5 / 6
番外編1
しおりを挟む
「え、っと…酒と、燻製ベーコンと…」
合計金額と預かりをメモしてお釣りを渡す。
「計算早くなったね」
いつも来てくれている客にふとそう言われ、思わず頬が緩みそうになった。
「そう?まだ全然だし…」
「この調子で頑張れよー」
最近、分からなかったことが一気に分かるようになった。数字とか文字がスルスルと頭に入ってくるようになって、間違いも減った。師匠もいっぱい褒めてくれる。ガキにするみたいに大袈裟で少し恥ずかしいけれど。足の痛みも最近は安定しているし、体調もいい。柄にもなく鼻歌を歌ってしまうほどに、俺は浮かれまくっていた。
「いつまでここにいるの?」
最後の客のお会計。師匠はさっきの客の忘れ物を届けに走っていった。俺とその客の2人きりになった途端、その人は続けた。
「簡単な計算ができたから何?メニューが読めたから何?そんなの7つの子でも出来るでしょう?」
口の中が一気に乾いた。分かっていたことだけど、面と向かって言われたら心臓がドキドキする。
「いいよね。あたしはクソジジイに嫌味言われながら汗だくで走り回って。でもきっとそっちの方が稼いでいるんでしょうね」
「…ごめんなさい、」
「ばかだったら何?足が悪いから何?あんたみたいなままごと接客を見てるとすっごく腹が立つの。ゴミを漁って暮らしてる子供だっているのにいいご身分ね」
いつものお客さんからは向けられない悪意。でも、間違っていないことだから。何も言い返せなくて黙り込む。
「きっと皆思っているでしょうね。甘えたガキがまたお店屋さんごっこしてるって」
「っ、そんな、こと…」
「あの人の優しさに漬け込みすぎない方が良いんじゃないの?」
お金が目の前に置かれる。頭の中が真っ白になっていくら返せば良いか分からない。
「頭がよくないあなたはきっと、あの人の言葉を真っ直ぐ信じちゃうんでしょうけどね」
お釣りは要らない、と言ったその人は大きな音を立ててドアを閉めた。いつもより幾段と甲高いベルが響いた。
「っふー…おまたせ。さっきの方が最後?」
「…ん、」
「どした?元気ない?」
足がずきりと痛む。さっきまでの嬉しい気持ちはどこかに消え去って、泣きそう。
「体しんどい?」
「…なんでもない、疲れただけ」
洗い物しないと。机も拭かないと。大丈夫。師匠はずっと居ていいって言っていた。俺のこと大事って言ってくれた。分かっている。分かっているのに。
「さっきの人、お釣りは要らないって出ていっちゃった、」
「うわっ…こんな大金…酔っ払ってた?」
「………ん、」
「流石に多すぎるから今度来た時に返そっか」
さっきの事は言わなかった。というか言えなかった。
「じゃあ閉めよっか。アルスは看板を中に入れて机を拭いてくれる?」
「ん、」
大丈夫。だいじょうぶ。ししょうは俺を大事って言ってくれた。ずっとここに居て良いって言ってくれたから。
…本当に?
合計金額と預かりをメモしてお釣りを渡す。
「計算早くなったね」
いつも来てくれている客にふとそう言われ、思わず頬が緩みそうになった。
「そう?まだ全然だし…」
「この調子で頑張れよー」
最近、分からなかったことが一気に分かるようになった。数字とか文字がスルスルと頭に入ってくるようになって、間違いも減った。師匠もいっぱい褒めてくれる。ガキにするみたいに大袈裟で少し恥ずかしいけれど。足の痛みも最近は安定しているし、体調もいい。柄にもなく鼻歌を歌ってしまうほどに、俺は浮かれまくっていた。
「いつまでここにいるの?」
最後の客のお会計。師匠はさっきの客の忘れ物を届けに走っていった。俺とその客の2人きりになった途端、その人は続けた。
「簡単な計算ができたから何?メニューが読めたから何?そんなの7つの子でも出来るでしょう?」
口の中が一気に乾いた。分かっていたことだけど、面と向かって言われたら心臓がドキドキする。
「いいよね。あたしはクソジジイに嫌味言われながら汗だくで走り回って。でもきっとそっちの方が稼いでいるんでしょうね」
「…ごめんなさい、」
「ばかだったら何?足が悪いから何?あんたみたいなままごと接客を見てるとすっごく腹が立つの。ゴミを漁って暮らしてる子供だっているのにいいご身分ね」
いつものお客さんからは向けられない悪意。でも、間違っていないことだから。何も言い返せなくて黙り込む。
「きっと皆思っているでしょうね。甘えたガキがまたお店屋さんごっこしてるって」
「っ、そんな、こと…」
「あの人の優しさに漬け込みすぎない方が良いんじゃないの?」
お金が目の前に置かれる。頭の中が真っ白になっていくら返せば良いか分からない。
「頭がよくないあなたはきっと、あの人の言葉を真っ直ぐ信じちゃうんでしょうけどね」
お釣りは要らない、と言ったその人は大きな音を立ててドアを閉めた。いつもより幾段と甲高いベルが響いた。
「っふー…おまたせ。さっきの方が最後?」
「…ん、」
「どした?元気ない?」
足がずきりと痛む。さっきまでの嬉しい気持ちはどこかに消え去って、泣きそう。
「体しんどい?」
「…なんでもない、疲れただけ」
洗い物しないと。机も拭かないと。大丈夫。師匠はずっと居ていいって言っていた。俺のこと大事って言ってくれた。分かっている。分かっているのに。
「さっきの人、お釣りは要らないって出ていっちゃった、」
「うわっ…こんな大金…酔っ払ってた?」
「………ん、」
「流石に多すぎるから今度来た時に返そっか」
さっきの事は言わなかった。というか言えなかった。
「じゃあ閉めよっか。アルスは看板を中に入れて机を拭いてくれる?」
「ん、」
大丈夫。だいじょうぶ。ししょうは俺を大事って言ってくれた。ずっとここに居て良いって言ってくれたから。
…本当に?
55
あなたにおすすめの小説
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
待てって言われたから…
ゆあ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。
//今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて…
がっつり小スカです。
投稿不定期です🙇表紙は自筆です。
華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる