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第一章 最強の娘? いえいえ、娘が最強です
勇者、登場! 口も悪けりゃ目付きも悪い!
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サーシャ村に入った俺達に視線が集中する。
熊が村に入って来たのだから、それは仕方のない事だと初めから分かっていたことだ。
その一方、熊五郎の背に乗ったアリステリアは生まれて初めて見る大勢の人間と、数多くの木造の建物に目を奪われ全く気づく様子はない。
「いっぱい人がいるです! それになんかいい匂いするです」
アリステリアの言う通り村と呼ぶには人が多く、通りを挟んで建てられた木造の家の前には屋台も出ており芳しい香りで、鼻腔をくすぐってくる。
村長のスアレスが言うには住民だけでなく、魔物から村を守る傭兵や村としては珍しい砦のような壁を一度見に観光する者も少なくないらしい。
村長であるスアレスが先導する事によって、熊五郎を警戒はしつつも遠巻きながら興味深く観察を続ける住人達。
その中の一人の若者が恐れながらも勇気を持ってスアレスへと近づいてきた。
少し距離があり小声なため会話は聞こえて来ないが、スアレスが俺の方に視線を送って来た。熊五郎が安全で大人しいところを見せろと言う意味だろう。
「アリス、アリス!」
色んな事に心奪われていたアリステリアは、最初俺の言葉に気づいていなかったようでハッと我に返る。
「パパ、彼処に行ってみたいです」
「落ち着けアリス。とりあえずだな……」
俺はアリステリアにもう一度兵士に見せたように熊五郎が大人しいところを教えてあげなさいと伝えた。
「ハイです!」
元気良く挨拶をしたアリステリアが熊五郎の背から飛び降りると、今度は熊五郎を立たせ手を繋ぐと、二人は踊るようにその場で回り始めた。
村人を見ると、熊五郎が立ち上がったときはおっかなびっくりの様子だったが、あまりに身長差があるダンスに中腰で辛そうにしていた熊五郎が踊りにくそうな姿が滑稽に見えたようでクスクスと笑う人が現れる。
ひらりとワンピースのスカートが舞い、太陽のような明るい笑顔のアリステリアに見とれている者もいるが、女性はともかく男は……取り敢えず殺すと密かに決意。
自然と遠巻きに見ていた村人は、距離を縮めて来て俺達を取り囲む。そして二人は踊り終えると、並んで村人に向かって頭を少し下げた。
「あっという間に人気者じゃな。ワシの出る幕は無さそうだ。ふむ、ワシは他に用事があるでな、先に家に帰るが、ワシの家の場所覚えているな?」
「はい。ありがとうございます」
スアレスは人の輪をかき分け、姿が見えなくなる。暫くは大丈夫だろうと俺が振り返ると「きゃーっ!」と女性の悲鳴が聴こえてきた。
何かやったのかとアリステリア達に視線を向けたが先ほどまで踊っていた場所にその姿はない。
住民の視線がある店一点に集まっているのに気付き、俺が向かうとかなり香ばしいタレが焼かれた匂いが店からは漂う。
「ケパプか」
ケバブではなく、ケパプ。
食用可能な魔物肉をソースにつけて、小麦粉のようなものを焼いたものに挟んで食べる、ジャンクフードのようなものである。
そのケパプの店の前に熊五郎の背に乗ったアリステリアの後ろ姿が。ケパプの店主は、ジーっとアリステリアと熊五郎に見つめられ、やりにくそうに頬をひきつらせたまま固まっていた。
「アリス?」
二人の顔を覗き見ると、熊五郎と一緒になって涎を垂らして羨望の眼差しを店主に向けていた。
俺にようやく気づくと、今度は二人して此方をじっと見て視線が買えと強く訴えていた。
「まあ、初めてだからな。店主、すまないが、ケパプを二つくれ」
「へ、へぇ、二つで四ピートになります」
結構高い。ピートはこの世界の貨幣の単位であり、大体俺が一月で稼ぐお金の十分の一ほどだ。
「はい、四ピート」
「毎度あり。じゃあ、少し待ってくれ」
店主は手際よくケパプを二つ作りあげていく。
肉を切り落としソースをつけて焼き始める。それを更にソースに二度付けして、パンというよりは、ナンに近い小麦粉を焼いたものに挟むとソースが染み込む。
アリステリアと熊五郎の二人は、一挙手一投足見逃さないよう全くその視線を外すことなく凝視し続ける。
「お待ち!」
店主はアリステリアに二つのケパプを差し出す。
「ありがとです!」
二つのケパプを手にしたアリステリアは熊五郎の背中から飛び降りると、一つを熊五郎に手渡した。熊五郎は、その場に胡座を組んで座り、器用に両手でケパプを受け取る。
熊五郎の膝の上に座ったアリステリアは、ケパプを出来る限りの大きな口を開いてかぶりつく。
「ん~~~っ!! 美味しいです! これを作ったおじさんは天才です!」
頬が落ちないように手を添えて、喜色満面の笑みを浮かべるアリステリア。あまりにも美味しそうに食べる姿に周囲の人達の中には唾を飲み込む人もいた。
今は店前に熊五郎がいるので近づいて来ないが、離れたら殺到しそうだ。
ケパプ屋の店主は初めきょとんとしていたが、まるでヒーローを見るかのような視線をアリステリアから向けられて、「おうよ」と親指を立てポーズを決めた。
別にこの店主がケパプを開発したわけではないだろうに。
アリステリアの純粋な期待に応えたようだ。
「ん?」
ご婦人方が特にクスクスと笑うのが見え、アリステリアを見ると口の周りにはべっとりと赤いソースが付いていた。それをスカートで拭こうとするのを、俺は慌てて止め、ハンカチを差し出す。
「これで拭きなさい」
「ハイです!」
男親だけという欠点だろう。学校に行って身嗜みなど身に付けられたら良いが、俺も今後は気をつけようと思う。
一方、熊五郎はケパプに夢中で、ガブガブと勢いよくかぶりついていた。
アリステリアと熊五郎を中心に取り囲んでいた人達の中から同じようにケパプ片手に持った男の子がトコトコと熊五郎に近づく。少しアリステリアより幼いくらいか。
子供とはいえ、怖いものは怖いらしく熊五郎から離れた所で足を止めた。
「触っても大丈夫だよ」
俺がしゃがんで男の子に視線を合わせて教えてやると、男の子は嬉しそうに破顔してさらに熊五郎に近づいた。少し腰は退けていたが、ケパプを持っていた手を持ちかえて手を伸ばす。
「あ、待って!」
俺の失態だった。熊五郎はきれい好きで灰色の毛を汚されるのを極端に嫌う。
男の子の伸ばした手にはべっとりとケパプのソースが付いていたのだ。
「ガアアッ!!」
熊五郎はその牙を剥き出しにして口を開いて威嚇する。口内はケパプのソースにより真っ赤に染まっていたのだから、男の子が驚くのも無理はない。
その拍子に転びそうになった男の子は俺達を取り囲む人の輪に向かって逃げ出した。
「うわあああん!」
熊五郎から逃げ出した男の子は前を見ておらず、今度は一人の男性の足元にぶつかり尻餅をついた。
男性の足元のズボンがケパプのソースで汚れてしまう。
「あぁん! 何すんだ、クソガキ!」
俺は男性の顔を見て思わずぎょっとする。
どこまでもつり上がった鋭い目。
口はへの字に歪み片眉を吊り上げ不快を露にする。
人を射るような鋭い視線が男の子に向けられた。
しかし、周囲の大人達は誰も男の子を助けようとしない。
男性は「何処に目をつけてんだよぉ! あぁ?」と暴言を吐き足を開いてしゃがむと、男の子から全く視線を外さない。すでに男の子の目からは大粒の涙がボロボロと溢れていた。
「いけない!」
俺が男の子を助けるべく飛び出した時には遅かった。目付きの悪い男性は男の子に向けて手を伸ばしていたのだ。
「よっと」
男性の意外な行動に俺はたまらず急ブレーキをかけて足を止めた。
男性は男の子の脇を抱えて起こしてやると、お尻についた土を払ってやったのだ。
それでも男性は険しい表情のまま、自分の懐をごそごそと漁る。
「おい、ガキ! 手ぇ、出せや」
男の子は戸惑いながらどうすればいいのか周りの大人に視線を向けると、男性は更に苛立ちを募らせる。
「おらぁ! 早くしやがれ!」
体を硬直させ男の子は恐る恐る手を出すと、男性は懐から何か取り出して男の子に握らせた。
「ほらよ、これで新しいケパプ買えや!」
渡したのは二ピートであった。男の子はきょとんとしていたが、男性に急かされると慌ててあのケパプ屋へと走り去った。
「全く……アラキは。勇者のクセに顔が怖いのは損するわよ」
「っせーよ。好きで勇者してんじゃねぇっての」
アラキと呼ばれた男性の連れだろうか。黒い修道服を着こんだ若く綺麗な女性は腕を組み呆れた顔をしていた。
