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第198話 それでも諦めない米沢
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翔が去った後、新橋のガード下で項垂れていた米沢は、悔しさのあまり拳を握ると思い切り地面を叩いた。
「――んぐうっ!?」
変な声が出た。地面に打ち付けた拳が滅茶苦茶痛い。
しかし、一体何だったんだ、今の奴はっ!
取材の邪魔をするばかりか、カメラまで……。
米沢は手を握り締めた時、ぐちゃぐちゃになった紙を見て、歯を食いしばる。
そこにはカメラの修理代及び迷惑料として十万円を請求する旨が書かれていた。
「――くっそっ! 何だよこれっ! 誰が払うかこんなもんっ!」
そう言って道路に投げ捨てようとするも、辛うじて残っていた自制心でそれを止める。
――駄目だ。よく考えて見れば、あいつはボイスレコーダーを持っていた。
もし今日中に支払わなければ、警察に被害届を出し、日毎放送に抗議文を送るとも言っていたし……くそっ!
折角、更屋敷太一の情報を掴んだっていうのに……!
今の俺は謹慎中。もし、謹慎中に問題を起こせばどうなるかなんて、火を見るより明らかだ。嫌々ながらもここは従うしかない。
米沢はスマホを立ち上げると、早速、ネット銀行を経由して高橋翔に十万円を振り込んだ。
「しかし、どこかで聞いた名だな……高橋翔……高橋翔……」
そして、振り込んだ後に気付く。
「――あ、あああああっ!? あ、あいつが高橋翔かぁぁぁぁ!」
頭に血が上って全然気付かなかった。くそっ!
すぐに追いかけて……いや、待てよ……?
高橋翔は何でこんな所にいたんだ……?
米沢は少し考え込むと、ダンボールに寝そべりホームレス生活を送る元区議会議員の更屋敷太一に視線を向け、ハッとした表情を浮かべる。
「も、もしかして……」
米沢は元々、高橋翔の事を更屋敷太一の失踪に係わる重要人物と考えていた。
それは何故か。更屋敷太一が失踪してすぐ、更屋敷太一の土地の所有者が高橋翔に変ったからだ。
更屋敷太一が失踪してすぐ土地が他人の手に渡るのはどう考えてもおかしい。
だからこそ、米沢は高橋翔に目を付けた。
そして、今、疑惑が確信に変わる。
やはり、高橋翔は更屋敷太一の失踪に係わっていた。
更屋敷太一に対する取材を邪魔したのがその証拠だ。
奴は更屋敷太一の取材をされたくない。
だから高橋翔は更屋敷太一の居場所を秘匿した。
あんなにテレビで失踪した更屋敷太一の情報提供を呼びかけたにも係わらずだ。
ダンボールの上で毛布に包まる更屋敷太一に視線を向けると、米沢はニヤリと頬を歪める。
「そういう事か……」
邪魔な高橋翔はこの場から去った。
大方、カメラを壊せば諦めるとでも思ったのだろう。
甘いんだよっ!
俺にはまだスマホがある。
充電と画質は心許ないが、録画機能は健在だ。
そうと決まれば話は早い。
米沢は財布から千円札を一枚取り出すと、ダンボールの上で毛布に包まる更屋敷太一に声をかけた。
「……更屋敷さん。これでちょっとお話を聞かせて貰えませんか?」
更屋敷太一は毛布から頭を出し、米沢の持つ千円札に視線を向ける。そして、その千円札を奪い取る様に受け取ると米沢に訝しげな視線を向けてきた。
「……なんだ。私に何が聞きたい?」
元区議会議員の重鎮ともあろう人が千円札一枚でこの有様だ。
相当困窮しているであろう事が伺える。
「それでは、お言葉に甘えて……。更屋敷太一さん。あなたは何故、失踪したのですか? 区議会議員の任期は四年。多少のスキャンダルは時が勝手に解決してくれます。失踪する程の事ではないでしょう?」
事実、議員の不祥事なんてよくある事だ。
それに更屋敷太一は元区議会議員。
区議会議員の重鎮とはいえ、国会議員と比べると知名度には大きな違いがある。
一区議会議員の起こす不祥事なんて、余程、大きな不祥事でもない限り話題にすらならない。
スマホの録音アプリを立ち上げながらそう質問すると、更屋敷太一は少し考えるような素振りを見せる。
そして、米沢に手のひらを向けると親指と人差し指を丸めた。
「うん? これはどういう……」
「……たった千円じゃ話せん内容だな」
金を寄こせという露骨なジェスチャーをされた米沢はこめかみに青筋を浮かべる。
このクソ爺……。
元区議会議員だか何だか知らないが、人に金を集るんじゃない。
『私に何が聞きたい』と聞いてきたのはお前だろうが!
