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第1章 ダンジョン嫌いニキ、世界にバレる
第10話 覚醒者・天城ルクシア
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通路を抜けると、一気に視界が広がった。
広大な円形の空間が現れる。
床には幾何学的な紋様が刻まれ、奥には淡く脈動する出口ゲート。
その脇に立つ石柱のようなモニュメントが、静かに光を反射していた。
「これが……ボス部屋」
姫宮がぽつりと零す。
その、ボス部屋の中央。
まるで舞台の主役のように、天城ルクシアは佇んでいた。
「ほーっほっほ! 逃げずにやって来たことを、まずは褒めて差し上げますわ!」
相変わらずの高笑いが、石壁に反響する。
「……愛沢はどこだ」
俺は周囲を探りながら問う。
「あら。私が眩しすぎて、見えませんでしたの?」
ルクシアがわざとらしく大股で横へずれた、その奥。
ゲート脇のモニュメントに、愛沢が縄で縛りつけられていた。
「愛沢! 大丈夫か!」
「せ、先輩っ……! ルクシア様良い匂いしたっす……!」
ひとまず無事らしい。
安堵と怒りがないまぜになる。
俺はため息を吐きながら、ルクシアを睨みつけた。
「さあ、とっとと返してもらうぞ」
「ふふん、そう簡単に返すと思って?」
「……何が望みだ」
俺が問うと、ルクシアは楽しげに目を細めた。
「私の審査を受けることですわ」
「……さっきも言ってたな、ジャッジするとかなんとか」
「ええ。ルールは簡単ですわ。今から私と貴方が一対一で勝負をして、私に一撃でも入れられたら、貴方の勝ち。彼女は返して差し上げます」
あー……くそ。
思っていた通りの、めちゃくちゃ面倒な提案だ。
コイツの実力が誇張や演出ではないことは、肌で理解している。
俺はごくりと喉を鳴らし、さらに問いかける。
「もし……入れられなかったら?」
「ふふん……」
ルクシアは微かに笑って、しかし問いには答えない。
ただ、深紅の瞳でじっとこちらを見る。
見る。まだ見る。
まだまだ見る。
……ん?
「まさか、何も考えてなかったんじゃないだろうな……?」
「ほ、ほーっほっほ! な、何も考えてないわけがありませんじゃないですわの!」
「絶対考えてなかったろ。語尾おかしくなってるぞ」
「うぐっ……や、やる前から失敗することを考えるだなんて、本当に庶民の思考ですわ! 『本物の資格』ポイント、2点減点ですわね!」
ルクシアはぷんすかと怒りながら、黒子からペンとノートを受け取った。
そして、何やら真剣にメモを取っている。
……なんなんだこいつは。
やがて黒子に筆記具を返し、再び俺を見る。
「どうするんですの? 勝負しないと、彼女がどうなるかわかりませんわよ?」
「先輩、ダメっす! 絶対やっちゃダメっすよ!」
柱に縛られたまま愛沢が叫ぶ。
「ルクシア様は本当に、本っっっ当に強いんすから! 先輩死んじゃうっすよ!? ただでさえパックご飯とレトルトばっかで貧弱な――」
「――うるさい」
俺は低く言って、愛沢の言葉を遮った。
「黙って見てろ」
「せ、先輩……激アツっす……」
「ふふん、そうこなくっちゃですわ」
ルクシアが満足げに頷く。
「武器をお願いしますわ!」
ルクシアの号令に、黒子は3人がかりで巨大な斧を運んできた。
成人男性の身の丈ほどもある両刃斧。
明らかに、人間が扱う重量ではない。
それをルクシアは、ひょいと片手で持ち上げ、肩に担いだ。
「あ……あんな斧を……!?」
姫宮が息を呑む。
俺は腰のホルダーの片方から、一本の短剣を抜いた。
そのまま、軽く肩と手首を回して可動域を確かめる。
『マスター。申し訳ありませんが、今回は私はお役に立てません』
「そりゃそうだ。あいつの行動パターンなんて学習させてない」
俺はアリスを耳から外し、「頼む」と姫宮へ渡す。
「――準備はよくって?」
ルクシアのドレスと斧が、じわりと赤い光を帯びる。
「来いよ……配信の女王」
そう答えた瞬間。
ばひゅん、と空気が裂けた。
「っ……!」
一瞬で距離を詰められる。
ありえない速度だ。
そのまま、巨大な斧が高速で振り下ろされる。
「ぐ……おおっ!」
俺は身体を捻り、すんでのところで回避した。
刃が地面をかすめ、石床に亀裂が走る。
やはりあの斧は、かなりの重量だ。
つまり、必ず反動が――
「――そこですわっ!」
「なあっ……!?」
振り下ろされたはずの斧が、途中で軌道を真逆に変えた。
こちらへ向かって切り上げられる。
「くそ……!」
俺は咄嗟に短剣を滑り込ませる。
――バキン!
