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第二話 二人目の神さま
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「カワター? どこ行ったー?」
ミチツナグハシルヒメと名乗った神を語る少女は、祭壇の前に置かれた盃に話しかけ始めた。関取が儀式で使うような、冗談みたいな大きさの盃だ。
珠は思わず、一歩距離を取った。
(こいつ……本気で頭ヤバい奴かもしれない)
関わるとろくなことにならないと本能が言っている。今のうちに逃げてしまおうと周囲を見回したが、壁全体が板張りで出口が見当たらない。
祭壇の裏に扉が隠れているのかもしれないと目を向けると、ミチツナグハシルヒメが覗き込む盃から人の頭が生えていた。
「なんよハシルヒメ? 儀式は終わったんから休ませといてよ」
「それがおかしいんだって! 出てきた子がなんか掃除屋さんじゃないみたいなんだよ!」
「えぇ? そんな?」
盃から頭だけではなく手も生えてきて盃の縁をつかむと、プールから上がるかのように人が生えてきた。
「え? マジック?」
生えてきたのは中学生くらいの少女だった。新緑のような色の長い髪が背中を覆うくらいに広がっている。そして神を名乗る少女――ハシルヒメの着ている和装に一枚多く重ね着したような格好をしていた。
(ん? もしかしてコイツも神を名乗ってくるんじゃないの?)
盃から生えてきた少女――たしかカワタと呼ばれていた――が珠に近寄り、覗き込むように顔を寄せてきた。
「あんたが還った子かねん?」
「え? いや、知らないけど……」
「そう! そいつだよ!」
ハシルが指をさしながら珠へと近寄った。カワタは右手でハシルヒメの頭を鷲掴みにして立ち止まらせ、逆の手で珠の肩を叩いた。
「今からハシルヒメのリクエストを確認するん。イエスかノーで答えてんね? まず一つ目」
珠の返答を待つ間も無く、確認が始まった。
「かわゆい美少女であること」
「イエス。間違いない」
珠は即答した。ハシルヒメが目を丸くする。
「すげぇ! 自分でイエスって言った! 奥ゆかしさの欠片もない!」
「仕事行くたびに『こんなかわいいお嬢ちゃんが』って言われてたから、絶対に間違いない」
「それは馬鹿にされているのでは……」
「は?」
「あ、ごめんなさい」
珠の冷たい眼光は、ハシルヒメを黙らせるのに十分だった。
「ほいほい。続けんね。掃除屋であんこと」
「確かにわたしは掃除屋と呼ばれることもあった」
珠が答えると、カワタはうんうんと頷いた。
「完全に一致してんね。何も問題ないん」
「問題大ありなんだって! この子は一般的な掃除屋じゃないって言ってるんだよ! わたしは一般的な掃除屋が欲しかったの! 神様がアッサシーン的な掃除屋求めてるって聞いたことないでしょ!」
「この前見たアニメには十字架背負った『ひっとめん』が教会にいたんよ。なら神社にいても問題ないはずなん」
「神が人間の創作物に屈するな! 人間を掃除する前に掃除しなきゃいけないとこがあんの!」
ハシルヒメが詰め寄ってもカワタはやんわりと自分の正当性を主張するだけで、話が前に進む様子はない。
珠は待ちきれず手を上げた。
「ねぇ、わたし帰りたいんだけど、出口だけ教えてくれない?」
「「え?」」
ハシルヒメとカワタの二人の目が、同時に珠へと向けられる。
「還るん? ごめんなんけどそれは無理なんよ。黄泉の国から離れた魂は簡単には黄泉の国には帰れないん」
「いや、黄泉の国とか帰りたくないから。家に帰るの」
「もしかして状況わかってないなー? 君は一度死んでから蘇ってるんだから、家に帰ったら大騒ぎになるよ」
ハシルが頬をつついてきたので、珠はその指をつかんで腕ごとひねって投げ飛ばした。
「ぎゃー!」
ハシルヒメが叫び声を上げながら転がりまわって鬱陶しかったので、珠は踏んで止めた。
「だったらどこに帰ればいい? あなたたちの言葉を信じるなら、勝手に生き返らされたのでしょう? そんなにへらへらされても困るんだけど」
「あれん? わんしの願い水は願いと願いを繋げるものなん。ハシルヒメのかわゆい美少女にお掃除してもらいたいという願いと、あんたの生き返りたいという願いをつなげて叶えたはずなんよ」
珠は自分が命を落としたときのことは思いだせなかったが、死を受け入れられなかったことだけは覚えていた。
「わたしが未熟だったから、ここに来てしまったということ?」
「生きたいと願うことは未熟なことではないんよ。未練とかあるんかもしれんけど、今後どうするかはゆっくり決めればいいんよ」
「なるほど。それじゃあ落ち着いて考えるために足元のコイツをお掃除しよう」
足元のハシルヒメが猫に捕まった虫のように足をじたばたと動かした。
「ギャー! 殺されるー!」
「ダメなんよ。願い水はお互いに願いを叶えないと力を失ってしまうん。生きたいのならハシルヒメの願いを叶えてからお掃除するべきなん」
「最終的にお掃除される提案しないで!」
足元で喚くハシルヒメを無視して、珠はカワタに手を指し伸ばした。
「胡散臭いことには変わりないけど、あなたは少しは話が分かりそう」
「どんもね。沼田神社もよろしくなん」
カワタは珠の手を取った。
「わ、わたしも……」
ハシルヒメも珠の足の下で手を伸ばしたが、珠の手には届かなかった。
ミチツナグハシルヒメと名乗った神を語る少女は、祭壇の前に置かれた盃に話しかけ始めた。関取が儀式で使うような、冗談みたいな大きさの盃だ。
珠は思わず、一歩距離を取った。
(こいつ……本気で頭ヤバい奴かもしれない)
関わるとろくなことにならないと本能が言っている。今のうちに逃げてしまおうと周囲を見回したが、壁全体が板張りで出口が見当たらない。
祭壇の裏に扉が隠れているのかもしれないと目を向けると、ミチツナグハシルヒメが覗き込む盃から人の頭が生えていた。
「なんよハシルヒメ? 儀式は終わったんから休ませといてよ」
「それがおかしいんだって! 出てきた子がなんか掃除屋さんじゃないみたいなんだよ!」
「えぇ? そんな?」
盃から頭だけではなく手も生えてきて盃の縁をつかむと、プールから上がるかのように人が生えてきた。
「え? マジック?」
生えてきたのは中学生くらいの少女だった。新緑のような色の長い髪が背中を覆うくらいに広がっている。そして神を名乗る少女――ハシルヒメの着ている和装に一枚多く重ね着したような格好をしていた。
(ん? もしかしてコイツも神を名乗ってくるんじゃないの?)