とはいえ、ここでキレたら話がここで終わってしまう。
「……これで話して頂けますね?」
仕方がなく財布から五千円札を取り出すと、それを更屋敷太一の手のひらに乗せる。すると、更屋敷太一はそれを空き缶の中に入れ笑みを浮かべた。
「……いや、催促したみたいで悪いな。あー、失踪の理由だったかね?」
「はい。失踪してホームレス生活を送る事になった理由を聞かせて頂けますか?」
「……私がこの場所で生活している事を記事にしないならば教えよう。どうする?」
今、生活している場所を秘匿したいという事か?
まあその位であればいいだろう。望み通りここで生活している事は記事にしない。
米沢の目的は、高橋翔への復讐。
更屋敷太一は復讐への一歩を踏み出す為の踏み台のようなものだ。
元区議会議員の更屋敷太一が新橋のガード下でホームレス生活を送っているのを記事にするのも面白いとは思うが、そんな事に時間を取られたくはない。
「いいでしょう。それでは、お聞かせ頂けますね?」
「ああ、私が失踪し、こんな生活を送っている理由はな……広域暴力団・任侠会に目を付けられたからだよ……」
「任侠会に……ですか?」
任侠会といえば、この辺りに本部を置く指定暴力団。
議員と暴力団との付き合いは兼ねてから聞いていたが、まさか本人から直接その事を聞き出せるとは思いもしなかった。
「ああ、詳しくは言えないがトラブルがあってね。もし任侠会に私の居場所が知れたらすぐにでも奴らがやってくる。だから、私はこの様な生活を送っているんだ」
「なるほど……そうだったんですね。では、その傷もその時に……」
更屋敷太一の服には、血痕が付いていた。
激しく暴行されたのだろう。頬に打撲痕が残っている。
「うん? ああ、これは任侠会ではなく別の奴にやられてな……」
「別の奴にですか……」
「ああ……」
そう呟くと、更屋敷太一は苦い表情を浮かべる。
クソ爺とはいえ、老人に手を挙げるだなんてとんでもない奴がいたものだ。
――うん? 待てよ。暴力団じゃないとしたら誰がそんな事を……。
「……もしかして、更屋敷さんに暴行したのは高橋翔という男ではありませんでしたか?」
「高橋翔……」
「はい。二十代前半。黒髪で身長は百七十センチメートル前後の若い男なんですが……」
まるで犯人だと断定するかのように、そう言うと、更屋敷太一は思い出したかのように呟く。
「二十代前半。黒髪で身長は百七十センチメートル前後の若い男……。言われて見れば、そんな気が……いや、だがしかし……二人組だったし、違う様な……」
「やはり……」
最後の方はよく聞こえなかったが、間違いないようだ。
「……それで、高橋翔にどんな暴行をされたんですか?」
「えっ? それは……殴られたり蹴られたり……金銭をカツアゲされたりもしたな……」
「なるほど、殴る蹴るなどの暴行を加えられた上、金銭を恐喝された訳ですね?」
「あ、ああ。そうだが……」
「ふむ……」
ふと、上を見上げると、ガード下の脇に監視カメラが設置されている事に気付く。
「犯行はこの場所で行われたのですか?」
「あ、ああ……」
更屋敷太一の不確かな記憶を下に高橋翔を暴行及び恐喝の犯人だと決めつけた米沢は笑みを浮かべる。
「ご協力頂きありがとうございます。最後に一つだけ……この男に復讐したいと思いませんか?」
そう尋ねると、更屋敷太一は苦い表情を浮かべる。
「――金やスマホを奪われ、怪我もさせられた。もし私に暴行を加えたのが、その高橋翔という男であるならば復讐したい。しかし、今、下手に動いて任侠会に私の居場所を知られたら、私はきっと殺されてしまう。それに今の私は住所を持たないホームレス……何もない。何もかもを失ってしまったんだ。それに警察署管内には、任侠会と太いパイプを持つ警察官も存在する。そんな状態で被害届を出す訳には……」
「――ごちゃごちゃごちゃごちゃ、うるせぇなぁ……」
「えっ?」
米沢、突然の豹変に驚く更屋敷太一。
唖然とした表情を浮かべていると、米沢はスマホを操作し、電話をかける素振りを見せる。
「更屋敷太一さんよ。あんたは俺の言う事に黙って頷いていればそれでいいんだ」
「えっ? はっ?? いや、それはどういう……」
混乱する更屋敷太一。
状況に着いて行けず、そう呟くと米沢が胸ぐらを掴んできた。
「――ぐうっ!? く、苦しいっ……」
「あのさ、状況わかってる? 俺は高橋翔に復讐したいかどうかを聞いてるの……。イエスだろ? イエスだよな? 復讐したいよな?? 復讐したいって言えよ、ほらっ!」
「――な、なんだよっ……何なんだよ。あんた、頭おかしいよ……」
「おかしいだぁ? 俺のどこがおかしい!? やはり、俺の目に間違いは無かった。あいつはやっぱり犯罪を犯していた! そう。高橋翔のやった事は立派な犯罪行為だ! 何故、それを野放しにしようとする。おかしいのはあんただろっ!」
元区議会議員の更屋敷太一に対する暴行及び恐喝。これは立派な犯罪だ。
俺の考えが正しければ、高橋翔の奴は更屋敷太一の土地まで詐取している。
警察署管内に任侠会と太いパイプを持つ者がいる?
