上 下
55 / 75

王太子宮①

しおりを挟む
私はただただ、去って行くポーリーンの背中を見つめて、その姿が邸の中へと消えた時、何とか耐えて立っていた足からスッと力が抜けてしまい、倒れそうになると、殿下にグイッと抱き上げられた。これで、2度目である。

「で──アシェルハイド殿下!下ろして下さい!」
「下ろしてどうする?歩けないどころか、立ってもいられないんだろう?なら、おとなしく俺に運ばれていろ。ずっと、ブルーム邸ここに居たいなら別だが………」

「ゔー……よろしく……お願いします。」

「あぁ、任せろ。」

殿下は優しく笑って、そのまま私を馬車迄運んでくれた。














ーまたまた、どうしてこうなった?ー

私も馬鹿ではない。あんな事があった後だから、流石に学校の寮ではなく、ローアン邸に帰るものと思っていた。だから───馬車の中では、殿下が私を下ろすことなく膝の上に私を抱えたまままで、恥ずかしいやら何やらを我慢したのに─。

「少しは落ち着いたか?」

今、私の目の前にアシェルハイド殿下が座っている。
そして、今、私達が居る場所は……王城敷地内にある…王太子宮の一室である。

「………ある意味落ち着きませんよ!何で───」
「あのまま、俺が素直にローアン邸に帰すと思っていたのか?勿論、ローアン邸に帰れば安全なのは確かだが、心配で、俺が、エヴィを一人にしたくなかったからな。」

「………殿下は……どこまで知っているんですか?」

何故、あのタイミングで現れたのか───











*アシェルハイド視点*


『殿下、がありました。』

「───やっぱりか。で??」

『親が、何かを食事に……。それと────』





エヴィに付けている影からを聞いて直ぐに、俺はブルーム邸へと向かった。

そして、ブルーム邸に到着すると、既にブレインもやって来ていた。おそらく、ブレインもジェマ嬢に暗部の者を付けていたのだろう。

「アシェル…アレは本当に、子を持つ親なのか?アレを、このまま放っておいて良いんですか?みすみす、ゲルダン王国の侯爵になど──。」

「“みすみす”ではないよブレイン。アレはね、魔力無しなんだ。お前も、アンカーソンを名乗る者なら知っているだろう?魔力無しが、ゲルダンの貴族社会でどんな扱いを受けるのか。ましてや…お花畑が王弟の側室だ。その王弟は、どう動くだろうな?」

「ブルーム伯爵夫人が…魔力無し?気付かなかったですね……それが本当なら……私達が何かしなくても…………。それと、はどうしますか?」

「それらは、ローアン侯爵が預かりたいと言っているそうだから、ローアン侯爵に任せる事にした。」

“アレクシス=ローアン侯爵”

表の顔は王城に勤める文官ではあるが─“王族直属の影”と言う裏の顔を持っている一族だ。裏の顔に関しては、国王、王妃、王太子、王太子妃、宰相だけが知らされる機密事項である。

アレクシス侯爵と妹のフリージアは、とても仲の良い兄妹であった。その妹が亡き後は、妹が生んだ娘─ジェマを陰ながら見守って来ていたアレクシス。その為、アレクシスは、ジェマとエヴィの事は把握済みだったのだ。それ故に、ドリュー宰相が、エヴィの養子縁組の話を持ち掛けた時は、一もニもなく受け入れたのだ。

それ程迄に、アレクシスが大切にして来たジェマとエヴィに手をだしたブルーム伯爵夫人。

「まさか、ジェマ嬢と実の娘のエヴィに、媚薬を盛るとはな……。」

それも、娼館で働く下男を待機させていたのだ。
その下男達は、アレクシス配下の影が連れ帰った。もう二度と、表の世界に出て来る事はないだろう。

「兎に角、私がジェマとエヴィ嬢を連れ出して来ますから、アシェルは馬車の中で待っていた方が良いかと。外堀りは埋まってますけど、まだ……あまり見られない方が、エヴィ嬢の為ですからね。」

ー確かに、ここで目立ち過ぎるのも良くないなー

と、そう思い、俺は馬車の中で待つ事にした。

その後の事は、言うまでもない。俺が王太子でなければ。エヴィが俺の腕の中に居なければ、あの場でしていただろう。

ギュッ─と、俺にしがみついて来たエヴィに、「可愛いな!」と、少し怒りが収まったが──。





帰りの馬車の中では、「下ろして下さい!」と全力で拒否るエヴィを、「家に着くまでだから」と説き伏せ、そのまま王太子宮まで連れて来た。
どんなに嫌がっても、いつも通りのエヴィに見えていたとしても──エヴィ本人は全く気付いていないんだろう。ずっと震えているのだ。そんなエヴィを、例えアレクシス父親であっても、他人に任せる事などしたくはなかった。



「どこまで………か。実は、光の魔力持ちには、本人や、その両親にも内緒で、その身を護る為に王家直属の“影”を付けているんだ。だから───全て知っているんだ。」




ーエヴィに付けている影の事は………秘密にしておこうー





しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私達の愛の行方

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:4,061pt お気に入り:5,485

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:582pt お気に入り:3,085

恋人を目の前で姉に奪い取られたので、両方とも捨ててやりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:31,758pt お気に入り:1,524

転生ガチャで悪役令嬢になりました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:854

最推しの義兄を愛でるため、長生きします!

BL / 連載中 24h.ポイント:32,554pt お気に入り:12,896

あなたの瞳に私を映してほしい ~この願いは我儘ですか?~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:3,070

アデルの子

BL / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:572

処理中です...