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第1章

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 翌日、カーティスはベッドにて、部屋のクローゼットを物色しているノアの白いお尻を存分に目を楽しませていた。
「いい眺めだよ、ノア。私とのセックスのために着てくれる衣装を探っているのだね」
「んん…ちが……だって裸じゃ恥ずかしいだろ…?あんま尻見んなよ…変態」
「ははは。照れなくて良いんだよ。とても綺麗で可愛らしいから」
「…………」
 カーティスに褒められ、ノアは顔を赤らめた。
「おや、赤くなってる。可愛いねぇ」
 カーティスはクスリと笑うと、ベッドから立ち上がり、上向きの尻を撫で回す。
「やっ……触んないで……」
「おや、どうしてだい?君は私のモノになったのだから、好きなだけ触れても良いだろう?」
「……バカ、えっち。てかお前も何がいいか見てくれよ…?」
「ふふ、そうだね。では私が選ぼう」
 カーティスはクローゼットの中を覗き込むと、一際目を引く美しい服を取り出した。
「これはどうだろうか?」
「これは?」
「これはね、花嫁が結婚式の時に着るものなんだ。純白のウェディングドレスだよ」
「けっ!?結婚!?」
 ふわふわの髪の毛を驚きで益々ふわふわにさせながら、ノアは叫んだ。
「そうさ。私の妻になるんだから当然じゃないか」
「妻!?」
「嫌かい?」
「い、いきなりすぎて……びっくりして……」
「そうかい?私は昨日言ったはずだよ。一生かけて償うと、ね?」
「それはそうだけど…でも僕たちこういう関係になったの、つい昨日だし…その…結婚とか言われても実感わかないというか…」
(それもなんか勢いだったし…そんな急にこんなこと言われても、心の準備が…!)
 おろおろと目を泳がすノアを見て、カーティスはくす、と微笑む。
「時間は関係ない。気持ちの問題だ。それに、私達は夫婦となる運命だったんだよ。出会うべくして出会った。私はそう確信しているよ」
 ノアの魔法に絡み合うようにカーティスの闇が包み込んでいく。暗く、重く、それでいて心地の良い感覚がノアを支配する。
「あ…あう…すごい…」
「わかるかい?私がどれだけ君を切望しているか…この闇の魔力は私の想いそのものなのだよ」
「……うう…お前、僕のこと好きすぎじゃん…」
「ああ、好きだよ。愛している。君の全てを手に入れたいんだ。心も身体も魂さえも、全部欲しい」
 下半身だけ服を着たカーティスが、ドレスごとノアを抱き締める。裸の胸がノアの背中に触れてドキドキする。
「綺麗だよ、ノア。君がこれを着てくれる日をどれだけ私が夢見たことか…!黒も、赤も、緑も、どのドレスも似合うだろう。だが、純白のこのウェディングドレスを着た君はきっと世界一美しい花嫁となるだろう。ああ…想像しただけで興奮してしまうよ……」
 カーティスは熱い吐息と共にノアのうなじにキスをした。
「あっ…」
(こいつ……首弱いって知ってるくせにぃ……)
「ノア…一生大事にする…だからどうか私と結婚してくれないか?」
 カーティスはノアをくるりと回転させて向かい合わせになると、真剣な表情でノアを見つめた。
「カーティス…」
 ノアは潤んだ瞳でカーティスを見上げる。
(ずるいよ……そんな顔されたら…でも…)
 ノアは小さく首を振る。胸が苦しくてなんだか泣きそうになる。
「だって、カーティスは敵だから…悪いやつだから…」
 じわり、と涙が溢れる。
「ノア…」
「カーティスと一緒になったら、友達が危なくなるかもしれないし、僕は戦えなくなっちゃうし、テオにも会えくなっちゃう…」
「……」
「でも…カーティスとセックス出来ないのもやだぁ…!」
 ノアはとうとうボロボロと涙を流してしまった。あんなに多幸感に満ち溢れた繋がりを、温もりを知ってしまった今となってはもう以前のようには戻れない。それくらい、ノアも惹かれてしまっていた。
「ノア、泣かないでくれ」
 カーティスが優しく抱き寄せる。
「ぐずっ……やだ……だって……僕……お前のこと嫌いになれないもん……好きになっちゃったんだもん……」
「ノア……」
 キラキラとノアの頭上に魔法が煌めく。その美しさに思わずカーティスは目を奪われる。
「……なんて美しいんだ、ノア……」
「うっ……ひっく……」
「ノア、聞いてくれるかい?」
 カーティスはノアの顎を掴むと上向かせて、そっと口づけを落とした。
「んむっ……」
「ん……」
「んん~!ぷはっ……ちょ、ちょっと待てよ!いきなりすぎるだろ!?」
 ノアは顔を真っ赤にして怒ったが、すぐにしゅんとして俯いた。自分の心がコントロール出来ない。
「うぅ……ご、ごめん…僕、いきなり泣いたりして…なんか、情緒不安定というか…その」
「ノア」
「う、うん」
「私はね、ずっと一人だったんだ」
「え?」
「誰も私を理解してくれなかった。私を恐れていた。私を気味悪がっていた。強い力は疎まれる。だからいつも孤独を感じていた」
「カーティス……」
「君もそうだろう。あの戦闘のときの闇魔法を見て確信した。君もまた、私と同じ種類の人間なのだと。光の側の連中は、君を怯えた目で見たのではないか?闇魔法を吸い取り、力へと変える。それはまさに光と対極にあるものだからね」
「……それは」
 ノアは口籠った。マディソンやテオは怖がっていなかったし、尊敬の目で見てくれたが、他の人はそうではなかった。ノアのことを恐れ、遠ざけようとする人、敵と戦ううえで、利用価値を見出した人。怯えた目を思い出し、胸が痛む。
「でも、私は君に惹かれている。私を恐れず、唯一人立ち向かってきた。君は私の運命の人だ。私はこの先もずっと、一人で生きていくと思っていた。だけど、今は違う。君がいる。私のことを理解してくれる人が出来た。それがとても嬉しい」
「カーティス……」
「だから、どうか私と結婚して欲しい。私と共に生きてくれないか」
「………」
「ノア、愛しているよ」
 カーティスがもう一度唇を重ねる。今度はさっきよりも長い時間、互いの体温を感じ合った。
「……僕でいいの?本当に?」
「ああ、君じゃなければ駄目なんだ」
「……わかった。僕、お前と結婚するよ」
「!!本当かい!?」
 カーティスが目を輝かせる。
「うん。ただし、条件がある」
「なんだい?」
 ノアは真っ直ぐ顔を見上げた。
「今の戦争を終わらせて」
「え」
「これ以上、血を流して欲しくないんだ」
「ノア…それは…でも」
 カーティスは口籠った。世界を征服し、今の政権を根底から覆すつもりの彼にとって、争いを終わらせることは容易ではない。ノアはそれを分かった上でにっこり微笑み、そっと囁く。
「カーティスの狙いは分かっているよ。やり方を変えるんだ。もっと平和的な方法で世界を支配すれば良いんだよ。僕はそれを手伝う」
「ノア……君は……!」
 カーティスの目に希望の光が灯る。
「……君はやはり素晴らしい子だ。美しく、才能に満ち溢れ、何より機転が利く。無能な部下の尻拭いばかりさせられてきた私にとって、君は奇跡のような存在だよ。君さえいれば、私はきっと理想の世界を作ることが出来る」
「カーティス……」
「ノア、ありがとう。君の望みは必ず叶えると約束するよ」
 闇の魔王は光の救世主を抱きしめた。

