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一話
しおりを挟む「ここはどこだ?」
そこは摩天楼だった。見たこともない景色、あたりは星の様に輝く物で溢れている。馬のいないひとりでに走る馬車。見知らぬ服を着た恐らく同種族であろう者達に囲まれ、一人剣をぶら下げ時代かかった服を着た俺はそこにポツンと立っていた。
「マジですか…」
俺は、異世界で遭難していた。
今から数時間前。
「本当にやるんですか」
「ああ、今この現状を打破するにはこれしか無いのだ」
ここは我が国フォレスト王国。
数時間後、異世界召喚の儀式が行われる予定だ。
この世界の人間種は今、危機的状況に立たされている。この世界では遥か昔から魔族とは敵対関係にある。長い年月、硬直していた戦況。それが動き現在、人間種滅亡する可能性さえ出てきている。
「もうすでに三つの国が奴らに落とされた。次はこの国に侵攻していてきてもおかしくない。」
「しかし、まだ未完成の魔法を使うのは危険ではないでしょうか」
「だが、もう八割ほど完成していると聞く。試してみる価値はあると私は思う」
いや、八割しか出来てないから止めているだよ。
俺は心でそう思った。
召喚魔法。異世界より世界を救う勇者を召喚することのできるかもしれない魔法。
そう魔導書には記されている。
「いや、かもしれないってなんだ」
みんな最初はそう言った。だが今は誰一人として、そこをつっこむ者はいない。
それだけ、精神的に追い詰められている。もしかしたら明日攻めてくるかもしれない。今日かもしれない。今かもしれない。考えると鳥肌が立ち、冷や汗をかく。それほどまでに恐怖を感じ、このふざけた魔導書縋っているのだ。
「ガゼル様!」
後ろから綺麗な透き通った声が聞こえる。
「姫さま、どうなさいましたか」
セル・サフリナ。この国の第一王女だ。
「今日、本当に大丈夫なのですか」
その声、表情から彼女の感じている気持ち、召喚の儀式の不安がヒシヒシと伝わってきた。
「大丈夫です。……て、はっきり言えたらいいんですけどね。さすがになんとも言えません。」
「そうですか……そうですよね…」
「大丈夫です」そう言いたい。そう言わなければならない。だが、大丈夫と断言できない以上無責任なことは言えない。彼女も魔法が完成していないのは知っている。俺からの答えも分かっていただろう。だけどもしかしたら、そう思う心が彼女を俺の前まで連れてきた。
「召喚が成功するかは分かりませんが、あなたの事は何があっても守ってみせます。」
「頼みますね」
これが俺の言える最低限の保証だ。召喚魔法がどうなるかわからない以上彼女の身の安全は絶対ではない。そんな事は分かっている。これはこの国一の戦士である俺の義務だ。
そして、その時はやってくる。
儀式場には国王、大臣、使用人までもが集まっている。召喚用に準備された舞台、それを囲む様に魔法師達が並び詠唱を始める。儀式場全体に緊張が走る。俺は儀式場の端で、それを見つめる。
詠唱が進むに連れ緊張度と警戒度が増す。だか、舞台はまだ何も変化はない。みんな行きを呑んだ。
何も起きないぞ
そう思った時、スーッと風か頬を撫でた。
緊張が走った。
舞台から風が発生している、そう思った。舞台から俺たちに向かって吹いている。だか、すぐに違うと分かった。
風により俺の髪は靡いていた。だか、俺より舞台に近い位置にいるはずの大臣達の髪は靡いていなかったのだ。俺はゴクリと息飲み、ゆっくり振り返った。そこには黒い点があった。周りを紫色の稲妻が走る。明らかに、ガゼルはこの黒い点から発生していた。そして次の瞬間、それは拡大した。
「あっ」
拡大と同時に凄まじい引力が発生する。バリバリと稲妻がほとばしり、唸りをあげ、あたりのものを吸い込んだ。
「何かに掴まれ!」
そう誰かが叫んだ。だが、儀式場に既に俺の姿はない。黒い点のすぐそばにいた俺は初めの犠牲者となったのだ。
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