7 / 36
7
しおりを挟む
始発の電車が待ちきれなくて、薄暗い中をひたすら歩く。でも人の足の歩みは結局遅いから、到着はせいぜいいつもの1時間前。バスケットボールの跳ねる音が体育館で聞こえた。
「あ、綾瀬。どうしたのこんな早くに」
恐る恐る扉を開けると、奥から白衣を羽織ろうとしている先生が出てくる。あ、やばい。喋ったらまた泣きそう。
「…、」
「珍しいね。朝練の子がさっき門通ってったぐらいだよ?」
「…ん、」
「最近あんまり来てくれないから先生寂しかったのよ?あれからクラスの子と何にもない?」
「ん、ゆるしてくれた、」
「そっかぁ…それで、何で下向いてるのかな?先生顔見たいなぁ」
「っ、゛、」
だって、一晩中泣いて見せられないぐらいにひどい顔だし。風呂にも入ってないから汚いし。
「綾瀬?どっかしんどい?言ってごらん?」
昨日からピンと張っていたものが、切れた。先生の手が頬に触れた瞬間、喉がグッと詰まる。
「せんせ、…ぇ…」
何を言えばいいか分かんない。頭の中のモヤモヤを言語化できない。
「どしたの…かなしーことあった?」
あ、俺子供みたいだ。屈んだ先生はこちらを覗き込んで、腕を優しく撫で始める。
「ぁ゛、のね、…」
「うん、聞いてるよ」
「…おなか、すいた…ぁ、」
「うん…ってえぇ!?お腹?痛いんじゃなくて?」
先生が驚きながら笑っている。
俺だって聞きたい。何でこんな事を言ったのか。
「どーしよっか…空腹で泣く子は初めてだからなー」
「な゛んで、わらうの、?」
そりゃあこんな意味の分からない理由で泣いてたら笑うだろう。俺だって友人がそう言って泣き始めたらドン引きするし。
「ごめんって。朝ごはん食べた?」
「たべて、ない、ちょこたべたい…ちょーだい、」
「そんなんじゃお腹溜まんないでしょ?うーん、どうしよっか…先生のお弁当食べる?」
机の上に置いてあったお菓子を取ろうとすると腕を掴まれた。それでまた、泣きたくて仕方がない。
「…ん、っ゛ぅ゛~…」
「唇噛み切らないの。本当どうしちゃったの今日…そんなにチョコ食べたい?」
違う、多分理由はなんでも良かった。どうしようもなく泣きたくて、誰かに見て欲しかったのだ。でもそんなこと言えるわけもなくて、ただただ涙を溢してしまう。
「もぉ…そんな泣いてると先生まで悲しくなっちゃう…おいで、ね?お茶入れよっか」
唐揚げ好き?と背中を何度も摩りながら聞いてくる先生。ああ、絶対困っている。早く泣き止まないと、そう思うのにできない。先生も一言迷惑って言ってくれたら。ワガママ言うな、自業自得だと言ってくれれば。
甘すぎる先生の暖かい手に触れてしまったらもう何でも許してくれるって思ってしまう。今の俺はドロドロに理性が溶けた、赤ん坊同然だ。
「無理して食べなくて良いのよ?ご馳走様する?」
「…おなか、すいてたはず…なんだけど…」
唐揚げを一つ、卵焼き。ご飯を半分くらい食べた時点で進まなくなる箸。ずっと胃がチクチク痛くて横に体を倒したい。
「目の下クマ出来てんね…昨日ちゃんと寝た?」
「んーん…」
「授業始まる前まで寝ておいで。起こしたげるから」
「…いい…」
「何なら1時間目休んじゃう?そんな体じゃ持たないよ」
「…いい、」
「なら家帰りな。絶対倒れるから」
家、それだけは嫌だ。でも、あの日から治ってないし。絶対に布団、汚すし。
「…いいって…大丈夫だから…」
「ダメです。今日の綾瀬の選択肢は2つ。ここで休むか、帰るか。どっち?」
いつもは甘すぎるくらいに優しいくせに、こういう時はどうごねても意見を曲げてくれない。