***
「停戦条件に結婚しろだなんて、闇の帝王は随分とロマンチストだったみたいね~」
 マディソンが揶揄うように言った。
「うるさいなぁ。仕方ないじゃん。僕だってこんなことになるとは思わなかったし!」
「ふふっ、でも良かったね。おめでとう、ノア」
 テオが祝福の言葉を贈ってくれたので、ノアは少し照れくさそうに笑った。
「ありがと」
「それにしても、まさかあの悪名高い闇の魔法使いが、ノアのことを好きになるだなんてね」
「私もびっくりしたわ」
 マディソンが同意を示す。ソフィアと女子二人できゃっきゃと盛り上がる。その横でテオが静かに口を開く。
「何となく、初めからそんな気はしてたよ」
「え?」
「あの人ね、ノアが前線に居るときだけしか現れないし、戦いの最中はノアのことしか見てなかった。余所見をすると敢えて挑発するみたいに。そしてノアが僕たちを庇って怪我をした時、すごく取り乱していた。攻撃した自分の部下を蹴り飛ばしていたからね。ずっとノアのことが特別だったんじゃないかって思うんだよね」
「そうかな……」
「そういえば、闇魔法は愛の力によって強くなれるっていう話もあるらしいよ」
「えぇー!そうなの?」
「あくまで噂だけどね」
「へ~知らなかった」
 それからみんなで恋バナやら、好きな人の話をして盛り上がった。
(愛の力かぁ)
 ノアはその真ん中で、密かに胸が暖かい気持ちになった。


***
 数日後、正式に停戦協定を結びたいとカーティスは文章を送ってきた。戦争を辞める代わりにノアを自分の手元に置きたいというカーティスの申し出に、疲弊した光側も、ノアも了承した。両陣営が一同に介する調停式は、中立国にて行われた。ノアはみんなを呼んだ。
「ノア様、お綺麗ですよ」
「ほんと、羨ましいくらい美人ね」
「ドレスみたい。まるで花嫁さんみたいですね」
「あはは、花嫁かぁ」
 マディソンたちが褒めてくれて恥ずかしくなる。確かにマントは長く、背の小さいノアには白いウェディングドレスのようにも見えた。
(でもこれ、実際は軍服なんだけど)
 ガチャリ、ドアの開く音がした。
「ノア、準備はいいかい?」
 カーティスが現れた。いつもの黒いマント姿ではなく、黒いスーツに身を包んでいる。金色の髪は綺麗に纏められていて、まるでパーティーに参加する貴族みたいだ。
「うん。いつでも」
「では行こうか」
 ノアの手を取り、歩き出す。その様子にみんなが固まっている。
「え?え?あのイケメン、誰?」
「仮面でノアに変態発言ばっかりしていた奴じゃないのか!?」
「どう見ても別人じゃないか」
「ちょっと待って、どういうことなの!?」
「なんであんな格好良い人がノアの彼氏になってるわけ?」
「……騒がしいな」
 カーティスが苦笑いする。
「気にしないで」
 ノアはカーティスに微笑む。
「僕の大切な仲間たちだから」
***
「それでは、中立都市サザランドにて両陣営の停戦協定を執り行います」
 絵画にある天使や女神のような白いレースのロングドレスで着飾った女性、調停官のアナ・マリーが厳かに宣言した。
「まずは闇の帝王からお願いします」
 カーティスが一歩前へと足を踏み出す。
「我が名は闇の帝王カーティス。この度は我ら闇の魔法使いの勝利により、光側の領土の大半は我々の手中に収まったことをここに報告する。しかし我々は決して悪の集団ではない。我々が求めるのは平和であり、恒久的な世界の実現である。よって今後、我々は武力行使による侵略行為を全面的に禁止することを約束する。ただし、光側も同様に武力放棄を求める」
「続いて光の陣営よりオールドリーダー、オリバー・アーミリオン、お願いします」
「先生…」
 幼い頃、戦火の炎に包まれた村から僕を助け、育ててくれた、天才的な頭脳を持った魔術師、僕の師匠、オリバーが壇上に上がっていく。
「光の勇者よ、私はお前に託す。世界を救ってくれ。私の教え子達を頼む」
「はい。必ず」
 そっと肩に手を添えられ、ノアは泣きたくなる。
「オリバー・アーミオンだ。光側の領土は確かに大半を失ったが、一方で首都機能等政治的な中枢機関は無傷だ。故に今後も国家運営は可能だと思われる。また、軍事力も大幅に削がれたが、それでも尚、一定程度の戦力を保持している。従って、停戦協定の条件はある条件以外は、対等であることを前提とする。これから先、光の民と闇の民が共存していくために、私も尽力したいと思う。皆も協力して欲しい」
 わああと、どこからともなく歓声が沸き起こる。
「最後に、ノア」
「はい」
「君には感謝している。君がいなければ、我々は今頃こうして和平を結ぶことは出来なかっただろう。ありがとう」
「いえ、こちらこそ、色々とお世話になりました」
「君が望むなら、いつでもここへ戻って来て構わないからな」
「先生…ありがとうございます…」

「では、当方の停戦の条件として光の救世主であるノア・アーミオンを当陣営へ迎え入れることを要求する」

 カーティスがすかさず声を上げる。会場はざわめき、あちこちから困惑したような視線を感じる。
「何を言うかと思えば、そんな要求が通ると思っているのか?」
「皆の者、ノアは我々に刃を向けることはない!」
「そんなことわからないだろう!」
「オリバー殿、あなたは勘違いをしている。ノアを敵陣営へ渡すことは、我が陣営の大幅な戦力ダウンを意味する。それは即ち、敗北と同義だ!」
「そうだそうだ!」
 怒りや戸惑いの声がサザランドの広場に響き渡る。
「静粛に!これは両陣営の総意です。異議がある方は申し出てください」
 アナが仲裁に入る。
「ノア、自分の言葉で言いなさい」
「え?」
 師匠の声に僕は驚く。
「いいんですか?」
「勿論だ」
「じゃあ…みんな聞いてくれ。僕はカーティスと一緒に行くことに決めたんだ。理由は話せないけど、どうか許して欲しい」
 頭を下げると、広場全体がシンと静まり返る。
「オリバー先生の言う通り、僕が皆さんに危害を加える可能性はありません。僕は、和平の象徴として彼の陣営へ行くだけです。なので、ご安心ください」
「…………」
「ノア、行かないでくれよ」
「そうだそうだ!」
「ノア、あんたがいなくなったら私たちどうしたらいいのよ?」
「ノア、考え直してくれ」
 みんなの言葉に胸が痛くなる。
(でも、これが僕の出した結論なんだ)
「ノア…」
 マディソンが涙ぐむ。その肩をそっとテオが抱いている。僕の友達はみな事情をわかっていて、それでも泣きそうな顔をしていた。
「ノア、みんな君のことが好きなんだよ」
「師匠…でも、僕はもう」
 ふ、と老いた顔に皺を寄せて微笑む。
「幸せになるのだぞ」
「はい」
 僕は深くうなずいて、カーティスの隣に並ぶ。
「では、これにて停戦協定は成立致しました。この平和が崩れぬよう、両陣営とも努力して参りましょう」
 アナが高らかに宣言し、管楽器のファンファーレが鳴り響く。白い鳩が何羽も飛び立ち、両陣営の旗が風にたなびく。
 こうして、サザランドでの停戦協定は成立した。
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