それがどうした。任侠会だか何だか知らないが、そんな事はどうでもいい。
高橋翔。大方、ホームレスまで落とせば、警察に被害届を出す事ができないと踏んでいたのだろう。甘かったな。やりようなんて幾らでもあるんだよ!
「……任侠会にあんたの居場所を連絡されたくないだろ? あんたは黙って警察に被害届を出すだけでいいんだ。ホームレスで住所がないなら、俺の住所を使えばいい。簡単な事だろ? 警察には『友人の家に長年居候させてもらっています』って言えば問題ない。そうすれば、ホームレスであったとしても被害届を出す事ができる」
そう言って、更屋敷太一から手を放すと、米沢は笑みを浮かべた。
「なに、警察に被害届を出すだけですよ。証拠はそこの監視カメラに映ってる。任侠会に居場所がバレるのが嫌なら警察に被害届を出した後、他の場所に逃げればいいんだ。池袋なんてどうです? 駅構内で寝れば、雨風を凌ぐ事ができるし、東池袋中央公園では二週に一回、ホームレスに対する炊き出しをしてますよ?」
米沢は更屋敷太一の肩に手をかけると、ゆっくり立ち上がる。
「それじゃあ、一緒に行きましょうか。更屋敷太一さん?」
そして、近くの交番まで被害届を出しに向かった。
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2022年12月24日AM7時更新となります。
「――んぐうっ!?」
変な声が出た。地面に打ち付けた拳が滅茶苦茶痛い。
しかし、一体何だったんだ、今の奴はっ!
取材の邪魔をするばかりか、カメラまで……。
米沢は手を握り締めた時、ぐちゃぐちゃになった紙を見て、歯を食いしばる。
そこにはカメラの修理代及び迷惑料として十万円を請求する旨が書かれていた。
「――くっそっ! 何だよこれっ! 誰が払うかこんなもんっ!」
そう言って道路に投げ捨てようとするも、辛うじて残っていた自制心でそれを止める。
――駄目だ。よく考えて見れば、あいつはボイスレコーダーを持っていた。
もし今日中に支払わなければ、警察に被害届を出し、日毎放送に抗議文を送るとも言っていたし……くそっ!
折角、更屋敷太一の情報を掴んだっていうのに……!
今の俺は謹慎中。もし、謹慎中に問題を起こせばどうなるかなんて、火を見るより明らかだ。嫌々ながらもここは従うしかない。
米沢はスマホを立ち上げると、早速、ネット銀行を経由して高橋翔に十万円を振り込んだ。
「しかし、どこかで聞いた名だな……高橋翔……高橋翔……」
そして、振り込んだ後に気付く。
「――あ、あああああっ!? あ、あいつが高橋翔かぁぁぁぁ!」
頭に血が上って全然気付かなかった。くそっ!
すぐに追いかけて……いや、待てよ……?
高橋翔は何でこんな所にいたんだ……?
米沢は少し考え込むと、ダンボールに寝そべりホームレス生活を送る元区議会議員の更屋敷太一に視線を向け、ハッとした表情を浮かべる。
「も、もしかして……」
米沢は元々、高橋翔の事を更屋敷太一の失踪に係わる重要人物と考えていた。
それは何故か。更屋敷太一が失踪してすぐ、更屋敷太一の土地の所有者が高橋翔に変ったからだ。
更屋敷太一が失踪してすぐ土地が他人の手に渡るのはどう考えてもおかしい。
だからこそ、米沢は高橋翔に目を付けた。
そして、今、疑惑が確信に変わる。
やはり、高橋翔は更屋敷太一の失踪に係わっていた。
更屋敷太一に対する取材を邪魔したのがその証拠だ。
奴は更屋敷太一の取材をされたくない。
だから高橋翔は更屋敷太一の居場所を秘匿した。
あんなにテレビで失踪した更屋敷太一の情報提供を呼びかけたにも係わらずだ。
ダンボールの上で毛布に包まる更屋敷太一に視線を向けると、米沢はニヤリと頬を歪める。
「そういう事か……」
邪魔な高橋翔はこの場から去った。
大方、カメラを壊せば諦めるとでも思ったのだろう。
甘いんだよっ!