「…ねます」
先生はずるい。
「あ、綾瀬。どうしたのこんな早くに」
恐る恐る扉を開けると、奥から白衣を羽織ろうとしている先生が出てくる。あ、やばい。喋ったらまた泣きそう。
「…、」
「珍しいね。朝練の子がさっき門通ってったぐらいだよ?」
「…ん、」
「最近あんまり来てくれないから先生寂しかったのよ?あれからクラスの子と何にもない?」
「ん、ゆるしてくれた、」
「そっかぁ…それで、何で下向いてるのかな?先生顔見たいなぁ」
「っ、゛、」
だって、一晩中泣いて見せられないぐらいにひどい顔だし。風呂にも入ってないから汚いし。
「綾瀬?どっかしんどい?言ってごらん?」
昨日からピンと張っていたものが、切れた。先生の手が頬に触れた瞬間、喉がグッと詰まる。
「せんせ、…ぇ…」
何を言えばいいか分かんない。頭の中のモヤモヤを言語化できない。
「どしたの…かなしーことあった?」
あ、俺子供みたいだ。屈んだ先生はこちらを覗き込んで、腕を優しく撫で始める。
「ぁ゛、のね、…」
「うん、聞いてるよ」
「…おなか、すいた…ぁ、」
「うん…ってえぇ!?お腹?痛いんじゃなくて?」
先生が驚きながら笑っている。
俺だって聞きたい。何でこんな事を言ったのか。
「どーしよっか…空腹で泣く子は初めてだからなー」
「な゛んで、わらうの、?」
そりゃあこんな意味の分からない理由で泣いてたら笑うだろう。俺だって友人がそう言って泣き始めたらドン引きするし。
「ごめんって。朝ごはん食べた?」
「たべて、ない、ちょこたべたい…ちょーだい、」
「そんなんじゃお腹溜まんないでしょ?うーん、どうしよっか…先生のお弁当食べる?」
机の上に置いてあったお菓子を取ろうとすると腕を掴まれた。それでまた、泣きたくて仕方がない。
「…ん、っ゛ぅ゛~…」
「唇噛み切らないの。本当どうしちゃったの今日…そんなにチョコ食べたい?」
違う、多分理由はなんでも良かった。どうしようもなく泣きたくて、誰かに見て欲しかったのだ。でもそんなこと言えるわけもなくて、ただただ涙を溢してしまう。
「もぉ…そんな泣いてると先生まで悲しくなっちゃう…おいで、ね?お茶入れよっか」
唐揚げ好き?と背中を何度も摩りながら聞いてくる先生。ああ、絶対困っている。早く泣き止まないと、そう思うのにできない。先生も一言迷惑って言ってくれたら。ワガママ言うな、自業自得だと言ってくれれば。
甘すぎる先生の暖かい手に触れてしまったらもう何でも許してくれるって思ってしまう。今の俺はドロドロに理性が溶けた、赤ん坊同然だ。
「無理して食べなくて良いのよ?ご馳走様する?」
「…おなか、すいてたはず…なんだけど…」
唐揚げを一つ、卵焼き。ご飯を半分くらい食べた時点で進まなくなる箸。ずっと胃がチクチク痛くて横に体を倒したい。
「目の下クマ出来てんね…昨日ちゃんと寝た?」
「んーん…」
「授業始まる前まで寝ておいで。起こしたげるから」
「…いい…」
「何なら1時間目休んじゃう?そんな体じゃ持たないよ」
「…いい、」
「なら家帰りな。絶対倒れるから」
家、それだけは嫌だ。でも、あの日から治ってないし。絶対に布団、汚すし。
「…いいって…大丈夫だから…」
「ダメです。今日の綾瀬の選択肢は2つ。ここで休むか、帰るか。どっち?」
いつもは甘すぎるくらいに優しいくせに、こういう時はどうごねても意見を曲げてくれない。
「…ねます」
先生はずるい。
33
あなたにおすすめの小説
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる