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第2章 ダンジョン嫌いニキ、裏方に戻る
第12話 ついつい読んじゃう掲示板
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「819:配信好きの名無しさん
だからアイツは中途半端の偽善者なんだよ
自分だって配信から恩恵を得てるくせにルクシア様に偉そうに説教しやがって
820:配信好きの名無しさん
>>819
犯罪擁護派は帰って、どうぞ
まあ冗談はさておき、ダンジョン嫌いニキは正しいだろ
若い奴らは知らんと思うけど、ダンジョンが出てきたばっかの頃はな
そりゃあ大パニックで、本当に世界が終わるかと思ったんだぞ?
それが今や人気の観光地って、必死に攻略に挑んだ軍人は報われないわ
821:配信好きの名無しさん
>>820
は~いお爺ちゃんはもう寝る時間だよ~
……あーーーーーーーっ、もう無理だ! 胃が痛い!!」
俺はそう叫び、椅子の背もたれに体を預けた。
視界いっぱいに真っ白の天井が映る。
いいな、羨ましいよ。天井。
俺もお前みたいに、まっさらになりたいな。
「さっきからブツブツ言って……まーた掲示板の投稿を読み上げてたんすか? それ、やめた方が良いっすよホント」
背後から、愛沢のため息交じりの声が飛んでくる。
呆れ8割、心配2割といったところか。
「みんな匿名なのをいいことに、好き勝手言ってるだけっすからね」
「それはわかってんだよ……でも、ずーっとケンカしててさ、俺のアンチとファンがさ……」
縦型モニターいっぱいに並ぶ投稿。
そこでは、名無しの正義と名無しの悪意が、休む間もなく舌戦を繰り広げている。
……たまーに、名無しの仲裁者も混じる。
そして、投稿されるのは文字だけではない。
俺の顔写真や配信の切り抜き。
酷いものだと、AIか何かで作ったフェイク動画だ。
「こんなの、気にするなって方が無理だろ……」
そう呟いて、俺は一層深く椅子に持たれかかる。
ルクシア凸事件から、二週間。
報道陣や配信者たちからの突撃取材は、未だ収まる気配が無い。
ネットも同様で、立ち上った火は消えるどころか、より激しさを増している。
「アンチとかファンとか、先輩もすっかりスターっすねえ」
「うるせえ……仕事が手につかねえよ。気を抜いて外にも出られないし」
言いながら、机に置いていた缶コーヒーを口元へ。
ぐいっと傾ける。
が、何も出てこない。
「……空か」
俺は反動をつけて、椅子から立ち上がった。
そこへ、椅子に座ったままの愛沢が、ころころタイヤを転がしてやってくる。
「じゃ、アタシ、ゲットブルでお願いするっす」
「先輩をパシリに使うな」
ぺちん、と軽く頭をはたく。
「あいて! よ、よくも乙女のキューティクルを~!」
「何がキューティクルだよ。3日も風呂入ってないくせに」
「むむっ、先輩じゃないんすから! ちゃんと毎日入ってるっす!」
ガタン、と音を鳴らしながら立つ愛沢。
「ま、ついて来るなら奢ってやらんことも無いぞ」
俺はそう言って、先に研究室を出た。
「待つっす! さっきのは確実な名誉棄損っすー!」
背後でやかましい声があがる。
だが今は、それが少しだけ救いになるのも事実だった。
羽生田マギテック本社、2階のロビー。
ガラス張りの壁越しに、夕方の光が差し込んでいる。
社内唯一の自販機にスマホをかざそうとした瞬間、先に愛沢がタッチした。
ピッと稼働音が鳴り、自販機のボタンが緑に光る。
「さ、好きなのどうぞっす」
愛沢は、手で自販機へ促す。
……怪しい。
普段は何かにつけ奢らそうとしてくるくせに。
俺は愛沢の方を向いて、目を細めた。
「何を企んでる?」
「な、何にもっすよ! ただ、ちょっと思う所があって……」
「ほお……後で『100倍にして返してくださいっす』とか言うなよ?」
「い、言うわけないっす! そんな守銭奴じゃないっすよ!」
必死にかぶりを振る愛沢に、俺は訝しみつつもブラックを選ぶ。
「……ありがとう?」
「っす」
愛沢も短く返事をし、エナジードリンクを取り出す。
そのまま缶のフタを開けて、ぐいっと一飲み。
普段ならそこで「くぁ~っ、生き返るっす~!」とか言うのに、今日は無言だ。
それに、やけに神妙な顔をしている。
……言いたいことがある、そんな様子。
「おい」
「っ、な、なんすか?」
「……あんま体に良くないらしいぞ、カフェイン」
「水分補給がコーヒーだけの人に言われたくねっす」
いつも通りの軽口を交わす。
それがきっかけになったのか、愛沢は力を抜くように、小さく息を吐いた。
「先輩……」
「なんだよ」
「――すみませんでしたっす!」
いきなり頭を下げられ、コーヒー缶を落としかける。
「き、急にどうした?」
「実はっすね……アレ、嘘だったっす……!」
愛沢は頭を深く落としたまま、きゅっと目を瞑った。
何についての謝罪なのか思い当たらず、俺は首を傾げる。
「アレ?」
「二週間前のダンジョンで、アタシ、ルクシア様につかまって、魔法の熱でゴホゴホ咳込んでたじゃないっすか……」
「あ、ああ。そうだったな。……え? お前、まさか」
「アレ、演技だったっすううううううう!」
何じゃそりゃ……!
