家の中で空気扱いされて、メンタルボロボロな男の子

こじらせた処女

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弟(前)

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 家に帰りたくない。
 塾の帰り、公園のブランコに座る時間だけが俺の唯一の癒しの時間。今日返された模試の結果、見せたら母さん、また発狂するだろうな。考えるだけで胃がきゅうう…と収縮する。


 中学校に上がるまでは良かった。勉強したら成績はそれなりに上がったし、特段苦労もしなかったから。でも、いざ入学してみると、自分はそこまで頭が良くないって事に気づいた。授業の進度が速すぎて課題を終わらせるだけで3時間。塾にも行って帰ってきたら11時半。そこからまた勉強して寝るのは1時を回る。毎日毎日遊び呆けている友人だって、夜遅くまで部活に勤しんでいる奴だって、俺より遥かに良い点数をとってくる。なのに俺は、やっと中間層ってところ。落ちこぼれた奴らが毎日ゲーセンとかカラオケに行っているのが羨ましいと思うようになった。
 兄貴が親戚の家に逃げてから、俺にかかる期待が大きくなった気がする。いつからだろう、テストの結果を見せるのが怖くなったのは。今までは悪い点数という概念が無かった。家を出て行った兄だってサボってるからだと軽蔑していた。しかし、違ったのだ。人には努力ではどうにもならない領域がある。兄はそれが少し早かっただけ。中学に入って挫折を知って初めて理解した。ヒステリックに喚く母さんが怖い。食器を叩き割る音がどこにいても聞こえる気がする。そんな母親に嫌気が差したのか、父親は最近帰ってこない。それでまた、母さんがヒステリーを起こして。
 出来るだけ機嫌を損なわないように、怒りの琴線に触れないように。そうやって過ごしていると不思議なものだ。夜になって、疲れているのに頭は冴えて眠れない。かといって勉強するほど頭は回らないからボーッと時間だけが過ぎて。こっそり買った睡眠薬で無理矢理寝ている、そんな状態だ。

この半年でガラリと家の雰囲気は変わってしまった。今だって、母親の機嫌を逆撫でしない言い訳は何か、そればかり考えている。


「ただいま…」
「亜季、模試の結果は?」
「ぁ、おれ、今回…」
「見せなさい?」
玄関で靴も脱がず。震える手でファイルを取り出すと、それごと奪い取られる。
「…Cってなによ。このレベルでコレって…」
心臓がうるさい。頭の血管がバクバクしている。
「…ごめん」
今日の母さんは静かだ。ただ、ため息をつく。そして、絶望したように下を向いて、部屋に篭ってしまう。
 リビングに置かれたご飯は父さんの分と合わせて2人分。正直胃が痛くて食べたくない。でも、食べなかったら母さんが何て言うか分からないから。
(味…しない…)
 砂を噛んでるみたい。ずっと心臓がドキドキしてる。食べ終わって何もする気になれなくて布団に横になるけどやっぱり寝れない。一日一錠の睡眠薬も効きが悪くて最近は二錠取り出すのが日課。
 あ、よかった。今日はちゃんと眠れそう。目を閉じるのが辛くない。意識がどんどん遠くなっていく感覚に安心を覚えた。


 いきなり部屋のドアの開く音がした。寝ぼけ眼にその音の方を見る。
「さっさと起きなさい」
時計を見たら、まだ5時前。
「何もカバンから教科書が出てない。あんな結果だったのに勉強しなかったの?」
だって、昨日は疲れて胃が痛かったから。何も出来そうに無かったから。そんな事を言ってもどうせ言い訳だと怒られる。
「起きなさい」
腕を引っ張られて痛い。投げるように椅子に座らされる。母さんは昨日と打って変わって興奮状態。何を言っても無駄だ。でも。
(あたまいたい…)
体が全部しんどい。昨日と変わらず胃が痛いし、頭も重くて鈍く痛む。文字が全然頭に入らなくて、今すぐに眠ってしまいたいけど変に覚醒して目の奥が痛い。
「さっさとやりなさいよ」
耳をつねられて、無機質な声をかけられて。
「…といれ、いかせてください、」
椅子に座った時から鈍く疼いていた下腹。緊迫感が余計に助長して座ってるのも正直辛くて足を擦り合わせてしまう。
「そう言って逃げる気でしょ。これが終わるまで部屋から出さないから」
机に放り投げられたのは昨日帰ってきた模試。何分かかるんだよ。
「すぐかえってくるから、がまん、できない、」
「昨日少しでもやってれば良かったのにね」
あ、だめだ。俺の言葉、全然伝わってない。
 諦めてシャーペンを握り直す。文章が全然入ってこない。小便と、眠気と、だるさと。後ろの母さんの圧で緊張してまた漏れそう。
「っ、っ~、」
咄嗟に前を押さえた。ジワリと先端が温かかった気がする。
「っ、~、っく、ぅ、」
ペンをも投げ捨て、両手でチンコを揉み込む。
「とい、れ、」
漏れる。漏れる漏れる漏れる。何で朝っぱらからこんなことしなきゃダメなんだよ。何で、寝かせてくれねえんだよ。睡眠薬せっかく飲んだのに。今日ずっとしんどいじゃん。
「っは、ぁ、ぅ、でぅ、でちゃう、」
まるで子供のように、ズボンの中に手を入れて、足をくねらす。それでも母親は何も言わない。感情のない目で、罰だと言わんばかりに見つめてくる。
 もう、無理。まだ3問しか進んでない。
「いっしゅんだけ、といれ、」
「すぐ…かえってくる、から、」
じゅわり、じゅわりと水滴がこぼれていく。
無言を許しと勝手に解釈して震える手で立ち上がる。つぅ…と、足を汗が滑り落ちた。
 小さな子供のようにみっともなく前を押さえながら廊下を走る。
「あっ、ーーあ、」
廊下のど真ん中。じゅうう、と勢いよくおしっこが噴き出す。
「ああっ、あっ、」
足の裏はびちゃびちゃで、それでも走って。漏らしながら走ってそんで、ズボンも脱がないまま便器に座った。
「あーあ、こんなに撒き散らして。幼稚園児さん?」
母親の声にまた動悸が激しくなってドアを閉める。未だ出続けているおしっこに、かけた鍵にかまわず母親は入ってきた。
「昨日ちゃんとやってたらよかったのにね」
「…」
「何よその目。お母さんが悪いって言うの?」
「えぇ!?何!?悪いって言うの!?」
「…ごめんなさい、」
反論するのも疲れた。頭がボーッとして働かない。
「まあいいわ。ここで脱いじゃいなさい。汚いから」
下見られるの、嫌だ。だって俺、もう中学生だし。でも怒られるのはもっと嫌で疲れるから。
 タオルで丁寧に、丁寧に拭われる。もはや思考は停止している。半ば夢みたいだと思った。







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