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第一話 とある昼休みの四人
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「奥神ぃ~百円かして」
「……また飯代忘れたのか」
「わり、明日返すからさ!頼むわ」
昼休みに入るや否や、俺のところに真っ先に飛んできた男『川野ケンジ』に、俺『奥神ヒロヤ』はなけなしの五百円の中から百円玉一枚を渡す。
その辺の不良の頼みならともかくも、他でもない親友の頼みであったがゆえに、断る理由はなかった。
うっすらメッシュを入れている、少しやんちゃそうな見てくれのケンジは、俺が小学五年の時に他校から転校してきた奴で、それ以来なんだかんだの長い縁が続いている。
「どうした奥神、またケンジにタカられてんの~?」
「人聞き悪いこと言うなよ、俺は借りた金はちゃんと返してるっつの!」
「三倍返しで?」
「……その高利息はさすがに貸した俺も断るな」
そこに現れた、テール髪が印象的な男『海野アヤト』は、うっすらSっ気を覗かせながらケンジをなじるような言葉をかける。アヤトはこの高校に入ってから知り合った奴だが、ケンジとの絶妙なボケツッコミのやり取りが面白く、俺自身も見ていて退屈しなかった。
「海野!てめぇこのやろ~っ!」
「恐怖!暴力に走る原始人!」
「誰が原始人じゃコラ~!」
二人の間で冗談めかした殴り合い劇場が始まったところへ、もう一人のメンバーが現れた。
「ちゃーす!わぁ、ヒロヤくんのメガネは今日も元気そうだね」
「……おう、キナリのアホ毛も元気そうだな」
フワフワとした髪質に、一本ぴょこんと生えたアホ毛を靡かせながら、不思議な性格の小柄な男、『山本キナリ』が現れた。キナリは隣のクラスの生徒だったが、入学時同じクラスになって以降気が合い、それ以来俺たちのクラスに度々やってきてはこうして言葉を交わす仲になっていた。
いつも絶やさないノホホンとした笑顔が、俺たちの間に流れる空気をより穏やかなものに変えてゆき、やがて茶番じみたケンジとアヤトの戦いは終結した。
キナリのマイナスイオンに引き寄せられたのか、ケンジはそのフワリとした頭をおもむろに撫でくりまわし始めた。
「なんかさ、キナリの髪撫でてると犬っころ思い出すの俺だけか?」
「……ケンジ、それもう何回も聴きすぎて飽きた」
俺の言葉に、「だってよ、毎回頭に浮かんできちまうんだもん」と返したケンジに、アヤトが「それ、同学年の男同士でじゃれあいながら言う言葉?」と、すかさず辛辣な言葉を送る。
「オッ、妬いてんのかアヤトぉ?」
「やめなよ、みんなが見てるじゃん」
「……アヤトが言うといまいち冗談に聞こえないからストップ」
俺の言葉にケンジとアヤトが「いやいやないない」と全く同じテンポで返すものだから、撫で回されていたキナリも「あはは」と笑い始めた。
「……そういやケンジ、早く飯買いに行かないと無くなるぞ」
「あ!忘れてたァ!待ってろ俺のカレーパン!」
「ヒロヤ、アヤト、おれたちも食べよ!お腹すいたぁ~!」
キナリの言葉で揃って弁当を広げた俺たちは、相変わらずのキナリの弁当のデカさにおののく。
その小柄な体躯のどこに、こんな爆デカ弁当を完食するだけの胃袋が存在するのだろうか。
「キナリくんは相変わらず大食漢だね、僕は相変わらずこの量だからさ」
そう言って自分の昼飯を指差したアヤトは「ショートコント、ダイエット中の女子」と、自虐ネタを繰り広げる。
「……握り飯一個とサラダ、確かに男子高校生の飯じゃないな」
「しょーがないじゃん、僕食べるの遅いんだもん」
「たでーま!俺も混ぜて~!」
そこに走って戻ってきたケンジが加わり、場はさらに賑やかさを増す。
「おかえり~!カレーパンあった?」
特大唐揚げを頬張りながら、キナリが問いかける。
「なんと……今日は半額セールの日だったので二個買えましたッ!」
「「「おお~!」」」
他愛無くも見える、すっかり息の合った四人の掛け合いを交わしながら、俺たちのゆるい昼休みは穏やかに過ぎていったのだった。
***
奥神ヒロヤ(16歳)
特に飾り気がなく無口な性格で、発言の前に「……」が付く、冷静沈着な男。いい奴すぎて周りから頼られがちだが、ナメてくる奴には結構キツい。川野ケンジとは小五からの幼なじみ。
川野ケンジ(16歳)
ややヤンチャなところがある、明るいムードメーカー。秘密にしているが、お化けが苦手でホラー番組は避けている。海野アヤトとは仲が悪いように見えて案外ウマが合う。カレーパンが好き。
海野アヤト(16歳)
皮肉っぽくSっ気のある中性的な男。川野ケンジと漫才を繰り広げる、準賑やかし要員。一見少食に見えるが、実は食べるのが遅いのを隠すため。細身な事をコンプレックスに感じており、キナリの大食漢ぶりに憧れている。
山本キナリ(16歳)
小さい体躯からして、たびたび小動物扱いをされるが、いつも穏やかに笑っている天然少年。体の大きさに似合わず大食漢で、学校に爆デカ弁当を持参している。開眼することは稀だが、真顔になる時はキレている時らしい。