弾き飛ばされ、床を転がる。
直撃だけは避けたが、とてつもない衝撃が全身を貫いた。
視界が白く飛ぶ。
だが、止まればそこで終わってしまう。
動け、俺の体よ。
「う、ごけ……!」
強大な魔力の迫る気配を感じ、地を蹴って転がる。
直後、斧が地面を叩き、石床が大きく陥没した。
「まだまだですわっ!」
「く……」
立ち上がろうとする間もなく、追撃。
転がり、跳ね、何とか躱す。
それだけで精一杯だ。
「うおお……!」
気力を振り絞って強く地面を蹴り、少しルクシアから距離を取る。
俺は片膝をつき、荒い息を吐いた。
対して、ルクシアは汗一つかかず、静かにこちらを見つめている。
「な、なんであんな重い物を持って、軽々と……!」
姫宮が震える声で言った。
呼吸を整えた俺は、その問いに答える。
「ハァ、ハァ…………魔具の力だ」
「この斧のことを仰っていて?」
ルクシアは巨大な斧を片手で掲げ、小首を傾げる。
「はっ、白々しいな。斧だけじゃない。お前のドレスも、靴も、手袋も……全部、魔具だろ?」
ルクシアの瞳がわずかに細まる。
その反応に、俺は推測を確信に変え、言葉を続けた。
「バカでかい斧を軽々しく振り回す膂力に、その動きの速度……。それは、その全身を包む魔具によってもたらされたものだ」
「お見事ですわ、よく気づきましたわね」
「効果は……言わば、ジェット付きパワードスーツってところだな」
魔具は強い。
ならば、たくさん魔具を使えば、それだけ強くなれる。
極めてシンプルな理屈だ。
だが、現実はそうもいかない。
問題は二つある。
一つ。
複数の魔具を稼働できるだけの魔力を持つ人間は、極めて少ない。
二つ。
それらを同時に制御できる、精密な魔力操作技術を持つ者は、さらに希少だ。
それを両立できる人間が、はたしてこの世界に何人いることだろう。
10年前、地球にダンジョンが出現した日。
世界中の人間に、『魔力』という未知のエネルギーが宿った。
備わった魔力への適正は個人差が激しく、幸か不幸か、異常なまでの才能を得た者もいた。
「お前、覚醒者だな」
「ふふ、それはデビューした時から公表していてよ? ……そういえば、私も気づいたことがありますの」
「……何だ?」
「貴方……まだ、本気じゃないですわね」
ルクシアは、深紅の瞳で鋭く俺を射抜く。
……バレていたか。
「無理やりにでも、本気を出させてあげますわ」
ルクシアは優雅に両手を広げる。
すると、彼女の全身がほのかに赤く灯った。
「ご覧なさい――」
突出した魔力の才を持つ存在、覚醒者。
彼らには、もう一つの力がある。
それは、体内の魔力を世界へ干渉させ、現象として発現させる力。
「――『獄炎の冠』」
それを人は、『魔法』と呼んだ。
広大な円形の空間が現れる。
床には幾何学的な紋様が刻まれ、奥には淡く脈動する出口ゲート。
その脇に立つ石柱のようなモニュメントが、静かに光を反射していた。
「これが……ボス部屋」
姫宮がぽつりと零す。
その、ボス部屋の中央。
まるで舞台の主役のように、天城ルクシアは佇んでいた。
「ほーっほっほ! 逃げずにやって来たことを、まずは褒めて差し上げますわ!」
相変わらずの高笑いが、石壁に反響する。
「……愛沢はどこだ」
俺は周囲を探りながら問う。
「あら。私が眩しすぎて、見えませんでしたの?」
ルクシアがわざとらしく大股で横へずれた、その奥。
ゲート脇のモニュメントに、愛沢が縄で縛りつけられていた。
「愛沢! 大丈夫か!」