ずしゃ、と床に土下座する愛沢。
通路に反響していく声が消えたところで、俺は問い返すことにした。
「……また、何でそんなことしたんだよ」
「じ、実はっすね――」
だからアイツは中途半端の偽善者なんだよ
自分だって配信から恩恵を得てるくせにルクシア様に偉そうに説教しやがって
820:配信好きの名無しさん
>>819
犯罪擁護派は帰って、どうぞ
まあ冗談はさておき、ダンジョン嫌いニキは正しいだろ
若い奴らは知らんと思うけど、ダンジョンが出てきたばっかの頃はな
そりゃあ大パニックで、本当に世界が終わるかと思ったんだぞ?
それが今や人気の観光地って、必死に攻略に挑んだ軍人は報われないわ
821:配信好きの名無しさん
>>820
は~いお爺ちゃんはもう寝る時間だよ~
……あーーーーーーーっ、もう無理だ! 胃が痛い!!」
俺はそう叫び、椅子の背もたれに体を預けた。
視界いっぱいに真っ白の天井が映る。
いいな、羨ましいよ。天井。
俺もお前みたいに、まっさらになりたいな。
「さっきからブツブツ言って……まーた掲示板の投稿を読み上げてたんすか? それ、やめた方が良いっすよホント」
背後から、愛沢のため息交じりの声が飛んでくる。
呆れ8割、心配2割といったところか。
「みんな匿名なのをいいことに、好き勝手言ってるだけっすからね」
「それはわかってんだよ……でも、ずーっとケンカしててさ、俺のアンチとファンがさ……」
縦型モニターいっぱいに並ぶ投稿。
そこでは、名無しの正義と名無しの悪意が、休む間もなく舌戦を繰り広げている。
……たまーに、名無しの仲裁者も混じる。
そして、投稿されるのは文字だけではない。
俺の顔写真や配信の切り抜き。
酷いものだと、AIか何かで作ったフェイク動画だ。
「こんなの、気にするなって方が無理だろ……」
そう呟いて、俺は一層深く椅子に持たれかかる。
ルクシア凸事件から、二週間。
報道陣や配信者たちからの突撃取材は、未だ収まる気配が無い。
ネットも同様で、立ち上った火は消えるどころか、より激しさを増している。
「アンチとかファンとか、先輩もすっかりスターっすねえ」
「うるせえ……仕事が手につかねえよ。気を抜いて外にも出られないし」
言いながら、机に置いていた缶コーヒーを口元へ。
ぐいっと傾ける。
が、何も出てこない。
「……空か」
俺は反動をつけて、椅子から立ち上がった。
そこへ、椅子に座ったままの愛沢が、ころころタイヤを転がしてやってくる。
「じゃ、アタシ、ゲットブルでお願いするっす」
「先輩をパシリに使うな」
ぺちん、と軽く頭をはたく。
「あいて! よ、よくも乙女のキューティクルを~!」
「何がキューティクルだよ。3日も風呂入ってないくせに」
「むむっ、先輩じゃないんすから! ちゃんと毎日入ってるっす!」
ガタン、と音を鳴らしながら立つ愛沢。
「ま、ついて来るなら奢ってやらんことも無いぞ」
俺はそう言って、先に研究室を出た。
「待つっす! さっきのは確実な名誉棄損っすー!」
背後でやかましい声があがる。
だが今は、それが少しだけ救いになるのも事実だった。
羽生田マギテック本社、2階のロビー。
ガラス張りの壁越しに、夕方の光が差し込んでいる。
社内唯一の自販機にスマホをかざそうとした瞬間、先に愛沢がタッチした。
ピッと稼働音が鳴り、自販機のボタンが緑に光る。
「さ、好きなのどうぞっす」
愛沢は、手で自販機へ促す。
……怪しい。
普段は何かにつけ奢らそうとしてくるくせに。
俺は愛沢の方を向いて、目を細めた。
「何を企んでる?」
「な、何にもっすよ! ただ、ちょっと思う所があって……」
「ほお……後で『100倍にして返してくださいっす』とか言うなよ?」
「い、言うわけないっす! そんな守銭奴じゃないっすよ!」
必死にかぶりを振る愛沢に、俺は訝しみつつもブラックを選ぶ。
「……ありがとう?」
「っす」
愛沢も短く返事をし、エナジードリンクを取り出す。
そのまま缶のフタを開けて、ぐいっと一飲み。
普段ならそこで「くぁ~っ、生き返るっす~!」とか言うのに、今日は無言だ。
それに、やけに神妙な顔をしている。
……言いたいことがある、そんな様子。
「おい」
「っ、な、なんすか?」
「……あんま体に良くないらしいぞ、カフェイン」
「水分補給がコーヒーだけの人に言われたくねっす」
いつも通りの軽口を交わす。
それがきっかけになったのか、愛沢は力を抜くように、小さく息を吐いた。
「先輩……」
「なんだよ」
「――すみませんでしたっす!」
いきなり頭を下げられ、コーヒー缶を落としかける。
「き、急にどうした?」
「実はっすね……アレ、嘘だったっす……!」
愛沢は頭を深く落としたまま、きゅっと目を瞑った。
何についての謝罪なのか思い当たらず、俺は首を傾げる。
「アレ?」
「二週間前のダンジョンで、アタシ、ルクシア様につかまって、魔法の熱でゴホゴホ咳込んでたじゃないっすか……」
「あ、ああ。そうだったな。……え? お前、まさか」
「アレ、演技だったっすううううううう!」
何じゃそりゃ……!
ずしゃ、と床に土下座する愛沢。
通路に反響していく声が消えたところで、俺は問い返すことにした。
「……また、何でそんなことしたんだよ」
「じ、実はっすね――」
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