女性恐怖症の高校生

こじらせた処女

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「秋葉くん帰っちゃったよ?いいの?」
未だに顔を上げずにぐずぐずと鼻を鳴らしている綾瀬は黙ったまま唸っている。
「体熱いね。今日いつからしんどかったの?」
「…しらない、」
「知らないことはないでしょ?どーしたの今日…甘えたくなっちゃった?」
「…先生がわるいんじゃん」
「…そーだね。当たっちゃった先生が悪いね」
「おれ、いっぱい話したいことあったのに…むし、するからっ、」
「ごめんね?」
「…あやまってほしいわけじゃ、なくて…せんせー、おれね、もう子供じゃないんだよ?」
「…うん、知ってる」
「おれね、貯金も結構溜まったし、資格も取れたし。秋葉さんとね、一緒に住んでみようかっていう話も出てる」
「…うん、いいじゃん。あんないい子そうそう居ないと思うよ」
「そーやって、また、………先生だってやだなって思う時、あるでしょ?」
「んー、まあ…人並みには…」
「俺はそれを言ってほしいの。先生いっつもやさしいけどさ、それって家の中でも先生してたからでしょ?」
「…それはないよ」
「あるもん、…おれはさ、先生だけ我慢するの、やだ…だから、…うまくいえないんだけど、」
ああ、成長したとかそんなんじゃなくって綾瀬は昔から優しい子。今まで大きな喧嘩なくやってこれたのも、綾瀬が俺よりずっとずっと大人で、穏やかだったから。こんなに素直で良い子なんだから、いつかは誰かのもとへ行くに決まってるじゃん。
「…綾瀬の話聞きたいな」
「…おれの?」
「いっぱい話したいことあるって言ってたでしょ?それ、聞かせてほしい」
やっと上げた綾瀬の顔は不服そうで、納得していないという風だった。変に話を逸らされたとでも思っているのだろうか。
「おちゃ、飲みたい…」
「はいはい、何がいい?」
「また子供扱いしたっ、俺がいれる、せんせーは座ってて!!」
ただお湯を入れるだけなのに、熱あるんだから座ってな、そういうけれど綾瀬は台所に消えていく。


「おれ、もー大人なの、せんせーのわがままも聞きたいの、」
なら、出て行かないで。心の中で呟いたから綾瀬には伝わっていない。
「俺さ、鈍いからさ、また先生に我慢させちゃう、」
「そーねぇ…忘れちゃった」
「ごまかさないでっ、」
「思い出したら言うよ。それまで綾瀬の話、聞いてていい?」
「…わかった」
マグカップが二つ、机に乗せられる。
 懐かしい。仕事がひと段落してホッと一息着いた時、控えめにドアがノックされて。あの時間がきっかけだっけ、成り行きでなったこの職業に愛着が湧いたのは。ああ、この仕事も案外悪くないじゃんって心の底から思えたのは。

 今みたいに綾瀬がいっぱい喋って、それを聞くのが好き。口元に人差し指を添えて笑う顔が好き。先生先生って大好きを声と行動、表情全部で伝えてくれる綾瀬が好き。
 ぎゅーーって抱きしめたくなるくらい、愛おしいほどに好き。
「ってまた俺…喋りすぎたっ、先生、思い出した?…せんせい?どうしたの?悲しいの?」
 あ、俺、泣いてる。綾瀬の戸惑った声でやっと気づいた。
「先生?ごめん俺、何かしちゃった?」
「…ごめんね、ちがうよ、」
「しんどい?こんな時間だから、えーっと、、っ、はいっ、」
立ち上がった綾瀬は急に俺の肩を引き寄せ頭を撫で始める。
「っ、え、なに、」
「せんせい、いつも俺が泣いてる時にやってくれたから…いや?」
「っ、んーん、でもぐるじい…」
「あっごめん、えーっと、えーっと…」
離したと思ったら、ワタワタとタオルを引っ張り出して俺の目元を拭い始める。
「ふふっ、」
「え、なに、?」
「ごめんね綾瀬」
「もー、先生は悪いことしてないじゃん、」
「ううん、ごめんね」
「せんせい、」
「先生ね、寂しかったの」
綾瀬、先生はね、綾瀬が思っているほど大人じゃないの。
「綾瀬が来る前は1人でも何とも思わなかったのに、今は寂しいの」
「秋葉くん」が綾瀬を名前呼びしたのにも嫉妬したし、毎週金曜が来るのが嫌だった。
「1人でご飯食べるって、美味しくないね」
失敗しろって何度も何度も思った。綾瀬の隣が男って聞いた瞬間、後悔した。
「だからさ、たまには帰ってきてよ。秋葉君と一緒に」
嫌だ、早く別れろ。別れて泣きながら戻ってきて。そんで、俺に慰めさせて。先生先生って縋ってほしい。
「いいの…?おれ、帰ってきていいの…?」
「もちろん。ここは綾瀬の家だから。辛くなったらいつでも、ね?」
「…せんせ、俺が出てくまで、毎日ご飯食べよ、」
「ん、」
「朝も、一緒に食べよ?」
「いいよ」
「きょう、先生の布団で一緒に寝て良い?」
「いいよ」
あと何度ご飯を一緒に食べられるだろう、何度布団に潜り込んで来てくれるだろう。
 あと何回、おかえりを聞けるだろう。
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