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実家に帰ってきて欲しい、そう電話が来たのは1週間前。弟が1人になるから一緒に住んで欲しいというものだった。急すぎるって断ろうとしたけど、あの人はこっちの都合なんて気にしないから仕方ない。まあ、用事はないし、あの人と一緒にいるのが嫌なだけで、志之と居るのが嫌なわけじゃないからいいんだけど。
母親から離れるために必死でサッカーに打ち込んで、高校生の時からは寮に逃げて。俺は勉強が出来なかったからキツく当たられていたけど、志之は頭が良い。県内トップの高校も余裕だとこの前の親戚同士の集まりでも嬉しそうに自慢していたぐらいに。だから大丈夫だと、志之とあの人との関係は良好だと思っていたのに。
濡れた服を着ていることを言及すると、目いっぱいに涙を溜めて泣きだしてしまう。いやだって、普通は汚れた服をまた身につけるなんてありえないだろ。
「とりあえずもう一回お風呂入ってきな」
「っ、はい、」
とは言っても、びしょびしょの布を脱ぐのは肌にペッタリとくっついてしまう故、難しいというもの。テンパっている志之は、中々苦戦している。
「あー…ばんざーいして」
「ぇ、」
「手、上に上げられる?」
「っはぃ、」
おずおずと上がった腕。シャツごと一気に剥ぐ。
「ぇ、これ…」
志之の上体をみて絶句した。右の腹にある大きな傷。それだけではない。体のあちこちに小さな青いアザが点在している。
「ちょっと背中見して」
慌てて後ろを向かせると、前よりも大きなアザがいくつも存在している。服に隠れるところだけ、何でこんな。
「志之…このアザって…志之?」
問いかけに返事がないところで異変に気づく。後ろを向いた志之は、まるで体育で整列している時の様に手の先をピンと体の横に沿わせて、微動だにせずに立っていたから。
「志之?志之?」
トントンと肩を叩くと、ヒュッと息が漏れる。
「ごめ、んなさい、ごめんなさい、」
しゃがみ込んで顔を下から覗くと、涙が落ちてくる。ごめんなさいと小さく、直立したまま何度も繰り返していて、呼吸も引き攣っていて今にも乱れてしまいそう。
「志之?俺怒ってないよ?ね?」
「っ、ごめ、なさい…」
この怯え様は考えたくないけど、そういうことなのだろう。
「ねぇ、ここの怪我、どうしたの?」
「っ、ころんだ、」
「本当に?」
「…ほんとう、」
腕をさすろうとすると、びくりと体が跳ねる。ズボンを脱がせようと紐に手をかけても、体がピシリと固まる。かといって1人で出来る?と聞いても指一本動く気配がない。
「ごめ、なさい、あとは、じぶんで、」
未だに震えの止まらない手で何とか下を脱いだ彼は、1人で風呂場に向かう。
「あっ、」
おぼつかない足で地面を踏んだせいで滑ってしまったのだろう。大きな音とともに、尻もちをついてしまった。
「大丈夫!?怪我してない!?」
転んだ時についた手を触った時、また見える、怯えたような表情。でも捻っていたら大変だから。
「曲げるよ?痛かったら…」
「しき、さんは…」
「ん?」
「…しきさんは…」
俺の名前だけ何度か呼んで、口をぱくぱく開けた後、また黙り込んでしまう志之。
「どーしたの?」
「かあさんに、された…?だから高校から寮だったの…?」
「何を?」
「…なんでも、ない…」
「…そう。痛くない?」
「いたくない、っぃ゛、」
ゆっくりと手首を動かしていたら、あるところで声が詰まる。
「ほら痛いんじゃん。こういうの我慢してたら変な癖出来て大変なんだからな。後で手当するか」
「、いらない、」
小さく、聞こえた。悲痛で、今にも崩れ落ちてしまいそうな声が。
「…何で?痛いの嫌でしょ?」
「だって、今日じゃない、もとからだし、」
「え、そーなの?じゃあ尚更病院行かなきゃじゃん」
「…お金のむだ、だから、」
「いやいやいや…」
「どうせ、また…母さんかえってくるんでしょ…?」
「え、まぁそうだな…」
「志貴さんはいなくなるんでしょ…?」
「就職先が向こうだからな」
「…やだ…な…」
耐えるように、でも隠せていない、引き攣った呼吸。確信した。ああやっぱりこの子は。
「なあ志之。母さん嫌いか?」
「え、」
「俺は嫌い。お前は?」
「…きらい、」
「ん。もっかい聞いて良い?」
この傷、どうした?
