている!」

 キャンピングカーの見張りにそう声をかけるも、見張りは口を閉ざしたままフィアの行く先を妨害してくる。

 見張りが激しく邪魔だ。
 フィアは声を荒げる。

「おいっ! 誰かは知らないが、その乗り物に俺も乗せろっ! お前等だけずるいぞっ!」

 指の先をビシッとキャンピングカーに向けてそう言うも、見張りに冷めた視線を向けられる。
 本当に見張りが邪魔だ。
 しかし、ここで見張りを押しのける訳にはいかない。
 転移組のリーダーであるフィアが本気になれば、こんな見張り如き簡単に突破する事ができる。だが、それをやってしまえば、無用な軋轢を生む事になる。

 その一方で、フィアには数日間も馬車に揺られていたくないという思いもあった。
 トイレもシャワーも寝る場所もない馬車に数日いるなんて正直御免だ。
 ルートの一言がなければ、ムーブ・ユグドラシルの力を使い先にリージョン帝国に向かっていた所である。
 しかし、ムーブ・ユグドラシルは貸与品。王太子殿下が馬車でリージョン帝国に向かう事を選択した以上、転移組のリーダーであるフィアも同様の選択をしなくてはならない。

「おい。俺の話を聞いているのかっ! 俺もその乗り物に乗せろっ! 俺は転移組のリーダー、フィア様だぞっ!」

 そう言い放つと、キャンピングカーのドアが開いた。
『転移組のリーダー』この一言に効果があったらしい。

 キャンピングカーからは、普通の武器と普通の防具を身に付けた普通の男が現れた。髪色は黒髪でNPCではないと一目でわかる。
 男はフィンに視線を向けると、次いで、車内に声をかけた。

「この人がこれに乗せろと言っていますが、いかが致しますか? 王太子殿下?」
「はっ?」

 何故、王太子殿下という一言が出てきたのか分からず、ポカンとしていると、車内から王太子殿下張本人が現れる。
 どうやら王太子殿下がキャンピングカーに乗っていたらしい。

 これは拙い事になったと、顔を顰めていると、王太子殿下がフィンに声をかける。

「……確か、転移組のリーダー、フィアと名乗りましたね?」
「はい。そうです」

 王太子殿下まさかの登場につい丁寧な言葉を発してしまうフィン。
 そんなフィンを見て王太子殿下がクスリと笑う。

「先ほどは随分と尊大な態度を取っていたみたいですが、それはこのキャンピングカーに乗っていた私に対して言った言葉ですか?」
「い、いえ、それは違います!」
「では、どなたに対して言った言葉なのでしょうか?」
「そ、それは……」

 突然の出来事に弁解の言葉が思い付かない。
 言葉を濁し、言い淀んでいると背後から声がかかる。

「こ、こんな所にいましたか――」

 後ろを振り返るとそこには、転移組の副リーダー、ルートの姿があった。
 駆け足で来た所を見るに、フィアの尊大な声を聞いて急いで駆け付けたであろうことが見て取れる。

 ルートはフィアの隣に着くと、フィアの頭を片手で地面に向かって押し込み謝罪した。

「――申し訳ございませんでした! 今の失言をどうかお許し下さい! 反省しております!」

 ルート、突然の謝罪にポカンとした表情を浮かべる男と王太子殿下。
 フィアに至っては、何故、自分が謝罪させられているのか分からずジタバタしている様にしか見えない。

「ジタバタと足掻いている様に見えますが?」

 ニコリと笑ってそう指摘すると、ルートは顔を青褪めさせた。
 当然、フィアもだ。

 ---------------------------------------------------------------

 2022年9月12日AM7時更新となります。
しおりを挟む
感想 558

あなたにおすすめの小説

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

処理中です...