「せ、先輩っ……! ルクシア様良い匂いしたっす……!」
ひとまず無事らしい。
安堵と怒りがないまぜになる。
俺はため息を吐きながら、ルクシアを睨みつけた。
「さあ、とっとと返してもらうぞ」
「ふふん、そう簡単に返すと思って?」
「……何が望みだ」
俺が問うと、ルクシアは楽しげに目を細めた。
「私の審査を受けることですわ」
「……さっきも言ってたな、ジャッジするとかなんとか」
「ええ。ルールは簡単ですわ。今から私と貴方が一対一で勝負をして、私に一撃でも入れられたら、貴方の勝ち。彼女は返して差し上げます」
あー……くそ。
思っていた通りの、めちゃくちゃ面倒な提案だ。
コイツの実力が誇張や演出ではないことは、肌で理解している。
俺はごくりと喉を鳴らし、さらに問いかける。
「もし……入れられなかったら?」
「ふふん……」
ルクシアは微かに笑って、しかし問いには答えない。
ただ、深紅の瞳でじっとこちらを見る。
見る。まだ見る。
まだまだ見る。
……ん?
「まさか、何も考えてなかったんじゃないだろうな……?」
「ほ、ほーっほっほ! な、何も考えてないわけがありませんじゃないですわの!」
「絶対考えてなかったろ。語尾おかしくなってるぞ」
「うぐっ……や、やる前から失敗することを考えるだなんて、本当に庶民の思考ですわ! 『本物の資格』ポイント、2点減点ですわね!」
ルクシアはぷんすかと怒りながら、黒子からペンとノートを受け取った。
そして、何やら真剣にメモを取っている。
……なんなんだこいつは。
やがて黒子に筆記具を返し、再び俺を見る。
「どうするんですの? 勝負しないと、彼女がどうなるかわかりませんわよ?」
「先輩、ダメっす! 絶対やっちゃダメっすよ!」
柱に縛られたまま愛沢が叫ぶ。
「ルクシア様は本当に、本っっっ当に強いんすから! 先輩死んじゃうっすよ!? ただでさえパックご飯とレトルトばっかで貧弱な――」
「――うるさい」
俺は低く言って、愛沢の言葉を遮った。
「黙って見てろ」
「せ、先輩……激アツっす……」
「ふふん、そうこなくっちゃですわ」
ルクシアが満足げに頷く。
「武器をお願いしますわ!」
ルクシアの号令に、黒子は3人がかりで巨大な斧を運んできた。
成人男性の身の丈ほどもある両刃斧。
明らかに、人間が扱う重量ではない。
それをルクシアは、ひょいと片手で持ち上げ、肩に担いだ。
「あ……あんな斧を……!?」
姫宮が息を呑む。
俺は腰のホルダーの片方から、一本の短剣を抜いた。
そのまま、軽く肩と手首を回して可動域を確かめる。
『マスター。申し訳ありませんが、今回は私はお役に立てません』
「そりゃそうだ。あいつの行動パターンなんて学習させてない」
俺はアリスを耳から外し、「頼む」と姫宮へ渡す。
「――準備はよくって?」
ルクシアのドレスと斧が、じわりと赤い光を帯びる。
「来いよ……配信の女王」
そう答えた瞬間。
ばひゅん、と空気が裂けた。
「っ……!」
一瞬で距離を詰められる。
ありえない速度だ。
そのまま、巨大な斧が高速で振り下ろされる。
「ぐ……おおっ!」
俺は身体を捻り、すんでのところで回避した。
刃が地面をかすめ、石床に亀裂が走る。
やはりあの斧は、かなりの重量だ。
つまり、必ず反動が――
「――そこですわっ!」
「なあっ……!?」
振り下ろされたはずの斧が、途中で軌道を真逆に変えた。
こちらへ向かって切り上げられる。
「くそ……!」
俺は咄嗟に短剣を滑り込ませる。
――バキン!
