ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ

文字の大きさ
203 / 411

第203話 途方に暮れる報道関係者

しおりを挟む
 ここは日毎放送の社長室。
 日毎放送の代表取締役社長である猪狩雄三が毎朝の日課であるホット珈琲を飲みながら日経トレンディを読んでいると、スマホから着信音が鳴る。

「うん?」

 日経トレンディをから目を離し、スマホの画面を確認すると、妻からの着信の様だ。

 仕事中、妻が電話してくる事なんて殆どない。何か問題事でも発生したのだろうか?
 それとも秋良の件で何か進展があったのか?

 息子の秋良あきらは浮浪者にナイフで刺され入院中……秋良の友達の祐樹君もフォークで刺され入院中だ。

 一抹の不安を抱えながら電話に出る。
 すると、妻が慌てた様子で話し始めた。

『あ、あなたっ! 大変、大変なのっ! 秋良が……秋良がっ!?』

 この慌てよう……秋良に何が……。
 しかし、私まで慌てるのはまずい。
 まずは落ち着かせて話を聞く事にしよう。

「まあ、まずは落ち着きなさい。秋良がどうした? 何かあったのか?」

 相当、テンパっているのだろう。
 私の発言を聞き、何故か妻が怒鳴り始めた。

『な、何であなたはそうも冷静でいられるのっ! 秋良が、秋良が大変な事になっているのよっ!』

 いや、何も聞かされてないのだから、そんな事を言われても困る。
 しかし、それを実直にそう伝えるのはあまりに愚策。
 妻の気が動転している今、私だけでも冷静に努めなければ……。

 心の中でそう呟くと猪狩は妻を諭す様に言う。

「安心しなさい。私も慌てている。一体、何が起こっているのか検討が付かなくてね。だからお願いだ。まずは冷静になって秋良に何があったのか聞かせてくれないか? そうしなければ、対応することもできない」

 そう告げると、少し冷静になったのかポツリ、ポツリと秋良の置かれている状況を話し始める。

「な、何だと……!?」

 その結果、わかった事。それは私にとって想定外。晴天の霹靂と呼べるものだった。

「じ、事情聴取? 警察が病院まで来たのか? いや、そんな事より……」

 警察は詳しい内容まで教えてくれなかった。
 しかし、秋良を問い詰めた所、とある事実が判明する。

「秋良がホームレスに暴行を加え金銭を奪ったというのは本当かっ!?」

 シャレにならない。
 しかもホームレス相手に……な、何という事を……。

『そ、そうなのよ……秋良ったら、友達の祐樹君と一緒になって……もうどうしたらいいかわからないわ……』
「それで秋良は……? 秋良はどうなる!? 警察はなんと言っていたっ!?」
『そんなの、わからないわよっ! 私が知る訳ないでしょっ! もう嫌よ……秋良がこうなったのも、あなたのせいよっ! 仕事ばかりで秋良に構ってあげなかったからっ……!』
「なっ、それは関係ないだろう! 誰のお陰で生活できていると思っているんだっ! それに秋良がこうなったのは、お前が甘やかして育てたのが悪いんだろっ!」
『わ、私が悪いっていうのっ!? もういい加減にしてよっ! ――プッ』

 怒りに任せて受話器を置いたのだろう。
 猪狩はスマホを持ったまま愕然とした表情を浮かべる。

「ま、拙い事になった……」

 すぐに被害に遭われたホームレスの方に謝罪を……。被害届を取り下げて貰わなければ……。いや、そんな事よりも、何故、ホームレスが警察に被害届を提出できたんだ?
基本的に住所不定者は被害届を出す事ができない筈……。

