女性恐怖症の高校生

こじらせた処女

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「あ、起きた」
熱い。体、熱い。熱いのに、寒い。
「………なんじ?」
「10時半。よく寝たねぇ」
「…もしかして徹夜?」
「流石に寝たよ」
「…ふとんは?」
「シーツなしでね。掛け布団はセーフだったし」
秋葉さんは俺の頭を指で巻きつけて遊んでいる。カーテンの間から差し込む光でぽやぽやとした頭が段々覚醒していく。
「…………………ぁっ、」
「大丈夫だって」
反射的に布団を覗き込んでホッとすれば、心配しすぎと笑う秋葉さん。ふと、不快感のない下半身であることに気づいた。
「被れちゃうとアレだったから着替えさせた」
昨日の出来事が夢であってくれたら、そんな願いは虚しく、変えられたズボンで砕かれてしまう。
「っ、ごめん、」
恥ずかしい。みっともなくて、気持ち悪い。自分の出した声がまだ、頭に鮮明に残っている。
「熱あんね。やっぱ冷えちゃったのかな」
「ちがう…いつもなるやつ…だから」
「………ストレスの…やつ…」
「…そっか。お腹空いた?何か食べれそう?」
ほんと、不便な体。鉛が入っているのかレベルで重い。症状は何もないのに起き上がることさえも億劫。
「いらない…すいてない…」
「んー…でもなぁ…」
「…なんも…きかないの?」
「え、何が」
「だって…あんな、………いや…」
 俺、何も変わってない。一年前もこうやってはぐらかして、先生に全部手続きをやってもらって。自分で何か解決しようとしたことなんて、一度もない。
 ずっとずっと、ダメなまんま。



「来週も来なね」
帰り際に言われた言葉にチクリと胸が痛む。気にしてないよ、そういう意味がこもっているのだろう。秋葉さんは優しいから。
ずっと黙っている俺の頭を軽く撫でて、頬をなぞる。
(ぁ…また…)
腹の奥が疼いて、腰がヒク…と震えた。
「、っ、わかった、じゃあ、」
逃げるようにして改札の中に入って、紛らわせるように早歩きをするも、耐えきれずにトイレの個室に入る。
(なんで…なんでっ、)
顔が熱い。頭、クラクラする。前は弄った訳でもないのにほんのりと灯っている熱。
 俺、ほんとにおかしい。
(ここ、外なのに…)
息が熱い。前、グリグリしたい。撫でられた、優しく背中を叩いてくれたあの時間を思い出して。先走ったものが下着を汚して、前が膨らんでいく。こんな状態で帰れるはずがない。収め方も、分かんないし。
恐る恐る前を開けて冷たい手で握る。どうやってやれば、どうやって扱けばいいのか。分かんなくて泣きそう。
「っ、ぁ、っふ、」
自分のモノがグロい。こんなものが付いてるだなんて正気ではない。絶妙に固い感触も、少し触れただけで全身が震えてしまうのも。
「っぅ゛、」
さっき秋葉さんの家で食べたうどんが迫り上がって、びちゃびちゃと汚い音を立てながら便器に落ちていく。青いタイルに性器が付くのも厭わずに、便器を握りしめる姿はどれほど惨めだろう。
「っぇ゛え、」
ひとしきり喉に力を込めてしまえば不快感は無くなっていて。冷たい地面に直に付いていた性器も萎えていてホッとした。これ以上、醜くならなくて済む、これ以上、思い出さなくて済むって。
(こんなんだから俺は…)
いつまで経っても逃げてばっかだから。あんな風におかしく取り乱して迷惑をかけるんだ。そんでずっと、こうやっていつ来るか分かんない喪失感に怯えて、ずっと。




「あれ、お前昼そんだけ?」
「…え…」
最近お腹が空かない。コンビニで買ったおにぎりとお茶を、同僚が怪訝な目で見てくる。
「あ…朝…食べたから…」
「ふーん、」
隣でガツガツとカツ丼を掻きこんでいる傍らで、チビチビと食ってたらそりゃ、怪しまれるか。本当はもう、腹一杯。一口食べただけで、胃がきゅぅ…と締め付けられる。
「わり…俺もう行くわ」
「お前、マジで大丈夫かよ…あんま無理すんなよ」
 ずっと体が強張っている。常に緊張していると言った方が良いのだろうか。そろそろ夜寝るのも怖くなってきた。その原因は、最近繰り返し見るあの夢のせいだろう。



