ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ

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第382話 思わぬ事態に焦る仁海

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「……は? 選挙活動をしない? そ、それはどういう事だ……??」

 池谷の様子見から帰ってきた仁海は、今日になって選挙活動をしたくないと曰うセイヤを前に素っ頓狂な声を上げる。

「……我は忙しい。教皇としての仕事があるのでな。開票日にまた来る。その事を伝えにきただけありがたいと思え」

 そして、言いたい事を言うと、サッサと帰り支度を始める。
 今日から選挙戦が始まる。
 著名人に選挙の応援依頼もかけたし、討論会の出演交渉も終わっている。
 今更、協力者に対して、セイヤは開票日まで姿を現すことはありませんなどとは言えない。

「……ち、ちょっと待て! 何を帰ろうとしている! ちょっと待てよ!!」

 選挙期間をすっ飛ばし、開票時のみ現れるなんて悪い冗談だ。
 組織票があるとはいえ、票を入れるのはあくまでも人……ここまで舐め腐った事をされては得られる票も得られなくなってしまう。

「冗談だろ? 冗談だよな!? 冗談と言ってくれ!!」

 本人不在の選挙戦なんて聞いた事がない。
 というより不可能だ。絶対に不可能。
 日本人の国民性を甘く身過ぎている。
 そんな舐めた態度で集まるほど票集めは簡単ではない。
 すると、セイヤは鼻を鳴らす。

「……我が冗談を言うと思うか? 我は冗談が嫌いだ。それに我はミズガルズ聖国の教皇だぞ? 教皇である我が何故、小さな町の長を決める為の選挙に二週間近くも時間を取られなければならないのだ。我を長にしたくばお前が努力しろ」

 ――は? はあああああああああああああっ!?

 セイヤの言葉を聞き、仁海は心の中で絶叫を上げる。

 舐めた事を抜かすなよ小僧……! まずは、その偉そうな言葉使いをやめろ。このワシが選挙に勝たせてやろうと言っているのだ! このワシがそう言っておるのだぞ!? それを貴様は……! 何が、我を長にしたくばお前が努力しろだ、馬鹿者め。ワシが欲しいのはお前の身柄であって、お前を長にしたい訳ではないわ! 調子に乗るのもいい加減にしろ!

「……なんだその表情は? まさかとは思うが我の判断に従えぬとでも言うつもりではあるまいな」
「……ぐっ!」

 こ、このクソガキッ……!
 ワシが大人しくしていれば図に乗りおって……!
 怒りのあまり血管がブチ切れて気絶しそうだ。
 しかし、ここでセイヤの機嫌を損ね帰られてはお終い。

 仁海は怒りを押し殺すと、笑っていない目はそのままに和かな表情を浮かべる。

「……選挙戦はそう甘くない。都民は騙されやすく愚かだがプライドだけは無駄に高い。批評家気取りで頭を下げお願いしてくる者にのみ票を入れる高飛車の様なゴミムシだ。組織票とはいえ選挙期間中、姿を現さなければ、間違いなく他の候補者へ票を投じるだろう」

 明らかに過言で無礼だが、そんな事は関係ないと言わんばかりに力説する。
 仁海はこの一手でセイヤと東京都知事のポスト二つを手に入れるつもりだ。
 しかし、それは諸刃の剣。
 逆にセイヤが東京都知事のポストを得なければ、その両方を失う可能性がある。

「二週間ちょっとだ……たった二週間ちょっと、選挙戦に出馬するだけで八兆円もの財源を自由にする事ができるんだぞ? 君はそれをフイにするつもりか?」

 実際には、東京都知事に予算を自由自在に扱う権利はない。
 しかし、その事を知らぬセイヤは、確かにそれを無意に失うのは痛いなと考え直し「ふむ」と一言呟く。

「……組織票があれば当選間違いなしと聞かされていたが、嘘であったか。だがまあ良かろう。お前の努力だけではどうにもならないのでは仕方がない」

 セイヤは指を顎に当て考える。

「……一週間だ。一週間だけ時間を割いてやる」
「た、たったの一週間……?」

 既に選挙運動期間に入っている。
 公開討論会の出席やテレビ出演、挨拶回りを考えると、到底、一週間では時間が足りない。

「何だ。不服か?」

 ギリッ

 セイヤの言葉を受け、仁海は思わず歯を食いしばる。

「……わかった。難しいが何とかしよう」

 正直言ってギリギリだ。
 リスケは必須。組織票が離れないよう手を打つ必要もある。
 一瞬、いっその事、無理矢理契約書にサインさせてしまおうかとの考えが頭をよぎるも、失敗した時の危険性の高さから断念。
 歯を食いしばり悔しがる程度に留める。