「……また飯代忘れたのか」
「わり、明日返すからさ!頼むわ」
昼休みに入るや否や、俺のところに真っ先に飛んできた男『川野ケンジ』に、俺『奥神ヒロヤ』はなけなしの五百円の中から百円玉一枚を渡す。
その辺の不良の頼みならともかくも、他でもない親友の頼みであったがゆえに、断る理由はなかった。
うっすらメッシュを入れている、少しやんちゃそうな見てくれのケンジは、俺が小学五年の時に他校から転校してきた奴で、それ以来なんだかんだの長い縁が続いている。
「どうした奥神、またケンジにタカられてんの~?」
「人聞き悪いこと言うなよ、俺は借りた金はちゃんと返してるっつの!」
「三倍返しで?」
「……その高利息はさすがに貸した俺も断るな」
そこに現れた、テール髪が印象的な男『海野アヤト』は、うっすらSっ気を覗かせながらケンジをなじるような言葉をかける。アヤトはこの高校に入ってから知り合った奴だが、ケンジとの絶妙なボケツッコミのやり取りが面白く、俺自身も見ていて退屈しなかった。
「海野!てめぇこのやろ~っ!」
「恐怖!暴力に走る原始人!」
「誰が原始人じゃコラ~!」
二人の間で冗談めかした殴り合い劇場が始まったところへ、もう一人のメンバーが現れた。
「ちゃーす!わぁ、ヒロヤくんのメガネは今日も元気そうだね」
「……おう、キナリのアホ毛も元気そうだな」
フワフワとした髪質に、一本ぴょこんと生えたアホ毛を靡かせながら、不思議な性格の小柄な男、『山本キナリ』が現れた。キナリは隣のクラスの生徒だったが、入学時同じクラスになって以降気が合い、それ以来俺たちのクラスに度々やってきてはこうして言葉を交わす仲になっていた。
いつも絶やさないノホホンとした笑顔が、俺たちの間に流れる空気をより穏やかなものに変えてゆき、やがて茶番じみたケンジとアヤトの戦いは終結した。
キナリのマイナスイオンに引き寄せられたのか、ケンジはそのフワリとした頭をおもむろに撫でくりまわし始めた。
「なんかさ、キナリの髪撫でてると犬っころ思い出すの俺だけか?」
「……ケンジ、それもう何回も聴きすぎて飽きた」
俺の言葉に、「だってよ、毎回頭に浮かんできちまうんだもん」と返したケンジに、アヤトが「それ、同学年の男同士でじゃれあいながら言う言葉?」と、すかさず辛辣な言葉を送る。
「オッ、妬いてんのかアヤトぉ?」
「やめなよ、みんなが見てるじゃん」
「……アヤトが言うといまいち冗談に聞こえないからストップ」
俺の言葉にケンジとアヤトが「いやいやないない」と全く同じテンポで返すものだから、撫で回されていたキナリも「あはは」と笑い始めた。
「……そういやケンジ、早く飯買いに行かないと無くなるぞ」
「あ!忘れてたァ!待ってろ俺のカレーパン!」
「ヒロヤ、アヤト、おれたちも食べよ!お腹すいたぁ~!」
キナリの言葉で揃って弁当を広げた俺たちは、相変わらずのキナリの弁当のデカさにおののく。
その小柄な体躯のどこに、こんな爆デカ弁当を完食するだけの胃袋が存在するのだろうか。
「キナリくんは相変わらず大食漢だね、僕は相変わらずこの量だからさ」
そう言って自分の昼飯を指差したアヤトは「ショートコント、ダイエット中の女子」と、自虐ネタを繰り広げる。
「……握り飯一個とサラダ、確かに男子高校生の飯じゃないな」
「しょーがないじゃん、僕食べるの遅いんだもん」
「たでーま!俺も混ぜて~!」
そこに走って戻ってきたケンジが加わり、場はさらに賑やかさを増す。
「おかえり~!カレーパンあった?」
特大唐揚げを頬張りながら、キナリが問いかける。
「なんと……今日は半額セールの日だったので二個買えましたッ!」
「「「おお~!」」」
他愛無くも見える、すっかり息の合った四人の掛け合いを交わしながら、俺たちのゆるい昼休みは穏やかに過ぎていったのだった。
***
奥神ヒロヤ(16歳)
特に飾り気がなく無口な性格で、発言の前に「……」が付く、冷静沈着な男。いい奴すぎて周りから頼られがちだが、ナメてくる奴には結構キツい。川野ケンジとは小五からの幼なじみ。
川野ケンジ(16歳)
ややヤンチャなところがある、明るいムードメーカー。秘密にしているが、お化けが苦手でホラー番組は避けている。海野アヤトとは仲が悪いように見えて案外ウマが合う。カレーパンが好き。
海野アヤト(16歳)
皮肉っぽくSっ気のある中性的な男。川野ケンジと漫才を繰り広げる、準賑やかし要員。一見少食に見えるが、実は食べるのが遅いのを隠すため。細身な事をコンプレックスに感じており、キナリの大食漢ぶりに憧れている。
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小さい体躯からして、たびたび小動物扱いをされるが、いつも穏やかに笑っている天然少年。体の大きさに似合わず大食漢で、学校に爆デカ弁当を持参している。開眼することは稀だが、真顔になる時はキレている時らしい。
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