 秋葉さんに抱っこされて、頭を撫でられて、温かくて。なのに、あの日みたいに自分でソコをグリグリ弄って、耳元で、「変態」って言われて。いつの間にか俺は「あの人」に抱かれている。服の下を執拗に触られ続けて、そんで。
「っ、~っ、」
 目が覚めたら、汗でぐしょぐしょで、妙に怠くて。こうなってしまったらもう、眠れない。夜なのに頭が覚醒しきっていて、再び瞼なんて閉じれるわけない。
 今日もまた、見ちゃった。これで3日連続。時計を見るとまだ夜中の2時半。暗い空間に耐えられなくて、最近は電気を消して寝ない。夜の失敗がないってことが唯一の救いだろうか。寝れない夜中に布団を洗うなんて惨めすぎて泣いてしまうだろうから。
 先生の布団、入りたい。入ったらまたマシに寝れるだろうか。気持ちいいんだよな、あったかい布団で背中叩いてもらうの。ぬるま湯に浸かって、ゆらゆら揺れてるみたいで。
(でも…コレ…バレたら…)
ズキリと今もなお痛む中心。この夢を見たあとは絶対「コレ」だ。ジャージの布を押し上げてじんわりと熱を持っている。皆、ちゃんと処理してるんだろう。先生も、秋葉さんも、同僚も。ボーッと頭が熱くて、熱があるみたいな感覚。人差し指で触るだけで、変な息を吐いてしまう。先生に相談、いや、恥ずかしい。絶対に嫌だ。1番この姿を見られたくない。まあ、誰にだって見せたくないんだけど。
 布団を股で挟み込んで、ギュッて押さえつける。スリ…と布地が擦れて気持ちいい。ダメなことって分かってる。なのに、あの日みたいに腰が止まらない。
「っぁっ、ぁっ、」
気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい。もっと、もっと。頭がバカになって、猿みたいに短絡的な動きを繰り返す。
「ん゛んっ、」
ぐちゃりとしたモノがパンツの中に広がっていく。それと同時に背中からスゥッと冷えていって、冷静になる頭。
(…さいっあく…)
悪いことじゃない、分かってる。でも、冷静になって思考できるようになった頭は、嫌なことばかりを脳裏に浮かべていく。脳の奥で「あの人」の声が聞こえてくる気がするくらいに。あの日俺の肌に当たった体温、触覚、臭い、音全部が生々しく、くっきりと。

 気持ち悪い。

 トイレに走って、便器に縋り付くようにして胃の中のものをぶちまける。どうやら俺は吐くのが上手いらしい。あまり食べていなかったゆえ、胃液しか出てこなかったけど、胃の不快感はおさまった。

(おしっこも…)
冷たい地面で催した。べたべたの下着を避けて、前を広げる。
「ぁれ…」
出ない。確かにそこにずっしりと溜まっているのに。緊張、してるのだろうか。たまにある、この感覚。お腹をさすっても、座っても意味がない。諦めてレバーを引いて、部屋に戻る。
(結構したかったんだけどな…)
ベッドの上で太ももを擦り合わせるくらいにはお腹は切迫している。今までもこういうことあったけど、こんなにしたい時にはならなかった。せいぜい少し行きたいかも、程度の時だけだ。

「っ、~、でそぉ…」
30分ほどそうしていただろうか。急に背筋が震えて我慢できなくなって再びトイレに走る。便器を上げて前を出すと、さっき出し渋っていたものが勢いよく飛び出した。
「ぁ…っ、でた、」
よかった、本当に。ずっと耐えていたものを放出できた安心感に、思わずため息が溢れた。すっかり萎んだ下腹を撫でて、手を洗う。疲れた。けどこれでやっと寝れそう。我慢できないくらいに瞼が重くてその欲求に素直に従った。



 ごめんなさい、ごめんなさい、って誰に言ってるのか分からない謝罪を頭の中で繰り返す。体が固まってるみたい。
「っ゛、っふ、」
飛び起きるようにして起きてみれば、まだ四時半。さっきから2時間弱しか経っていない。すでに目に溜まっていた涙は落ちて、息切れも激しい。なんで。同じ日に、同じ夢を。日に日にひどくなっている気がする。

(もー…げんかい…)

 寝るの、怖い。もう夢、見たくない。思い出したくない。
 先生のとこで寝るのも怖い。意識を失うのが怖い。でも体力は限界だから、ぼんやりとした頭でベッドに再び倒れ込む。もう嫌だ。頭痛い。気持ち悪い。
 何も考えずに休みたい。
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