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第四話 掃除をする理由
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珠は社務所の近くの廊下で力尽きて座り込んでいた。電球のダウンライトが天井で光っているせいで、日の落ちた外は余計に暗く感じる。
廊下は掃き終えたのだが、その後に雑巾掛けをしなければと思ったところで、気づいてしまったのだ。
(やろうと思えば壁と天井も拭けるし、戸を外したら隙間に埃とか溜まってそう。いったいどこまでやったら掃除って終わりなの? 依頼内容が曖昧すぎる)
珠は掃除屋(暗殺者)として、曖昧な依頼自体は嫌いではなかった。こちらの都合がわかっていない依頼主にがんじがらめにされるよりも、手段や方法を自分で調整できたほうがやりやすいからだ。
けれど達成すべき目標が曖昧だと話が変わってくる。『掃除をしてほしい』と言われたときはそれが目標だと思っていたが、作業してみて、掃除は手段であって目的ではないと気づいた。
(どうして掃除をするのか……なんて掃除屋のときは聞いてはいけないことだったけど、今はそれがすごくそれが知りたい。それがダメならせめて『床の埃を完全に排除せよ』とか『目障りな壁のシミを消せ』とか、そういう目標をちゃんと指定してくれないかな。今のままじゃ『この町にいる都合の悪そうなヤツ全員消しといて』って言われているようなものだし)
ハシルヒメを探して歩き回ってみようと思ったが、手元の小ぶりな箒を見て考え直した。立ち上がって廊下を戻っていくと、寝かしておいた大きい方の箒がある。珠はその横に小ぶりな箒を並べて寝かせて、話しかけた。
「ねぇ、少し聞きたいことがあるんだけど」
「なんでしょうか?」
顔を上げると、藁でできたすね当てをした少女が前に立っていた。箒の付喪神だというハバキだ。
「どうしてハシルヒメがわたしに掃除をさせようとしたか知りたいんだけど、わかる?」
「もちろんわかります。ハバキは使ってくれる人がいないと掃除ができないので、珠さまを使用者として選んだのです」
どうやらこの付喪神は、自分を使ってもらうことしか興味がないらしい。
「そうじゃなくて、どうしてあなたを使って掃除をしなきゃいけないのかって話。誰かお客さんが来るとか、使ってない部屋を使いたいとか、そういうのは聞いていない?」
「わかりません。ただ、掃除するのに理由はいらないと思うのです」
「今まで掃除をしてなかった人が、何のきっかけもなしに、人を使ってまで掃除をしようとはならないと思うけど」
ハバキは首を傾けた。珠はハバキの頬を持って、その傾きを戻す。
「わかった。理由もなく掃除をする掃除好きな人が前のご主人だったんだ。大事に使われてたから付喪神になったのね」
「いえ。ハバキは作られてからずっと金物屋にいたので、ハシルヒメさまが初めてのご主人です」
「一度も使われてない道具が付喪神になったりするの? 使われてない無念が人格になったとか?」
ハバキは頷いた。珠は『それって悪霊なんじゃ』と思ったが、本当に祟られたら嫌なので心の中に留めた。
ハバキは寝かせてあった箒を両方とも持ち上げる。
「初めて使ってもらえてうれしいのです。まだまだこの神社は広いですよ。じゃんじゃんハバキを使ってください」
ハバキが箒を差し出してきたが、珠は両手を胸の前で開いて、受け取るのを拒んだ。
「えっと……今日はもう遅いから明日ね。掃除する理由はハシルヒメに直接聞いてみる。どこにいるのかはわかる?」
「晩御飯の準備をしていると思います。お台所は社務所にあります」
「神さまなのに自分で料理するんだ……」
わたしの分は用意してくれるのだろうかと、聞きたいことが増えた珠だった。
廊下は掃き終えたのだが、その後に雑巾掛けをしなければと思ったところで、気づいてしまったのだ。
(やろうと思えば壁と天井も拭けるし、戸を外したら隙間に埃とか溜まってそう。いったいどこまでやったら掃除って終わりなの? 依頼内容が曖昧すぎる)
珠は掃除屋(暗殺者)として、曖昧な依頼自体は嫌いではなかった。こちらの都合がわかっていない依頼主にがんじがらめにされるよりも、手段や方法を自分で調整できたほうがやりやすいからだ。
けれど達成すべき目標が曖昧だと話が変わってくる。『掃除をしてほしい』と言われたときはそれが目標だと思っていたが、作業してみて、掃除は手段であって目的ではないと気づいた。
(どうして掃除をするのか……なんて掃除屋のときは聞いてはいけないことだったけど、今はそれがすごくそれが知りたい。それがダメならせめて『床の埃を完全に排除せよ』とか『目障りな壁のシミを消せ』とか、そういう目標をちゃんと指定してくれないかな。今のままじゃ『この町にいる都合の悪そうなヤツ全員消しといて』って言われているようなものだし)
ハシルヒメを探して歩き回ってみようと思ったが、手元の小ぶりな箒を見て考え直した。立ち上がって廊下を戻っていくと、寝かしておいた大きい方の箒がある。珠はその横に小ぶりな箒を並べて寝かせて、話しかけた。
「ねぇ、少し聞きたいことがあるんだけど」
「なんでしょうか?」
顔を上げると、藁でできたすね当てをした少女が前に立っていた。箒の付喪神だというハバキだ。
「どうしてハシルヒメがわたしに掃除をさせようとしたか知りたいんだけど、わかる?」
「もちろんわかります。ハバキは使ってくれる人がいないと掃除ができないので、珠さまを使用者として選んだのです」
どうやらこの付喪神は、自分を使ってもらうことしか興味がないらしい。
「そうじゃなくて、どうしてあなたを使って掃除をしなきゃいけないのかって話。誰かお客さんが来るとか、使ってない部屋を使いたいとか、そういうのは聞いていない?」
「わかりません。ただ、掃除するのに理由はいらないと思うのです」
「今まで掃除をしてなかった人が、何のきっかけもなしに、人を使ってまで掃除をしようとはならないと思うけど」
ハバキは首を傾けた。珠はハバキの頬を持って、その傾きを戻す。
「わかった。理由もなく掃除をする掃除好きな人が前のご主人だったんだ。大事に使われてたから付喪神になったのね」
「いえ。ハバキは作られてからずっと金物屋にいたので、ハシルヒメさまが初めてのご主人です」
「一度も使われてない道具が付喪神になったりするの? 使われてない無念が人格になったとか?」
ハバキは頷いた。珠は『それって悪霊なんじゃ』と思ったが、本当に祟られたら嫌なので心の中に留めた。
ハバキは寝かせてあった箒を両方とも持ち上げる。
「初めて使ってもらえてうれしいのです。まだまだこの神社は広いですよ。じゃんじゃんハバキを使ってください」
ハバキが箒を差し出してきたが、珠は両手を胸の前で開いて、受け取るのを拒んだ。
「えっと……今日はもう遅いから明日ね。掃除する理由はハシルヒメに直接聞いてみる。どこにいるのかはわかる?」
「晩御飯の準備をしていると思います。お台所は社務所にあります」
「神さまなのに自分で料理するんだ……」
わたしの分は用意してくれるのだろうかと、聞きたいことが増えた珠だった。
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