俺にはまだスマホがある。
充電と画質は心許ないが、録画機能は健在だ。
そうと決まれば話は早い。
米沢は財布から千円札を一枚取り出すと、ダンボールの上で毛布に包まる更屋敷太一に声をかけた。
「……更屋敷さん。これでちょっとお話を聞かせて貰えませんか?」
更屋敷太一は毛布から頭を出し、米沢の持つ千円札に視線を向ける。そして、その千円札を奪い取る様に受け取ると米沢に訝しげな視線を向けてきた。
「……なんだ。私に何が聞きたい?」
元区議会議員の重鎮ともあろう人が千円札一枚でこの有様だ。
相当困窮しているであろう事が伺える。
「それでは、お言葉に甘えて……。更屋敷太一さん。あなたは何故、失踪したのですか? 区議会議員の任期は四年。多少のスキャンダルは時が勝手に解決してくれます。失踪する程の事ではないでしょう?」
事実、議員の不祥事なんてよくある事だ。
それに更屋敷太一は元区議会議員。
区議会議員の重鎮とはいえ、国会議員と比べると知名度には大きな違いがある。
一区議会議員の起こす不祥事なんて、余程、大きな不祥事でもない限り話題にすらならない。
スマホの録音アプリを立ち上げながらそう質問すると、更屋敷太一は少し考えるような素振りを見せる。
そして、米沢に手のひらを向けると親指と人差し指を丸めた。
「うん? これはどういう……」
「……たった千円じゃ話せん内容だな」
金を寄こせという露骨なジェスチャーをされた米沢はこめかみに青筋を浮かべる。
このクソ爺……。
元区議会議員だか何だか知らないが、人に金を集るんじゃない。
『私に何が聞きたい』と聞いてきたのはお前だろうが!
とはいえ、ここでキレたら話がここで終わってしまう。
「……これで話して頂けますね?」
仕方がなく財布から五千円札を取り出すと、それを更屋敷太一の手のひらに乗せる。すると、更屋敷太一はそれを空き缶の中に入れ笑みを浮かべた。
「……いや、催促したみたいで悪いな。あー、失踪の理由だったかね?」
「はい。失踪してホームレス生活を送る事になった理由を聞かせて頂けますか?」
「……私がこの場所で生活している事を記事にしないならば教えよう。どうする?」
今、生活している場所を秘匿したいという事か?
まあその位であればいいだろう。望み通りここで生活している事は記事にしない。
米沢の目的は、高橋翔への復讐。
更屋敷太一は復讐への一歩を踏み出す為の踏み台のようなものだ。
元区議会議員の更屋敷太一が新橋のガード下でホームレス生活を送っているのを記事にするのも面白いとは思うが、そんな事に時間を取られたくはない。
「いいでしょう。それでは、お聞かせ頂けますね?」
「ああ、私が失踪し、こんな生活を送っている理由はな……広域暴力団・任侠会に目を付けられたからだよ……」
「任侠会に……ですか?」
任侠会といえば、この辺りに本部を置く指定暴力団。
議員と暴力団との付き合いは兼ねてから聞いていたが、まさか本人から直接その事を聞き出せるとは思いもしなかった。
「ああ、詳しくは言えないがトラブルがあってね。もし任侠会に私の居場所が知れたらすぐにでも奴らがやってくる。だから、私はこの様な生活を送っているんだ」
「なるほど……そうだったんですね。では、その傷もその時に……」
更屋敷太一の服には、血痕が付いていた。
激しく暴行されたのだろう。頬に打撲痕が残っている。
「うん? ああ、これは任侠会ではなく別の奴にやられてな……」
「別の奴にですか……」
「ああ……」
そう呟くと、更屋敷太一は苦い表情を浮かべる。
クソ爺とはいえ、老人に手を挙げるだなんてとんでもない奴がいたものだ。
――うん? 待てよ。暴力団じゃないとしたら誰がそんな事を……。
「……もしかして、更屋敷さんに暴行したのは高橋翔という男ではありませんでしたか?」
「高橋翔……」
「はい。二十代前半。黒髪で身長は百七十センチメートル前後の若い男なんですが……」
まるで犯人だと断定するかのように、そう言うと、更屋敷太一は思い出したかのように呟く。
「二十代前半。黒髪で身長は百七十センチメートル前後の若い男……。言われて見れば、そんな気が……いや、だがしかし……二人組だったし、違う様な……」
