女性恐怖症の高校生

こじらせた処女

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 もう半分泣いていた。どうにもこうにも出来ない欲求を抱えて進める足に、つぅ…と液体が垂れていく。
「っふ、っ、は、」
どこ、歩いてるか分かんない。どれほど滑稽な格好しているのかなんて考えたくない。スーツ姿で、前押さえて、足擦り合わせながらケツ突き出している男がどう見られているかなんて。
「……っは、、、ぁあっ、」
ぶぁああああ…
熱が、広がる。太ももにも、手にも、放出されている部分を中心に、勢いよく。
アスファルトに染み込んでいく。靴の中に、染み込んでいく。
っしょおおおおおおお…
握りしめた手を緩めた。足も、止めた。止めざるを得なかった。道の端に寄ってしゃがんだことがせめてもの理性だった。


「ぁ、あ…」
 漏らした。外で、この歳で。就職祝いって先生に買ってもらったスーツは尿でビシャビシャ。終電ももう間に合わないし、こんな格好じゃタクシーにも乗れない。
「っ゛、ぅ゛、」
もう、無理。しゃがんで蹲って、何の解決にもならないのに。
(先生に、電話…)
こんな時に助けてくれる人なんて、先生しかいない。寝ているだろうか、疲れてるだろうな、何て思いやる余裕はない。だってそうしないとどうしようもないから。
 でも、通話ボタンが押せない。だって、折角最近上手くいってたのに。ちゃんと、「普通の人」みたいに恋愛出来ていたのに。やっぱりダメでしたって?セックス出来ずに逃げ出しましたって?
 情けなさすぎて、死にたい。絶対先生は否定しない。大丈夫って頭を撫でてくれる。夜も一緒に寝てくれる。でも。


「あのぉ…大丈夫ですか?」
不意に後ろから声がかかる。そりゃそうだ。ここは人通りが少ないとはいえ、通らないわけではない。こんな夜更けに蹲ってるなんて不審の極みだろう。
「すみ゛、ませ、」
「あれ…あなたは…」
顔を覗き込まれるけれど俺は誰か分からない。それでも相手方は何やら心当たりがあるようで、でもジロジロ見られるのは少し居心地が悪い。
「あ、そうだ!電車だ、!あの、覚えてますか?三ヶ月ぐらい前、電車で過呼吸をおこしたものです、あの時は本当にありがとうございました…」
お礼を言われ、記憶が蘇る。確かにそんなこともあったっけ、貰ったお菓子、美味しかったなってぐらいだけど。
「どうかされました?気分でも…ぁ、」
「ぁ、ぃえ…これは…」
テラテラと蛍光灯の光を反射した水たまり、ぐしょぐしょのスーツ。そういう「失敗」をしたのが明らかだ。
「…うち近いんで、寄って行きますか?着替えもお貸ししますよ」
「ぁ、ぃや、っ゛、ごめ、なさ、っ゛…ぁ゛、ぅ゛、」
やばい、涙、止まらない。安心なのか、恥ずかしさなのか、分からない。次から次へと溢れるそれは、地面の水溜まりにポタポタと落ちた。
「…大丈夫、俺もバスでやらかしたことあるんで。よくあること。ね?」
「っ゛~、ぅ゛~…」
「ぁらら…」
よしよしと頭を撫でられ、濡れて汚れた手を握って引かれる。
「おうちどこですか?」
「っ゛、、っひ、ぐ、」
「ん、わかりました。言えるようになったらで。ね?とりあえず、ここだったら風邪ひいちゃうから、俺の家行きましょうか」
「ん゛、」
「よし、んじゃ行こうね」
いつの間にか外れた敬語。俺があまりにも子供みたいに泣きじゃくっているからだろうか。心なしか口調も小さい子に向けるみたいで、声も高い。
「ぅ゛ぁ…も゛、ぉ…やだぁ…」
引かれただろうか、何だこいつって思われているだろうか。でももう今日は限界で、繕えない。
「大丈夫大丈夫、さっぱりしようねぇ」
何やってんだ俺。ずっと前に一回会っただけの人にこんなにグズグズになって、まともに受け答えもしないで。ふふふ、と陽気に笑うこの人は、どこか先生に似ている。
「しゅう、でんっ、な゛いっ、かえ゛れないっ、」
「そっかそっか。じゃあ俺の家泊まっていきな。洗濯もしたげる」
「っ゛、う゛ぁ゛ああああんっ、」
よく言えましたと頭を撫でる彼はもう、俺のことは小さな子供にしか見えていないのだろう。
「大丈夫だから。ね?泣いたらしんどくなっちゃうよ?」
ふわふわする。眠い。安心したからだろうか。ふと思い出す、先生の顔。
「ぁ、れんらく…」
「する?ちょっと待ってねー…っと、はい、いいよーー」
ハンカチで綺麗に水分を脱ぐわれる。
「きたない、の、っ、」
「いいよいいよ。洗濯したら綺麗になるなる。それよりこんな時間だし…俺がしよっか?」
「…だいじょぶです、できます、」

『今日は泊まっていきます』
別れた、ってのを言うのを辞めたのは、ちょっとした見栄だ。ちゃんと恋愛出来る、成功した、そう思って欲しかった。
 俺も普通に…そう認識して欲しかったのだ。
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