ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ

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第396話 解散

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 ここは、東京都議事堂内にある会議室。
 百条委員会の委員長、奥田はニュースを見てあんぐりとした表情になる。

『――速報です。先日、都議会の不信任決議を受けて失職し、出直し知事選で再選された池谷氏に再び不信任決議案が提出されました。二度目の不信任決議案を受け、池谷都知事は十日以内に議会を解散する見込みです。繰り返します。池谷都知事に不信任決議案が提出されました……』

 再び出された不信任決議案に対抗する形での解散報道を受け、不信任決議案に賛成した議員達は百条委員会の委員長である奥田に詰め寄る。

「聞いていた話と違う!」
「あれはパフォーマンスじゃなかったのか!」

 池谷を裏切り不信任決議案に賛成した議員達は、再び提出された不信任決議案が可決された事を受け怒鳴り散らす。
 それもそのはず……
 都議会議員達にとって池谷が再任される事は晴天の霹靂……あってはならない事だ。
 対して百条委員会の不祥事も相俟って、都議会議員達の信頼は地に落ちたも同然。
 それでも、百条委員会を開いてしまった以上、何かしらの成果は示さなければならない。
 しかし、圧倒的大差で都民に再任された池谷を敵に回せば、次の選挙で落選することは必至。
 ならば、形だけでもと口裏を合わせ臨んだ百条委員会の結果報告と可決される筈のない不信任決議……それが可決されてしまった。
 百条委員会の結果報告も結果ありきの結論であると世論に馬鹿にされ、それに基づき臨んだ二度目の不信任決議案がまさかの可決……
 正直、泣きたかった。何でこんな事になったのかと全力で……
 所属する党からは内々に次の選挙では公認しない旨の連絡を受けている。

「何でこんな事に……」

 他の議員の呟きに、奥田は烈火のごとく反応を示す。

 ……何でこんな事に?

「何でこんな事にってそれはこっちが聞きたい位だわァァァァ!! 根回ししたよな!俺、根回ししたよな!! 誰が賛成し、誰が反対に回るかちゃんと根回ししたよなァ!」

 齟齬が出ないよう入念な打ち合わせもした。なのに何だこの結果は!!

 不信任決議案が通り、池谷が一人寂しく都議会を去るならいい。
 しかし、解散だけは駄目だ。
 前回と違い今回は圧倒的多数の都民を味方に付けての再選……!
 不信任決議案が通れば、池谷は間違いなく議会を解散する。
 だからこそ、不信任決議案を可決させない様、内々に話し合いを持ち、不満を表明する為、ギリギリ可決されないラインを狙って票操作した。
 だが、蓋を開けてみればこれだ。
 反対する予定の議員の多くが『自分は意見を曲げず反対しましたよ』と意見を表明する。ただそれだけの為に、賛成に回った。
 可決には出席議員の三分の二以上の賛成が必要となる。
 大方、自分一人が賛成に回っても結果は変わらないとでも考えたのだろう。
 その結果がこれだ。
 自分一人が賛成に回っても大丈夫と考えた議員が大量発生した結果、二度目の不信任決議案は可決。
 我々は公認を外され、解散選挙が行われる事となった。

 池谷都知事もこのことを予見していたのだろう。
 池谷に議員擁立の動きがある。
 今の所、新たに党を立ち上げる予定はない様だが、圧倒的多数に支持され再任された都知事の公認を受けた無所属立候補者。
 はっきり言って驚異的だ。
 与野党関係者が池谷と連絡を取ろうとしている様だが、連絡も取れていない。
 もしこのまま、解散選挙が行われれば、与野党は大半の議席を無党派に奪われ制御不能となる。それだけは避けなければならない。

 事実。奥田が所属する党からもなんとか解散選挙は回避するようにとの要請が今入った。
 しかし、無理だ。不信任決議案が通ってしまった以上、都知事が退任するか、解散するかの二択しかない。

