ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ

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第381話 嘲笑

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「……哀れな女だ」

 スマホをデスクに置くと、仁海は首を振る。
 あの女、不信任決議で都知事の座を追われたにも関わらず、まだ東京都知事に返り咲けると思っているらしい。
 呆れ果てて物も言えない。自分が置かれた状況も理解できなくなるとは……ああはなりたくないものだ。

 あろう事か、もし私が都知事に返り咲いた場合、不信任決議に賛成した都議会議員が困った事になるだと?
 馬鹿な事を……百条委員会で糾弾されトチ狂ったか?
 そんな訳がないだろう。
 確かに、不信任決議が全会一致で可決されたにも関わらず、選挙でそれを覆されたら議員達の面目は丸潰れだ。
 当然、今後の選挙にも響く。そして、殆どの議員が職を失うだろう。
 しかし、あの百条委員会は池谷を失職させる為のもの……池谷が都知事に返り咲くことをそもそも想定していない。返り咲きはないと判断した為、全会一致で可決したのだ。
 それに、そうならない様にマスコミを使い無知で愚鈍な国民に対し、有利に選挙戦を進められるよう情報統制をしいているのだ。
 高橋翔とかいう若造がテレビ局や新聞社の社外取締役に就任し、無用な改革を進めていた様だが、マスコミの中にも跳ねっ返りは存在する。
 大組織ともなると、取締役が末端の従業員にまで影響力を及ぼすのは不可能に近い。
 ましてや、社外取締役なら尚更だ。
 何せ、社外だからな。基本的には事後報告。
 会社法の形式上、椅子を用意しているだけに過ぎない。
 我々はその跳ねっ返りを利用し、徹底的に池谷の評判や尊厳を貶める。
 これがマスコミの正しい使い方というものだ。
 BPOもファクトチェック団体も身内で固めてあるので、一方的に情報戦を仕掛ける事ができる。実に楽なものだ。
 つまりは民意が納得しなくても、放送内容はこちらで決めることができる。
 民意とは、我々にとって都合のいい国民の意思を意味する言葉。
 人間は流されやすい。声のデカい少数が、マスコミというメガフォンを使い多くの人々がこう思っていると発信するだけで、簡単に流され自分の意見を変える。
 起死回生を狙い都知事選に出た所で無駄な事……。
 ただ、完全に目がないと言われたら疑問が残る。
 何せ、今回の選挙は都民の注目を集め過ぎた……。投票率を下げる為、開票日が祝日になるよう調整したが、不安要素がない訳ではない。
 だからこそ念には念を入れて声をかけた。

「……だが、まあ問題ないだろう」

 選挙活動は順調に進んでいる。
 政財界の大物達にも応援を依頼した。
 著名な芸能人やインフルエンサーにも動画作成費用名目で金を渡し、若者世代の票取り込みも順調に推移している。
 若くして宗教国家の要職に就くセイヤには、ある種のカリスマ性がある。
 その容姿も相まって、都民の人気も高い。
 今の政治家には容姿もそれなりに必要だ。顔の良し悪しだけで票を入れる愚か者もそれなりに存在する。
 人が良さそうとか、訳のわからない理由でな……。
 顔を見ただけで、人の性格が推し量れる訳がないだろう。幻想を見過ぎだ。
 しかし、今回の場合、それが良い方向に作用する。

 選挙戦が始まった当日、駅前で選挙活動に励む池谷の姿を見て、仁海はほくそ笑む。

「……やはりマスコミの力は偉大の様だ。都知事選が終わったら彼等には礼を言わなければならないな」

 駅前には、一人で旗を上げ池谷の姿は側から見て滑稽だった。
 今の時刻は午前七時。通勤ラッシュの時間帯だ。以前の池谷であれば、例え、通勤ラッシュ時であろうとも大半の人が視線を向け、その中の約半数が「頑張ってください」と挨拶を返していた筈だ。
 しかし、今となっては見る影もない。
 人気は陰りを見せ、まるでそこに誰も立っていない様に人々が池谷の横を通り過ぎていく。

「くっくっくっ……」

 哀れ。こうして見ているのが可哀想に思えるほど哀れだ。
 哀れ過ぎて笑えてくる。

 池谷の凋落っぷりがあまりに面白いので暫く様子を見ていると、現職の都議会議員が駅に向かって行くのが見えた。
 その都議会議員は選挙活動をする池谷の姿を見ると顰めっ面を浮かべる。

「ああ、谷崎さん! 池谷です。おはようございます!」

 しかし、池谷のメンタルは鋼だった。
 明らかに嫌そうな表情を浮かべる谷崎の方へ向かっていくと、池谷は握手を求めるようにして手を差し出す。
 谷崎は思い切り皺を寄せると喚き立てながら言う。

「すまないが、私に触らないでくれないか? あんたと同類と思われたらどう責任を取ってくれる」

 谷崎の言葉に場は一時騒然となる。
 当然だ。通勤ラッシュ時のサラリーマンは皆、黙々と駅に向かって歩いて行く。
 そんな中、声を上げれば当然目立つ。

「た、谷崎さん……」

 谷崎の言葉にショックを受けたのだろう。
 池谷の足がその場でピタリと止まる。
 谷崎は池谷に差し出された手を見て嘲笑の声を上げた。

「……しかし、あんたも諦めが悪いね。都民に見放され落選は確実なのに都知事選に出るなんてさぁ。全会一致で不信任決議案が可決された事の意味をわかってないのかな? 都議会議員の声は都民の声だよ。皆、あなたが知事でなくなって良かったと思っている。それなのに落選の決まった選挙に態々出てくるなんて……まあ、これで諦めが着くでしょ。精々、頑張って落選して下さい。都民の皆様方はそれを望んでおられます」

 そう言うと、谷崎は薄笑いを浮かべながら、駅へ向かって歩いていく。
 その様子を見ていた仁海は噴き出す様に笑った。

「――ぶはっ! ぶははははっ! もう駄目だ……! 一体何をしたらああまで人に嫌われる事ができるんだね! 谷崎君も辛辣だな。いくら本当の事とはいえ、それを本人に直接伝えるとは……!」

 そう。都議会議員の声は都民の声だ。
 都民の代表たる都議会議員が、全会一致で不信任決議案を可決した。
 池谷には、その意味がまるで理解できていなかったらしい。

「おい。今の様子……ちゃんと撮ってあるんだろうな?」
「はい。第二秘書に命じ、池谷元知事の選挙活動はすべて動画に収めております」
「そうか……」

 選挙戦は候補者同士の足の引っ張りあい。
 選挙活動の様子を撮影し、都合のいい箇所を切り取り相手を貶める動画をSNSに流す事も票取り合戦には効果的だ。
 何より選挙活動中、公職選挙法に違反するような事をすれば証拠と共にすぐに選管に垂れ込める。

「なら、今の動画を拡散しておけ……」

 落選活動は徹底的に行う。
 それが仁海のポリシーだ。

「え? よろしいのですか?」

 今の様子……場合によっては谷崎の今後にも影響する可能性がある。
 しかし、仁海の意思は固かった。

「いいに決まっているだろう。第一秘書の分際でワシの決定に意を唱えるのか?」
「い、いえ、そういう訳では……わかりました」
「ふん」

 当然の様にそう言うと、仁海は鼻を鳴らす。
 最初からそうしていればよいのだ。
 都議会議員の声が都民の声であれば、国会議員の声は国民の声。
 秘書如きがワシの決定に意を唱える事自体烏滸がましい。

「……もういい。車を出せ」

 仁海はそう運転手に伝えると、都民に向かって頭を下げる池谷に軽く視線を向けた。
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