魔王がいるのだ、対となる勇者がいるとは思っていたが想像の斜め上を行く口の悪さと目付きの悪さの勇者に、俺は唖然と立ち尽くすのであった。
熊が村に入って来たのだから、それは仕方のない事だと初めから分かっていたことだ。
その一方、熊五郎の背に乗ったアリステリアは生まれて初めて見る大勢の人間と、数多くの木造の建物に目を奪われ全く気づく様子はない。
「いっぱい人がいるです! それになんかいい匂いするです」
アリステリアの言う通り村と呼ぶには人が多く、通りを挟んで建てられた木造の家の前には屋台も出ており芳しい香りで、鼻腔をくすぐってくる。
村長のスアレスが言うには住民だけでなく、魔物から村を守る傭兵や村としては珍しい砦のような壁を一度見に観光する者も少なくないらしい。
村長であるスアレスが先導する事によって、熊五郎を警戒はしつつも遠巻きながら興味深く観察を続ける住人達。
その中の一人の若者が恐れながらも勇気を持ってスアレスへと近づいてきた。
少し距離があり小声なため会話は聞こえて来ないが、スアレスが俺の方に視線を送って来た。熊五郎が安全で大人しいところを見せろと言う意味だろう。
「アリス、アリス!」
色んな事に心奪われていたアリステリアは、最初俺の言葉に気づいていなかったようでハッと我に返る。
「パパ、彼処に行ってみたいです」
「落ち着けアリス。とりあえずだな……」
俺はアリステリアにもう一度兵士に見せたように熊五郎が大人しいところを教えてあげなさいと伝えた。
「ハイです!」
元気良く挨拶をしたアリステリアが熊五郎の背から飛び降りると、今度は熊五郎を立たせ手を繋ぐと、二人は踊るようにその場で回り始めた。
村人を見ると、熊五郎が立ち上がったときはおっかなびっくりの様子だったが、あまりに身長差があるダンスに中腰で辛そうにしていた熊五郎が踊りにくそうな姿が滑稽に見えたようでクスクスと笑う人が現れる。
ひらりとワンピースのスカートが舞い、太陽のような明るい笑顔のアリステリアに見とれている者もいるが、女性はともかく男は……取り敢えず殺すと密かに決意。
自然と遠巻きに見ていた村人は、距離を縮めて来て俺達を取り囲む。そして二人は踊り終えると、並んで村人に向かって頭を少し下げた。
「あっという間に人気者じゃな。ワシの出る幕は無さそうだ。ふむ、ワシは他に用事があるでな、先に家に帰るが、ワシの家の場所覚えているな?」
「はい。ありがとうございます」
スアレスは人の輪をかき分け、姿が見えなくなる。暫くは大丈夫だろうと俺が振り返ると「きゃーっ!」と女性の悲鳴が聴こえてきた。
何かやったのかとアリステリア達に視線を向けたが先ほどまで踊っていた場所にその姿はない。
住民の視線がある店一点に集まっているのに気付き、俺が向かうとかなり香ばしいタレが焼かれた匂いが店からは漂う。
「ケパプか」
ケバブではなく、ケパプ。
食用可能な魔物肉をソースにつけて、小麦粉のようなものを焼いたものに挟んで食べる、ジャンクフードのようなものである。
そのケパプの店の前に熊五郎の背に乗ったアリステリアの後ろ姿が。ケパプの店主は、ジーっとアリステリアと熊五郎に見つめられ、やりにくそうに頬をひきつらせたまま固まっていた。
「アリス?」
二人の顔を覗き見ると、熊五郎と一緒になって涎を垂らして羨望の眼差しを店主に向けていた。
俺にようやく気づくと、今度は二人して此方をじっと見て視線が買えと強く訴えていた。
「まあ、初めてだからな。店主、すまないが、ケパプを二つくれ」
「へ、へぇ、二つで四ピートになります」
結構高い。ピートはこの世界の貨幣の単位であり、大体俺が一月で稼ぐお金の十分の一ほどだ。
「はい、四ピート」
「毎度あり。じゃあ、少し待ってくれ」
店主は手際よくケパプを二つ作りあげていく。
肉を切り落としソースをつけて焼き始める。それを更にソースに二度付けして、パンというよりは、ナンに近い小麦粉を焼いたものに挟むとソースが染み込む。
アリステリアと熊五郎の二人は、一挙手一投足見逃さないよう全くその視線を外すことなく凝視し続ける。
「お待ち!」
店主はアリステリアに二つのケパプを差し出す。
「ありがとです!」
二つのケパプを手にしたアリステリアは熊五郎の背中から飛び降りると、一つを熊五郎に手渡した。熊五郎は、その場に胡座を組んで座り、器用に両手でケパプを受け取る。
