54 / 75
決別
しおりを挟む
「エヴィ!ジェマ!待ちなさい!」
フロイドが呼び止めるが、私達は歩みを止めない。
「エヴィ?どうしたの?」
「お姉様、後でちゃんと説明するから、今は少しでも早くブルーム邸から出て行きたいの」
困惑顔の姉は「分かったわ」と言って、私と手を繋いだまま邸の廊下を早歩きで玄関へと向かい、そのまま玄関の扉を開けると、そこにはブレイン=アンカーソン様が立っていた。それも、今迄に見た事もない笑顔で。
「ブレイン様!?どうしてここに!?」
姉が驚いて、そのままの勢いでアンカーソン様の側へと駆け寄る。
「ブルーム邸で食事をすると聞いて、心配になって迎えに来たんだ。父上と、アレクシス殿には許可を得てるから、今日はアンカーソン邸に来てもらう」
アンカーソン様は、気付いているのかな?兎に角、アンカーソン様と一緒の方が安全だろう。
「アンカーソン様、お姉様の事、宜しくお願いします」
「あぁ、ジェマの事は任せてくれ。それで──エヴィ嬢は……あの馬車で帰ってくれるか?」
「あの馬車?」
アンカーソン様が指差した方に、確かに、乗って来たローアン家の馬車ではない、シンプルな馬車が停まっていた。しかも、乗って来た馬車は居なくなっている。
「さぁ、エヴィ嬢。また彼等に捕まる前に帰った方が良い。私も、もう帰るから」
と、アンカーソン様は姉を連れて、アンカーソン様の乗って来ただろう馬車に乗り込んだ。
ー確かに、また捕まったりしたら、何を言われるか分からないよねー
嫌だと言っても、もうあの馬車しかないし、アンカーソン様があの馬車に乗れと言うなら、危険はないだろう─と、その馬車へと足を向けた時、後ろから手を掴まれた。
「──っ!?」
「エヴィ……何処に行くの?」
後ろを振り返ると、ポーリーンが私の手を掴んで立っていた。
「何処に──って……私は、私の家に帰るだけです─っ」
ギリッ─と、ポーリーンが私の手を掴んでいる手に力を入れる。
「何を言っているの?あなたの家はここでしょう?魔力無しのクセに……侯爵令嬢なんて………」
“魔力無しのクセに”
今迄は、ハッキリと言われた事はなかったその言葉。
ーあぁ、やっぱり……母は、私の事をそう思っていたのかー
心が急激に冷えていく。足元がグラつきそうになった時、フワリ─と、誰かが私を抱き留めた。
「───ブルーム伯爵夫人。その手を離してもらおうか」
「っ!?王太子……殿下!?」
ポーリーンが私から手を離すと、殿下は更に私を抱く腕に力を入れて自分の方へと抱き寄せた。
「遅くなってすまない。まさか、手を出して来るとは思わなかったんだ」
耳元で囁かれて、私は頭をフルフルと振る。
何故、殿下が謝るのか……殿下は何も悪くない。悪いのはポーリーンだ。『寧ろ、助けてくれて、ありがとうございます』と言いたいのに、うまく言葉にできなくて……そのままギュゥ─ッと殿下にしがみついた。
そんな私に、「少しだけ、我慢してくれ」と囁いた後、殿下の纏う空気がガラリと変わった。
「ブルーム伯爵夫人。お前が今、手を出した相手が誰だか解っているのか?」
「誰──とは、エヴィの事でしょうか?エヴィは、私の大切な娘で───」
「エヴィは、お前の娘ではない。ローアン侯爵令嬢だ。伯爵夫人が侯爵令嬢に手を出した。その意味は……分かるな?」
ポーリーンの顔が、憎々しそうに歪んでいく。
「ただ、リンディ嬢が、他国の王族に輿入れするにあたって、母親の醜聞とはあってはならない事だ。だから、お前にも二つの選択肢を与えてやる。一つ目は、今すぐエヴィに謝罪をし、今後一切エヴィとジェマ嬢には関わらないと約束する事。二つ目は、ゲルダン王国には移住せず爵位を返上して家族揃って平民になる」
どっちが良い?──と、殿下はあの腹黒爽やか笑顔をしている。『どちらが良い?』と訊きながらも、ポーリーンが選べるのは一つだけ。自尊心の高いポーリーンが、平民を選ぶ筈が無い。
案の定、ポーリーンはニッコリと笑って
「もう二度と……エヴィ……嬢には近付きませんわ。勿論、リンディにも、言い聞かせておきます。エヴィ=ローアン侯爵令嬢様。つい…力を入れて掴んでしまい、申し訳ありませんでした」
スッと頭を下げて謝罪をするポーリーンを、殿下はそのまま爽やかな笑顔で見据えている。
「ならば、今日、ここで起こった全ての事を、無かった事にしておこう。ただし、お前が何をしようとしたのか……私は全て把握していると言う事を忘れないように。それと、約束通り、今後一切、エヴィとジェマ嬢には近付くな」
「───分かりましたわ」
ポーリーンは笑顔のまま、殿下と私を一瞥した後、何事も無かったかの様に踵を返して邸へと帰って行った。
❋いつも読んでいただき、ありがとうございます。
そして、誤字脱字の報告、ありがとうございます。
誤字、脱字が多くてすみません。何度か読み直して修正もしているのですが、それでも見逃してしまっています。本当にすみません!❋
フロイドが呼び止めるが、私達は歩みを止めない。
「エヴィ?どうしたの?」
「お姉様、後でちゃんと説明するから、今は少しでも早くブルーム邸から出て行きたいの」
困惑顔の姉は「分かったわ」と言って、私と手を繋いだまま邸の廊下を早歩きで玄関へと向かい、そのまま玄関の扉を開けると、そこにはブレイン=アンカーソン様が立っていた。それも、今迄に見た事もない笑顔で。
「ブレイン様!?どうしてここに!?」
姉が驚いて、そのままの勢いでアンカーソン様の側へと駆け寄る。
「ブルーム邸で食事をすると聞いて、心配になって迎えに来たんだ。父上と、アレクシス殿には許可を得てるから、今日はアンカーソン邸に来てもらう」