「――と、とにかく、事件として扱われ報道されてしまう前に何とかしなくては……」

 日毎放送の社長であるこの私の息子がホームレスに暴行を加えたなんて事がニュースとなり報道されては堪らない。

「と、とりあえず、弁護士に相談を……ニュース報道される前に和解に持ち込まなければ……」

 もし、和解できなければ私はお終いだ。
 報道する側が報道されるかもしれない恐怖。
 かつてない恐怖に、猪狩は怯え、急ぎ弁護士に電話した。

 ◇◆◇

 一方、ホームレス化した更屋敷太一を焚き付け、半ば強制的に被害届を提出させた米沢も猪狩同様、苦境に陥っていた。

『――てめぇ……新橋のガード下で生活していた更屋敷太一をどこに逃がした?』
「そ、それは……。わ、私にも何がなんだか……」

 広域暴力団・任侠会から突然、掛ってきた電話。
 米沢は震える手で受話器を持ち、心の中で絶叫する。

 ど、どうなっているんだ……??
 な、何故、広域暴力団・任侠会が俺の自宅に電話を……?
 まさか、見ていたのか?
 更屋敷太一の言っていた事は本当だったのかっ!?

『何がなんだかじゃねーぞ、コラッ! 更屋敷が余計な事を言わない様に見張りを着けていたのに台無しじゃねーかっ! この落とし前、どうしてくれるんだよ。ああっ!?』

 ま、拙い……。拙い。拙い。拙い。拙いぞこれは……。
『広域暴力団・任侠会に目を付けられたから』って……『もし任侠会に私の居場所が知れたらすぐにでも奴らがやってくる。だから、私はこの様な生活を送っているんだ』とか言っていたが、既に居場所を知られているじゃないか……!?
 ど、どどど……どうする。どうしたらいい。
 とばっちりだ。完全にとばっちり……俺が更屋敷太一を逃がしたと勘違いされてしまった。
 よりにもよって、広域暴力団・任侠会にだ……。
 警察に相談するか?
 い、いや、駄目だ……。
 自宅に電話がかかってきたという事は既に俺の住んでいる場所が割れているという事……。

 子機を持ったまま窓の外をチラリと覗く。
 そこには、二人の男がいた。

「……ひっ!?」

 米沢の口から思わず声が出る。

 か、堅気じゃない……。
 今、俺の自宅を張っている男達の人相。どう考えても堅気の人相じゃないぞっ……!?

『返事はどうした? 返事はどうしたかって聞いているんだよっ!』
「す、すいません……! すいませんでしたっ!」

 あ、謝れば許してくれるだろうか、謝れば許してくれるだろうかっ!?
 今の俺にできる事なんてこれ位の事しかない。
 な、何で俺がこんな目に……??

『……すいませんでしたで済めば警察はいらねーよっ! それで、更屋敷の野郎はどこにいる? どこへ連れて行ったっ!?』
「い、池袋ですっ! 池袋に連れて行きましたっ! た、多分、池袋駅の通路脇にいる筈です!」
『――いる筈ぅ!?』
「い、います! 必ずいます! 池袋駅には連れて行った時、そうアドバイスしました。絶対にいる筈なんですっ!」

 な、何でこんなにも更屋敷太一の事を……。
 もしかして、更屋敷太一を暴行したのは、暴力団関係者?
 高橋翔ではなく暴力団関係者だったのかっ……!?
 い、いや、今はそれ所ではない。

『――言ったな? 今、お前は言ったなぁ……。もし更屋敷太一が池袋駅に居なかったらどうする。どうしてくれるんだよっ!』
「い、池袋駅にいなかったらですかっ!?」

 そ、そんなの知る訳ないだろっ!
 池袋駅に居なかった場合の責任なんて俺には関係ない!
 しかし、そんな事を言ったら……。

 米沢は涙ぐむ。

 何で、俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだっ……。
 俺はただ高橋翔に……。

『ああ、そうだよ。ホームレスだったあいつが警察に被害届を出せる筈がねぇ。居住地が無いからな……。誰かが手引きした筈なんだよ。誰かがなぁ……。祐樹坊ちゃんの事を警察に垂れ込んだ奴がなぁ……。誰だろうなぁ? そいつは誰なんだろうなぁ!』

『すいませんでした。それは俺です』なんて言えない。
 言ったら殺される。自宅に電話が掛ってきた時点でどう考えても俺の事を疑っているであろう事がわかる。しかし、それを言葉にしたら殺される。

