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after story4

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「大丈夫?体、変な感じない?」
「うん、ない」
「そっか。また困ったらいつでも言いなね?」
「ん…あの、さ…」
「あ、ごめん、俺今から会議だ!!あと1人で出来る?」
「あ、うん、」
「リビング使わせてもらう!!でも背景付けてるからあんまり気にしないでいいから!後で夜ご飯一緒に食べよー」
言えなかった。やっぱりお腹、変だって。新しいズボンに履き替えて、下腹をさする。ジクジクとまだ抜けないあの感覚。さっきしたのに、何で急に止まってしまうんだろう。
「ぅ、ん、」
部屋に戻っても一時もじっとしてられない。モゾモゾと足を擦り合わせてしまう。
したいのに。さっきみたいなしがらみもないのに。じっとりと纏わりつくように重い下腹部は、出口に欲求の信号だけおくってくる。
落ち着かない。何で。さっき、樹にああまでしてさせてもらったのに。
(そーだ、お水…)
無理やりにでも体に入れてしまえば出てくれるだろうか。部屋に置いてもらっているコップに水を注ぎ、一気に煽る。
冷たい水が喉を、内臓あたりを通っていく。
トイレに行って、便器に座るけど太ももが震えるだけで、今にも溢れそうで、でも出ない。
「っふ、んんっ、」
おしっこ、おしっこ、おしっこ。何度も頭の中でイメージするけど、先端は閉じたまま。お腹はずっとずっと苦しいのに。尿意がわからなくなったと思ったら、今度は出ないなんて。
(からだ、おかしくなっちゃったのかな…)

何分そうしていただろうか。ふと、ちょろりと細い流れを持って液体が落ちた。
「ぁっ…」
やっと出た、そう安心したのも束の間。細い水流のまま、勢いが強まらない。
この速さでは、いつまで経ってもスッキリできない。でも焦ってまた止まったら嫌だから、ひたすらお腹をさすりながら、出るように念じる。
ちょろろろろ…ろ…
全然お腹がスッキリしないまま、放尿は終わりを告げる。慌てて力を入れるけれど、ズクリと下腹が痛むだけでうんともすんともしない。
(なんでっ、おしっこ、でそーなのに、)
諦めてトイレから出る。はち切れそうなくらいに膨らんだ下腹を庇ってよちよち戻る。まだ熱が下がってないから、普通に怠いし眠い。布団の中に潜ってぎゅっと体を丸めるけど、こんな状態で寝れるわけもない。
「あ゛っ、でる、」
ブルリと良くない悪寒がして、慌てて布団を蹴っ飛ばしてトイレに走る。けど、いざトイレの前に立つと、出ない。
「っは、っはぁ、っ、」
お腹が苦しくて、自然と息が荒くなってしまう。
早くスッキリしたい。この煩わしいものから解放されたい。早く、力を抜きたい。

「敦ー?起きてる?ご飯食べれそう?」
遠くで聞こえる樹の声。リモート会議、終わったんだ。
「いつき…?」
「あ、トイレだったか。体調どう?しんどかったり気持ち悪かったりしない?」
「ない…」
「そっかよかった。ご飯食べれる?お粥作ってあるんだけど…」
「食べれる…」
「よし、じゃあ手洗っておいで。温めるだけで食べれるから」


 すっかりタイミングを逃してしまった。手が水で濡れてまた背中に鳥肌が立つ。
 というか、何て言えばいいかわからない。おしっこできないなんて、まるで小さな子供じゃないか。ただでさえ今日はあんな醜態を晒して迷惑をかけたのに。これ以上、心配をかけるわけにはいかないのに。

「あ、戻ってきた。はい敦の。しゃけはほぐしてあるから良かったら上乗っけて。俺はお腹空いてるから普通にご飯食べるわ。ごめんねぇ、味気ないかも」
見ると、樹の机には焼き鮭にほうれん草、味噌汁と普通の食事。俺のために別に作ってくれたのだと分かる。
「いやいや、こっちこそ…ごめん…」
「なーに言ってんの!!ささっ、冷めないうちに食べよっ!食べれそうならおかずあげるね。」