「この裏切り者共がァァァァ! お前らが賛成に回るからこんな事になったんだろうがァァァァ!!」

 少なくとも、不信任決議案が思惑通り否決されていればこんな事にはならなかった。
 あと数年は現体制を維持できた筈だ。

「なのに、お前らの……お前らの勝手な行動で……!」

 奥田は体を震わせながら都議会議員達を睨み付ける。

 都議会議員の座を失えば、東京都からの公共工事で成り立っている身内の建設会社は潰れる。
 今回の件で、住所は割られ、家の周りには見知らぬ人が徘徊する様になった。
 誹謗中傷や殺害予告までされている。
 今すぐ逃げ出したい所だが、辛うじて逃げないのは都議会議員という旨みある椅子に座れているからだ。
 なのに……なのにっ!

「ふざけるなよッ! ふざけるなッ! 何でこの俺がお前らなんかと一緒に落ちなきゃいけないんだ! ふざけるなッ! ふざけるなァァァァ!」

 しかし、解散選挙が行われるのが確定的な今、委員長である奥田の落選は不可逆的に確定。
 組織票が役に立たない以上、奥田にできる事は何もない。

 ここまでの事をしたんだ。
 池谷は絶対に膿を出し切る。
 池谷を裏切った全ての者や事業をウィズアウトする。

「どうすりゃいいんだよォォォォ!」

 脇目も振らずそう声を荒げると、会議室のドアがガチャリと音を立てる。
 音のした方向に視線を向けると、そこには再選されたばかりの東京都知事、池谷の姿があった。

 ◆◆◆

「な、ななななな……何故、お前がここにッ……!?」

 目の前にいるのは、二度目の不信任決議を受け、都議会を解散する選択をした池谷。
 池谷は会議室に集まった都議会議員達を眺めると、奥田に視線を向けフッと微笑む。

「えっと……確か、百条委員会の委員長、奥田さんでしたね。その節は大変お世話になりました」
「?」

 言っている意味がわからず、ポカンとした表情を浮かべていると、池谷は感謝の言葉を述べる。

「あなたがマスコミに有る事無い事を吹聴してくれたお陰で、あなた方とマスコミの信頼性を地に落とし、選挙で大勝する事ができました。全てあなたのお陰です。しかし、逆にあなた方は大変そうですね? 百条委員会と自分達のメンツを慮るあまり結果を捻じ曲げないといけないなんて……今も一生懸命情報操作に勤しんでいるようですが、オールドメディアによる情報操作は時代遅れですよ? 都民はそんなに愚かではありません。与えられた情報だけでなく、自ら情報を収集し、取捨選択する力を持っている。その結果がこれです。マスコミは大勝の要因をSNSにあると吹聴していますが、違いますよ。今回の選挙では普段、SNSに触れる事のない世代からの票も多く頂きました。あなた方の敗因は単に私を煽り過ぎた。ただそれだけです」
「……っ!」

 何か言ってやりたいが、何も言い返す事ができない。
 そんな奥田を見て、池谷は思い出したかの様に言う。

「ああ、そういえば先ほど、『お前』という言葉が聞こえてきたと思うのですが……奥田委員長? まさか、この私に言っている訳ではありませんよね?」
「……っ!?」

 言った。言ったけど……!

「……どうやら置かれた立場を理解していない様ですね。今、あなた方の命運は私が握っているのですよ?」

 そんな事は言われなくてもわかってる。
 だから困っているんじゃないか。
 この状況を平和的に終わらせる為には、池谷が一人で再辞任する必要がある。
 だが、それは無理だ。どう考えても無理。
 何せ、今回は都民が味方に着いている。
 開票率は脅威の95パーセント。
 その内、80パーセント強が池谷に投票した。
 都民の約八割を敵に回して、当選できる筈がない。

 奥田は池谷の前に立ち鼻を鳴らす。
 気付けば、椅子に座り足を組む池谷の靴にすがり付いていた。
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