ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~

厳座励主(ごんざれす)

文字の大きさ
14 / 21
第2章 ダンジョン嫌いニキ、裏方に戻る

第12話 ついつい読んじゃう掲示板

しおりを挟む
「819:配信好きの名無しさん
 だからアイツは中途半端の偽善者なんだよ
 自分だって配信から恩恵を得てるくせにルクシア様に偉そうに説教しやがって

 820:配信好きの名無しさん
 >>819
 犯罪擁護派は帰って、どうぞ
 まあ冗談はさておき、ダンジョン嫌いニキは正しいだろ
 若い奴らは知らんと思うけど、ダンジョンが出てきたばっかの頃はな
 そりゃあ大パニックで、本当に世界が終わるかと思ったんだぞ? 
 それが今や人気の観光地って、必死に攻略に挑んだ軍人は報われないわ

 821:配信好きの名無しさん
 >>820
 は~いお爺ちゃんはもう寝る時間だよ~

……あーーーーーーーっ、もう無理だ! 胃が痛い!!」

 俺はそう叫び、椅子の背もたれに体を預けた。
 視界いっぱいに真っ白の天井が映る。
 いいな、羨ましいよ。天井。
 俺もお前みたいに、まっさらになりたいな。

「さっきからブツブツ言って……まーた掲示板の投稿を読み上げてたんすか? それ、やめた方が良いっすよホント」

 背後から、愛沢のため息交じりの声が飛んでくる。
 呆れ8割、心配2割といったところか。
 
「みんな匿名なのをいいことに、好き勝手言ってるだけっすからね」
「それはわかってんだよ……でも、ずーっとケンカしててさ、俺のアンチとファンがさ……」

 縦型モニターいっぱいに並ぶ投稿。
 そこでは、名無しの正義と名無しの悪意が、休む間もなく舌戦を繰り広げている。
 ……たまーに、名無しの仲裁者も混じる。

 そして、投稿されるのは文字だけではない。
 俺の顔写真や配信の切り抜き。
 酷いものだと、AIか何かで作ったフェイク動画だ。

「こんなの、気にするなって方が無理だろ……」

 そう呟いて、俺は一層深く椅子に持たれかかる。

 ルクシアとつ事件から、二週間。
 報道陣や配信者たちからの突撃取材は、未だ収まる気配が無い。
 ネットも同様で、立ち上った火は消えるどころか、より激しさを増している。

「アンチとかファンとか、先輩もすっかりスターっすねえ」
「うるせえ……仕事が手につかねえよ。気を抜いて外にも出られないし」

 言いながら、机に置いていた缶コーヒーを口元へ。
 ぐいっと傾ける。 
 が、何も出てこない。

「……からか」

 俺は反動をつけて、椅子から立ち上がった。
 そこへ、椅子に座ったままの愛沢が、ころころタイヤを転がしてやってくる。

「じゃ、アタシ、ゲットブルでお願いするっす」
「先輩をパシリに使うな」

 ぺちん、と軽く頭をはたく。

「あいて! よ、よくも乙女のキューティクルを~!」
「何がキューティクルだよ。3日も風呂入ってないくせに」
「むむっ、先輩じゃないんすから! ちゃんと毎日入ってるっす!」

 ガタン、と音を鳴らしながら立つ愛沢。
 
「ま、ついて来るなら奢ってやらんことも無いぞ」

 俺はそう言って、先に研究室を出た。

「待つっす! さっきのは確実な名誉棄損っすー!」

 背後でやかましい声があがる。
 だが今は、それが少しだけ救いになるのも事実だった。


 羽生田はにゅうだマギテック本社、2階のロビー。
 ガラス張りの壁越しに、夕方の光が差し込んでいる。
  社内唯一の自販機にスマホをかざそうとした瞬間、先に愛沢がタッチした。
 ピッと稼働音が鳴り、自販機のボタンが緑に光る。

「さ、好きなのどうぞっす」

 愛沢は、手で自販機へ促す。
 ……怪しい。
 普段は何かにつけ奢らそうとしてくるくせに。
 俺は愛沢の方を向いて、目を細めた。

「何を企んでる?」
「な、何にもっすよ! ただ、ちょっと思う所があって……」
「ほお……後で『100倍にして返してくださいっす』とか言うなよ?」
「い、言うわけないっす! そんな守銭奴じゃないっすよ!」

 必死にかぶりを振る愛沢に、俺は訝しみつつもブラックを選ぶ。

「……ありがとう?」
「っす」

 愛沢も短く返事をし、エナジードリンクを取り出す。
 そのまま缶のフタを開けて、ぐいっと一飲み。
 普段ならそこで「くぁ~っ、生き返るっす~!」とか言うのに、今日は無言だ。
 それに、やけに神妙な顔をしている。
 ……言いたいことがある、そんな様子。

「おい」
「っ、な、なんすか?」
「……あんま体に良くないらしいぞ、カフェイン」
「水分補給がコーヒーだけの人に言われたくねっす」

 いつも通りの軽口を交わす。
 それがきっかけになったのか、愛沢は力を抜くように、小さく息を吐いた。

「先輩……」
「なんだよ」
「――すみませんでしたっす!」

 いきなり頭を下げられ、コーヒー缶を落としかける。

「き、急にどうした?」
「実はっすね……アレ、嘘だったっす……!」

 愛沢は頭を深く落としたまま、きゅっと目を瞑った。
 何についての謝罪なのか思い当たらず、俺は首を傾げる。

「アレ?」
「二週間前のダンジョンで、アタシ、ルクシア様につかまって、魔法の熱でゴホゴホ咳込んでたじゃないっすか……」
「あ、ああ。そうだったな。……え? お前、まさか」
「アレ、演技だったっすううううううう!」

 何じゃそりゃ……!
 ずしゃ、と床に土下座する愛沢。
 通路に反響していく声が消えたところで、俺は問い返すことにした。

「……また、何でそんなことしたんだよ」
「じ、実はっすね――」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...