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びーぜろ

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第190話 ゴミ捨て場の状況①

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 考えて見れば、今回の件だって、他の貴族が王都制圧の動きを見せたから乗り遅れまいと同調しただけに過ぎない。
 我々、貴族が王都を制圧する事ができれば話も違ったが、今の状況は側から見れば、ただ闇雲に時間稼ぎをしているだけに過ぎず、しかも、外にいる貴族軍が我々を助けに来てくれる事が前提となっている。
 何よりこの場に留まった所で、我々、下位貴族に旨味のある話が来るとは思えない。
 むしろ、今回の失態をネチネチ責め立てられ、何も得られず領地に戻る事になるであろう事が目に見えている。

 平民達が我々を王城から解放する条件は、『身分制に基づく不公平な課税制度の廃止』及び『十年間の国民に対する税金の免除』。
『国が貴族に課税する分には何をして頂いても構わない』という危ない発言もあったが、既に国王の権威は有名無実と言っても過言ではない程に落ち込んでいる。

 今回は、民衆が敵に回ってしまった為、失敗したが国王に貴族に課税すればどうなるか釘を刺す事には成功した。
 まず、国が貴族に課税する事はないだろう。

 となれば、後は決断するだけだ。
 問題は『身分制に基づく不公平な課税制度の廃止』及び『十年間の国民に対する税金の免除』を容認することができるかについてだ。
 これまで、貴族にのみ許されていた優遇措置が無くなるのは厳しい。
 だが、十年後、再び課税する事が許されるのであれば問題はない。
 要は十年間、自分の領の民衆から税金を搾取しなくても生活できるのであれば問題ないのだ。
 自領の領民達は私達がこの条件を強制されている事を知らない。
 今年から十年間、無税にすると言えば、泣いて喜ぶ事だろう。
 時折、発生する反乱を止める事にも繋がる。

「……わかりました。私も一緒に向かいます」

 そう呟き、城門に視線を向けると、城門が開いた。
 しばらくすると、口元に不思議な筒状の物を付けたモブ・フェンリルが城門から入って来る。

「はい。こんにちは、相変わらず酷い匂いですね」

 それだけ言うと、モブ・フェンリルは辺りを見渡した。

「あれ? もしかしてあなた方だけですか? あーこれは長丁場になるかなぁ~? まあいいや……」

 モブ・フェンリルは意外と言わんばかりにそう呟くと、アイテムストレージから人数分の契約書とテーブル。そして、記入用のペンを設置していく。

「……さて、皆さんには、これからこの契約書にサインをして頂きます。わかっているとは思いますが、契約書にサインをしない者は王城の外には出られません。内容をご確認の上、よろしければ、こちらの契約書にサインをして下さい。そうすれば、すぐにでも皆さんが人並みの生活が送れるように手配させて頂きます」

 平民如きが生意気な事を……とも思ったが、敢えて口には出さない。口に出していい事は何もないからだ。

「私からサインしよう……」

 そう言うと、子爵の一人が契約書にサインする。
 すると、平民達は手のひらを返したかのように態度を変えた。

「素晴らしい。契約書へのサイン、第一号ですね。それでは、城門を出た手前に泊めてある馬車に乗り込み時間が来るのをお待ち下さい。上等な宿へとご案内させて頂きます」
「……ああ、ありがとう」

 平民と不平等な契約を交わすのは、忸怩じくじたる思いだったのだろう。
 子爵は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべながら、外で待つ馬車に乗り込んで行く。

「それでは、私も……」
「――いや、私が先だっ!」

 子爵が契約書にサインをした事により次々と契約する者が増えていく。

「私もお願いします……」

 ペンを握り誓約書にサインすると、城門に案内され外に出た。
 そして、私が城門を出てすぐに門が閉じられる。
 城壁の内側は相当な悪臭だったのだろう。子爵と男爵が馬車に乗り込むと、御者が露骨に顔を顰める。
 しかし、男爵は何も言わなかった。
 何故ならば、何を言った所で無駄だと悟った為だ。
 何せ、城門の前には、武装した平民が数多く配置されている。
 すべてを諦め肩をガックリ落とすと、モブ・フェンリルの恰好をした男が拡声器片手に声を上げた。

「それでは、これから皆様を宿にご案内致します。なお、自分の領地への帰還を望まれる方は宿に到着後、支配人の下をお尋ね下さい。皆様の領軍はすべて皆様の領地に送り届けておりますので、領軍の方々の心配をする必要はありません」

 ――はあっ??

 今、何やら聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。
 このモブ・フェンリルは何と言ったのだっ?
 領軍はすべて領地に送り届けたと言わなかったかっ??