熊五郎の膝の上に座ったアリステリアは、ケパプを出来る限りの大きな口を開いてかぶりつく。
「ん~~~っ!! 美味しいです! これを作ったおじさんは天才です!」
頬が落ちないように手を添えて、喜色満面の笑みを浮かべるアリステリア。あまりにも美味しそうに食べる姿に周囲の人達の中には唾を飲み込む人もいた。
今は店前に熊五郎がいるので近づいて来ないが、離れたら殺到しそうだ。
ケパプ屋の店主は初めきょとんとしていたが、まるでヒーローを見るかのような視線をアリステリアから向けられて、「おうよ」と親指を立てポーズを決めた。
別にこの店主がケパプを開発したわけではないだろうに。
アリステリアの純粋な期待に応えたようだ。
「ん?」
ご婦人方が特にクスクスと笑うのが見え、アリステリアを見ると口の周りにはべっとりと赤いソースが付いていた。それをスカートで拭こうとするのを、俺は慌てて止め、ハンカチを差し出す。
「これで拭きなさい」
「ハイです!」
男親だけという欠点だろう。学校に行って身嗜みなど身に付けられたら良いが、俺も今後は気をつけようと思う。
一方、熊五郎はケパプに夢中で、ガブガブと勢いよくかぶりついていた。
アリステリアと熊五郎を中心に取り囲んでいた人達の中から同じようにケパプ片手に持った男の子がトコトコと熊五郎に近づく。少しアリステリアより幼いくらいか。
子供とはいえ、怖いものは怖いらしく熊五郎から離れた所で足を止めた。
「触っても大丈夫だよ」
俺がしゃがんで男の子に視線を合わせて教えてやると、男の子は嬉しそうに破顔してさらに熊五郎に近づいた。少し腰は退けていたが、ケパプを持っていた手を持ちかえて手を伸ばす。
「あ、待って!」
俺の失態だった。熊五郎はきれい好きで灰色の毛を汚されるのを極端に嫌う。
男の子の伸ばした手にはべっとりとケパプのソースが付いていたのだ。
「ガアアッ!!」
熊五郎はその牙を剥き出しにして口を開いて威嚇する。口内はケパプのソースにより真っ赤に染まっていたのだから、男の子が驚くのも無理はない。
その拍子に転びそうになった男の子は俺達を取り囲む人の輪に向かって逃げ出した。
「うわあああん!」
熊五郎から逃げ出した男の子は前を見ておらず、今度は一人の男性の足元にぶつかり尻餅をついた。
男性の足元のズボンがケパプのソースで汚れてしまう。
「あぁん! 何すんだ、クソガキ!」
俺は男性の顔を見て思わずぎょっとする。
どこまでもつり上がった鋭い目。
口はへの字に歪み片眉を吊り上げ不快を露にする。
人を射るような鋭い視線が男の子に向けられた。
しかし、周囲の大人達は誰も男の子を助けようとしない。
男性は「何処に目をつけてんだよぉ! あぁ?」と暴言を吐き足を開いてしゃがむと、男の子から全く視線を外さない。すでに男の子の目からは大粒の涙がボロボロと溢れていた。
「いけない!」
俺が男の子を助けるべく飛び出した時には遅かった。目付きの悪い男性は男の子に向けて手を伸ばしていたのだ。
「よっと」
男性の意外な行動に俺はたまらず急ブレーキをかけて足を止めた。
男性は男の子の脇を抱えて起こしてやると、お尻についた土を払ってやったのだ。
それでも男性は険しい表情のまま、自分の懐をごそごそと漁る。
「おい、ガキ! 手ぇ、出せや」
男の子は戸惑いながらどうすればいいのか周りの大人に視線を向けると、男性は更に苛立ちを募らせる。
「おらぁ! 早くしやがれ!」
体を硬直させ男の子は恐る恐る手を出すと、男性は懐から何か取り出して男の子に握らせた。
「ほらよ、これで新しいケパプ買えや!」
渡したのは二ピートであった。男の子はきょとんとしていたが、男性に急かされると慌ててあのケパプ屋へと走り去った。
「全く……アラキは。勇者のクセに顔が怖いのは損するわよ」
「っせーよ。好きで勇者してんじゃねぇっての」
アラキと呼ばれた男性の連れだろうか。黒い修道服を着こんだ若く綺麗な女性は腕を組み呆れた顔をしていた。
魔王がいるのだ、対となる勇者がいるとは思っていたが想像の斜め上を行く口の悪さと目付きの悪さの勇者に、俺は唖然と立ち尽くすのであった。
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