「っ、」
席に座るとまたお腹がキツい。向かい合って見えないのを良いことに片手でお腹をさする。
「ん?食べないの?」
「ぇ、あ、ううん、たべるたべる、」
慌ててスプーンを持って、口に頬張る。少し冷めかけたお粥は、喉を通って胃に滑り込んでゆく。昼も吐いちゃったからお腹は空いているはずなのに、キリキリと痛む下腹部とヒクヒク揺れる性器にいっぱいいっぱいで、味がわかんない。
「っ、」
「あーつー、正直に言って?気持ちわるい?どっかしんどい?」
訝しげな表情でこちらを見ていると思ったら、唐突にそう聞かれる。
「ぅ、あ…んん…ちが、」
「隠さないの。ずっとお腹さすってるじゃん。痛い?」
「ぉ…しっこ…」
「ん?聞こえなかった。もっかい言ってくれる?」
「ぁ、う、」
急にとてつもなく恥ずかしくなって、声が出ない。そんな心内を知らない樹は、俺の前にきておでこやら頬やらを撫でまくる。
ひくっ…
(あ…なんか…)
「んー…まだ熱いなぁ…」
顔だけでなく、胃のあたりをさすり始める手に安心してしまって、大きく出口が震えた。
「ちょっと横になろっか。楽になったらそのまま食べさせたげる。…敦?」
「…………あぁっ、」
じゅぅ…
じわりと股間が熱くなる感覚。やばい、漏れる。
「っ、~!!!」
勢い良く椅子から立ち上がったら、またせりあがって。
「ぁっ、ぅ、ゃ、だ、」
「敦?」
じゅううううう…
ぱつぱつに張り詰めて痛い下腹を抑え、背中を丸めるけれど意味はない。
シミを貫通する液体は、びちゃびちゃと音を立てて椅子に落ちていく。
「なん、で、なんでっ、」
もうパニックだった。さっきまで何回行っても出てくれなかったのに。こんな、食事中に。ご飯の前で。
「ちがっ、っ、ぁ…ふぁ、ぁぁ…」
自然と息が上がって、ボーッとして。気持ちいい。全身がぶるぶる震えてふわふわする。ここがトイレなら良かったのに。トイレなら、完璧だったのに。
じゅぃいいいいっ、じゅっ、
あ、まただ。まだ残ってるのに、急に止まってしまう。
「とりあえず着替えに行こっか」
とんとんとお腹を軽く撫でられて、背中をさすられて。こんなに恥ずかしい思いをしたのにまだスッキリしないなんて。せっかく着替えたのに、またぐしょぐしょ。
力の抜けた足は立っていることも出来ず、尿でいっぱいになった椅子にへたり込む。
「おしっこわかんなかった?」
「ちがう…」
「さっきトイレ行ってたよね。出せなかった?」
とんでもなく自分が情けない。情けなくなって、涙が溢れる。
「っ、ぅ、っく、ッヒグ、」
「大丈夫大丈夫。しんどかったんだもん、仕方ないよ。ね?」
「おれ、へん、なのっ、からだ、」
「敦の体は今疲れてるだけ。ちゃんと普通だよ。さっきは怖い思いさせちゃったね」
「こわくない、」
「そっか、じゃあ緊張しちゃったのかも…」
「してないっ!!」
「そーなの?」
「だって、おかしいじゃん、っ、いつきに緊張するの、おれは、いつきだいすきだしっ、っ、」
悔しい。前まで出来ていたこと、全部出来なくなるかもしれない。トイレも、アレも、樹に触れることも。それが悔しくて、こんな俺に愛想をつかさないか、ただただ怖い。
「おれ、いつきとセックスできるし、チューだって、だから、おかしいの、からだ、だけだからっ、」
あれ、俺何言ってるんだろう。息が上がりすぎて分かんなくなってきた。嗚咽と息苦しさで頭が痛い。
「落ち着いて。大丈夫、息ゆっくりにしてみようか」
突然前から抱き抱えられて、丸まった背中が伸びる。
「ほら、体真っ直ぐにしたら息しやすいでしょ」
「っひぅ、ぅん、」
「ずっと我慢してたの?」
「…んん、トイレいったけど、…でもっ、」
「出来なかったのかぁ。なら出せて良かった良かった」
ふわふわと耳元で聞こえる樹の声。
(ぁ…またなんか…)
出そう、そう思った時には遅かった。
じゅぃいいいいいい…
「いつき、はなれ…」
全身がぶるりと震えた後、膀胱の中でしつこく溜まっていた残りが勢いよく噴き出す。
「っふぁ、まって、ぃ、ん、」
「力入れちゃだめ」
まるで見透かされたかのように、力を入れている下腹をするりと撫でられて、優しく囁かれる。
「上手におしっこ出来てる。偉い偉い」
中腰で俺を抱いてくれている樹の靴下は俺の尿でびちょびちょ。それでも離れることなく、子供みたいに褒められる。
「ん、ふ、ぅ、えらくない、おもらし、」
「出せないよりは全然いいよ。体に悪いでしょ?」
「でもっ、んんっ…ふぁ、ぁぁっ、」
じゅいいいいい…
段々と弱まっていく水流。ぴたりと次に止まった時には、お腹の中はびっくりするほど空っぽでスッキリしていた。
「…おわりました…」
おもらし。それも、樹に抱きついて縋りながらの。椅子も、地面も、樹の服も目も当てられない惨状で。ご飯はすっかり冷めていて。
「…ごめ、なさ…」
片付けなきゃ。樹の服も洗濯しなきゃ。焦って、椅子からとび立って、滑ってこける。
「ぃ…たぁ…」
「あーあー、焦ったらダメだって。とりあえず着替え。俺と一緒にシャワー浴びよっか?」
「ん…」
「俺が触って安心した?」
「ぇ、」
言われて気づく。足は驚くほどふにゃふにゃ。わざわざ脇を抱えるようにして立たせてもらうくらいに。
「ぅ、ぁ、…っ、」
急に恥ずかしくなってきた。顔が一気に熱くなって、思わず下を向く。
「ふふっ、こんな可愛い恋人、嫌になるわけないじゃん」
俺を風呂場に連れて行く樹は何故か嬉しそうで、何でかは分からないけど、嫌われてないってことは理解できて、安心した。



 ぐずぐずになりながらされるがままパンツをずり下ろされている恋人。その光景を目にするたびに、思い出したように顔を赤らめて、涙を滲ませる。
 下半身をびしょびしょにしながら、泣きじゃくる彼に、思わずせりあがりそうになってしまった。今日のオカズはこれだろう。
(そんな趣味はないのに…)
辛い思いをしている敦を知っているから、すごく罪悪感を感じる。でも体は正直に勃ちあがろうとしているから大変だ。
「いつきぃ?何でそんなにモジモジしてるの?おしっこ?」
「っへ!?ああ、うん、そー、」
「行ってらっしゃい、おれ先入ってる」
「ぅ、うん、行ってくる!!」
(助かった…)
絶対に、敦の傷が癒えるまで触らない。
 絶対に。
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みんなの感想(1件)

Rin
2022.05.08 Rin
ネタバレ含む
こじらせた処女
2022.05.08 こじらせた処女

とても嬉しいです…ありがとうございます😭

解除
1 / 5

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