「――また、先ほど契約書にも記載した通り、これから十年間、国民に税金を課す事を禁じます。寄付や利用料等といった名称を変えただけの実質税も課す事はできなくなりますのでそのつもりでお願いします」
「なにっ!?」

 思わずそう声を上げると、モブ・フェンリルがこちらに視線を向けてくる。

「……何か問題でもありますか?」
「い、いや……」

 男爵は思い切り拳に力を込め、粗く息を吐く。

「ああ、教会への寄付は除外されるのでご安心下さい」
「そ、そうか……それならば安心だ……」

 いや、本心では全然安心していない。
 むしろ、税金の名称を変え徴収する気満々だった。

 契約書の控えを見て見ると、小さい文字で確かにその旨が記載されている。

「――も、文字が小さ過ぎるわっ……!」

 小声で言ったが、本当ならもっと大きな声で叫びたい位だ。
 しかし、契約書を交わした以上、そんな事はできない。
 契約書には、物理的な強制力がある。
 それに、今、契約を破棄する訳にはいかない。
 まあ、双方の同意が無ければ、破棄する事もできない訳だが、万が一、破棄できてしまった場合、また、あの悪臭漂う王城へ閉じ込められる事になる。

 皆、同じ事を考えていたのだろう。
 子爵と男爵の数名が馬車の中で項垂れていると、城内が騒がしくなってきた。

『食糧を取りに行った筈の子爵と男爵がいないぞっ!』
『食糧庫も空です!』
『下級貴族の分際で、私達を裏切るとは……探しなさいっ! 今すぐに探すのですっ!』

 城内に閉じ込められている上級貴族の怒声を聞き、真っ青な表情を浮かべる子爵と男爵達。

 やはり、あの時逃げていて正解だったと、城外にいる子爵と男爵は揃って顔を見合わせた。

 すると、モブ・フェンリルが呟く。

「――はあっ、早く諦めてくれないかなぁ……爆発する前に……」

 うん? 爆発??
 何かの比喩表現か?
 民衆の怒りが爆発する的な……。
 まあ、民衆の怒りが爆発した結果、こうなった訳だが……。

「――まあいいや。最悪、王城が無くなるだけだし、爆発の逃げ道は上に作ってある。爆発したら有害物質が……いや、大丈夫か。シャドーに言って影の世界に押し込めばいいし……」

 いや、本当に何を言ってるんだ?
 まるで、王城が爆発する様に聞こえるのだが……。

「……そう考えると、このタイミングで食糧が無くなったのはある意味、最高のタイミングだったか? ここにいる貴族は食べ物を持っていない様だし、となると、あいつ等かな? 中々、良い働きをする。もう少しだけゴミ箱の中で泳がせて、爆発する前に回収してやるか……」

 な、何だコイツ。さっきからヤバい事しか言ってないぞ?
 上級貴族が食べ物が無くてひもじい思いをしているのに、何故、そう平然としていられる。何で金魚鉢で金魚を飼う様な発言ができるんだ??

「さてと、話は長くなりましたが最後に一つだけ。皆さんもいい大人なんだから権力を笠に着て平民を虐めちゃ駄目ですからね? これから先、そういった行為は一切許さないのでそのつもりで……ああ、あと宿泊をご希望の方は、後ほど請求書を送付させて頂きます。踏み倒した場合、ゴミ箱にご招待する事になりますのでそのつもりで……それでは皆さん。御機嫌よう。今日はごゆっくりお休み下さい」

 そう言って、モブ・フェンリルが頭を下げると、御者が馬車を走らせる。
 契約書を持った子爵と男爵達は苦い表情を浮かべ宿へと向かう事になった。

 ◇◆◇

 城内では、貴族達がパスタと小麦粉だけを残し、空となった食糧庫を見て怒りに震えていた。

「食糧を取りに行った筈の子爵と男爵がいないぞっ!」
「食糧庫も空です!」
「――そんな事は食糧庫を見ればわかりますっ!」

 コンデ公爵は、怒りで肩を震わせると、声を上げた。

「下級貴族の分際で、私達を裏切るとは……探しなさいっ! 今すぐに探すのですっ!」
「「は、はいっ!」」

 フロンド伯爵に指揮を任せ、食糧を持って逃げた下級貴族達の捜索に当たらせると、食糧庫の捜索をしていた貴族がコンデ公爵に声をかける。

「ど、どうしましょう。コンデ公爵。このままでは……」
「ええ、まったく余計な事をしてくれました。折角、こちらに有利な条件で話を纏める事ができそうだというのに……」

 国王とは、言って見れば、広い領地を持ち、他の貴族よりも強い力を持つ貴族。
 国王と貴族の関係は、国王が貴族領の支配権を保障する見返りに、従軍などの軍役を奉仕する。云わば、封建的主従関係に過ぎない。

 その為、国王が治める領地・王都であれば、どんな無茶な税制を敷こうが、どんな圧政を敷こうがまったくの自由。我々は関知しない。

 国王が各領地に誘致した治外法権組織・冒険者協会。
 この冒険者協会を各領地に誘致した結果、若い領民の約三分の一が冒険者となった上、冒険者協会との協定により支払われる税金は固定化されてしまった。

 ダンジョン資源は重要だ。
 各領地に『転移門・ユグドラシル』が設置されている以上、冒険者協会の誘致は避けて通る事ができなかった点については理解している。

 しかし、我々の治める領地に関しては話が別だ。
 ある一定の税金を王都に納めている以上、それ以上の増税は認められない。

 例え、不測の事態が発生したとしてもだ。
 貴族の持つ権利への侵害はそれほどまでにも重い。

 だからこそ、領軍を率いてここまで来たというのに……。

「……こんな所で躓いて堪るか、今頃、連れて来た領軍が私を助ける為、策を練っている筈。どんなに遅く見積もっても三日……三日以内に城門を制圧し、我々を助けに来てくれる筈。何としても堪えねば……」

 そう呟くと、コンデ公爵は城門に視線を向けた。

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 2022年12月9日AM7時更新となります。
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