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お礼
しおりを挟む魔力を失ってしまった私と、稀なる光の魔力持ちのリンディ。
弟のサイラスが生まれてから、少しずつ変化していった日常が、更に、急速に変化していくのを感じていた。
父と母は、相変わらず私にも優しいしが、私を見てはいない。いつも見ているのは、リンディとサイラスだけ。
ふと、寂しいな─と思った時は『お嬢様、今日はお菓子を作りませんか?』と、エメリーが声を掛けてくれる。そして、エメリーと作ったお菓子を『美味しいですね。また、上手になりましたか?』と、エメリーの旦那であり、ブルーム家の家令でもあるケンジーが褒めてくれる。その2人の優しさに、いつも救われている。だから、私は、まだ前を向いていられた。
「あー……本当にキャミーが羨ましいわ。リンディ様の専属侍女なんて。私なんて、ハズレお嬢様よ?」
「ジル、そんな言い方は失礼よ?仮にも、アレでも伯爵令嬢なんだから……」
クスクスと嗤っている侍女達の声が、私の耳に入って来るが、これも、最近では慣れて来てしまっている。
ー本当の事だから、仕方無い…よねー
いつものように、それを聞かなかった事にして立ち去ろうとした時
「なら、あなたにはエヴィ様付きの侍女を辞めていただきます」
と、エメリーが現れた。
「エメリーさん!あのっ…これは……」
「言い訳は結構です。仕える身でありながら、その主となる人を貶めるような事を言う人を、エヴィ様の側に置くことはできませんからね。あぁ、勘違いしないように言っておきますが、そんな使用人を雇っておく必要も理由もありませんから、この邸からも出て行っていただきます。できれば、3日以内に荷物を纏めて出て行きなさい」
「そんな─っ!これは、私だけじゃなく、皆が思ってる事じゃないですか!何故、私だけ──っ!」
「本当に馬鹿な子ね。今日中に出て行きなさい。でなければ、無理矢理にでも追い出すだけよ。それと、紹介状などは一切用意もしませんからね」
使用人は、仕事を辞める時に紹介状がもらえるかもらえないかで、次に就ける仕事が大きく変わって来る。紹介状が無いと言う事は、問題を起こして辞めさせられた、使用人としては無能だったと捉えられるのだ。勿論、そうなれば、まともな家では雇ってもらえなくなる。
ジルは怒りを爆発させるように叫んでいたけど、邸に居る護衛2人に抱えられるようにして追い出されて行った。
それからは、エメリーが私に付いてくれるようになった。
「良い侍女が見付かる迄は、私で我慢して下さいね」
とエメリーは言うけど、私はエメリーが良いから良かったわと答えた。
それから私は、人を見るようになった。
人を見るようになってから、更に他人の感情に敏感になってしまった。
私に好意的な人、無関心な人、嫌悪感を持つ人──
特に、光の魔力持ちのリンディに憧れを持つ人は、私に嫌悪感を抱く人が多い事が分かった。
双子のくせに、私には魔力が無いから?容姿も違うから?理由は分からない。
傍から見れば、父と母が私を見ていない事も分かるのだろう。それも、私が敬遠される理由の一つかもしれない。
私が信頼できるのは、今はエメリーとケンジーだけだった。
そして───
「エメリー、1つだけ…お願いがあるんだけど…」
私は、ずっと思っていた事をエメリーにお願い?相談をした。
******
「お姉様?」
「──えっ!?」
私は今、同じ敷地内にある別邸へとやって来ている。先触れなどは無しで。なので、今、目の前に居る姉は、とても驚いていて、目を見開いたまま固まっている。
「あの……私、エヴィです。覚えて…ますか?」
実は、姉とちゃんと会うのは、私が高熱を出して倒れてから初めてなのだ。半年ぶり…である。
「……ふふっ。覚えているわよ。ビックリ…して……。どうして別邸に?」
少し困ったように笑う姉もまた、リンディとは違う儚さがある。
「あの…どうしても、あの時のお礼がしたくて。エメリーにお願いして、ここに連れて来てもらったんです」
直接言われた事は無いけど、父と母は、私達がこの姉と会う事を善しとは思っていない。だから、姉を別邸に閉じ込めるようにしているのだろう。
『私が本当の母親じゃないから、嫌なのかもしれないわね。』
そう言った母の言葉も、今思えば、本当の事なのかどうかも怪しいとさえ思える。
だから、私は、信頼するエメリーにだけに相談した。
「お姉様にお礼がしたいから会いたい」と。
すると、エメリーは嬉しそうに笑って、私と姉が会える日を作ってくれたのだ。
今日、父は仕事で登城、母とリンディとサイラスは3人で買い物に出掛けている。その4人が不在の間に─と、私はエメリーと一緒に別邸へとやって来たのだ。
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