 こいつは高橋翔とは違う。
 ミズガルズ聖国の教皇だ。
 一歩間違えば、聖国との戦争になる。
 故に、契約書による奴隷化は万全を期さなければならない。

「……では行くぞ。何度も言うが我は忙しい。さっさと下々の元へ案内せよ」
「ああ、わかった……行くぞ!」

 そう言って、第一秘書に八つ当たりすると、仁海は険しい表情を浮かべ、選挙カーが停めてある駐車場へと向かった。

 ◆◆◆

「本当に大丈夫なの……?」

 選挙戦開始一日目。
 駅前での演説を終えた池谷は自信満々な態度の高橋翔を見て困惑した表情を浮かべる。
 今の池谷は社会的に抹殺されたも同然だ。
 現に都議会議員からまるで服に付いた虫を払うかの様な対応をされてしまった。
 しかも、どうやらその光景を撮影していた者がいた様でその再生回数は既に一万を超えている。コメントも罵詈雑言一色だ。
 身から出た錆とはいえ、見ているだけで心が痛む。

「ああ、これでいい。物事は俺の想像通りに進んでいる。心配はいらないよ」
「本当にそうかしら……? 私の中傷ポストが溢れかえっているのだけど……」

 それに、高橋翔が超常の力を持っているとはいえ、選挙活動をするのは初めての様子。はっきり言ってもの凄く不安だ。

「村井とピンハネの奴が設立した公益法人に都税の中から数兆円の金を流し、回収不能になったのは事実だろ? まあ延焼を恐れ、百条委員会の連中はその事を争点化していないみたいだけど……」

「あ、あれは隷属の首輪と契約書の効果で仕方がなく……」

 都議会議員が全会一致で可決したのもピンハネの力による所が大きい。

「――だが、利権を生み出し甘い汁を吸っていたのも、都税を反社や活動家に流していたのも事実だろ? 少なくともあんたはさ」

 うっ……!?

 確かに、碌な確認もせず都税を流していたのは事実。
 しかし、仕方がなかったのだ。
 過去、市民団体の強い要請により、公務員の削減を余儀なくされた。それは天下りの排除だけに留まらず、給与も人員も削減されている。
 これでは、行政サービスを維持できない。
 だからこそ、それを補う為に、委託という形を取り公益法人に協力してもらうという体裁を取っている。
 確かに、結果として活動家や反社に都税が流れてしまっているが、それも仕方のないこと。制度としてそういう風にできているから本当に仕方がなかったのだ。

「――だが、あんたはこの出直し選挙で過去の行いを反省し、払拭しようとしている。例えば、有名無実化している監査請求制度を変えようとしたり、補助金や助成金、委託費用の厳格運営を訴えたりと、それは中々できる事じゃない」
「…………」

 いや、それは何というか……仁海や私を百条委員会に掛けてまで排除しようとした都議会議員達に対する復讐心から来るもので……。
 問題が起らなければ、今まで通り都税を垂れ流すつもりだった。
 監査請求制度についてもそうだ。東京都知事に再任される場合、触らず今まで通り放置する予定だった。
 しかし、今の現状がそれを許してくれないのだから仕方がない。

 都税の使い方を厳格化し、監査請求制度を正常化する。
 正常化して困るのは、甘い汁を吸っていた活動家と反社、そして、
 都議会議員とその支援者だけなのだからそれをしない理由がない。

 私だけが責められ東京都知事の座を奪われるのはあまりに理不尽だ。

「見返してやろう。そうすれば、税金に集るゴミ共を一網打尽にできる」
「……そうね。東京都知事の座を取り戻したら見返してやるわ」

 そう言うと、池谷は拳を強く握り締めた。
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