右腹にある大きなアザを指差してもう一度問いかけた。
母親から離れるために必死でサッカーに打ち込んで、高校生の時からは寮に逃げて。俺は勉強が出来なかったからキツく当たられていたけど、志之は頭が良い。県内トップの高校も余裕だとこの前の親戚同士の集まりでも嬉しそうに自慢していたぐらいに。だから大丈夫だと、志之とあの人との関係は良好だと思っていたのに。
濡れた服を着ていることを言及すると、目いっぱいに涙を溜めて泣きだしてしまう。いやだって、普通は汚れた服をまた身につけるなんてありえないだろ。
「とりあえずもう一回お風呂入ってきな」
「っ、はい、」
とは言っても、びしょびしょの布を脱ぐのは肌にペッタリとくっついてしまう故、難しいというもの。テンパっている志之は、中々苦戦している。
「あー…ばんざーいして」
「ぇ、」
「手、上に上げられる?」
「っはぃ、」
おずおずと上がった腕。シャツごと一気に剥ぐ。
「ぇ、これ…」
志之の上体をみて絶句した。右の腹にある大きな傷。それだけではない。体のあちこちに小さな青いアザが点在している。
「ちょっと背中見して」
慌てて後ろを向かせると、前よりも大きなアザがいくつも存在している。服に隠れるところだけ、何でこんな。
「志之…このアザって…志之?」
問いかけに返事がないところで異変に気づく。後ろを向いた志之は、まるで体育で整列している時の様に手の先をピンと体の横に沿わせて、微動だにせずに立っていたから。
「志之?志之?」
トントンと肩を叩くと、ヒュッと息が漏れる。
「ごめ、んなさい、ごめんなさい、」
しゃがみ込んで顔を下から覗くと、涙が落ちてくる。ごめんなさいと小さく、直立したまま何度も繰り返していて、呼吸も引き攣っていて今にも乱れてしまいそう。
「志之?俺怒ってないよ?ね?」
「っ、ごめ、なさい…」
この怯え様は考えたくないけど、そういうことなのだろう。
「ねぇ、ここの怪我、どうしたの?」
「っ、ころんだ、」
「本当に?」
「…ほんとう、」
腕をさすろうとすると、びくりと体が跳ねる。ズボンを脱がせようと紐に手をかけても、体がピシリと固まる。かといって1人で出来る?と聞いても指一本動く気配がない。
「ごめ、なさい、あとは、じぶんで、」
未だに震えの止まらない手で何とか下を脱いだ彼は、1人で風呂場に向かう。
「あっ、」
おぼつかない足で地面を踏んだせいで滑ってしまったのだろう。大きな音とともに、尻もちをついてしまった。
「大丈夫!?怪我してない!?」
転んだ時についた手を触った時、また見える、怯えたような表情。でも捻っていたら大変だから。
「曲げるよ?痛かったら…」
「しき、さんは…」
「ん?」
「…しきさんは…」
俺の名前だけ何度か呼んで、口をぱくぱく開けた後、また黙り込んでしまう志之。
「どーしたの?」
「かあさんに、された…?だから高校から寮だったの…?」
「何を?」
「…なんでも、ない…」
「…そう。痛くない?」
「いたくない、っぃ゛、」
ゆっくりと手首を動かしていたら、あるところで声が詰まる。
「ほら痛いんじゃん。こういうの我慢してたら変な癖出来て大変なんだからな。後で手当するか」
「、いらない、」
小さく、聞こえた。悲痛で、今にも崩れ落ちてしまいそうな声が。
「…何で?痛いの嫌でしょ?」
「だって、今日じゃない、もとからだし、」
「え、そーなの?じゃあ尚更病院行かなきゃじゃん」
「…お金のむだ、だから、」
「いやいやいや…」
「どうせ、また…母さんかえってくるんでしょ…?」
「え、まぁそうだな…」
「志貴さんはいなくなるんでしょ…?」
「就職先が向こうだからな」
「…やだ…な…」
耐えるように、でも隠せていない、引き攣った呼吸。確信した。ああやっぱりこの子は。
「なあ志之。母さん嫌いか?」
「え、」
「俺は嫌い。お前は?」
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「ん。もっかい聞いて良い?」
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右腹にある大きなアザを指差してもう一度問いかけた。
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