戦いが終わった元戦士が毎晩悪夢にうなされて「失敗」するようになる話

こじらせた処女

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番外編1

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「え、っと…酒と、燻製ベーコンと…」
合計金額と預かりをメモしてお釣りを渡す。
「計算早くなったね」
いつも来てくれている客にふとそう言われ、思わず頬が緩みそうになった。
「そう?まだ全然だし…」
「この調子で頑張れよー」
最近、分からなかったことが一気に分かるようになった。数字とか文字がスルスルと頭に入ってくるようになって、間違いも減った。師匠もいっぱい褒めてくれる。ガキにするみたいに大袈裟で少し恥ずかしいけれど。足の痛みも最近は安定しているし、体調もいい。柄にもなく鼻歌を歌ってしまうほどに、俺は浮かれまくっていた。


「いつまでここにいるの?」
最後の客のお会計。師匠はさっきの客の忘れ物を届けに走っていった。俺とその客の2人きりになった途端、その人は続けた。
「簡単な計算ができたから何?メニューが読めたから何?そんなの7つの子でも出来るでしょう?」
口の中が一気に乾いた。分かっていたことだけど、面と向かって言われたら心臓がドキドキする。
「いいよね。あたしはクソジジイに嫌味言われながら汗だくで走り回って。でもきっとそっちの方が稼いでいるんでしょうね」
「…ごめんなさい、」
「ばかだったら何?足が悪いから何?あんたみたいなままごと接客を見てるとすっごく腹が立つの。ゴミを漁って暮らしてる子供だっているのにいいご身分ね」
いつものお客さんからは向けられない悪意。でも、間違っていないことだから。何も言い返せなくて黙り込む。
「きっと皆思っているでしょうね。甘えたガキがまたお店屋さんごっこしてるって」
「っ、そんな、こと…」
「あの人の優しさに漬け込みすぎない方が良いんじゃないの?」
お金が目の前に置かれる。頭の中が真っ白になっていくら返せば良いか分からない。
「頭がよくないあなたはきっと、あの人の言葉を真っ直ぐ信じちゃうんでしょうけどね」
お釣りは要らない、と言ったその人は大きな音を立ててドアを閉めた。いつもより幾段と甲高いベルが響いた。



「っふー…おまたせ。さっきの方が最後?」
「…ん、」
「どした?元気ない?」
 足がずきりと痛む。さっきまでの嬉しい気持ちはどこかに消え去って、泣きそう。
「体しんどい?」
「…なんでもない、疲れただけ」
洗い物しないと。机も拭かないと。大丈夫。師匠はずっと居ていいって言っていた。俺のこと大事って言ってくれた。分かっている。分かっているのに。
「さっきの人、お釣りは要らないって出ていっちゃった、」
「うわっ…こんな大金…酔っ払ってた?」
「………ん、」
「流石に多すぎるから今度来た時に返そっか」
さっきの事は言わなかった。というか言えなかった。
「じゃあ閉めよっか。アルスは看板を中に入れて机を拭いてくれる?」
「ん、」
大丈夫。だいじょうぶ。ししょうは俺を大事って言ってくれた。ずっとここに居て良いって言ってくれたから。

…本当に?



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