アンカーソン様は、気付いているのかな?兎に角、アンカーソン様と一緒の方が安全だろう。
「アンカーソン様、お姉様の事、宜しくお願いします」
「あぁ、ジェマの事は任せてくれ。それで──エヴィ嬢は……あの馬車で帰ってくれるか?」
「あの馬車?」
アンカーソン様が指差した方に、確かに、乗って来たローアン家の馬車ではない、シンプルな馬車が停まっていた。しかも、乗って来た馬車は居なくなっている。
「さぁ、エヴィ嬢。また彼等に捕まる前に帰った方が良い。私も、もう帰るから」
と、アンカーソン様は姉を連れて、アンカーソン様の乗って来ただろう馬車に乗り込んだ。
ー確かに、また捕まったりしたら、何を言われるか分からないよねー
嫌だと言っても、もうあの馬車しかないし、アンカーソン様があの馬車に乗れと言うなら、危険はないだろう─と、その馬車へと足を向けた時、後ろから手を掴まれた。
「──っ!?」
「エヴィ……何処に行くの?」
後ろを振り返ると、ポーリーンが私の手を掴んで立っていた。
「何処に──って……私は、私の家に帰るだけです─っ」
ギリッ─と、ポーリーンが私の手を掴んでいる手に力を入れる。
「何を言っているの?あなたの家はここでしょう?魔力無しのクセに……侯爵令嬢なんて………」
“魔力無しのクセに”
今迄は、ハッキリと言われた事はなかったその言葉。
ーあぁ、やっぱり……母は、私の事をそう思っていたのかー
心が急激に冷えていく。足元がグラつきそうになった時、フワリ─と、誰かが私を抱き留めた。
「───ブルーム伯爵夫人。その手を離してもらおうか」
「っ!?王太子……殿下!?」
ポーリーンが私から手を離すと、殿下は更に私を抱く腕に力を入れて自分の方へと抱き寄せた。
「遅くなってすまない。まさか、手を出して来るとは思わなかったんだ」
耳元で囁かれて、私は頭をフルフルと振る。
何故、殿下が謝るのか……殿下は何も悪くない。悪いのはポーリーンだ。『寧ろ、助けてくれて、ありがとうございます』と言いたいのに、うまく言葉にできなくて……そのままギュゥ─ッと殿下にしがみついた。
そんな私に、「少しだけ、我慢してくれ」と囁いた後、殿下の纏う空気がガラリと変わった。
「ブルーム伯爵夫人。お前が今、手を出した相手が誰だか解っているのか?」
「誰──とは、エヴィの事でしょうか?エヴィは、私の大切な娘で───」
「エヴィは、お前の娘ではない。ローアン侯爵令嬢だ。伯爵夫人が侯爵令嬢に手を出した。その意味は……分かるな?」
ポーリーンの顔が、憎々しそうに歪んでいく。
「ただ、リンディ嬢が、他国の王族に輿入れするにあたって、母親の醜聞とはあってはならない事だ。だから、お前にも二つの選択肢を与えてやる。一つ目は、今すぐエヴィに謝罪をし、今後一切エヴィとジェマ嬢には関わらないと約束する事。二つ目は、ゲルダン王国には移住せず爵位を返上して家族揃って平民になる」
どっちが良い?──と、殿下はあの腹黒爽やか笑顔をしている。『どちらが良い?』と訊きながらも、ポーリーンが選べるのは一つだけ。自尊心の高いポーリーンが、平民を選ぶ筈が無い。
案の定、ポーリーンはニッコリと笑って
「もう二度と……エヴィ……嬢には近付きませんわ。勿論、リンディにも、言い聞かせておきます。エヴィ=ローアン侯爵令嬢様。つい…力を入れて掴んでしまい、申し訳ありませんでした」
スッと頭を下げて謝罪をするポーリーンを、殿下はそのまま爽やかな笑顔で見据えている。
「ならば、今日、ここで起こった全ての事を、無かった事にしておこう。ただし、お前が何をしようとしたのか……私は全て把握していると言う事を忘れないように。それと、約束通り、今後一切、エヴィとジェマ嬢には近付くな」
「───分かりましたわ」
ポーリーンは笑顔のまま、殿下と私を一瞥した後、何事も無かったかの様に踵を返して邸へと帰って行った。
❋いつも読んでいただき、ありがとうございます。
そして、誤字脱字の報告、ありがとうございます。
誤字、脱字が多くてすみません。何度か読み直して修正もしているのですが、それでも見逃してしまっています。本当にすみません!❋
144
あなたにおすすめの小説
妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。
バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。
瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。
そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。
その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。
そして……。
本編全79話
番外編全34話
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
妹に婚約者を取られてしまい、家を追い出されました。しかしそれは幸せの始まりだったようです
hikari
恋愛
姉妹3人と弟1人の4人きょうだい。しかし、3番目の妹リサに婚約者である王太子を取られてしまう。二番目の妹アイーダだけは味方であるものの、次期公爵になる弟のヨハンがリサの味方。両親は無関心。ヨハンによってローサは追い出されてしまう。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる