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第一部
サイドストーリー・デオンの章Ⅱ
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※デオン生存イフ世界線
※デオンサイドストーリーのネタバレを多く含みます
「あなたが僕の救世主?」
”救世主”
戦闘狂と呼ばれていた自分に到底似つかわしくないその言葉を言われ、デオンは一時面食らった。
しかしそれもまた面白いと思うと、俄然これからの人生が楽しみに思えた
***
事の始まりは、デオンとジルカースの決着が着いた北の国での事だった。
「ボクの命もここまでか……君に出会えてなかなかに悪くなかったよ、ジルカース」
白雪の中で血に塗れながらそう告げたデオンは、ゆっくりと死の淵の微睡みの中へ意識を明け渡す。
視界に漆黒の闇、聴覚に静寂が訪れたその刹那、やってきたのは違和感のようなデジャブだった。
”死が救いになることもある”と、どこかで誰かに言われたたような気がしていた。
”ボクにはどうだったんだろうな”
そう思うとジルカースとの戦いの日々や、メリルと別れた門前での事や、レギオンたちの顔が、次々と走馬灯のように過ぎってきた。
感じたことのある感情、そしてあるはずの無い記憶、不思議な既視感。
”まだ、死にたくない”
デオンの中にそんな願いが生まれた時、聞きなれぬ異質な声が聞こえてきた。
『獄の中にあってなお、死を望まぬ呪われた命よ』
それまで絶え間なく聞こえていた父の呪いの声ではない、もっと別の、不思議な神々しさと気高さに溢れた、地の底から響くような声だった。
ばちんと音がして、暗闇に囚われ弱って居たはずのデオンの視界に真っ赤な閃光がひらめく。
『神とも渡り合うそなたのその強さ、人に留めておくは勿体ない。生きたいと願うならば、我が力を貸そう』
ばちばちと轟音を響かせて反響する紅い閃光のただ中へ、デオンは恐れる事無く右手を差し出した。
『覚えておくが良い、我が名は異郷の神”ヤンドーラ”』
その瞬間、視界と聴覚が戻ってきて、デオンは一瞬何が起きたのか分からなかった。
ただ分かったのは、自分は東の国へ向かう船のベッドの上に居ることと、隣にメリルとレギオンが居る事だった。
「坊ちゃん……?」
「まさか、生き返ったのか……!?」
驚く二人を前に、そういえばジルカースとの戦いで致命傷を負っていたなと、デオンは己の胸部を探った。
目視で確認すれば、確かに血に濡れた外傷の痕跡はあれど、どういう訳か傷口はすっかり癒えていた。
”おかしい、もうパパの声がしない”
幼少期に実父からギロ家の奴隷だと言われ続けるうちに蓄積された感情からか、はたまた父の呪いだったのか。
ずっと空耳の様に聞こえていた父の呪詛の言葉は、もう聞こえなくなっていた。
代わりに感じるのは、体の奥に渦巻く力強い脈動、”神力”の力だった。
『不老不死の力を授かったそなたは、今や神から認められし忌み子、”在りし神”よりこの世界を奪い、喰らいつくしてみよ』
一瞬の静寂の間に響いたヤンドーラの声に、デオンははっとした。
”神から認められし忌み子”
その言葉にふとした事が気にかかったデオンは、その帰り足で東の国の王城へと赴いた。
王城はジルカースたちが踏み入った後らしく、玉座を探せど王の部屋を探せど、どこにも総司令官レビィの姿は見当たらなかった。
「……研究施設だ、きっとそこにボクの探している答えがある」
負傷した軍兵たちへの労いも程々に、デオンはメリルとレギオンを伴って、神の遺体が在ったらしき研究施設へと向かった。
施設は荒らされた痕跡もなく、綺麗な状態で保存されていた。
中央の卓の上に広げられていた資料には、レビィがこれまで国の力を利用して”神の力”や”不老不死の力”や”神力”の研究をしていた事、そして”新たな神を作り出そうとしていた事”が書かれていた。
「どうやらレビィ閣下は王妃を手玉に取って我が利のために利用していたようだね」
デオンの言葉に、レギオンは驚きを隠せぬといった表情で問い返した。
「研究は40年前から行われていた、とあります。レビィ閣下は一体何者なんですか……?」
「さぁて、ねぇ」
三人で研究資料などを探るうち、施設の奥の部屋に神の遺体とは別の封印された遺産が眠っている事が発覚した。
存在を隠蔽するように貼り付けられた壁紙をデオンが剥ぐと、鉄製の扉が現れた。
施された奇妙な刻印の封印は、差し伸べたデオンの手から現れた、紅い雷の神力により破壊された。
「……これは、何だ……!?」
踏み入った先の光景に、デオンの背後に居たレギオンが驚きの声を上げる。
目の前にあったのは、硝子ポッドに収められ眠る、十二歳程の少年の姿だった。
「資料によれば、これが封印された遺産”神の玩具”だと」
「神の、玩具……?」
言葉に問いかけたデオンに、メリルは付け加えるように手にした資料を読み上げる。
”その少年、齢十歳にして奴隷狩りに合う。
その後、軍部の研究機関により極秘に買い取られた。
レビィ閣下の監視を掻い潜り、西の国の反乱軍一派と共に、研究員たちにより十余年に渡り手を加えられる。
神の力を投与し百にものぼる被検体が死亡する中で、唯一生存した個体。
その後、神力の覚醒、不老不死の力の覚醒を確認。
しかし突然の暴走により一国の精鋭部隊を壊滅させ、西の国にて捕獲。
その後カプセルに封じ込めた”
淡々と、しかし震える声を抑えながら読み上げたメリルに、デオンは半ば驚きながらも”ふぅん”と納得していた。
「つまり神の力にもてあそばれ、玩具にされた、この子が神の玩具って訳だね……皮肉のような呼称だ」
”まるでボクみたい”と思ったデオンの意識に、再びあのヤンドーラの声が響いてきた。
『遺産を手にせよ、さすればそなたは誰にも勝る王、神へと上り詰めるであろう』
『王……?神だって……?』
デオンが声に応えるように、左右の腰に装備したナイフに手を添えると、ナイフに紅の雷が纏い付きその刃を紅く染めた。
『そなたに授けしは遺産を継ぐ契機、もうひとつの神殺しの刃、使いこなしてみせよ』
ヤンドーラの言葉と同時に意識に浮かんで来たのは、なぜかジルカースとその仲間たちの姿だった。
神子が水鏡越しに対話しているのは、ジルカースだった。
神子が対話する存在は神しかありえない。
”つまり、在りし神とはジルカースの事なのか……?そんな馬鹿な話があるか?”
にわかには信じられなかったが、己に力を与えた人ならざる存在の示唆に、なぜか信憑性が増した。
「ハハッ……!面白いじゃないか!ボクに手をかけた存在が、よりにもよって信じて居なかった存在の神様だって?」
そこで思案を打ち切ったデオンは、両手にした神殺しの刃で、目の前の硝子ポッドを破壊した。
「いいさ!ボクが王にでも神にでもなってやる!このクソみたいな世界を壊して、全部奪い返してやるからな!」
けたたましい音を立てて砕けた硝子ポッドから、少年がふわりと倒れ、デオンの腕の中へともたれかかった。
薄らと瞼を開いて目を覚ました少年は、先程のデオンの言葉を聞いて居たのだろうか、こう言った。
「あなたが僕の救世主?」
”救世主”
戦闘狂と呼ばれていた自分に到底似つかわしくないその言葉を言われ、デオンは一時面食らった。
しかしそれもまた面白いと思うと、俄然これからの人生が楽しみに思えた。
「そうさ、ボクがお前のメシアだ、これまで喰らい尽くされた人生を奪い返してあげるよ」
不敵な笑みでそう宣言したデオンに、少年はにこりと笑った。
名も無きその少年に、デオンはイルヴァーナと名付けた。
***
それから百余年後。
デオンから不老不死の力を分け与えられたメリルとレギオンは、イルヴァーナと共に四人で新たな王国を築いていた。
不老不死である以上、四人は神殺しの刃でしか死ぬ事は出来ず、つまり幾度他国と戦おうが死する事はない、無敵の精鋭部隊となっていた。
デオンはいまや世界統一を目指し、これまでの世界史に見ない大王として君臨していた。
”死を知らぬ不死身の暴君デオン・ギロ”
それが今のデオンの二つ名だった。
戦の後、いましがた倒した王の玉座に、血塗れた鎧具足で踏み入ったデオンは、玉座に置かれた王冠を手に取った。
「ご勝利おめでとうございますデオン様」
その頭脳を買われ、今や国家作戦参謀となったメリルがデオンに祝いの言葉を述べる。
「レギオンとイルヴァーナは?」
「殲滅完了しております、まもなく戻られるかと」
血に汚れた王冠を被ったデオンは、にんまり笑いを浮かべて玉座にどかりと腰を下ろした。
「さて、次にこの王冠を奪いに来るのは誰かな?せいぜいボクの飢えを癒しておくれよ」
今やもう何度も刃を交えた好敵手の顔を思い起こしながら、デオンは果てどなく続く人生のただ中で高笑った。
※デオンサイドストーリーのネタバレを多く含みます
「あなたが僕の救世主?」
”救世主”
戦闘狂と呼ばれていた自分に到底似つかわしくないその言葉を言われ、デオンは一時面食らった。
しかしそれもまた面白いと思うと、俄然これからの人生が楽しみに思えた
***
事の始まりは、デオンとジルカースの決着が着いた北の国での事だった。
「ボクの命もここまでか……君に出会えてなかなかに悪くなかったよ、ジルカース」
白雪の中で血に塗れながらそう告げたデオンは、ゆっくりと死の淵の微睡みの中へ意識を明け渡す。
視界に漆黒の闇、聴覚に静寂が訪れたその刹那、やってきたのは違和感のようなデジャブだった。
”死が救いになることもある”と、どこかで誰かに言われたたような気がしていた。
”ボクにはどうだったんだろうな”
そう思うとジルカースとの戦いの日々や、メリルと別れた門前での事や、レギオンたちの顔が、次々と走馬灯のように過ぎってきた。
感じたことのある感情、そしてあるはずの無い記憶、不思議な既視感。
”まだ、死にたくない”
デオンの中にそんな願いが生まれた時、聞きなれぬ異質な声が聞こえてきた。
『獄の中にあってなお、死を望まぬ呪われた命よ』
それまで絶え間なく聞こえていた父の呪いの声ではない、もっと別の、不思議な神々しさと気高さに溢れた、地の底から響くような声だった。
ばちんと音がして、暗闇に囚われ弱って居たはずのデオンの視界に真っ赤な閃光がひらめく。
『神とも渡り合うそなたのその強さ、人に留めておくは勿体ない。生きたいと願うならば、我が力を貸そう』
ばちばちと轟音を響かせて反響する紅い閃光のただ中へ、デオンは恐れる事無く右手を差し出した。
『覚えておくが良い、我が名は異郷の神”ヤンドーラ”』
その瞬間、視界と聴覚が戻ってきて、デオンは一瞬何が起きたのか分からなかった。
ただ分かったのは、自分は東の国へ向かう船のベッドの上に居ることと、隣にメリルとレギオンが居る事だった。
「坊ちゃん……?」
「まさか、生き返ったのか……!?」
驚く二人を前に、そういえばジルカースとの戦いで致命傷を負っていたなと、デオンは己の胸部を探った。
目視で確認すれば、確かに血に濡れた外傷の痕跡はあれど、どういう訳か傷口はすっかり癒えていた。
”おかしい、もうパパの声がしない”
幼少期に実父からギロ家の奴隷だと言われ続けるうちに蓄積された感情からか、はたまた父の呪いだったのか。
ずっと空耳の様に聞こえていた父の呪詛の言葉は、もう聞こえなくなっていた。
代わりに感じるのは、体の奥に渦巻く力強い脈動、”神力”の力だった。
『不老不死の力を授かったそなたは、今や神から認められし忌み子、”在りし神”よりこの世界を奪い、喰らいつくしてみよ』
一瞬の静寂の間に響いたヤンドーラの声に、デオンははっとした。
”神から認められし忌み子”
その言葉にふとした事が気にかかったデオンは、その帰り足で東の国の王城へと赴いた。
王城はジルカースたちが踏み入った後らしく、玉座を探せど王の部屋を探せど、どこにも総司令官レビィの姿は見当たらなかった。
「……研究施設だ、きっとそこにボクの探している答えがある」
負傷した軍兵たちへの労いも程々に、デオンはメリルとレギオンを伴って、神の遺体が在ったらしき研究施設へと向かった。
施設は荒らされた痕跡もなく、綺麗な状態で保存されていた。
中央の卓の上に広げられていた資料には、レビィがこれまで国の力を利用して”神の力”や”不老不死の力”や”神力”の研究をしていた事、そして”新たな神を作り出そうとしていた事”が書かれていた。
「どうやらレビィ閣下は王妃を手玉に取って我が利のために利用していたようだね」
デオンの言葉に、レギオンは驚きを隠せぬといった表情で問い返した。
「研究は40年前から行われていた、とあります。レビィ閣下は一体何者なんですか……?」
「さぁて、ねぇ」
三人で研究資料などを探るうち、施設の奥の部屋に神の遺体とは別の封印された遺産が眠っている事が発覚した。
存在を隠蔽するように貼り付けられた壁紙をデオンが剥ぐと、鉄製の扉が現れた。
施された奇妙な刻印の封印は、差し伸べたデオンの手から現れた、紅い雷の神力により破壊された。
「……これは、何だ……!?」
踏み入った先の光景に、デオンの背後に居たレギオンが驚きの声を上げる。
目の前にあったのは、硝子ポッドに収められ眠る、十二歳程の少年の姿だった。
「資料によれば、これが封印された遺産”神の玩具”だと」
「神の、玩具……?」
言葉に問いかけたデオンに、メリルは付け加えるように手にした資料を読み上げる。
”その少年、齢十歳にして奴隷狩りに合う。
その後、軍部の研究機関により極秘に買い取られた。
レビィ閣下の監視を掻い潜り、西の国の反乱軍一派と共に、研究員たちにより十余年に渡り手を加えられる。
神の力を投与し百にものぼる被検体が死亡する中で、唯一生存した個体。
その後、神力の覚醒、不老不死の力の覚醒を確認。
しかし突然の暴走により一国の精鋭部隊を壊滅させ、西の国にて捕獲。
その後カプセルに封じ込めた”
淡々と、しかし震える声を抑えながら読み上げたメリルに、デオンは半ば驚きながらも”ふぅん”と納得していた。
「つまり神の力にもてあそばれ、玩具にされた、この子が神の玩具って訳だね……皮肉のような呼称だ」
”まるでボクみたい”と思ったデオンの意識に、再びあのヤンドーラの声が響いてきた。
『遺産を手にせよ、さすればそなたは誰にも勝る王、神へと上り詰めるであろう』
『王……?神だって……?』
デオンが声に応えるように、左右の腰に装備したナイフに手を添えると、ナイフに紅の雷が纏い付きその刃を紅く染めた。
『そなたに授けしは遺産を継ぐ契機、もうひとつの神殺しの刃、使いこなしてみせよ』
ヤンドーラの言葉と同時に意識に浮かんで来たのは、なぜかジルカースとその仲間たちの姿だった。
神子が水鏡越しに対話しているのは、ジルカースだった。
神子が対話する存在は神しかありえない。
”つまり、在りし神とはジルカースの事なのか……?そんな馬鹿な話があるか?”
にわかには信じられなかったが、己に力を与えた人ならざる存在の示唆に、なぜか信憑性が増した。
「ハハッ……!面白いじゃないか!ボクに手をかけた存在が、よりにもよって信じて居なかった存在の神様だって?」
そこで思案を打ち切ったデオンは、両手にした神殺しの刃で、目の前の硝子ポッドを破壊した。
「いいさ!ボクが王にでも神にでもなってやる!このクソみたいな世界を壊して、全部奪い返してやるからな!」
けたたましい音を立てて砕けた硝子ポッドから、少年がふわりと倒れ、デオンの腕の中へともたれかかった。
薄らと瞼を開いて目を覚ました少年は、先程のデオンの言葉を聞いて居たのだろうか、こう言った。
「あなたが僕の救世主?」
”救世主”
戦闘狂と呼ばれていた自分に到底似つかわしくないその言葉を言われ、デオンは一時面食らった。
しかしそれもまた面白いと思うと、俄然これからの人生が楽しみに思えた。
「そうさ、ボクがお前のメシアだ、これまで喰らい尽くされた人生を奪い返してあげるよ」
不敵な笑みでそう宣言したデオンに、少年はにこりと笑った。
名も無きその少年に、デオンはイルヴァーナと名付けた。
***
それから百余年後。
デオンから不老不死の力を分け与えられたメリルとレギオンは、イルヴァーナと共に四人で新たな王国を築いていた。
不老不死である以上、四人は神殺しの刃でしか死ぬ事は出来ず、つまり幾度他国と戦おうが死する事はない、無敵の精鋭部隊となっていた。
デオンはいまや世界統一を目指し、これまでの世界史に見ない大王として君臨していた。
”死を知らぬ不死身の暴君デオン・ギロ”
それが今のデオンの二つ名だった。
戦の後、いましがた倒した王の玉座に、血塗れた鎧具足で踏み入ったデオンは、玉座に置かれた王冠を手に取った。
「ご勝利おめでとうございますデオン様」
その頭脳を買われ、今や国家作戦参謀となったメリルがデオンに祝いの言葉を述べる。
「レギオンとイルヴァーナは?」
「殲滅完了しております、まもなく戻られるかと」
血に汚れた王冠を被ったデオンは、にんまり笑いを浮かべて玉座にどかりと腰を下ろした。
「さて、次にこの王冠を奪いに来るのは誰かな?せいぜいボクの飢えを癒しておくれよ」
今やもう何度も刃を交えた好敵手の顔を思い起こしながら、デオンは果てどなく続く人生のただ中で高笑った。
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