盃から生えてきた少女――たしかカワタと呼ばれていた――が珠に近寄り、覗き込むように顔を寄せてきた。
「あんたが還った子かねん?」
「え? いや、知らないけど……」
「そう! そいつだよ!」
ハシルが指をさしながら珠へと近寄った。カワタは右手でハシルヒメの頭を鷲掴みにして立ち止まらせ、逆の手で珠の肩を叩いた。
「今からハシルヒメのリクエストを確認するん。イエスかノーで答えてんね? まず一つ目」
珠の返答を待つ間も無く、確認が始まった。
「かわゆい美少女であること」
「イエス。間違いない」
珠は即答した。ハシルヒメが目を丸くする。
「すげぇ! 自分でイエスって言った! 奥ゆかしさの欠片もない!」
「仕事行くたびに『こんなかわいいお嬢ちゃんが』って言われてたから、絶対に間違いない」
「それは馬鹿にされているのでは……」
「は?」
「あ、ごめんなさい」
珠の冷たい眼光は、ハシルヒメを黙らせるのに十分だった。
「ほいほい。続けんね。掃除屋であんこと」
「確かにわたしは掃除屋と呼ばれることもあった」
珠が答えると、カワタはうんうんと頷いた。
「完全に一致してんね。何も問題ないん」
「問題大ありなんだって! この子は一般的な掃除屋じゃないって言ってるんだよ! わたしは一般的な掃除屋が欲しかったの! 神様がアッサシーン的な掃除屋求めてるって聞いたことないでしょ!」
「この前見たアニメには十字架背負った『ひっとめん』が教会にいたんよ。なら神社にいても問題ないはずなん」
「神が人間の創作物に屈するな! 人間を掃除する前に掃除しなきゃいけないとこがあんの!」
ハシルヒメが詰め寄ってもカワタはやんわりと自分の正当性を主張するだけで、話が前に進む様子はない。
珠は待ちきれず手を上げた。
「ねぇ、わたし帰りたいんだけど、出口だけ教えてくれない?」
「「え?」」
ハシルヒメとカワタの二人の目が、同時に珠へと向けられる。
「還るん? ごめんなんけどそれは無理なんよ。黄泉の国から離れた魂は簡単には黄泉の国には帰れないん」
「いや、黄泉の国とか帰りたくないから。家に帰るの」
「もしかして状況わかってないなー? 君は一度死んでから蘇ってるんだから、家に帰ったら大騒ぎになるよ」
ハシルが頬をつついてきたので、珠はその指をつかんで腕ごとひねって投げ飛ばした。
「ぎゃー!」
ハシルヒメが叫び声を上げながら転がりまわって鬱陶しかったので、珠は踏んで止めた。
「だったらどこに帰ればいい? あなたたちの言葉を信じるなら、勝手に生き返らされたのでしょう? そんなにへらへらされても困るんだけど」
「あれん? わんしの願い水は願いと願いを繋げるものなん。ハシルヒメのかわゆい美少女にお掃除してもらいたいという願いと、あんたの生き返りたいという願いをつなげて叶えたはずなんよ」
珠は自分が命を落としたときのことは思いだせなかったが、死を受け入れられなかったことだけは覚えていた。
「わたしが未熟だったから、ここに来てしまったということ?」
「生きたいと願うことは未熟なことではないんよ。未練とかあるんかもしれんけど、今後どうするかはゆっくり決めればいいんよ」
「なるほど。それじゃあ落ち着いて考えるために足元のコイツをお掃除しよう」
足元のハシルヒメが猫に捕まった虫のように足をじたばたと動かした。
「ギャー! 殺されるー!」
「ダメなんよ。願い水はお互いに願いを叶えないと力を失ってしまうん。生きたいのならハシルヒメの願いを叶えてからお掃除するべきなん」
「最終的にお掃除される提案しないで!」
足元で喚くハシルヒメを無視して、珠はカワタに手を指し伸ばした。
「胡散臭いことには変わりないけど、あなたは少しは話が分かりそう」
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