弾き飛ばされ、床を転がる。
直撃だけは避けたが、とてつもない衝撃が全身を貫いた。
視界が白く飛ぶ。
だが、止まればそこで終わってしまう。
動け、俺の体よ。
「う、ごけ……!」
強大な魔力の迫る気配を感じ、地を蹴って転がる。
直後、斧が地面を叩き、石床が大きく陥没した。
「まだまだですわっ!」
「く……」
立ち上がろうとする間もなく、追撃。
転がり、跳ね、何とか躱す。
それだけで精一杯だ。
「うおお……!」
気力を振り絞って強く地面を蹴り、少しルクシアから距離を取る。
俺は片膝をつき、荒い息を吐いた。
対して、ルクシアは汗一つかかず、静かにこちらを見つめている。
「な、なんであんな重い物を持って、軽々と……!」
姫宮が震える声で言った。
呼吸を整えた俺は、その問いに答える。
「ハァ、ハァ…………魔具の力だ」
「この斧のことを仰っていて?」
ルクシアは巨大な斧を片手で掲げ、小首を傾げる。
「はっ、白々しいな。斧だけじゃない。お前のドレスも、靴も、手袋も……全部、魔具だろ?」
ルクシアの瞳がわずかに細まる。
その反応に、俺は推測を確信に変え、言葉を続けた。
「バカでかい斧を軽々しく振り回す膂力に、その動きの速度……。それは、その全身を包む魔具によってもたらされたものだ」
「お見事ですわ、よく気づきましたわね」
「効果は……言わば、ジェット付きパワードスーツってところだな」
魔具は強い。
ならば、たくさん魔具を使えば、それだけ強くなれる。
極めてシンプルな理屈だ。
だが、現実はそうもいかない。
問題は二つある。
一つ。
複数の魔具を稼働できるだけの魔力を持つ人間は、極めて少ない。
二つ。
それらを同時に制御できる、精密な魔力操作技術を持つ者は、さらに希少だ。
それを両立できる人間が、はたしてこの世界に何人いることだろう。
10年前、地球にダンジョンが出現した日。
世界中の人間に、『魔力』という未知のエネルギーが宿った。
備わった魔力への適正は個人差が激しく、幸か不幸か、異常なまでの才能を得た者もいた。
「お前、覚醒者だな」
「ふふ、それはデビューした時から公表していてよ? ……そういえば、私も気づいたことがありますの」
「……何だ?」
「貴方……まだ、本気じゃないですわね」
ルクシアは、深紅の瞳で鋭く俺を射抜く。
……バレていたか。
「無理やりにでも、本気を出させてあげますわ」
ルクシアは優雅に両手を広げる。
すると、彼女の全身がほのかに赤く灯った。
「ご覧なさい――」
突出した魔力の才を持つ存在、覚醒者。
彼らには、もう一つの力がある。
それは、体内の魔力を世界へ干渉させ、現象として発現させる力。
「――『獄炎の冠』」
それを人は、『魔法』と呼んだ。
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