「やはり……」
最後の方はよく聞こえなかったが、間違いないようだ。
「……それで、高橋翔にどんな暴行をされたんですか?」
「えっ? それは……殴られたり蹴られたり……金銭をカツアゲされたりもしたな……」
「なるほど、殴る蹴るなどの暴行を加えられた上、金銭を恐喝された訳ですね?」
「あ、ああ。そうだが……」
「ふむ……」
ふと、上を見上げると、ガード下の脇に監視カメラが設置されている事に気付く。
「犯行はこの場所で行われたのですか?」
「あ、ああ……」
更屋敷太一の不確かな記憶を下に高橋翔を暴行及び恐喝の犯人だと決めつけた米沢は笑みを浮かべる。
「ご協力頂きありがとうございます。最後に一つだけ……この男に復讐したいと思いませんか?」
そう尋ねると、更屋敷太一は苦い表情を浮かべる。
「――金やスマホを奪われ、怪我もさせられた。もし私に暴行を加えたのが、その高橋翔という男であるならば復讐したい。しかし、今、下手に動いて任侠会に私の居場所を知られたら、私はきっと殺されてしまう。それに今の私は住所を持たないホームレス……何もない。何もかもを失ってしまったんだ。それに警察署管内には、任侠会と太いパイプを持つ警察官も存在する。そんな状態で被害届を出す訳には……」
「――ごちゃごちゃごちゃごちゃ、うるせぇなぁ……」
「えっ?」
米沢、突然の豹変に驚く更屋敷太一。
唖然とした表情を浮かべていると、米沢はスマホを操作し、電話をかける素振りを見せる。
「更屋敷太一さんよ。あんたは俺の言う事に黙って頷いていればそれでいいんだ」
「えっ? はっ?? いや、それはどういう……」
混乱する更屋敷太一。
状況に着いて行けず、そう呟くと米沢が胸ぐらを掴んできた。
「――ぐうっ!? く、苦しいっ……」
「あのさ、状況わかってる? 俺は高橋翔に復讐したいかどうかを聞いてるの……。イエスだろ? イエスだよな? 復讐したいよな?? 復讐したいって言えよ、ほらっ!」
「――な、なんだよっ……何なんだよ。あんた、頭おかしいよ……」
「おかしいだぁ? 俺のどこがおかしい!? やはり、俺の目に間違いは無かった。あいつはやっぱり犯罪を犯していた! そう。高橋翔のやった事は立派な犯罪行為だ! 何故、それを野放しにしようとする。おかしいのはあんただろっ!」
元区議会議員の更屋敷太一に対する暴行及び恐喝。これは立派な犯罪だ。
俺の考えが正しければ、高橋翔の奴は更屋敷太一の土地まで詐取している。
警察署管内に任侠会と太いパイプを持つ者がいる?
それがどうした。任侠会だか何だか知らないが、そんな事はどうでもいい。
高橋翔。大方、ホームレスまで落とせば、警察に被害届を出す事ができないと踏んでいたのだろう。甘かったな。やりようなんて幾らでもあるんだよ!
「……任侠会にあんたの居場所を連絡されたくないだろ? あんたは黙って警察に被害届を出すだけでいいんだ。ホームレスで住所がないなら、俺の住所を使えばいい。簡単な事だろ? 警察には『友人の家に長年居候させてもらっています』って言えば問題ない。そうすれば、ホームレスであったとしても被害届を出す事ができる」
そう言って、更屋敷太一から手を放すと、米沢は笑みを浮かべた。
「なに、警察に被害届を出すだけですよ。証拠はそこの監視カメラに映ってる。任侠会に居場所がバレるのが嫌なら警察に被害届を出した後、他の場所に逃げればいいんだ。池袋なんてどうです? 駅構内で寝れば、雨風を凌ぐ事ができるし、東池袋中央公園では二週に一回、ホームレスに対する炊き出しをしてますよ?」
米沢は更屋敷太一の肩に手をかけると、ゆっくり立ち上がる。
「それじゃあ、一緒に行きましょうか。更屋敷太一さん?」
そして、近くの交番まで被害届を出しに向かった。
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2022年12月24日AM7時更新となります。
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