 祐樹坊ちゃんと言った。
 つまり、更屋敷太一は、暴力団関係者である祐樹坊ちゃんとやらから暴行を受けた。そして、更屋敷太一が被害届を出さないよう見張っていたと、そういう事だ。
 そして、最近になって、祐樹坊ちゃんとやらが逮捕された。もしくは、警察から事情聴取を受けた……!
 拙い。どう考えても拙い。

 今すぐに被害届を取り下げなくては……取り下げて貰わなければ……!
 更屋敷太一が余計な事を言わない様に、口裏を合わせる必要もある。
 更屋敷太一を唆し、被害届を提出させたのが俺だとバレたら非常に拙い。
 殺されるかもしれない。

 しかし、その一方で、被害届は、刑事処分に大きな影響を与えるため、電話で取り下げて貰う事はできない。また、被害者である更屋敷太一が直接、被害届を取り下げなくてはならない。
 早い所、更屋敷太一を探して被害届を取り下げさせねばっ!

「――さ、探します! 探させて下さいっ! 更屋敷太一を探すのを協力させて下さいっ! お願いします!」

 米沢は受話器を持ち目を瞑ると頭を下げる。

『……ちっ!』

 受話器から舌打ちが聞こえてくる。
 暴力団も更屋敷太一が見付からず焦っているのだろう。
 何となく希望が見えてきた。

『……いいだろう。一日だ。一日だけ時間をやる。もし見付からなかったらどうなるか、わかっているだろうな?』

 暴力団員の言葉に米沢は背筋を伸ばす。

「は、はいっ! 必ず、見付けて見せます!」
『ああ、それともう一つ。お前が言っていた池袋だが、更屋敷の野郎はそこに居なかった。その事だけ伝えておく。いいか? 一日だ。明日のこの時間までに更屋敷の野郎が見付からず、被害届が取り下げられなかったら……』
「ひ、被害届が取り下げられなかったら……?」
『――お前を山に埋める。警察に言っても埋める。必ずだ。必ず、実行する……わかったな? ――プッ、ツーツーツー』

 その言葉を聞き、米沢は戦慄する。

 本気だ……。もし俺が更屋敷太一を見付け、被害届を取り下げられなかったら、奴等は本気で俺を山に埋めるつもりだ……。
 山に埋めた死体が偶然見つかって殺人事件が発覚するのは稀と聞く。
 そして相手は広域暴力団・任侠会。やるといったら、必ずやる。必ずだ。

 米沢は持っていた受話器を床に落とすと、財布を持ち家を出た。

「――さ、探さなければ……探さなければっ! 絶対に更屋敷を探さなければっ!」

 探してすぐに被害届を取り下げねば、俺は土の中……!
 その事を強く認識した米沢はスマホでレンタカーの予約をしながら走り出す。

 家を出た際、暴力団関係者と思わしき二人組がこちらを睨み付けてきた。
 おそらく、この二人は俺の監視。そう俺は監視されているっ!

 そう認識した米沢は一心不乱にレンタカーを借りるため近くのステーションへと向かった。

 ---------------------------------------------------------------

 明けましておめでとうございます!
 今年が皆様にとって、幸多き一年でありますように!
 今年もどうぞよろしくお願いします!

 2022年1月3日AM7時更新となります。

 びーぜろ
しおりを挟む
感想 558

あなたにおすすめの小説

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

ガチャで破滅した男は異世界でもガチャをやめられないようです

一色孝太郎
ファンタジー
 前世でとあるソシャゲのガチャに全ツッパして人生が終わった記憶を持つ 13 歳の少年ディーノは、今世でもハズレギフト『ガチャ』を授かる。ガチャなんかもう引くもんか! そう決意するも結局はガチャの誘惑には勝てず……。  これはガチャの妖精と共に運を天に任せて成り上がりを目指す男の物語である。 ※作中のガチャは実際のガチャ同様の確率テーブルを作り、一発勝負でランダムに抽選をさせています。そのため、ガチャの結果によって物語の未来は変化します ※本作品は他サイト様でも同時掲載しております ※2020/12/26 タイトルを変更しました(旧題:ガチャに人生全ツッパ) ※2020/12/26 あらすじをシンプルにしました

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

処理中です...